緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet30

 8月20日。午後1時過ぎ。

 この日オレはある人に会いに新宿警察署に来ていた。

 

「あなたもアリアに似て危険を省みないのね。困った人だわ」

 

「誉め言葉ってことで受け取っておきますね、かなえさん」

 

 目的の人、神崎かなえさんは独房の扉越しからそんな呆れた声を出し、『看守の格好』をしたオレはその独房に背を向けながら応対した。

 言われたようにオレは春先に行った警察署潜入を敢行して今この場に居る。

 前より警備が厳重になってたが、まだ穴があったぞ警察よ。

 

「今回はモニタールームの音声切ってきたんで監視カメラに動きを悟られなければ10分くらいは話せます」

 

「次はアリアと一緒に面会に来てくれるって聞いた記憶がありますけど、こうしなきゃいけない理由があるのかしらね」

 

 ビンゴ。さすがホームズ家の人間ってところか。

 かなえさんは直系ではないはずだけど。

 

「今アリアは忙しく駆け回ってますよ。あなたの冤罪を晴らすためにね。ホントに嬉しそうにしてます」

 

「……そう、なのね」

 

「ただ、これはアリアの前では言えないので、今回はこうした形でまた来ました」

 

「……私は、おそらく『ここから出られない』わね」

 

 ……ホントに、何で話してもないのにわかるんだよ。

 

「まだ可能性の話でしょ? オレだってそうなってほしくないです。ですが、かなえさんが被った罪は『イ・ウーのメンバーの罪』。今回イ・ウーは壊滅しましたが、その残党は散り散りになって世界中に逃げてしまった。そいつらの分の罪を冤罪と証明する材料は、おそらく見つからない」

 

「そうね。そうなると今まで逮捕、または自白してくれた人達の分の減刑がせいぜい。それでも終身刑の範囲になるでしょう」

 

「だからまだ可能性の話だって言ってるじゃないですか。そんな悲観的にならないでください」

 

「ええ、ありがとう。優しいですね。私とアリアのために気を遣ってくださってありがとう」

 

 そう言ったかなえさんの独房越しからの声は、ホントに嬉しさしか込もっていなくて、悲しみや落胆の色は伺えなかった。

 こんな可能性の話、聞きたくなかっただろうに。

 

「優しいんじゃない。逃げたんですよオレは。一生懸命になるアリアの姿を見て、こんな話ができなかっただけです」

 

「大丈夫ですよ。あの子にはもう、あなたやキンジさんのような方々が傍にいる。だからあの子がつまずいたら、手を差し伸べてあげてください」

 

「それは……はい、わかりました」

 

 約束できない。とは言えなかった。

 何故ならオレは遠からず武偵をやめることになるから。

 武偵をやめたからといって友人関係がなくなるわけではないが、アリアを支えるとなると、力とそれを振るえる立場が必要になるのは必然だから。

 

「……かなえさん、1つ聞いてもいいですか?」

 

「私に答えられることであれば。言ってみてください」

 

「もし、かなえさんが『選択できない未来』を迫られた時、どうしますか?」

 

「私にとっては今の状況がそうなんでしょうけど……あなたのその質問は自分自身の話なのかしらね」

 

 うっ、バレてる。相変わらず話術が苦手だなオレ。

 

「選択できない、って言ったわね。そうね、私ならまず、それが『選択できる未来』にできないかって考えて行動してみるかしら。この世の中『絶対』なんてないもの。一番大事なことは『諦めないこと』。私もまだ諦めたわけではないの。だからあなたも諦めずに考えて考えて、考え抜いて。確か武偵憲章にもそんな箇条があったわね」

 

「武偵憲章10条。『諦めるな。武偵は決して、諦めるな』」

 

「あなたも色々あるのでしょうけど、人生は長く険しいわ。でも、それを乗り越えてこその人生よ。まだ30そこそこの私が言っても大した言葉にはならないのだけど、あなたの倍以上は生きてる人生の先輩としてのアドバイス、受け取ってくれるかしら?」

 

「喜んで受け取りますよ。アリアがかなえさんを好きでいるのには、きっと母親ということ以外にもたくさんあるんでしょうね。オレもかなえさんみたいな人好きです」

 

