緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Slash46

 無人島サバイバル2日目。

 自分達の置かれた状況を正確に理解するために、同じく島にいる10人の犯罪者達のうちの2人を拉致して拘束することに成功。

 オレはまだ奴らには見つかってないので尋問は羽鳥に任せることになって、物陰から周囲への警戒をしながらその様子を見ていたら、まだ意識のない犯罪者の1人に石を口に含ませた状態で口縄をした方にメスを取り出していきなり靴の上からブッ刺す。おーい。過激だよぉ。

 当然、痛みで一気に覚醒したものの、まともに喋れも動けもしない状態では足掻きようもない。

 

「やぁ、おはよう。今日も良い天気だねぇ。君もそう思うだろう?」

 

 混乱気味のところにメスを刺したまま正面で片膝をついて対面する羽鳥は気持ち悪いくらいの笑顔で、相対してたら狂ってるのかと思う。ここから見てても思うもんな。

 しかも話しかけておいて喋られなくされてるという意味不明な状況は混乱を招き、みるみるうちに呼吸の乱れが見て取れてくる。

 

「あまり暴れないでくれたまえよ。暴れた拍子でうっかり口の石を飲み込みでもすれば、数日のうちに君の肛門から出ることになる。もちろん、激しい痛みと大量の血も伴ってね」

 

 痛い痛い痛い。

 聞くだけで痛い話を目の前でされた犯罪者は、表情が見えないからどう反応してるかわかりにくいが、確実に青ざめて絶句してるだろう。喋れないんだけど。

 とりあえず暴れるような素振りは消えてここから尋問かなと思っていたのだが、オレはやっぱり羽鳥という人間をわかってなかったよ。

 静かになった犯罪者に機嫌が良くなったのかウンウンと頷いてみせた羽鳥は、その笑顔のままで今度は逆の足にメスを容赦なくブッ刺して悶絶させる。えー!?

 

「実は君達に聞きたいことがいくつかあるんだが、素直に吐いてくれる気はあるかな? もしもそうでないとこれから君の足から段々と上にメスが突き立てられていくことになるんだが」

 

 メスは刺したままなら出血もそれほどにはならないし、別に太い血管を傷付けてるわけでもないから処置さえすれば命に別状はないだろう。

 それもわかっててやってるから怖いんだが、もっと怖いのは質問すると言って、犯罪者が了承の意味で首を振ってるのがオレにもわかるのに、また平然とメスを手に持って弄んでいること。やべぇよあいつ……

 

「君達はどうしてこの島に来たんだい? 何が目的で私を狙っていた。いや、目的は私なのかな?」

 

 何の抑揚もない調子で質問しながら、相手に一向に話す権利を与えない羽鳥の狂気は犯罪者にもすでに伝わったか、拘束されていても暴れようとしてるのがわかる。

 だがその足掻きも自分をさらに傷付ける行為でしかなく、暴れるもんだからまた羽鳥のメスがふくらはぎに刺されてしまう。

 

「君達をこの島に誘った者には会っているのかな? 会っているならどのような人物か教えてくれないか? ねぇ、聞いているのかい?」

 

 呼吸するように質問しながらメスを刺していく羽鳥に対して、犯罪者も喋る気が満々にも見えてきた。

 それでも口縄を外しもしないで質問を続ける羽鳥の狂気のメスは太股の太い血管を避けて刺されて、次は男にはキツい男性器に狙いを定められる。

 さすがにそこで犯罪者も羽鳥の狂気に耐えかねたのか自己防衛のために自ら意識を失い、その首がガクリと下がる。

 それを見てつまらなそうにした羽鳥は小石を拾って今度は隣の犯罪者に投げつけて覚醒させると、同じような反応で状況を理解しようとする犯罪者に見せつけるように意識のない犯罪者の腕にメスを刺す。

 

「実に困ったよ。私は簡単な質問をしているだけなのに、この男は一向に話そうとしてくれなくてね。いや、ここまでして話さないのは立派ではあるけど、私もこれ以上はこれをどこに刺すべきか迷ってしまう。つい手元が狂って大事な血管を傷つけでもしたら……死んでしまうから」

 

「話すって……そいつの口、塞がってんじゃねーかよ……」

 

「ははっ。君は何を言ってるんだい? 人が言葉を発するのに口が開くかどうかは問題じゃない。大事なのは話してくれるかどうかの意思だよ。彼には些かそれが欠如していたようで、私には話をしてくれる雰囲気を感じなかった。いやぁ、仕方ない。幸い口は2つあるしね。今度はそちらに開いてもらおうか」

 

