緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Slash59

 

 ──ズドォオオン!

 とてつもなく重い衝撃音が氷のドームの天辺から轟く。

 何の前触れもなくオレとシャナが入る氷のドームの上に降り立ったサイオン・ボンドが撃ち下ろしたのは、人が本当に持ち上げられるのかというレベルのパイルバンカー。

 そのパイルバンカーから勢い良く射出された杭は氷のドームの天辺に突き刺さって、そこから放射状に大きなヒビを入れ、仕上げとばかりに杭を撃ち終わったパイルバンカーを放ったサイオンが1番の負荷がかかったはずの半ばまで突き破った杭を謎の超パワーで蹴り貫通させる。

 落ちてきた杭を避けるためにオレとシャナは距離を取るようにバックステップして場を仕切り直させられ、氷のドームも天辺の一部が再生が間に合わずにサイオン1人なら通れるだけのスペースを与えてしまっていた。

 その穴を躊躇なく飛び降りて再生されつつあるドームの天辺付近に自前の小型アンカーを撃ち込み、悠々と地面に転がる杭のそばにオレへ背を向けシャナを正面に据える形で着地。

 その鮮やかすぎる登場に唖然としている場合でもなかったオレは、唯一とも言えるチャンスを逃すまいと再生する天辺に向けて十字手裏剣を1本だけ投げ上げる。

 位置的にサイオンが被ってシャナにはその動作が見えてなかっただろうし、手裏剣も黒塗りだから闇夜に紛れて気づかれなかったと信じて、投げ上げた手裏剣がドームを抜けていき、その先で1度だけ弾けたのを確認する。

 弾けたのは手裏剣をレキが狙撃したからで、そんな意味のない行為を何故するのかと言えば、あの手裏剣の中心には小型の煙玉が付けられていたのだ。

 しかも白ではなく真っ黒な煙で闇夜でばら蒔かれても普通なら近くでなければ見えないほどのもの。

 この1手がオレの隠し玉。効果を発揮するまでには若干のタイムラグがあるから、それまでオレは時間稼ぎを……

 

「お前は騒動の中心には必ずいるな、猿飛京夜」

 

「……お前もイギリスからはるばるご苦労様だな」

 

 必殺仕事人の登場はシャナとテルクシオペーにとっても厄介らしく、オレの時とは違って即座に攻撃してくることはなく、そのわずかな時間の猶予で振り向かずにオレに話しかけてきたサイオン。

 おそらくサイオンが百地さんの呼んだ戦力だろうな。タイミング的にも図って来たってわけでもなく、急いで来た感じがなんとなくわかる。

 だがどうだろうな。状況を変えてはくれたものの、面倒臭いことにもなった。組織の人間は融通が利きにくいからなぁ。

 こっちとしてはシャナの確保は共通の目的としてあるしサイオンと共闘は出来るだろう。

 しかしそのあと、シャナを確保してからは、おそらく揉める。確実に揉める。そして圧し負ける。個人で国には勝てないから。

 有無を言わさずにシャナを連れていかれてはクエレブレの依頼を失敗したに等しい結果になるから、それだけはなんとか防がないとと思いながら、明らかに荷が重いと感じているのかシャナも攻める意思がどんどんと小さくなっていくのがわかった。

 それに氷のドームもテルクシオペーの意思で穴を開けられるなら、シャナだけを外に出してオレとサイオンだけを閉じ込めることも十分に可能と見ていい。

 その可能性にはサイオンも鋭い洞察力で気づいたようで、逃走を許さないためにオレと2人で挟撃しようと動き出す。

 

「サイオン! 奴の操る水には触れるな!」

 

「毒か何かだな。了解した」

 

 来たばかりでシャナの情報を持たないサイオンにそれだけの助言をして、本格的な逃走に移ったシャナの背後を取ろうとサイオンが人間離れした動きで駆けるのを見つつ、シャナをドームの中心付近に誘導するためにオレもサイオンと直線上で繋がるように移動。