「まぁ。男性に告白されたのは結婚してからあの人以外では初めて。子持ちのバツイチでもよろしくて?」

 

 この人もやっぱり紛いなりにもホームズ家の人間だ。ユーモアのセンスがシャーロックに似てる。

 あの人は腹が立つ言い方だったけどな。

 あとバツイチとか新情報があったが、そうか。合法か……なんてな。

 

「じゃあ次はオレとかなえさんの『娘』と一緒に会いに来ますね」

 

「ふふっ、ええ。楽しみに待ってますね、あなた」

 

 やっぱり人間笑うのが一番。

 暗い話をしてしまったお詫びに最後は冗談半分で話してからオレはかなえさんの元をあとにして、また何事もなかったように全てを元に戻してから新宿警察署を出たのだった。

 諦めないこと、か。

 ハハッ、元気付ける立場のオレが逆に元気付けられてるし。

 昔から年上はやっぱり苦手だよ。

 思いながら学園島へ戻ろうと歩いていたオレの元に携帯の着信を知らせるバイブレーションが。

 誰からかを確認すると、通話表示で相手はジャンヌだった。

 ジャンヌだとほとんど私用の可能性がないから、少し緊張しながら通話に出る。

 

『猿飛、今どこにいる?』

 

「新宿駅の近くだけど、いきなりなんだよ」

 

『新宿駅? アリアの母親にでも会っていたのか?』

 

 頭の回転早いなおい。場所だけでそんなピンポイントにオレの行動を当てるなよ。

 

『まぁ今はどうでもいい。武藤の妹、新宿駅だ。急げ。猿飛、今迎えに行くからそこを動くな』

 

「……事件か?」

 

『池袋の家電量販店で立てこもり事件だ。情報が少なくて詳しくは話せないが、私が綴に召集された。使える駒は使う主義だからな。いま多方面に呼びかけている』

 

 池袋か。学園島からなら向かうついでにオレを拾えるな。

 

「警察は?」

 

『出ているが、どうにも事態がよろしくない。付近の封鎖は済んだようだが、現状で店内の情報が全くないらしい。どこに何人いて、人質が何人いるのかも』

 

「要求は?」

 

『まだ提示されてない。とにかく今は現場に行かなければどうにもならん。あと3分くらいでそちらに着く』

 

「早ッ!? ちゃんと道交法守ってんのか?」

 

『言っただろ、池袋に向かってると。細かいことは気にするな』

 

 まぁ確かに。

 それにしても立てこもりか。当初の目的が強盗だったりとかもわからないのか?

 そうして本当にすぐ貴希が運転するワゴン車が到着してオレを後部座席に乗せると、全く無駄なく出発した。

 ご丁寧に車内には私服だったオレのための防弾制服もあり、現場到着前に着替えておき、助手席に座っていたジャンヌはノートパソコン片手に携帯で方々にまだ連絡していて、後部前席にはレキとハイマキが。

 

「レキもジャンヌから召集されたのか?」

 

「はい。歩いていたところを詳しい話もなしに乗せられて」

 

「拉致か!」

 

「うるさいぞ猿飛! 通話中だ」

 

 怒られたのでオレは到着までの間に装備を確認して現場で何ができるのかを思案していた。

 ミズチがないのが心許ないな……

 現場に着いて車を降りると、そこには警察の他に綴と蘭豹の姿があり、オレ達はすぐに発見され呼び寄せられる。

 

「来たか。おっ? 猿飛と狙撃科の天才児まで連れてくるとは良い仕事だ」

 

「それより状況はどうなってるんですか」

 

「立てこもりに使われてる建物は6階建ての立方四方形。隣接する建物もないし、向こうさんも手練れや。屋上に各方面で1人ずつ狙撃手がおる。近付こうもんなら額に穴開けられんで。おまけに中の様子が全くわからんくて、ぶっちゃけいま手詰まり状態や。とりあえず建物全体の電力供給は切ってるから、犯人どもが防犯装置の利用をすることはできんはずや」

 

 蘭豹の要点だけ引き抜いたような説明で現状を概ね把握したオレ達は、とりあえずジャンヌの言葉を待つ。

 

「猿飛。お前が中に入って内部を探ることは可能か?」

 

