「くそっ……我ながらバカなことしてる……」
無人島サバイバル2日目にして余計なものを背負ってしまったオレは現在、絶賛自虐中。
10人いる犯罪者に命を狙われる羽鳥が相手の命を少し蔑ろにしていることに反発して、戦力外にした2人の犯罪者を用済みだと始末されてしまうのを防ぐために別行動。
案の定、仲間とも呼べない他の犯罪者を呼び寄せていた2人は、駆けつけた他の2人に容赦なく殺されかけていたところを救出。
そうなる前に匿いたかったが現実は非情なり。同じように無力化して役立たずの4人となった犯罪者は、向こうの残り6人に見つかれば問答無用で殺されるだろう。
誰であれ人が死ぬのを見過ごせなくなったオレは、これからこの4人を守りつつ残りの6人も無力化しなければならなくなり、難易度は跳ね上がる。
とにもかくにも四六時中コイツらを見ているわけにもいかないので、手足の腱を切っているとはいえ暴れないとも限らない4人を大人しくさせるためにオレは生殺与奪権を行使。
コイツらもバカではないので、もう安全無事にこの島から脱出するためには他の犯罪者に見つからないようにするしかないのは理解している。
その上でまともに移動もできないコイツらの当面の安全と食事の提供をする代わりに、事が終わるまで1つの場所から動くなと命令。
オレとしてももしもコイツらが殺されずに他の犯罪者と合流して情報を漏らされたら、折角のアドバンテージを捨てるリスクは避けたいのだ。まずはその線を断つ。
その命令に対してほとんど選択肢がなかった4人は忌々しそうな顔こそすれど、生かそうとするオレの事をとりあえずは信用してくれたようで、満場一致で従ってくれた。
その後、4人には身を低くして茂みに隠れさせて、当面でなるべく見つからないための居住を探して森の中へと入り、少し移動したところにガッツリと深いブッシュを発見。
獣道がトンネルのように出来ているので、そこを這わせて中へと入れて適度に広げれば、4人が寝転んだ上で隠れられて、物音さえ出さなきゃ見つからない、はず。可能性なんてオレにはわからないからな。
目測ではプロでもない限り80%くらいは隠し通せるだけのブッシュで、ここを掻き分けて散策するほど、まだ犯罪者達に必死な感じは見られない。
見つかるにしても向こうにストレスが溜まりに溜まった辺りくらいからだろう。狩りか何かと勘違いしてるうちは、だ。
そうして4人の当面の隠れ家を見つけて、1人ずつわざわざ背負って往復し中へと入れてから、犯罪者がそれぞれ持っていた水筒を確認。
だいぶ森をナメ腐ってたのか水筒の中は昼前なのにもう枯渇寸前。贅沢だねぇ。
「時計はあるな。毎日6時と18時の2回だけ、お前達に食料と水を運んでくる。それ以外の時間に近づく気配は全て敵と思え。そしてお前達のうちの誰か1人でもこの中の人間を出し抜こうとしたら、問答無用でその後の供給は絶つ。4人ともが無事でこの島から脱出するのが最低限だってことを忘れるな」
とりあえず残ってる水を2つの水筒にまとめて返し、空の2つを持って立ち上がる。
そして一番大事なことを4人に伝えて、仲良くしろとは言わないまでも、協調性と緊張感は持たせようとする。
オレと羽鳥もすでになってしまったが、些細な意見の食い違いや自分の思い通りにならないストレスで人は簡単に自分本意になれる。
それがこの4人の中で起きれば崩壊するのは一瞬。武器は無くとも人を殺す手はいくらでもある。
そうならない可能性は限りなく下げておきつつ、4人が持っていた武器類で使えそうなサバイバルナイフは装備。単分子振動刀がまだ絶賛破損中なので代用だな。
あとは無闇に使わないようにペンライトも没収してその場をあとにしたオレは、まだまだ日没までは時間があるので地形の把握と植生する植物やらを散策し、今後の4人の食糧に見通しを立てておく。
「あの状態の4人が大人しくしていられる時間は恐ろしく短いだろうな……持って3日。それまでには残りの犯罪者を無力化しないと、悲惨なことになる」
自分と羽鳥の分も考えなきゃならないから負担しか増えてない現実が、オレに疲労としてのし掛かって足が一気に重くなるも、匿った4人が正常な思考でいられるリミットが短いことにも考え至る。
こんな人の手が入ってない島で負傷してまともに動けないなんて、冷静になればなるほど不安が膨れ上がっていくものだ。それが普通で1人ならオレも自殺という選択肢が候補に挙がってしまう。