 その際に凡ミスでドーム端に吹っ飛んでいた超能力者用の銀の手錠を回収して懐に仕舞う。

 シャナももう全身をカバーできるほどの水を操作できないから水の鞭でオレとサイオンを牽制するが、近づかないオレはいいにしても攻撃までしようとしてるサイオンは当たるリスクを冒して避けながら距離を詰めている。凄すぎて意味わからん。

 時折あり得ない挙動での回避をしてシャナを惑わし、その隙に1歩ずつ距離を詰めるサイオンの圧力は対面するシャナの表情からもハッキリとわかる。

 気づけばドームのほぼ中央に誘導されたシャナが半身になってオレとサイオンを警戒する形が完成し、消耗もあるシャナではオレはともかくとしても万全のサイオンを相手に強い手は使えないはず。

 どちらにも警戒の比重を傾けられない以上、神経をすり減らすしかないシャナにはもう攻撃は不可能。あとはサイオン任せでも片はつくが、それだとサイオンが過剰にシャナにダメージを与える可能性が出てくる。それは1番あってはならない。

 

「サイオン、シャナの血は猛毒だ。手荒な真似はやめてくれ」

 

「その毒があの水に混ぜられたわけか。面倒な女だ」

 

「面倒なのはどっちだMI6! コソコソと我らを嗅ぎ回ってはうろつくハイエナが!」

 

「それを恥と思い逆上する程度の人間は我々の中にいない。そしてハイエナは横取りの象徴のように揶揄されるが、実際はライオンや虎などよりよっぽど真っ当な狩りをする。つまり我々もそうだ。常にベストな選択をし成果を出す」

 

 一転して追い詰められる形となったシャナが感情的なのに対して、努めて事務的な無感情で対応するサイオンに一切の隙はなく、血を流させられないと理解して物理的に戦闘不能な状態に持っていこうと接近戦に移行しようとする。

 ただオレはシャナが意味もなく追い詰められてはいないと勘繰っていたため、サイオンの位置がオレとでシャナを挟撃しているのと同時に、氷のドーム越しではあるがテルクシオペーとで挟撃されていることに気づく。

 そして予想通りサイオンの後方の氷のドームの壁に小さな穴がいくつか音のなく開いて、そこから殺傷力の高そうな水のつぶてが飛来。

 わかっていたからこそオレは明らかな視線誘導でサイオンに危険を知らせ、サイオンに状況確認のために一瞬でも振り向かせて隙を生じさせて、そこをシャナに狙わせる。

 千載一遇のチャンスを逃すまいと顔を逸らしたサイオンに毒の水を飛ばそうとしたシャナだったが、さらにその攻撃の隙を見逃さなかったオレが再度、ミズチのアンカーで手錠を飛ばして振るわれるその手首にガチンッ! ギリギリではめることに成功。

 手錠には特殊な文字やら模様が直接掘られていて、近くに存在するだけで魔術的な力はかなり封じ込めることが可能らしく、シャナも手錠をはめられた瞬間に水のコントロールが不安定になって止血をしていた肩の水ごとその場にバシャシャッ、と力なく落ちて弾けてしまった。

 さらにサイオンも後ろから迫った水のつぶてを真正面から蹴る殴るの物理的な手段で防御して全くの無傷で、シャナへの警戒もちゃんと残して半身で処理しきった。やっぱり化け物は違うわ。

 

「ぐっ……こんなものぉ!」

 

 得意の超能力を封じられて肩からの血も再び流れ始めて、そこで意気消沈してくれれば良かったのにまだ諦めないシャナは、忌々しい手錠を見て隠し持っていたらしいナイフを取り出して、ほぼ迷いなく自分の手首を切り落とそうと振りかぶる。

 が、そんなことをされればシャナと言えど死なないとは言い切れないし毒も濃度が増して手に負えなくなる。

 だからオレもサイオンもその行為を止めるべく動き、やはり初動すら速いサイオンがナイフが振り下ろされる前に蹴って阻止。

 最後の足掻きを阻止されて今度こそ意気消沈したシャナに、ダメ押しするようにサイオンが手錠をしっかりと前で両手にはめて拘束。

 

