「これ面白くない。やめる」
「あら、ギブアップが早いわね」
「それでは武偵などやっていけませんよ」
「オレは推理型と直感型の極致を相手にしてるから感覚がおかしくなりそうなんだよ。お前ら基準をやめろ」
無人島サバイバルから生還して、全治1ヶ月の怪我の療養のために武偵病院からメヌエットに引っ張り出されて12時間ほどが経過。
朝方には勇志さんによる単独の襲撃もあったが、これを予測して罠を張っていたメヌエットとアリアが撤退に追い込み事なきを得て、その後もまだ安心はできないとアリアが同伴してくれていた。
今後、少しの間はアリアの護衛が付く関係で自宅マンションにアリアを引き込んで住まわせるというのは、アリアのピュアなハートが爆発しちゃうので、仕方なくメヌエット宅に宿泊することになったのは自然な流れゆえ、オレに抗う権利はない。
それは別に良かったが、夕飯を食べながらオレはどこに寝ることになるのだろうとぼんやりと考えて、きっとリビングのソファーになるんだろうなぁと結論して思考をやめる。
そのあとが問題のお遊びになるわけだ。
メヌエットは当然ながら、オレも今はアクティブな遊びができない都合、寝る前までの時間を潰すのは主に頭を使う遊びになる。
その前提でメヌエットの私室で行われたのは、アリアが理子達と最近にやったとか言う『NGワードゲーム』で、プレイヤー1人につき1つ。言ってはならないワードを決めて、自分のNGワードは見えないようにし、全プレイヤーは自分のNGワードが何かを推理しながら会話を繰り広げて、他のプレイヤーのNGワードを言わせれば勝ちという、シンプルながらも恐ろしい遊びだ。
今回は心理戦に重きを置いて、オレのNGワードをアリアが。アリアのNGワードをメヌエットが。そしてメヌエットのNGワードをオレが考えての気の休まることのないピリピリした会話の戦争が勃発。
すると思っただろ? 違うんだよなぁ、これが……
NGワードに人の思惑が入り込んだ段階で、すでにメヌエットとアリアには強力なアドバンテージが発生してしまうんだよ、諸君。
オレがメヌエットが会話の中で無意識に口にしてしまうであろう『頭が悪い』とか『お姉様』とかを選択しても、会話が始まった段階でNGワードを得意の推理で看破して絶対に言わないで切り抜けてくるんだよクソが。
アリアもアリアでメヌエットの意地悪な性格を理解してるから会話には慎重さが増すし、持ち前の直感で会話中に何を言わせようとしてるか察知するしで鬼のように強い。
結果、絶対に言わない2人が結託してオレにNGワードを言わせる、もはや別の遊びになり果ててしまい、オレの連戦連敗。
苦肉の策、というよりも禁じ手の一人称──メヌエットの場合は『私』だ──をNGワードにしてやっても、初手で見破られて、大変お上品に『わたくしめ』とかで話し出す屈辱を味わったのが今さっき。
こんなことなら日本語じゃなくて英語にすれば『I’m』の時点で引っかけられたのに……うぉおおおお!!
「フフッ。これ以上は京夜がいじけて立ち直れなくなりそうですし、今日のところはお開きにしましょう。お姉様、お風呂はどうなさいます?」
「一緒に入りたいならそう言いなさいよ。京夜はまだ無理よね?」
「腹に穴が空いたんだからそりゃしばらくはな。勝手にタオルでも借りて拭かせてもらうから、邪魔者は下に退散しますよ」
こんなにやりごたえのない遊びは久しぶりだ無くなってしまえ。
そんな風に思い始めていたところで察したメヌエットがお開きにしてくれたから、その優しさなのか哀れみなのか微妙なラインの配慮に感謝はしつつ、姉妹仲良く入浴タイムとあってオレは下の階に退散。
メヌエット仕様の家だから車椅子でも1人で問題なく下へと降りられたオレは、サシェから濡れタオルを貰ってササッと体を拭き今夜をどう過ごすか2人に相談。
サシェとエンドラの寝室は当然ながら無理として、どこなら良いかと尋ねると2人も横になれるのはリビングのソファーが精々だろうと申し訳なさそうにしていたが、そのソファーには絶対そうなるだろうと予想してたからか、すでにオレ用の毛布と枕が置かれていて苦笑。
まぁサシェとエンドラに罪はないんだ。悪いのは怪我人をまともに受け入れる環境にないのに招き入れたメヌエットが全て悪い。反省して?