「無理。定点カメラとかならまだなんとかなるんだろうが、監視の目が動くとなると狙い撃ちされる。それに内部に潜入したのがバレるような入り方も人質が危険に晒される可能性がある」

 

「人質がある以上、狙撃手を沈黙させても同じでしょうね」

 

「となると、犯人達に悟られないように中に侵入する方法が必要だな。この建物には地下が存在しないから、やはりどこかしらの入り口から侵入しなければならない。猿飛、方法はないか?」

 

 こんな状況で内部侵入とか、透明人間にでもならないと無理だろ。

 身を隠して近付けるような都合の良い物もないし、狙撃手の気を逸らすにしても1秒程度じゃ7、8メートルしか近付けない。

 

「爆発とかで車が炎上とかすればなんとかなるかもな……」

 

「ふむ、綴先生。車の1台くらいで事態が進展するなら安いのでは?」

 

「おーい、車がドカンってなるくらいの爆薬用意しろー。急げよぉ」

 

「…………ホントにやんのかよ……」

 

「お前が言ったのだろう。しっかりやれ」

 

 ジャンヌさん、オレの評価が前より上がってるのはわかったけど、そこまでしなくても……

 などと言うオレの意見は音速で却下され、1時間後には完璧に準備が整えられた。

 動きを阻害しないように高性能らしい小型カメラと通信端末を装備したオレは、行動開始前に作戦事項の確認をする。

 

「お前のカメラが捉えた映像はリアルタイムで私のパソコンに送られる。そこにさらにお前が詳細情報を知らせる形で内部状況を網羅する。そのあとの対応は臨機応変にだ。一応音響分析を通信科の中空知(なかそらち)に頼んでいるから、お前が逃した情報もこちらで勝手に拾う。第1に見つからないよう心がけろ」

 

「了解。それじゃいま中空知と話せるか?」

 

『問題なく。何かご用ですか?』

 

 うおっ!? ビックリした。

 いきなりイヤホンから中空知のアナウンサーのような声が聞こえてきて驚きつつも用件を話す。

 

「確か中空知はジャンヌと相部屋だったよな? 今度遊びに行っても大丈夫かな?」

 

 そこで抜群のタイミングでジャンヌから殺気を浴びたところで冷や汗をかきつつ頭を切り替える。

 

『今はそのようなことを話している場合ではないかと。集中してください』

 

「了解。今ジャンヌに目で殺されそうになった。フォローの方、頼むな」

 

 そういえば中空知とは顔を合わせたことないな。冗談で言ったけど、今度マジで遊びに行くか。

 こうして潜入前の緊張ほぐしも終えて、いざ作戦開始。

 まずは狙撃手に気付かれないように近くにあった1台のパトカーに遠隔操作の爆弾を設置。

 そのパトカーの付近から数人の突入隊が突入する素振りを見せて狙撃手の注意を引き、実際に動きを見せて何発か撃たせて後退し、なんとか上手い具合にパトカーに銃弾を当ててタイミング良く爆破。それに驚く突入隊の演技付きでな。

 スコープを覗いてるはずの狙撃手は突然の爆発で視界が遮られるので、オレはそのわずかな時間を使って別の位置から一気に建物の壁面へと走り抜けた。

 狙撃手の位置からどうやっても見えない位置は把握していたので、安全圏にまで走り抜けて無事に建物への接近に成功するが、嫌だなぁ、みんな見てる前でこういう潜入ミッションは。

 

「防犯カメラとかは作動してないんだったな。んじゃ中に入るぞ」

 

『くれぐれも見つかるなよ』

 

『音響分析を開始します』

 

 ジャンヌ、中空知と声が返ってきてからオレは自動ドアを手でこじ開けて中へと侵入していった。

 とりあえずまずは案内板で内部の情報を頭に入れる。

 階段、非常口、エスカレーターにエレベーター。その全ての位置を正確に覚えた。

 次に1階の偵察。おそらくだがこの階には人はいない。籠城においては高い場所の方が有利。

 敵さんが手練れなら定石は心得ているはずだし、人員の無駄な配置もしないだろう。

 この階にあるとしたら侵入者用トラップくらいか。

 予想通り、電力供給がなく薄暗くなっている1階には誰もいなかった。

 中空知も物音らしきものは拾えなかったと言うから間違いない。

 ちなみに中空知については顔こそ見たことはないが、その優秀さは知っている。

 中空知美咲(みさき)