「お前はMI6でその身柄を拘束する。Nについても知っていることは話してもらう」

 

「…………」

 

 これでシャナはほぼ無力化したと見てよさそうだし、テルクシオペーもこの状況からシャナを助け出すのは無理と判断して撤退するはず。

 氷のドームもテルクシオペーの撤退と同時に解けると信じて、一応は攻撃の警戒をしつつサイオンとシャナに歩み寄る。

 

「協力には感謝する。ただシャナを引っ張るのは待ってくれないか」

 

「猿飛京夜。お前は賢い男だと認識していたが?」

 

「言いたいことはわかる。だがオレも譲れないんだよ。ここでシャナを連れていかれたら依頼が失敗ってことになりかねない」

 

「お前の依頼とやらが何かは知らないが、それとイギリスを天秤にかけてもそちらに傾くほどのものなのか? 答えはノーだろう? 表情を見ればわかる」

 

 力なくその場にぺたりと座り込んでしまったシャナに高圧的なサイオン。

 今後のシャナの身柄について決定事項のように話したサイオンだが、このまま黙って引っ張られては困るのも事実。

 どうにかしてMI6にシャナを持っていかれない案を練り出さなきゃならないが、この堅物をどう説得するか。

 

「そっちにシャナの口を確実に割らせる手段はあるのか? もしないならこっちに委ねてみないか」

 

「それこそ同じことを返そう。そちらにそんな手段があるのか? あるなら提示してみせろ。でなければ議論の余地はない」

 

「それはまだわからない。だがシャナがこうまでして、こうなるかもしれない可能性を知っていてここへ来たのには、ちゃんとした意味がある。お前には理解できないかもしれないがな」

 

「意味?」

 

 MI6はシャナがNについての情報を口にするまで絶対に拘束を解いたりしないのは明白。

 事によってはNの壊滅まで拘束が続き、それがいつまでかも見当がつかない以上、シャナをサイオンに引き渡せない。

 その意思がサイオンに伝わったのか、本来なら味方であるはずの存在から徐々に敵対する存在へと変えられていく。

 これは高くつくぞ、クエレブレ。

 

「どうしてもつれていくってことなら、仕方ないんだよな」

 

「やめておけ。お前では俺に勝てない」

 

「……勝つ必要は、ないかもだが……」

 

 もう衝突は免れないと悟り、ゆっくりとサイオンから離れたオレは、構えもしないのに圧倒的なプレッシャーを放つイギリス最高峰のエージェントに、最初で最後であってほしい喧嘩を売ってしまった。

 

「所詮は武偵。物事を金で決める輩というわけか」

 

 勝ち目は、ない。だが敗北の道も倒れない限りはない。

 その瞬間までオレもどうなるかわからないが、とにかく時間を惜しむようなサイオンをこの場から離させないように足止めに徹する。

 テルクシオペーも空気を読んでくれ。氷のドームがあるだけで今は安心す……

 集中はしていた。それなのに意識の外側から不意に死の回避が発動してオレの頭が右側に傾き放たれた銃弾を避ける。

 これは前にもあったな。殺意なき銃撃。呼吸するように発砲するから予兆も何もない戦慄の一撃。

 威嚇で済んでいたあれが今、確実にオレに向けて放たれたのだ。その証拠にサイオンの垂れ下がった右手にはいつの間にか拳銃が握られている。

 抜いた瞬間すらわからなかったぞ。どんだけ撃ったらあんな銃撃が出来るんだよバカか!

 戦力差は今のを見ても一目瞭然。これで一撃死。或いは戦意喪失すればよしとしていたっぽいサイオンだが、オレの目が死ななかったことから戦闘を続行。

 オレの死の回避にいち早く気づいたか即死コースではなく手足を狙って動きを止める方向にシフトしたのを視線から察して、すでに抜銃されている状態ならと集中力をさらに引き上げて殺意なき銃撃に備える。

 指1本の動きさえ見逃さない自信がある集中力で構えていた。だからなのか戦闘中の基本である相手の全体の動きを見るのが疎かになったオレの隙を見逃さなかったサイオンが無音動作で急接近して強力な蹴りを放ってきた。

 なんとかギリギリのところで手を滑り込ませて、わずかばかりの発勁を足にお見舞いして盛大にバックジャンプしダメージを軽減……してもいってぇなオイ!