 さく。さく。さく。

 状況を理解しただろうもう1人に対して世間話でもするような調子で話す羽鳥の心情は全く読めない。

 何故ならそうやって話しながら意識のない犯罪者へ何の躊躇いもなくメスを追加で刺していって、その度に覚醒しかけるが、絶妙な場所に刺しているからか目覚めることはない。

 言っていることも狂気を孕んでいて、行動まで理解不能な目の前の人物にどうすればいいかわからない雰囲気で、その狂気が自分に向けられるとなった瞬間。

 羽鳥が容赦なく人を傷つけられる人間だとわからされた犯罪者は、驚くほど素直に自分から何を話せばいいかを聞き、その間にも振り下ろされるメスによってあの場は完全に羽鳥が支配していた。

 

 話を聞いてから2人の腕と足の腱を切って再起不能な状態にして、手錠だけ回収しその場を去った羽鳥は、2人から奪った武装を持って森へと入りオレと合流。

 最終的に28本ものメスを犯罪者の体に突き立てた羽鳥は、止血作業こそちゃんとやって放置していたし、メスも有限とあって回収していたが、そのやり方には賛同しかねる。

 

「それで彼らから聞き出した情報だが……」

 

「やりすぎだ。あそこまでやる必要がどこにある?」

 

「…………やりすぎ? 面白いことを言うんだね。あんなの、私にしてみれば『あの程度』な問題だよ。君が文句を言うだろうことも考慮してずいぶんマイルドにしていたが、それでも批難されるとはね」

 

「あれでマイルド……狂ってるな」

 

「君は甘いんだよ。今回のケースは嘘の情報を掴まされると死に直結する緊迫した状況だ。生温さが少しでも相手に見えれば、簡単に嘘を吐かれて私達は嵌められておしまい。真実を口にするしかない状況を相手に強いるにはこちらが異常であることを印象づけ、それを直接ではなく目の前で見せつけることが効果的だった。それだけだよ」

 

 かつて猿飛にも忍の技として拷問術や催眠術の類いはあったらしいし、指を詰めたりで話を聞き出さなかった羽鳥の手腕は相当なものだ。

 それはわかるが、やはり人間として受けつけがたい光景を目にして拒否反応が出てしまうのは仕方のないこと。

 それも予測していた羽鳥も別にオレを否定するわけではないが、必要あってやっていたことを理屈で説明してきて、誉められたいわけでもなく、ただこの状況で生き残ろうとする意思をオレに伝えてきた。

 それを聞いて羽鳥から『仕方なくやった』といった雰囲気もいくらか感じ取ることはできて、決してあれを楽しんでいたなんてことはないのだと思えたのは不幸中の幸いかもしれない。

 

「……下らない論争をするつもりはないよ。話を戻すが、彼らはやはり何者かによってここへ誘われて、その目的も明確にされていた」

 

「オレにも話は少し聞こえてたが、話を聞いてもよくわからないな」

 

「かもしれないね。彼らの目的がこの私の殺害だと確定したのであるなら、やはりこんな場所にわざわざ招かなくともいい。それに彼らがここに誘われた経緯も不透明な部分が多い」

 

 なるべく拉致した2人からは離れるように移動しながら響かない声での会話を進めるオレと羽鳥は、無駄なエネルギーの消費を抑えるように無駄口は叩かず進行。

 恐怖によって話された真実味があるあの犯罪者の話によれば、犯罪者達は皆、ホテルに来たまでの記憶が薄く、操られていたことが発覚。

 そこから脱出不可能な部屋の至るところからオレや羽鳥と同じようにこの島に飛ばされて、最初に来た奴がすでに7日は経過しているとのこと。

 数はこちらが確認している10人とブレはなく、面識もない連中で仲間意識もかなり低いが、ベースキャンプは資材が豊富で生活に困らない程度には整っていると。

 その資材の奪い合いを避けるためにいくつかルールを設けたとも言っていたが、そこは重要ではなく、そんな準備をした何者かは集まった10人に姿を見せず『君達を捕らえる憎き武偵。羽鳥・フローレンスを殺害せよ。報酬は10万ポンドで分け前は自由』という指令だけを与えていったと言う。

 

「どこにポイントがあるのか。そこだろうな。単にお前を殺すだけが目的なら、お前が言うように手が込みすぎている。なら必ずこの場所でこの方法でなきゃいけない理由が存在する」

 

「武偵は恨みを買う仕事だが、こんな形で仕返しをされるのはレアケースだろうね。君の考察も良いセンを行っていて気に食わないし、私なりに仮定の話をしよう。現実として私が殺害された場合の影響についてだ」

 

「ひと1人の影響力なんてたかが知れてるもんだが、人類史の分岐点なんて存在がいる以上、お前もその可能性を秘めてるって考えはあるが……」

 

「それはないね。断言してあげよう。私に歴史を動かすだけの野心も夢も希望もない。あるとするならそれは……手の届く範囲での救済。それのみだよ」

 

 単なる羽鳥の殺害なら話はもっとシンプルに進んでいるのに、わざわざなこの状況の真意は知らなければ踊らされる。

 それもわかってる羽鳥はオレの考察に間違いがないことに少し嫌な顔をしたが、オレだってちゃんと考えてるんだよ?