だから4人でいればまだいくらか精神的に安定はするので、それを込みでの3日というリミット。
こうなる前は相手が焦れて乱れるのを待つ長期戦を想定していたが、こうなったらもう短期決戦でさっさとこっちの安全を確保してしまった方が良い。
向こうのベースキャンプを制圧すれば必要なものは手に入るし、匿う必要もなくなる。そこで初めて島からの脱出を練る段階に進めるだろうか。
そっちもそっちで頭が痛い問題だが今はそこを考えていたら本当に精神的に参るので頭の片隅に追いやって、敵を引き付けるような発砲をして以降、予定通りにベースキャンプを偵察しに行ったのか不明な羽鳥の安否を少しだけ考える。
……うん、あれは心配するだけ損な気もする。今夜もケロッとした感じで何かしらの成果を持って合流してくるはず。
オレはそうなるだろうと予想してアイツが放棄した食糧の確保を確実にしておこう。うん。
ベースキャンプは島の北側に位置しているので散策は必然的に南側に寄り、この数時間で5分の1程度の範囲を散策できた。
そこからわかったのは、この島の外周を回るだけでも1日かからないことと、野生動物で肉食はいなさそうなこと。
肉食動物の糞なんかは割と分かりやすく臭いし、マーキングの一環でもあるから見つけるのも苦労はないが、それが見当たらないのはこの島にそれがいないからだろう。
ただし野ウサギやヘビは見かけたから、この島での生態系の頂点はずいぶん低いのは確実。
だからなのか野ウサギも警戒心が割と低くて、適当に集めた野イチゴをエサに簡単なトラップを仕掛けておいたら、戻った時には引っ掛かってくれていて、それを捌いて焼き、4人に水と一緒に提供して今夜を乗り越えてもらう。
羽鳥が撃っただろう銃声から以降は1発たりとも発砲がなかったので、羽鳥も上手く立ち回って見つからずにベースキャンプを偵察はできたと信じて、完全に日が沈む前に合流地点の川に移動して魚を獲って焚き火の準備。
こういう場所では栄養が偏るのが一番怖いが、人間その気になれば水だけで2、3日くらいは持つ程度には頑丈なので、短期決戦を挑む以上は栄養面の心配よりも腹を満たしているかどうかの方が重要だ。
そうこう考えてると日没になり、夜の静寂が訪れて、ベースキャンプの方が明るくなった頃合いを見計らって焚き火を点けて魚を焼く。
「おや、ライターは渡してないはずだけど、どうやって火を?」
焚き火を始めてから15分程度で明かりを頼りに偵察から戻ってきた羽鳥が姿を現して、開口一番にこの焚き火の着火方法について尋ねてくる。
最初からライターをオレに渡していれば手間も少なかったんだが、コイツは必要になるかもしれないものは手放さないからな。
なのでオレはその質問に対してそばに放置していた物を手に取って羽鳥に見せる。
物は適度に曲がった木の棒と丈夫なツタで作った弓。こんなもので火は起こせる。
「ああ、弓きり式ってやつかい。ツタの弦に別の木の棒を噛ませて、弓を前後に動かして棒を回して摩擦で火種を作るアレ。現代社会で使おうと思う人間がいるんだね」
「使う羽目になったのは誰のせいだと……それより成果は?」
説明の必要もなく物を見ただけで知識として持っていた羽鳥は自己完結してしまったから、オレも無駄な口を開かなくてもいいならとイラッとする発言はスルーして本日の成果とやらを尋ねる。
それに対して焚き火のそばに腰を下ろした羽鳥がコートの中から双眼鏡を取り出してオレに放ってきた。
「ベースキャンプには常に2人が見張りとしていたが、向こうにしてみればウサギ狩りの気分なんだろうね。呑気に談笑しながら食事をしていたよ。そのおかげでどのくらい近寄れるか試せたわけだけど、あまり堂々とは無理だったね」
「守りがザルなのはわかったが、こっちも今日だけで4人も削ったからな。さすがに明日からは真面目に守るだろうよ」
「4人? 数を減らしてくれたのは喜ばしいが、まさかとは思うけど4人とも匿っていたりしないだろうね? それだけの人数を世話するとなると、君が戦力にならないんだが?」
「日が経てば経つほどそうなるだろうが、3日くらいなら問題ない。それまでに全員を行動不能に追い込めばいい」
「おやおや。君が勝手に招いた結果に私を付き合わせるつもりかい? 私としては向こうがイラついて仲間割れでも始めたら上々くらいの気持ちだったんだけどね」