 靴の上からだったから発勁も大した意味はなかったみたいだし、着地の前にまた頭を撃たれるしで嫌になる。集中力が持つか心配。

 

「今回は金で雇われたわけじゃないけどな」

 

「同じことだ。対価を求めて仕事に応じる。そこに忠誠はない」

 

「お前みたいに忠誠だけじゃ食っていけないんでね」

 

 強がりでも余裕があるように見せることでゴリ押ししてくるのを抑制しつつ、わずかでも会話を長引かせる作戦を仕掛けるも、話しながらでも手を緩めないサイオンは死の回避の反応速度を警戒して狙いを足。つまり機動力を削ぎに来る。

 CQCを仕掛けてきながら右手にはしっかりと拳銃を持つサイオンのガンカタはその全てが超一流。

 フェイント1つでも本気でガードか回避をしなければやられると理解させられる圧があってまんまと釣られ、鋭く振り下ろされようとした左の手刀を堪えるために踏ん張ってガードを上げた瞬間に右の拳銃がノーモーションでオレの太ももを強襲。

 防弾だから貫通はしなかったものの、至近距離からの銃弾はそれだけで悶絶ものの痛みを伴ってオレの膝と心を折ろうとしてくる。

 さらにオレが怯んだ隙にフェイントだったはずの左の手刀が容赦なく振り下ろされて片足の踏ん張りを失っていたのもあって意図も容易く地面に膝をついてしまった。おっもてぇな……コラ……

 やりたい放題なくらいの実力差からか、さっさと片付けてしまおうという意識が動きの中に見えたサイオンが膝をついたオレに回し蹴りを放って側頭部を狙い、食らえば1発でノックアウトなそれを腕でガードするも、その上から威力で真横へと面白いように吹っ飛ばされてしまう。

 ここで地面に倒れたらヤバいと確信していたオレは、吹き飛んで1度は地面をバウンドするも、その勢いを殺さずに体を操って起こし両足で着地。

 想定していたようなリカバリーにサイオンもわずかに嫌な顔をするも、すでに機動力を削がれたオレが反撃に出るだけの速さを持ち得ないだろうと最速の蹴りをお見舞いしに来る。

 ──ここしかないよな!

 手負いのオレにどれ程の警戒をするかが懸念だったが、シャナの逃走の恐れがある以上は時間をかけられないんだろ? わかるよ、その心理。

 オレもサイオンとぶつかり始めた時にはもう気づいていたからな。テルクシオペーが海側に近いドームの壁の一部。

 シャナ1人分が屈めば通れそうなくらいの小さな穴を開けていたことを。

 気づかれないように完全に開けるんじゃなくて、かなり薄くしてぶつかれば割れそうなくらいにしていたようだが、シャナにも動きを強要する以上は異変には気づける。

 いつ走って逃げ出すかわからないから、サイオンもそれを邪魔する形になってるオレの排除を1秒でも早く済ませたい。だから必ずどこかに焦りという付け入る隙が生じる。

 足に力が入りきってない体勢を作っていたオレに対してフェイントなしで正面から撃ち込みに来たサイオンにあえて前へとよろけて懐を隠し、見えづらいところから右手で単分子振動刀を抜き放つ。

 腕の1本くらいはもらっていくつもりで抜き放ったオレの起死回生の一撃は、常人なら手首から先を失っていただろうが、化け物じみた反射神経を持つサイオンはこれを回避。

 抜き放ったオレの右手が振り抜かれるより早く、手刀で手首にスタンガンでも仕込んでるのかという一撃を加えて単分子振動刀を握らせてもらえなかったんだ。嘘だろ……ってな。

 空を切る形となった腕は握力すら一時的に失っていたものの『こうなるとわかってた』なら出来ることはあって、始めから単分子振動刀を握るつもりがなかった右腕を振りサイオンの視界を一瞬だけ遮る。