 通信科の2年で随一のオペレーター。

 特に音響分析においては右に出る人はいないと言われてる。

 4月のハイジャック事件でキンジがやった聖徳太子みたいなことを平然とやり情報処理するレベルだ。

 今もオレのつけている通信機から聞こえるホントにわずかな音を逃すことなく拾って逐一報告している。

 現場にいるオレより集める情報が多いって納得いかないんだが、武偵は専門特化する職業だ。

 オレは中空知にできないことをやって、オレにできないことをジャンヌやレキがやる。それがチームワークってものだ。

 さて、次は上の階に上がるわけだが、難関だな。

 階段というのは待ち伏せに遭う可能性が高い。突入なら見つかってもいいが、今回は見つかるとアウトだ。

 そうなると階段以外のルートを……おっ? みっけ。

 

「階段は避けて昇る。暗くてカメラからはほとんど何も見えなくなるが、中空知フォローよろしく」

 

『『了解』』

 

 双方の了承が取れたところで早速オレは1階スペースの隅にあった天井扉から1階と2階の間にするりと入り、そこから2階を目指す。

 オレは暗い場所でも目が利くように訓練されているから問題なく進める。

 そして2階の床下扉を下から開けて2階へ到達。

 テレビやデジタルカメラが置かれるこの階にもやはり人はいない。

 だが、非常口の階段と一般用階段にはそれぞれ2人ずつ武装した犯人達がいた。

 犯人達は全身軍隊のような完全武装で、顔もわからないようにマスクをしている。

 そしてその手にはアサルトライフルが持たれていた。

 

2人1組(ツーマンセル)の防衛配置だな。担当分担してる配置で、この階にいる4人はおそらく見回り担当。定時で階を移動する感じだな」

 

『足音が4つ。全員戦闘訓練された人の足使いです』

 

『階段を使わないのは正解だったな。よし、2階の情報も掴んだ。上に上がれ』

 

 人使い荒いぞジャンヌ。戻ったら文句言ってやる。

 そうして3階、4階も無事に調べ終えたオレ達は、次の5階でやっと本丸にぶつかった。

 犯人グループとその人質。

 ひとかたまりで集められたその集団は、5階フロアの中央付近、ちょうど開けた通りにあった。

 犯人グループは四方にそれぞれ1人ずつの4人。いずれも同じ完全装備にアサルトライフルを持っていて、人質は老若男女合わせて……18人か。

 特に拘束のようなものは施されていないが、1ヶ所に集められて座らされている。

 

「5階が本陣で間違いないな。とりあえず今は上の階に行く。レキはもう動いてるか?」

 

『お前が6階を網羅する頃にはスタンバイも終わるだろう。なんだ? 何か算段ができたか?』

 

「いや。ただジャンヌならもうオレを使う作戦を考え始めてるかなってよ」

 

『作戦とは万全を期すものだ。まだ不確定要素の残るうちに算段はしない。それより早く仕事をしろ。お前の動きが全体の動きを左右するのだからな』

 

「了解。この事件終わったらデートくらいしてくれよ?」

 

『資金はそちら持ちでなら考えてやらんでもない』

 

 ひでぇ。なにそのオレ損な条件。ジャンヌとのデートは対価が割に合わないらしい。

 と、気持ちに余裕を作ったところで、気付かれないように6階へと移動したオレは、速やかに行動を終えて全ての情報を揃えたジャンヌの作戦立案タイムをひっそりと息を潜めて待つのだった。

 ……ふざけてる……こんなのあり得ない。

 数十分後、ジャンヌによる作戦を聞いたオレは、明らかに自分の仕事以上の役割に汗がダラダラ。

 

「ジャンヌ、オレは諜報科だぞ。こんなの強襲科の仕事だ」

 

『問題ない。作戦上成功率9割は確実だ。それに暗殺は日本忍者(ジャパニーズ・ニンジャ)の得意技と聞く。頼むぞ』

 

 暗殺とか言うな。オレがそんな技術ばっかり身に付けてるわけないだろ。

 せめて急襲……って、暗殺術なんか始めから使えねぇよバカ!