「またお前は……」
双眼鏡は今後の警戒や偵察でも使えるから物としては良いが、オレに投げ渡してきたということは明日からはオレが偵察やらの行動をしろってことだと察する。
狙われてる羽鳥をやたら動かして消耗させるのはオレとしても悪手だと思うからそれは良い。
ただ今の羽鳥の言動からも、このまま好きに動かしていたら向こうに死人が出る可能性は十分にあるし、オレの短期決戦とぶつかる長期戦が狙い。ここを統一しないとこっちも仲間割れが起きる。
「……オレは匿ってる4人を抜きにしてもこの状況は早めに打破すべきだと思ってる。今日のお前を見て危ういとも感じたしな」
「危うい? 私は至って冷静だがね。今日だって向こうの状況判断能力を試すための試射をしたくらいで、あとは大人しいものだったと自負してるよ。ちなみに彼らには音の反響から正確に場所を割り出す能力はない事が確定した」
「そういう部分じゃねーよ。オレが危ういって言ってるのは、冷静さの中に冷徹さが含まれてることだ。それが普通だなんてオレは思わない。いや、思いたくないってのが正直なところか。今でさえオレと反発気味になってるのに、これ以上になる可能性は考えたくない」
「なら私と行動を共にしなければ……違うな。うん。確かに言われてみると少々だが思考が攻めに寄りすぎている気もする。こういうのは尋問と拷問以外では出ないようにはしてるはずだったが、無自覚になるほど自然と切り替わっていたか……」
短期決戦も長期戦も互いの都合なので、ここで話すのは相手の都合にどちらが合わせるかの大人な対応を求められること。
それはオレが合わせればいいで片付くなら苦労はなく、こっちも長期戦は受け入れられないので、羽鳥をこちらに引き込むしかない。
その理由として羽鳥のこの島での様子を素直に話せば、羽鳥もそれで初めて自分が変になってることに気づく。
ここを否定されたら面倒な口論が始まるだろうと予想してたから、ここで思考してくれたのはラッキーだが、逆に言えばあの羽鳥が他人に言われなきゃ気づかなかったという部分。
「…………君が食糧を安定して供給できるなら、長期戦の方が勝算が高いのは明白。リスクを負う短期決戦にメリットはない。だが君が匿ってる4人を放置できない以上、君のサバイバル能力を必要としているこちらとすれば、折れるしかないね。ただし」
「何の策もなしに短期決戦なんて言っていたら殺す、か? メヌのジャブに揉まれて同じようなヤツの言うことが予想できるようになったよ」
「わかっているならいい。どうせ君のことだ。浅はかな考えで私を囮に使う算段だろうから、私は私で自分の生存率を上げる手段を取らせてもらうが、許容範囲だよね?」
「正当防衛に訴えるのだけはやめろよ」
無自覚のストレスってので些細な変化に気づかなかったにしても、どんな状況でも余裕すらある羽鳥がこうなった以上は、注意しなければまた冷徹な部分が引き出されるはず。
今ので引っ込んだとも思えないし、本来の羽鳥が持つ気質なところもあるからその辺はデリケートなはず。
とにかく短期決戦について同意は取れたので、さっそく明日から作戦開始に向けて行動を詰めることになる。
オレが何をやろうとしてるかは、もう羽鳥にも理解があるから余計なことは言わない。
羽鳥が狙われてるなら、その羽鳥を向こうに晒すことで囮として使い、その間に正体がバレていないオレがベースキャンプを強襲し守りを撃破。
それで2対4の状況を作れて、羽鳥が上手く立ち回って逃げ切れれば、オレが詰めて数を減らせる、はずだ。
問題があるとするなら、羽鳥がしくじって詰める前に捕まったり殺されることで、そうなる前に羽鳥なら確実に相手を殺す。それではオレが短期決戦をする意味がなくなるに等しい。
それもわかってるから羽鳥もそれ以上は何も言わずに焼いていた魚を食べて明日に備えて英気を養う行動に移り、オレも明日はベースキャンプを偵察しに行くことになるから、余計なことはせずに交代での見張りをしながら休息に努めていった。
翌朝。
4人への食事を届けてから羽鳥と再合流後、今日の役割分担を確認してベースキャンプへと直行する。
散策を始める犯罪者達と遭遇するリスクを避けるために山の反対側の麓から登って接近を試み、ついでに山の頂上から双眼鏡で島を観察しておく。
見えていなかった島の全貌は、やっぱり半日とかからずに外周を1周できる程度の大きさ。