などと本人には口が裂けても言えないから、物言わぬジト目を上の階で入浴中のメヌエットにプレゼントして、今夜はもう寝るだけだろうとため息混じりでソファーで横になり休息に入る。
が、そこでふと思い出したように休息という観点からある人物が頭に浮かび、時差を計算してから大丈夫そうだとメールを送って返信を待つ。
寝て起きてからでは遅いのでのんびり待つこと10分程度。
メールを送ったのはオレの発勁の師であるメイファンさんで、どうせしばらくは動けないのなら、動けないなりに出来る修行はないかと尋ねてみた次第。
気のコントロールは使い方次第で自然治癒力を向上させるとかなんとか言ってた気もするから、ひょっとすれば全治1ヶ月も全治3週間くらいになったりしたら嬉しいなぁと思っていたが、現実とは非情なり。
最近こればっかり言ってる気がするが、今回も例のごとくで、メイファンさんからのメールの返信によれば、自分自身の自然治癒力を向上させるためにオレが決定的に欠けているものが2つもあると断言。
メールなのに関西弁丸出しの文面には『気を作り出す丹田のコントロール』と『気穴の開閉の自由』が不可欠で、そのどちらも出来ないオレにはどうすることも出来ないと書かれていた。
具体的にはこうだ。
まず自然治癒力を向上させるために整える状態は、全身にほぼ100%の気が充填させていて、その上で気の流れを促進させ循環。
その状態で一定時間を過ごして、風船のようにその気を放出し、新たな気を充填させての繰り返し。これで初めて自分の自然治癒力は向上するらしいのだ。
だがオレの場合、元々の気穴が一部開きっぱなしのため、常に気は体外へと放出されていて、その放出量に負けないために丹田も常に気を作り出し続けているという特殊な体質で、体内の気をほぼ100%に留めて循環させることが出来ない。
「……もう寝よ」
メイファンさん曰く、オレの気穴はアホになってるとかで開きっぱなしの気穴はどうしようもないから諦めろってことで、修行に熱心な弟子の心を何の躊躇もなくへし折ってきたメイファンさんに当たれるわけもなく「ありがとうございました」の返信をしてから本格的にふて寝。もうやだやだ! 誰か助けて!
ただ1つだけ、常に新しい気が体内を巡っているオレは、静養さえしていれば常人よりも回復は若干だが早いだろうとのことだから、2、3日程度なら完治も早まる可能性はあるらしいので、気のコントロール訓練だけは欠かさずにやっておこう。他にやれることもないし。
それら全ての感情を面に出したらサシェとエンドラにドン引きされること間違いなしなので、努めて平静に落ち込みながら寝ていたら、風呂から上がったアリアが降りてきてソファーに腰かけてくる。
「あの子、お風呂から上がるなりネットゲームを始めちゃったんだけど、夜更かしを止めてくれないかしら?」
「日本のモモコと遊んでるんだろ。オレ以外の唯一の友人だから大目に見てやれ。0時過ぎても起きてたら夜這いに行くって伝えろ」
「京夜はメヌに優しすぎない? あと最近買ったスマホのゲームにも10万円入れたみたいで呆れてるわ」
「スマホは知ってるが課金は初耳だ。アイシンだったか……10万も何を買ったんだよ……」
「ゲーム内の通貨というか、理子が言うにはガチャ? に使うものらしいんだけど、中毒性があるから危険だって言ってたから、出来れば止めさせたいわ。あの子、お金には困らないけど使い方が荒いのがねぇ」
「オレも賛成だが、どうせ言ったところで『私の資産をどう使おうと私の勝手ですわ』って言われて終わる気がする……」
「そこは頑張りなさいよ。あたしじゃ簡単に論破されるし、友人って立場は最大限利用していきなさい。メヌがインドアなのは仕方ないにしても、全部がそうじゃダメだと思うしね」
こういう話を聞くとアリアもちゃんとお姉さんをしてるんだなぁと思う部分もあるものの、大部分でオレに丸投げしてる気もするからそこは頑張れと逆に言いたい。
