緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet35

 9月12日。

 修学旅行Ⅰを明後日に控えた今日この日の夜。

 オレの部屋には珍しく大勢の客が舞い込んできていた。

 来客者はお騒ぎ要員の理子。愚痴要員のジャンヌ。タダ飯の風魔と夾竹桃。バカの武藤。鍋奉行の白雪。兄貴の引率の貴希。優男不知火。マスコットのあやや。

 一見しただけではなんの集まりかさっぱりわからないメンバーだが、リビングにドカッと置かれた大きめの丸テーブル2つに、そのテーブル中央に鎮座する鍋でそれが夕食会なのだと無理矢理にわからされる。

 そしてこの鍋パーティー、何故行われることになったかと言うと、明後日で幸姉が修学旅行Ⅰの折にオレと一緒に京都に帰るため、小鳥がせっかくだからパアッとやろうと言い出したのがことの始まり。

 それで実際集めてみればまぁ集まる集まる。

 一応こっちで幸姉と関わった人達に限定して声をかけたのだが、この集まり方はちょっと予想外。

 これも幸姉の人柄と人望が為せる技なのかと納得させつつ、2つの鍋を囲む理子達を見ながらキッチンで具材の下準備を進めていたオレは、鍋奉行に抜擢された小鳥と白雪――まともに出来る人が他にいなかった――に準備した具材を渡しつつ、目を離した隙に席決めで乱闘しかけてるバカどもを止めにリビングに殴り込みに入った。

 それからどうにか6人ずつで鍋を囲んで分かれたオレ達は、グツグツと煮えてきた鍋を確認してから今回の主役である幸姉の音頭で乾杯して鍋をつつき始めた。

 

「でも残念だわ。これで私のアシが1人減るのね……」

 

 鍋パーティーが始まって数分。

 小鳥が盛った小皿の肉を食べながらそう呟いたのは、日本人形みたいな黒髪長髪の少女、夾竹桃。

 彼女は理子やジャンヌと同期のイ・ウーメンバーで毒使いの毒マニア。

 今も左手には白い手袋をはめていて、理子が言うにはその下の爪には毒が仕込まれているらしい。

 

「桃子、人手が欲しいならこの私に描かせろ。いつでも力を貸そうではないか」

 

「ジャンヌ、あなたはワク線とベタ塗りだけにしときなさい。背景とかは理子が上手いんだから」

 

「えー! 理子りんアシには積極的じゃなーい!」

 

「待て真田幸音! その言い分だと私の絵が理子に劣っているようではないか!」

 

「人には得手不得手っていうのがあるのよ。ジャンヌは上手いじゃない。ワク線とベタ塗り」

 

「そんなことを褒められても嬉しくないぞ」

 

「困ったわ。せっかく新作を閃いて冬に合わせて絵にしてる最中だったのに、幸音の抜ける穴は大きいのよ」

 

「……身内話すぎて入れん……」

 

 イ・ウーメンバーとオレと小鳥で囲んでいたテーブルは、早速の身内話を始めたため、オレと小鳥はポカーン。

 おそらく夾竹桃の描く漫画の話なのだが、イ・ウーまるで関係ない。

 あなた達はイ・ウーで漫画とアシスタントの能力を研鑽してたのですか?

 

「そうだ夾ちゃん! キョーやんが絵上手いからゆきゆきの穴埋めにはキョーやんを推薦しよう!」

 

「待て。オレは漫画なんて手伝わないぞ」

 

「漫画なんて? あなたいい度胸ね。一辺お花畑でも見てみる?」

 

 話に入れないでいたオレを見て理子がアシスタント候補に挙げてきたのですかさず拒否すると、そんなオレの言葉が気に食わなかったのか、夾竹桃が箸を置いてその左の手袋を取り払おうとする。やめてくださいごめんなさい。

 というか夾ちゃんとキョーやんはややこしい。

 

「ほらほら今日はドンパチ禁止。やるなら明日にしなさい。それより煮すぎると肉が固くなるわよ。ってことで理子が育ててたお肉いただき!」

 

「ああーー! 理子りんの秘蔵っ子ー! ゆきゆきのバカー! キョーやーん、ゆきゆきが理子りんをいじめるー!」

 

「今日の主役は幸姉なんだし多少のことは我慢しろよ。ほら、オレの肉やるから」

 

 手が出そうになった夾竹桃をやんわり制しながら鍋から理子の秘蔵っ子を掠め取った幸姉。

 それで理子が泣きついてくるが、オレが肉をあげるとすぐに機嫌を直してもぐもぐ食べるのを再開する。子供かよ……

 

「そいえばジャンヌは明後日キョーやんと一緒に京都観光するんだよね?」

 

「そうだ。別に含むところはないぞ。単純に地元民に案内してもらおうというだけだ」

 