 もう何を言ってもジャンヌの作戦は実行されるみたいなので、オレは1度深呼吸して頭を切り替えると、作戦開始までに準備を整えていった。

 まずは犯人グループの本陣がある5階に下り、ちょっとした仕掛けを作っておく。

 

「合図はオレから出していいんだよな?」

 

『当然だ。お前の判断が全て私達に連動する。っておい! お前なぜ制服を脱ぐ!?』

 

「ジャンヌが任せるって言ったんだから、オレを信じろよ。あと怪しまれるかもしれないから無線も置いてく」

 

 オレは言いながら小型カメラ付きの防弾制服の上着を脱いで商品棚の奥に隠し、耳に付けていた無線も取り外し準備を完了させた。

 

「レキ、そこから狙撃手4人とも確認できるな?」

 

『問題ありません。合図があればいつでも撃てます』

 

「じゃあ頼む」

 

 ――タンッタンッタンッタンッ!

 オレの合図のすぐあとに、無線からそんな銃声が聞こえてきて、作戦が開始されたことをわかるとすぐに無線を切り犯人グループの動向をうかがう。

 

「何!? 撃たれただと!? さらに警察も中に突入!? 正気か!? ここに人質がいるんだぞ?」

 

「とにかくこれ以上の進行は防がなければならない。ここには2人残って迎撃に出るぞ」

 

 そう言って犯人グループのうち2人がこの場から離れて見回りのグループと合流していき、人質の見張り役が2人になる。

 ジャンヌの予想通り、か。

 人質がいる以上、強行策を取らないと思ってる犯人達は、いざやられた時の適切な対処を即座にできない。

 殺しに簡単に踏み出せない日本じゃなきゃまず不可能な作戦だ。

 前にシャーロックに言われたっけな。日本は『平和な島国』だって。

 そうして手薄になった見張りの穴を潜って、オレはするりと人質の人達に近寄りその中に加わった。

 幸いにも防弾制服を脱げば私服のオレは、別段怪しまれることなく紛れることに成功。暗いのもあるしな。

 さて、いくら向こうが混乱してるからといって、そんな悠長にやっていられない。

 時間が経てばこちらが不利。下手をすれば人質が危ない。

 そうして人質の中に紛れて犯人2人の位置を確認しタイミングを見計らっていると、イレギュラーを発見した。

 人質の中の一番外側、オレと同じように周りを観察する20代半ばの女性がいたのだ。

 あれは警察関係者とか武偵ではない。明らかに人質達の動きを観察してる。

 なるほどな。だから人質の拘束をしていなかったのか。

 よくある手法だ。人質の中にはたまに反抗する人も出てくる。そういったイレギュラーを防ぐために『人質に紛れた監視役』が用意されることがある。

 もしもに備えた予防策であるが、まさかこの場で配置されてるとはな。

 くそっ、あれも処理しないとな。

 こうしてオレは急遽作戦を変更。

 事前に手に持ってきたアラーム付きの腕時計を一瞬だけ鳴らしてみせた。

 当然犯人達も音がした方向を向き、一番近い犯人がオレに近づいてくる。

 そのタイミングで仕掛けていた仕掛けを発動。少し離れた位置でノートパソコンが棚から落ちる。

 そこでまた音に反応した犯人達はそちらを向き視線が外れ、オレはその隙に一番近くにいた犯人の顎を打ち、さらに対角線上の側頭部を即座に打ち脳震盪を引き起こし行動不能にする。

 続けて懐に隠していた銃を取り出そうと身構えた人質に紛れる監視役女性に一気に近付きその腹に1発キツいのを入れて銃を取り上げて遠くに投げ捨てる。

 最後に落としたノートパソコンの位置に行こうとしていた犯人を後ろから急襲。

 後頭部に飛び蹴りを喰らわせて一瞬で意識を奪った。

 この全行動。アラームを鳴らしてから約10秒。我ながらよくやったよ。

 犯人達が完全に沈黙したのを確認したオレは、人質を全員屋上に行くように指示して、防弾制服と無線を回収。

 ついでに犯人が持っていたアサルトライフルを手に屋上へと上がった。

 屋上には腕を撃たれた狙撃手4人が、レキの狙撃から逃れるために死角に退避していて、その4人を持っていたアサルトライフルで牽制しながら人質を守る。

 まぁ、オレはこんな銃撃てないが、レキがいるしなんとかなるだろう。

 それから少しして、下の階で犯人達が全員捕まったと報告があり、屋上にいた狙撃手達もほどなくして逮捕された。

 事件が解決され、神経をすり減らしてヘトヘトになりながらもジャンヌ達と合流したオレは、ニヤニヤする綴と蘭豹を発見。うっわ、嫌な予感。

 