まぁオレもメヌエットが家から出なくても生きていけるみたいな今の考え方は良く思わないから協力はするよ。
しかし会話だけなら少し解釈を変えれば、オレとアリアが娘のことを心配する親みたいであれだ。意識すると妙な恥ずかしさがある。
アリアはそれに気づいてないからあえて言う必要もないし、黙ってれば波風立たないならそれが一番良い。
そのあとはいつものごとくキンジに対する不満やら何やらの惚気話をいくつかされて、それに相槌を打っておきつつ、ある程度吐き出して満足したアリアがメヌエットの私室へと戻っていったのを見届けて就寝。
サシェとエンドラも上にアリアがいるからそそくさと寝る支度を整えて1階はようやく明かりが消え、静寂の中でオレも寝心地はともかくとしてゆっくりと眠りに就くことが出来たのだった。
その後、Nからの襲撃はオレのところにも羽鳥のところにもなく、ロンドン留学に来てからおそらく一番の平穏な日々を過ごすことになった。
その理由が療養というのがなんともらしいというかで笑えないが、オレにとっても、そして羽鳥にとってもこの休息は色々と考える時間をくれた。
2週間もすればオレも車椅子とはおさらばして、メヌエット宅での宿泊もその時に終了。
アリアの護衛もメヌエットの「いつまでも些末なことに割く時間がNにあるとも思えない」との推測から、もう襲撃はないだろうと解除となり、アリアは日本へと戻っていった。
オレと羽鳥の生死がNにとって重要ではないと断言されたのはなんか悔しいが、世界を変革しようとするNが人類史の分岐点でもないオレと羽鳥を重要視する理由は確かにない。
今回のことも結論から言えばNにとっては『オレが死んで羽鳥が仲間になれば最良。そうならなくても両方が死ねば良し。死ななくてもどうでもいい』で片付く案件だってことだ。
この借りは勇志さん、シャナ、テルクシオペーを逮捕することで返してやると心に誓って、車椅子生活から脱却してからは登校も再開し日常へと戻って数日。
車椅子生活の間はひたすらにメヌエットの相手をしていたからか、メヌエットがすこぶるご機嫌でスマホのゲームも控えてくれたのは喜ばしいことで、しばらくはオレへの当たりも柔らかくなるだろうと思われ、急な呼び出しも特にない日々の中。
療養の初期に依頼という形でジャンヌに頼んでおいた調査の報告が届き、放課後にさっさと帰宅してそれを拝見。
調査してもらったのは、先日に接触してきた警視庁参事官、崇清花について。
事前の調査でも顔を合わせても何か疑問が消えない彼女を調べるのは、勇志さんを捕らえて差し出すように依頼してきた警視庁の裏を探る上で繋がる気がしたから。
それに彼女との面識は確かになかったのに、先日に初めて会った気がしないのも心のどこかで引っ掛かっていた。
そしてジャンヌによる調査はそのオレの疑問を払拭するだけの内容を含んでいた。
ジャンヌによる調査報告にはこう書かれていた。
──崇清花はその系譜を辿ると、ある一族の血族であることが判明。その名は──
「──『
その名はかつての真田十勇士の1人にして、真田幸村の影武者として有名な穴山
家に残ってる文献によれば、穴山小助当人は徳川軍との戦いにおいて幸村の影武者として壮絶な死を遂げたとあり、その子孫は細々とだが生き延びていたものの、100年ほど前にその系譜も絶たれたとあったはず。
別に穴山小助と血が繋がる穴山ではない可能性も十分にあるが、崇清花本人が真田と猿飛に関わりがあると言ったからには、その線で間違いないだろう。
だがそれだと何故、穴山の血が絶えたなどという記録が家にあるのか……
「……幸姉にも教えておくか」
穴山家に特別な力があるという記録も特にないし、血の断絶の偽装をしたのだとしてもその理由が判然としないのは確か。