 話の規模からベレッタや劉蘭のようなセンもあるかと思ったが、羽鳥が自分で否定するように、周囲の環境を歪ませる……多少なりとも変える力こそある羽鳥でも、歴史に載るような偉業を成したりするようには感じない。

 となればここからの動きは、彼らを操る人物との接触が最も効果的ではあるが、この島に今もいるかもわからないその存在を何のアテもなく探してうろつくのは犯罪者達に見つかるリスクも上がり、余計な体力も消耗することに繋がる。

 長期的な見通しを立てるなら、まずは犯罪者達のベースキャンプから資材を盗んで、こっちの環境を整えた方が良いだろう。羽鳥もいつまでこの調子でいられるかはわからないしな。

 となれば羽鳥にも少しはリスクを負ってもらって、明るいうちにオレが素早くベースキャンプを偵察しに行くのがいいかと提案しかけたところで、不意にオレ達が遠ざかろうとしていたところから1発の銃声が鳴り響き、その音でオレが足を止める。

 

「今のは……」

 

「ああ。1発だけ残していってあげたんだよ。あのままあそこにいたらどうなるかわかったものじゃないしね。仲間と呼べるかは知らないが、その選択をしたのは彼らだ」

 

「お前……それは」

 

「それより彼らが『ここにいるぞ』と叫んでくれたんだ。今のうちに行くべきところがあるだろ。何故か彼らは通信機器を使ってないから、どこで誰が何をしてるかは共有できない。その間隙は突くべきだと思うよ」

 

 自殺したわけではないだろう。

 だが、羽鳥は直接的に言わなかったにしても、その措置はある意味で死を意味することくらい、バカでもわかる。

 彼らの間で信頼関係などない。依頼主と呼ぶべき者によって勝手に連れてこられた地でたまたま一緒になった犯罪者。

 羽鳥の殺害に関しても、報酬の分け前に関しても彼らが決めたルールの上であるとしても、殺してしまえば総取りは誰もが考える。そこにまともに動けなくなった奴を生かしておくメリットなど、あちら側にはない。

 

「だから君は甘い。顔にあまり出すな」

 

「……引き金を引いたのはアイツらだ。悪いのはアイツらだ。そうやって自分を蚊帳の外にするのか。それならお前は陽陰と変わらないぞ」

 

「何とでも言ってくれたまえ。私は君と違って真っ先に狙われる対象だ。その相手が少なくなることに異論はないよ」

 

 ──コイツは!

 人の命というものの価値に上も下もないとはよく言うが、実際には命の価値の差はどこにでも存在している。

 そんなことを議論していては何日あろうと終わらないのは明白だが、今のだけは看過できない。

 人が死ぬことを喜ぶような羽鳥の言い分に対してオレは、力づくで胸ぐらを掴んで木に押しつけて睨んでしまう。

 ほとんど反射的で感情的な行動だったから羽鳥もそうなるだろうと予測していたか動揺はなかったが、その目にはいつものような余裕が抜けかけているのがわかってしまった。

 

「──放せよ。君と喧嘩するつもりはない。だが、敵への同情は早々に捨てろ。でなければ次に死ぬのは、君だ」

 

「……だとしても」

 

 イギリスは日本ほど殺人に関して厳しい規則があるわけではないため、武偵法9条があるオレとは違って羽鳥は少し抵抗が低い。

 いつもの羽鳥ならその選択は最終手段。手詰まりになった時に出てくる苦肉の策といった部分で扱うべき手を、こんな段階で切る辺りに違和感があった。

 すでに羽鳥の中で何か異変が起こってるのかもしれないが、特異な状況でオレの知らない羽鳥の側面が出てきているのかもしれないし、これが普段で、オレやアリア達の前での羽鳥が異常だったのかもしれない。

 それを断定するのはオレには不可能だ。それでも今の羽鳥はいつも以上にイラつく。嫌味とかそんなのお構いなしにな。

 

「失う必要のない命を失わせることに、オレは寛大にはなれない」

 

「……なら好きにしたまえ。私はこれからヤツらのベースキャンプを偵察してくる。君が生きていたら、日が沈んだ頃合いに昨夜の川で落ち合おう」

 