 その一瞬で左手の逆手で単分子振動刀を抜き、下から上へとまっすぐに切り裂く。

 ここは正直、腕に傷でも入ればいいくらいの一撃で放ったが、やはり戦闘のプロは次元が違うらしく、ほぼ見えなかったはずの一撃を急ブレーキでスウェーし射程ギリギリに留まって頬をわずかに切りつける程度で終わる。

 だがここでサイオンは攻撃に移るための溜めが必要になったのを見逃さなかった。

 その溜めが完了するより早くガクつく足を黙らせて渾身の回し蹴りを横から叩き込む。

 さすがに息もつかせぬ三連擊ともなるとサイオンでも防戦に回ってくれて、しっかりとガードはされたが若干でも後退させることは出来た。

 立ち止まって頬から流れる血を拭うサイオンとシャナの直線上に再び立ったオレに、努めて冷静な表情のまま仕掛けては来なかったが、この短時間で歴然とした実力差を実感しただろうと疑問を持つ顔をされる。

 

「……わからんな。そうまでしてその女を守って何になる? お前にとっても敵であることに変わりはないだろう」

 

「確かに事実はそうかもしれないさ。だがこれからも敵であり続けるかは別の話だろ。シャナの行動原理が愛によるものなら、それは気持ち1つで。誰かの伝え方1つで裏返るかもしれないだろ」

 

「……ここでも愛を語られるか。だが俺は先代のように愛や恋などという曖昧な感情に揺らぎはしない。そんな不確かでくだらないもので俺の前に。イギリスの前に立ち塞が……」

 

「ふざけるな!!」

 

 単に依頼だからという理由で邪魔をしてるわけではないことは理解したようなサイオンだが、体を張ってまですることかと至極真っ当な意見で排除しに来る。

 オレも何でここまでしてるのかちょっと自問自答したくはなっていたから、グサッと来なかったわけではなかったが、サイオンの口から出た『くだらない』の一言だけは聞き逃せずに言葉を切って吠えた。

 

「オレもまだ真剣に向き合えてないから、それがどれほどの想いなのかは計りかねることではある。だがな……愛や恋の感情を知ろうともしない奴が、その尊い感情をくだらないの一言で片付けるな! それを理解しようともしない奴がここから先に踏み込んでくるな!」

 

 プロ相手に感情論をぶつけるのは素人だったろうな。我ながらバカらしい。

 だが今のシャナを救うのは紛れもなくサイオンがくだらないと一蹴した愛なんだ。それを踏みにじろうとするなら、オレは何度でも立ち塞がってやるよ。

 しかしサイオンにとって止まる理由にすらならないオレの叫びは当然のごとく無視されて、再進行を始める動きを見せた。

 が、その目が目の前のオレやシャナではなくさらに後方へと向けられて動きが止まったのを察知したオレは、サイオンへの警戒はしつつ半身で振り返り後方を確認。

 すると氷のドーム越しでもハッキリ感じられる圧倒的なまでの存在感が、何故か呆然としていたテルクシオペーを長い尻尾で豪快に吹き飛ばしてしまう。

 テルクシオペーの離脱によって氷のドームも維持できなくなったか、あれほどの強度を持って存在していたドームが一瞬で水となって消失しバケツをひっくり返したような水がオレ達に降り注ぐ。

 だがそんな水を全く気にもしないでオレとサイオン、シャナは灯台の横で大きな翼を広げて羽ばたくドラゴン。クエレブレを凝視していた。

 

「まったく……遅いんだよ……」

 

 月光に照らされて君臨したクエレブレの登場で、ようやくオレのお役目も終わりかと安堵の意味を含む悪態をついたオレは、凍りついたように動かなくなったシャナのそばへと悠々と着地したクエレブレにアイコンタクト。あとは任せたよ。

 会いたくなかったといった怯えるような、申し訳ないような表情で固まるシャナに神々しい出で立ちを崩さないクエレブレは、しかしその存在感からは想像できないほどの優しさを含んだ声色で口を開いた。

 

「もう終わりにしよう、シャナ」

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