それに真田や猿飛が関わっているのなら幸姉から当主へと話も行くだろうし、そこから見えてくる事実もあるはず。
とにかく崇清花の系譜については今後の幸姉の報告次第ということで保留にして、警視庁に所属した経緯についても報告があったからそちらにも目を通しておく。
見る限りではコネとかで所属したということもなく、警察学校も経て順当に昇進してきているが、やはりその昇進スピードと経歴が合致しないというか、この経歴でよく参事官になれたなという部分が見える。
結婚相手も一般人のようだし、その子供も警察には関わっていないみたいで普通なのに、何故こうも彼女だけが普通の中で異彩を放つのか。
結局のところ調査の結果としては崇清花が普通ではないということしかわからなく、ジャンヌもこれ以上は調べようがないほど情報が少ないと付け足しているので、追加調査をさせても何か核心に迫るものは出てこないだろう。
勇志さんを捕まえる前にこの件は解決しておきたいところなので、幸姉には少し頑張ってもらおうとメールに重要なことを書き足して送り、返事を待つことで今回は終了。
よくよく考えてみれば崇という名字は中国からの外来ではなく、穴山という名を隠したある種のアナグラムであることにも気づいたところで、唐突にシルキーが目の前に現れて険しい顔をオレに向けてくる。
その理由についてはオレもすぐにわかって、どうやらオレの部屋のベランダから誰かが訪ねてきたらしい。
殺気などは一切なかったからNではないが、一応は警戒して玄関付近に逃げられるように退路を確保すると、ベランダの窓をわざわざノックして存在を知らせてきた人物の姿はなし。
でも、あー、これ
その姿なき来訪者が敵じゃないとわかればオレの警戒も一気に解け、シルキーにも心配ないと伝えて別の作業中だった事に戻れと言って、ノックした来訪者を中へと招き入れる。
普通に玄関から来れば良いのにと素直に思っていたオレに対して「誰に見られるかわかったものじゃないもの」と答えて光屈折迷彩を脱いで姿を見せたのは、ジーサードリーグの超能力担当、ロカだった。思考を読まないでくれ。
「京夜は油断すると思考でセクハラするから」
しませんよー。ここは紳士の国ですし、セクハラなんてしたことありません。
「……じゃあ去年に私が穿いてたパンツは?」
「レースの白」
──ボゴンッ!
リビングに通されたロカは挨拶代わりの思考を読む力でオレと会話しながら窓の前で立ち止まり、誘導尋問でオレを殴る理由を作り出すと、言質が取ってから即座に超能力の拳で殴ってくる。罠だ!
「罠って、口に出したのによく言うわね……」
「むっ、思考を読まれてると考えてるのか言ってるのかわからなくなるんだよ」
「どっちみち記憶してるんだから変態に違いはないでしょ。はいこれ。注文の品。用はこれだけ」
自分で思い出させておいて変態もクソのなかろうに……
と、そこまで考えて睨まれたから心を無にして円周率を考え出したら、ロカもため息を吐いて思考を読むのをやめてくれて、ここに来た理由である単分子振動刀を懐から出してオレに投げ渡してくる。
キンジに連絡してから音沙汰なしでいきなりだから事前に何か知らせてほしかったものだと内心で思いつつ、届けてくれたロカに報酬は何かと尋ねると、元々が先端科学兵装の出来損ないだから在庫があって、ジーサードはゴミを押し付けられるならとタダで良いらしい。
タダほど怖いものもないから、ジーサードには簡単な依頼なら特別料金で引き受けると言伝を頼んで、用が済んだらわざわざロンドンに来た理由がそれだけではないロカは、このあとに開かれるオークションに遅れるからとまた窓から光屈折迷彩を着て出ていったのだった。
急な来訪だったが、まぁこれで欠けていたオレの装備が無事に補充されたので、早速その単分子振動刀をいつものポジションに装備して違和感がないことを確かめる。