「ずるいずるいー! 理子もキョーやんと一緒に京都観光したいー!」

 

「別にオレは理子が一緒でもいいぞ? それとも何か別件か?」

 

「明後日は呉に行くんだよ」

 

 駄々をこねる理子に変わって答えたのは、隣の鍋をつついていた武藤。

 武藤が知ってるってことは、武藤も行くのか。

 

「呉ってどこだっけ?」

 

「広島ー。アリアに付き合わされるのー」

 

「ふーん。武藤はもうチームメンバーが決まってるんだよな?」

 

「おうよ! ここにいる平賀も入れた兵站系のチームだ! だから修学旅行Ⅰも特に気にしなくていいってわけ」

 

「不知火はどうなんだ?」

 

「僕は強襲科の何人かで強襲系のチームをね。猿飛君はやっぱり峰さんと?」

 

「あ、いや……それはまだ……」

 

 武偵チームの話を返されて返答に困るオレ。

 そんなオレを見て名前を挙げられた理子もメンバー候補のジャンヌも何も言わない。

 おそらくオレの『決断』がなければこの話は先に進まないからだ。

 猶予はあと3日。オレの心はまだ決まらないでいた。

 

「まぁ、猿飛君は最近のあれの件で人気急上昇中だしね。色んなところから勧誘されてるのかな」

 

 歯切れの悪いオレを見た不知火は空気を読んでそんな解釈をして話を終わらせてくれた。

 メンバー勧誘も事実ではあるが全て断ってるのが現状。どんどん追い詰められてるな、オレ。

 それからまた他愛ない会話で鍋をつつきながら幸姉のお別れ鍋パーティーは終了したのだった。

 9月14日の早朝。

 オレと幸姉は小鳥に見送られて新幹線に乗るために品川駅に行き、そこでジャンヌと合流。

 少しでも多くの場所を回りたいというジャンヌの要望のために、9時には京都に着く新幹線に乗り込んでいったのだった。

 ちなみに今回は煌牙はお留守番。美麗だけ連れていくことにしたのだが、別れ際の煌牙の遠吠えが切なかった。

 修学旅行。とは名ばかりで、その本来の目的は2年時の9月に国際武偵連盟(IADA)に登録する武偵チームを編成するための最終調整期間で、このチームは将来ずっと協力関係であり続けることが出来る。

 だから今回教務科から渡された旅のしおりには

 

『場所 京阪神(現地集合・現地解散)

1日目 京都にて社寺見学(最低3ヶ所見学し、後ほどレポート提出の事)

2日目・3日目 自由行動(大阪か神戸の都市部を見学しておく事)』

 

 これしか書かれていない。引率など当然いない。確保された宿すらない。放任主義の無責任である。

 だからと言って蘭豹や綴が引率について京都を回るなんて死んでも御免だ。見学どころじゃない。

 そんな背景があるわけでジャンヌのように『真面目』に見学をするような生徒の方が珍しい。

 大半の生徒はテキトーに回ってあとは自由に行動する。

 

「猿飛、私としては清水寺は外せないと思うのだが、案内してくれるんだろうな?」

 

「メジャーな場所はあえて避けようとしてたんだが」

 

「京夜、意地悪言わない。ちゃんと行ってあげなさい」

 

 出発して数分。

 座席に着いたジャンヌは、案内役をオレにしてあとをお任せにしていたために気になって話しかけてきたので、冗談混じりに答えたのだが、幸姉にさらっと注意されてしまった。

 それから京都に着くまでそわそわしっぱなしのジャンヌの問答にずっと答え続けて時間を過ごしたオレと幸姉。

 着くまで足元にいる美麗同様に寝ようと思ってたのに、なんと生き生きとしたジャンヌさんでしょうか。

 昨夜もちゃんと寝たのか心配になるくらいだ。

 そんな感じでハイテンションなジャンヌさんのおかげで一睡もできないまま京都駅に降り立ったオレは、まだ9時を少し回ったくらいの時間を確認して、久しぶりの故郷の空気を深く吸い込んだ。

 周りからは聞き慣れたイントネーションの大阪弁や京都弁も聞こえ、改めて帰ってきたことを実感した。

 

「……なんか落ち着く」

 

「ホームだからだろう?」

 

「私も和むわー。東京って生き急いだ人が多かったからねぇ」

 

「それで幸姉はすぐに家に戻るんだろ? 送った方がいいよな」

 

「ああいいよいいよ。子供じゃないんだし1人で帰れるから。京夜はしっかりジャンヌを案内してあげて」

 

 故郷を懐かしむのもほどほどにして、すぐに幸姉にそう言ったのだが、幸姉はそれを断って改めて荷物を持ち直し駅の出口へと体を向けて歩き出そうとした。瞬間にその足が止まった。