「おお猿飛ぃ。お前ついに公に名前が出る仕事したな。これでEランク評価も返上だなぁ」

 

「なんやおどれ、こない実力あんなら始めから示さんかい。まぁ今回の件でおどれを反面教師呼ぶ奴もおらんなるやろな」

 

「……これ、ニュースでは『警察の活躍』ってことで処理してくれるか、ジャンヌ」

 

「始めからそのつもりだ。すでに報道関係には手が回っている。この件でお前の名前が世間に知られることはない」

 

「ありがとな、ジャンヌ」

 

「なんや勿体ないなぁ。堂々名乗っとればヒーローになれる言うのに」

 

「蘭豹先生、オレは諜報科です。矢面に名が知られるのは避けたいんですよ。あと目立つのは苦手なんで」

 

「まっ、お前はそういうやつだよなぁ。だが今回の働きはそれ相応に評価する。吉報を待つんだな」

 

 それ凄く嫌なんだけど。

 それ相応に評価ってことは、ほぼ確実に武偵ランクに関わることだろうし、最悪だ。

 

「ジャンヌ、中空知は通信科にいるのか? 会ってお礼くらいしたいんだが」

 

「ああ、それはやめておけ。中空知は少々性格に難がある。礼なら私から言っておくから気にするな。だがなんだかんだでキッチリ仕事をこなす辺りは流石だな。聞けば人質の中に犯人が紛れていたとか」

 

「ギリギリ処理範囲内だっただけだ。もう頼まれてもあんな強襲しないぞ。オレを使うなら専門の範囲に収めろ」

 

「それは約束できんな。私は少々お前を使うのが好きになった。これからもよろしく頼むぞ」

 

 そう言ってジャンヌはふっ、と少しだけ笑って見せてから貴希の車へと先に乗ってしまった。

 どうやらオレはジャンヌの手駒その1に認定されたらしい。

 それはそれでジャンヌに認められたと思えて嬉しいのだが、扱いに不満がある。

 せいぜいこれからは都合の良い駒にならないように気を付けよう。

 そしてこの事件はオレやジャンヌ達の名前が一切出ることなく『武偵高の生徒の活躍で解決』と報道され、騒ぎ立てられることもなかった。

 その翌日、オレは教務科に呼び出されて足を運び、諜報科の教諭、チャン・ウーの席の前に来たのだが、あの人の姿見たことないし今もこの場にいないのに声だけするしでぶっちゃけ苦手だ。

 そのチャン・ウーの言葉に従って机の引き出しを開けて中から1枚の書類を取り出す。

 

『猿飛京夜

此度の件は高評価に値する活躍を見せた貴殿を武偵ランクAに引き上げとする。

なお、今後Sランクの定員枠が空いた場合のくりあがりで優先される武偵としても扱う』

 

 この記述の下にその場合の試験内容がズラっと書かれてたが、要約するとSランク相当のAランク武偵から考査し選出するってだけ。

 まさかのSランクへの格上げの可能性に一気に血の気が引く。

 当然この情報は音速で学園島を駆け巡り、明日には全校生徒が知ることとなるだろう。

 なんとかSランク措置だけでも取り消してもらおうとチャン・ウーに抗議しようとしたが、すでに気配がない。死ねやあの野郎!

 仕方ないと諦めるわけにもいかなかったオレは、以前からオレに目を付けていた綴に藁にもすがる思いで頼むと、凄く面倒臭そうにしながらも、先の魔剣の件もあるからと渋々了承してくれて、なんとか優先権を取り除きAランクに留まったのだった。

 第一、オレがSランクになったらアリアやレキ他、世界中にいるSランク武偵に失礼だしな。

 それでもやはり騒がれないことはないだろうから、新学期が始まったら面倒臭そうだ。

 まぁ、こんな悩みも意味がなくなるかもしれないんだがな……

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