 そのオレの反抗心を察して、羽鳥の方から別行動する提案がされ、胸ぐらから手を放したオレから離れて歩き出した羽鳥は、その姿が見えなくるまで、もう一言も話すことはなかった。

 別に喧嘩をしたわけじゃない。どちらかが謝ってはい終わりと言う話でもない。

 それだけにオレの中でモヤモヤとした感情だけが残るが、それはきっと羽鳥も同じだ。

 これを解消するにはもう1度、羽鳥と話をする必要はあるだろうし、それは今じゃないのはわかってる。

 今は失われようとしている命を助ける。それだけ。

 羽鳥なら1人でも偵察くらいは造作もないだろうから、オレは踵を返して来た道を戻って、犯罪者達が足手まといとなった2人を見つけて殺す前に匿うために動き出した。

 

 オレがヤツらに見つかってもこれからのアドバンテージを失うだけなので、なんとか見つからずに2人を別の場所に移して、当分の面倒は見なければならない。あれ、難易度が高いぞ。

 慎重に来た道を戻ったオレが2人の元に辿り着くと、2人は切られた腱のせいで地面を這うしかない状況で海岸をベースキャンプに向かうように迂回していた。

 移動距離としては100mくらいだが、生きようとしてる2人の意志は十分に伝わってきたので、犯罪者達に見つかる前に回収しようとする。

 しかし海岸に出ようとしたオレの足を止めるように、別の位置から海岸へと出てきた存在がいて、2人の進行方向の先に現れた2人組は十中八九で他のペア。

 同じようにサブマシンガンを装備した2人は海岸を這ってる2人を発見して近寄っていき、オレも森の中から慎重に距離を詰めて会話が聞こえる位置にまで詰める。

 

「た、頼む! せめてベースキャンプまで連れていってくれ! このままじゃ俺達はのたれ死んじまう!」

 

「あ? そうなったのは自業自得だろ。つーか2人いて1人にやられたのかよ。だっせぇ」

 

 聞こえてきた会話からも仲間意識など皆無なことは100%わかり、無駄話に移行してしまえば躊躇なく撃つことも雰囲気でわかってしまったので、あと1分もなさそうな命乞いの時間を無駄にしないためにオレも動く。

 1人が会話に興じて、もう1人が一応の周囲への警戒をしているため隙はあまりない。

 しかしこっちが一方的に相手を捕捉している状況は有利!

 それでオレが行動を開始しようとしたら、少し遠くの方からサブマシンガンの連射音が轟き、その音に海岸の4人もすぐに反応し森の方に目を向ける。

 撃ったのは……羽鳥か。意図かどうか知らないが、助かったよ。

 戦闘の音ではないのは応戦の音がなかったことから明らかなため、この発砲は羽鳥によるもので間違いない。

 これがこっちの状況を察して撃ってくれたとは思わないものの、タイミングとしては悪くなかったので、内心で羽鳥に感謝しつつ、4人がまとめて森の方を向いたタイミングを逃さずになるべく死角から森を出てクナイを投げながら急接近。

 さすがに森から出るところで気づかれてしまったが、構える前にオレのクナイが2人の腕に刺さって怯んでくれて、その稼いだ数秒で距離を詰めてさらにクナイを投げて太股に刺す。

 それで膝をついた2人に発砲されるより早く飛び蹴りからの手刀と顎への殴打で脳震盪を起こして気絶させて無力化。

 すぐにサブマシンガンやらの武装を外して破壊してしまう。

 さらに起きて暴れられても面倒なので、羽鳥と同じように手足の腱を切って再起不能な状態にして止血の処置。

 あーあ。これで介護者が4人になっちまったよ。どうするよこれ……

 そんな感想しか出てこないくらい、自分がバカなことをしている自覚はありつつも、なってしまったものは仕方ないと諦めて、オレが色々とやってる間に、羽鳥の仲間だと確信したのか、先ほどの拷問の影響で逃げていた2人に簡単に追いついて行く手を阻む。

 拷問が効いたのかオレも何かしてくるんじゃないかと怯える2人に対して、そんなつもりはないと言いつつも、言葉だけではどうしようもないと考えて、行動で示すことに。

 

「お前達を助ける義理はないんだが、死なれるのはこっちの寝覚めが悪いんでな。そっちのベースキャンプには今ので戻れないのはわかっただろうし、生き永らえるための手助けをしてやる。ただし、この島から脱出したら、容赦なく刑務所にぶち込むぞ」

 

 言いながらオレが2人のうちの1人に手を貸して立ち上がらせて、森の木にもたれさせると、2人も羽鳥とは違う雰囲気を感じてくれたのか、警戒はしているが抵抗はせずにオレの話に耳を傾けてきた。

 ──さてさて、どうしたもんかね。

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