 何事かとオレは幸姉が見つめる駅の出入り口に目を向けると、そこには幸姉と同じようにピタリと動きの止まった女性がいて、ジーンズにジャケットと仕事に向かうような格好ではなかったが、そのショートヘアのジャンヌより暗い銀髪と表情の読めない線目には見覚えがあった。

 

「「…………あっ」」

 

 そして幸姉とその女性は同時に声を出し我に返ると、銀髪の女性は持っていたバッグから携帯を取り出して誰かに電話を繋いだ。

 

「ああ早紀(さき)はん? 今からみんな拾って京都駅来てな。待つんは嫌やから10分以内で頼んます。ほな」

 

 女性はそんな一方的な電話をしてから携帯をしまって、その表情の読めない線目でニコニコしながらオレ達に近付いてきて、幸姉の前まで来ると、ガチャン! いきなり手錠をはめて自分の手と繋いでしまった。

 

「はい、『迷子』の幸音はん確保や」

 

「え……あの……ま、眞弓?」

 

「あ、京夜はんお久しぶりどす。しばらく見んうちに大きなりはりましたなぁ。早紀はんより大きなりはったん?」

 

「た、たぶんそうですね。眞弓さんはまたお綺麗になられて……」

 

「いややわ京夜はん。褒めても何も出まへんえ? そちらの外人さんは彼女どすか? あら、狼まで連れてはりますやん」

 

「ちょっと、眞弓さーん」

 

「気ぃつけなあきまへんえ? 今みんな呼んださかい、京夜はんに彼女おるゆうのがわかったら、愛菜(あいな)はんが暴れ出すかもしれへんからなぁ」

 

「ちょっと待て! 私は猿飛の彼女では断じてない!」

 

「ムキになって否定するんも怪しいどすえ? 京夜はんも男になってしもて、お姉さん嬉しいやら寂しいやら……」

 

「まーゆーみー!!」

 

「彼女はんお名前は? 人の名前覚えるんは苦手やけど、京夜はんの彼女はんなら大丈夫やろし」

 

「彼女ではないが、ジャンヌだ。ところでお前は誰だ?」

 

「申し遅れました。ウチは薬師寺(やくしじ)眞弓いいます。よろしゅう」

 

 そこでオレと幸姉の級友、眞弓さんは懐から扇子を取り出して広げ自己紹介。

 喋って疲れたのかそのままパタパタと扇子で扇ぎ始めた。

 

「眞弓ぃ、無視しないでぇ」

 

 そこで今まで無視され続けた幸姉が泣きそうな顔で眞弓さんに懇願。手錠で繋がった手を必死に揺すっていた。

 幸姉をあんな状態に出来るのは眞弓さんくらいだろうな。

 

「なんや? ウチらになんも言わんと勝手にいななった人が泣いとりますなぁ」

 

「根に持たないでよぉ。事情が……事情があったのぉ。許してよもう……」

 

「許す? ウチは何も怒っとりませんよって。ただ……」

 

 やっと幸姉と会話をした眞弓さんは、表情こそ柔らかいが、やはり幸姉が言う通り怒っていて、それをやんわり否定しつつ途中で言葉を切り、何か察したのか駅の出入り口に顔を向けた。

 

「マユも急やわ。いきなり全員集めて駅に来いとか何の罰ゲームや」

 

「それで間に合わせとるさっちんはなにもんやねん」

 

「まぁ、私も千雨(ちさめ)(みやび)も家におったし、運が良かったっちゅうことやね」

 

「そんで何で京都駅なん? 足なら早紀がおるし、移動に困るようなことないやん……か」

 

 そんな会話をしながら駅の出入り口からやって来たのは、横並びの4人の女性。

 4人は話しながら駅の中に入りオレ達を発見すると、さっきの眞弓さんみたいにピタリと動きが止まった。

 うわぁ、ガン見されてる。

 

「ジャンヌ、オレから離れとけ。美麗もバック」

 

「なんだ猿飛。何が起きる?」

 

 そんなジャンヌの問いかけには、すぐ答えが出ることになった。

 

「京ちゃあぁぁぁぁあん!!」

 

 4人の女性のうち、金髪ショートの緩いウェーブの女性が、オレ目掛けて突撃してきた。これデジャヴ……

 ダイブしてきた女性を抱き止めはしたが、勢いまでは殺せずに後ろへ倒れてしまったが、怪我はしない転び方をしたから問題ない。

 

「どうもです……愛菜さん」

 

「ああーん! 京ちゃん京ちゃん京ちゃん京ちゃーん!」

 

「おおー! 早紀見てみぃや! なんやごっついワンコおんで!」

 

「ワンコやなくて狼や思うで」

 

「おやおや? よう見たらねっちんもおるなぁ」

 

「もう私の味方は雅だけよぉ!」

 

 抱きついてきた愛菜・マッケンジーさんは、オレに頬擦りをしながら悦に浸って、美麗を見つけた黒髪ショートボブの沖田(おきた)千雨さんは水色の髪の長身ポニーテールの進藤(しんどう)早紀さんと警戒心なく近付きじゃれ始め、アリアに負けないくらいの身長のオレンジの3つ編みをした宮下(みやした)雅さんは、唯一泣きそうな幸姉に話しかけていた。

 というか皆さん相変わらずの自由人っぷり。

 ――パァン!