ベースキャンプは島のほぼ中央に位置していて、川の道も確認できる。
羽鳥が言うにはベースキャンプは切り立った10mほどの崖のすぐ下に設置されていて、川も小さな滝を作って流れているらしい。
なので偵察はこのまま山を降りてベースキャンプの崖の上に位置づけてすることにして移動を再開。
途中に湧水の源泉を発見し、このまま下ればベースキャンプに辿り着くだろうと川下りをすると、川幅3mくらいになったところで崖に到着。
見たところ崖の上という死角を潰していない辺りに向こうの油断が見て取れるが、それも昨日までの話で、4人も一気に減って警戒が強まったはずなので、これからここも危険な位置になる可能性は低くない。
だから今は安置なここから可能な限りの情報を引き出そうと腹這いになって崖の縁に顔を出して双眼鏡を覗く。
昨日の今日でもベースキャンプの守りは2人。そこはまぁそうだろうな。攻めを薄くして羽鳥に余裕を持たせたら調子づかせることに繋がる。
可能ならここで2人も戦闘不能に追い込めば…… とも思うが、ダメだな。匿うための準備がない。死人を出さないという最低限を守るのが厳しい。
「強襲の出来そうな待機場所は……」
出来ないことはやらない。それに限るので、ここでの戦闘は考えないことにして次の思考に入り、来たる一網打尽の時に備えて準備を進める。
崖の上からでは強襲が難しいのはバカでもわかるからベースキャンプに限りなく近く死角になりやすい場所をいくつか探す。当日は状況を見てその中での選択になるだろう。
強襲の前には相手の注意を引ければ成功率が上がるから、そのための手段についても思いついた。そっちは手間がないな。
必要なものと必要な要素。それらを吟味して情報として持ち帰る準備もできて、早ければ明日にでも行動を起こせるかと思いながら撤退を選択。
もと来た道を辿るように静かに崖から遠ざかって川を登り、ついでに山菜でも採っておこうと水場の近くの山菜を探していると、ガサッ。
生き物の気配が唐突にして、ほとんど直角に曲がって川から離れて茂みに隠れたが、見つかったか?
まさか犯罪者かと、少しタイミングを間違えば背後から襲われていたかもしれないことに戦慄しながら森から川へと出てきた存在に目を向ける。
すると、ビックリ仰天。
古代ギリシャの白い布のような服を着た翡翠色の長髪の女性。
この人物に見覚えがありまくりだったオレが、割と無警戒に川に裸足を入れて涼むような行為をする女性を凝視してしまったのが悪かったか、鋭い視線に気づいた向こうがオレに気づきハッとしながらその手をオレに向けて川の水でつぶてを放ってきた。
散弾くらいの威力があるそれを受けるわけにはいかないので、回転受け身で川の方に飛び出て躱してみせるも、姿を現したのが運の尽き。
水の超能力を操る女性に対して水場で戦うこと自体が圧倒的に不利と理解するより前に絶妙な水の操作でオレの鼻と口を塞ぐように水がまとわりついてきた。
ヤバイ! 手がかりがない水じゃ排除しようにも出来ない! 窒息させられる!
そうと考えた時に真っ先に浮かんだ策が目の前にいる女性を攻撃して集中を削ぐことで、狙いは向こうにもわかってしまったか、かざしたままの右手とは別に左手でグッと握り込めば、川の水から縄になってオレの両足にまとわりついて拘束してきて、いよいよ本気でヤバイ空気に。死ぬっての!
動きと呼吸を封じられて八方塞がりになりかけたところで、生存本能が働いてオレの未熟な発勁が顔の水を弾いて女性の操作を乱すと、集中するのに意識が向きすぎた隙を狙ってクナイを投げて右手を攻撃。
その行動が早かったおかげで女性が回避行動に動いてくれて両手がオレから外れ顔と足の水が力を失い、また仕掛けられる前に川から離れて対岸で10mもない距離で女性と対峙。
「はぁ……はぁ……やっぱりお前達が関わってたか。なぁ、テルクシオペー」
急な窒息の危機からの脱出だったから、乱れた呼吸を整えつつ警戒心がビリビリと伝わる相手、セイレーネスの4女にして、Nのメンバーであるテルクシオペーに話しかける。
人の足があるからおそらく今は呪いのせいで話せないと思うが、オレの言葉に対して険しい顔を崩さないテルクシオペーは、不思議なことにオレとわかったからなのか、遭遇時に感じた殺気だけは引っ込めて攻めあぐねているようだった。
──何だ? 何を迷っている?