やっぱりこれがあるのとないのじゃ精神的にも違ってくるな。これが無人島にあったらもうちょっと何とかなったと思うし。
と、装備に関しての重要性を改めて大事だとしみじみ思っていたら、今度はちゃんと玄関の方から来訪者がチャイムを鳴らしてきて、シルキーが警戒しなかったことから危険性は薄いと判断して玄関を開けると、そこには退院したばかりの羽鳥が表面上はケロッとした様子で立っていた。
「少し話があるんだが、怪我人に立ち話をさせるのかい?」
「お前がわざわざ来るとか、明日は嵐か……」
その羽鳥が話があるから中に通せと言うから、冗談半分で返してみるも、いつもの毒も吐かずにキロッと睨むだけで反撃してこなかった羽鳥になんか調子が狂う。
仕方なくオレもいつもの調子は控えて羽鳥をリビングに通して、体を少し気遣うような動作で椅子に座った羽鳥は、ソファーに座って距離を取るオレに前置きもなく話を切り出してくる。
「当分の間、武偵として動けなくなった。怪我は関係ない」
「…………それは、Nに狙われたからか? 萎縮したのか?」
「いや、そんなことで私は今さら引き下がれないさ。私が償うべき罪はまだ償えていないし、今回でそれも増えてしまった」
いきなりの武偵活動の休止宣言にまず考えたのが、今回のNによる強引な勧誘による影響で、その狂気をNに利用される可能性に萎縮したのかと思った。
しかし羽鳥はそうではないとバッサリ切り捨てて、別の理由でそうなったことを話してくれる。
「先の件で私が殺めた指名手配犯。処理としては問題はなかったけど、納得がいかない人がいるのはわかるかい?」
「指名手配犯の家族とか……被害者。被害者遺族、か」
「そう。殺人犯なんかは特にそうだが、犯人が死亡して終わるケースは簡単ではないんだ。被害者や被害者遺族の中には、当然ながら『一生その罪を背負って生きていけ』と考える者も少なくない。それは死という怒りや哀しみのぶつけようのない結果に対する感情だ。私が同じ立場になればそう考える。死などという安易な結果は生温いとね」
「死を生温い、か。わかるような、わからないようなだが……憎むべき対象がいなくなる空虚な感情は理解できるかもな」
「そうした事後処理に私は動くことになる。何せ今回、私は6人もの人間を殺めてしまったからね。その憎悪やらも6倍ということだよ。それらを遺恨なく終わらせるなんて不可能かもしれないが、精一杯のことはするつもりだ」
無人島での羽鳥の殺人は、ロンドン武偵局の武偵としての行きすぎた行為とは捉えられず、そこに羽鳥の罪は法的にはないと聞いていた。
しかしそれではい終わりではないのが現実で、その事後処理に奔走する旨を伝えた羽鳥の表情は幾分か暗い。
それでも羽鳥は自分がしたことへの責任を果たそうと再び前を向いて歩き出したことは本当に良かったと思う。
ひょっとしたらもう武偵として精神的にやっていけないことにもなりかねないと思っていただけに、その話には嬉しさ半分、悲しさ半分といった感情で、今後はNに関しての事にも積極的には動けないと付け足された。
ここでの羽鳥の離脱は正直かなり痛いが、なってしまったことをあーだこーだ言うのも女々しいので、話はそれだけだった羽鳥も椅子から立ち上がって、玄関へと向かっていくのを黙って見送る。
「ああ。それからもう1つ」
玄関まで見送りに行くのは柄じゃないと動かずにいたオレに、姿が完全に見えなくなる前に振り返った羽鳥は、その瞬間にいつもの男勝りな羽鳥の顔から、年頃の女の子のような微笑を浮かべてオレを見る。
「私も頑張るから、あなたも頑張りなさい、京夜」
そうして普段なら絶対の絶対に。100%言わないような励ましの言葉を述べた羽鳥に、しばらく思考停止。
脳が再起動してから状況を理解した時には、すでに羽鳥の姿もなく、女らしく振る舞えば破壊力抜群な羽鳥に、クスリと笑ってしまうのだった。