 ワイワイし出した一同の耳にそんな乾いた音が届き、それを聞いた愛菜さん達は一斉に動きを止めた。

 

「皆さん再会が嬉しいんはわかりますけど、まずは公共の場や言うことを忘れたらあきまへんえ?」

 

 その音を鳴らした眞弓さんは、音の根源であろう閉じた扇子を持ってニッコリ笑顔。

 しかし扇子をペシペシ手で遊ばせている様で長年の付き合いのオレ達には怒る1歩手前なのがわかってしまった。

 とりあえず眞弓さんが怒ると大変なので、みんな大人しく言うことを聞き落ち着く。

 

「えっと、ジャンヌには改めて紹介するな。この人達は……」

 

「いや、不要だ。さっきは誰だと尋ねたが、この顔ぶれが揃えば私もさすがにわかる。薬師寺眞弓、宮下雅、進藤早紀、沖田千雨、愛菜・マッケンジー。京都市内を拠点に関西で活躍する武偵チーム『月華美迅』とまさか直接会う日が来るとは思わなかった」

 

「説明不要か。皆さん有名になりましたね」

 

「最近は武偵のイメージアップのためとかで色んなことやらされとりましてなぁ。肩が凝ってしゃーないんどす」

 

「今テレビ点けたらあたしらが出とるCM流れんで。関西地区限定やけどな」

 

「何やってんですか皆さん……」

 

「眞弓の営業スマイルとか怖すぎて見たくな……ひぃ!」

 

 一言多い幸姉にニッコリ笑顔を向けた眞弓さん。

 幸姉は全力で逃げようとするけど、まだ手錠繋がってるしな。

 しかしCMに出てるとか、本当に何やってるんだろう。

 

「それより京ちゃーん。そこの眞弓とキャラ被りな子は誰なん? ジャンヌ言うたけど、まさか京ちゃんの……あかんよ! 京ちゃん彼女さんできたらお姉ちゃんに真っ先に報告せぇ言うたやん!」

 

「おお! 久々お姉さんモードの愛菜や。拝んどこ」

 

「まっちゃんのご利益ありがたやー」

 

「いや、拝んでもなんもご利益あらへんって」

 

「みんなちょう黙っとって! ジャンヌちゃん! 京ちゃんとお付き合いしたくば、私を倒してからにしや!」

 

 千雨さんと雅さんがボケて早紀さんがやんわりツッコむのを流して、愛菜さんはジャンヌを指差してそう言い放ってから、腿を堂々とさらけ出すショートパンツのせいで丸見えとなっている2丁の銃――FN ブローニング・ハイパワー――をホルスターから抜き放ちその銃口を向けた。

 ――スッパァン!

 その瞬間、愛菜さんの頭に眞弓さんの扇子が鉄槌の如く振り下ろされ、首が縮むのではというダメージを受けた愛菜さんはその場でしゃがんで頭を押さえた。

 それもそうだろう。眞弓さんの扇子は骨部分が鋼鉄製。扇面もTNK繊維で織り込まれてる特別仕様だ。

 そんなもので頭をどつかれたら痛いのも当然。

 

「早とちりはあきまへん。そこにおるジャンヌはんは京夜はんのお友達やそうや。銃口を向けるならこっちの『迷子』や思います」

 

「ちょっ!? 眞弓、何で私……」

 

「いったいわー。でも確かに幸音には1発入れたらなと思っとったんや。あんたのせいで京ちゃん廃人になるところやったんやからね」

 

「あー、愛菜さん。その件は幸姉も予想外だったらしいんで、許してやってください。皆さんも幸姉を責めないでください」

 

「ホンマ京ちゃん優しすぎやわ。幸音は京ちゃんに感謝しや? あと、おかえりなさい、やね」

 

「愛菜……」

 

 オレに免じて銃をしまってくれた愛菜さんは、それで過去の件を流して改めて幸姉にそう言うと、幸姉もその瞳を潤ませて愛菜さんを見つめた。

 

「すまん猿飛。感動の再会はいいのだが、いい加減に駅から出ないか? これでは早くに来た意味がなくなる」

 

「…………あっ」

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