「それじゃあ夕方くらいには私の家に来てね。その時に今までのことをざっくり話すから」
1年半ぶりに会って早々に眞弓さんに手錠をかけられた幸姉は、ようやく解放してくれたことに安堵しつつ、本来の目的を遂行するために今度こそ家へと帰っていき、オレ達全員を家に来るようにとも言い残していった。
「ほな、早速京都観光と行きましょか?」
「え、あの、眞弓さん依頼とかはないんですか?」
「雅、今日は『例のイベント』のお仕事だけや思いますけど?」
「そやねー。あとは武偵庁から横槍があるかどうかくらいや」
幸姉が帰っていったあと、何故か自然にオレ達についてくるような素振りの眞弓さん達。
仕事があるかと思いきや、今日はほとんどないらしい。偶然なのか?
「早紀はん、車はちゃんと7人と1匹乗れますやろね? もし乗れんのやったら、愛菜はんから降りてもらいますえ」
「何で私やねん! イヤや! 私は京ちゃんの隣キープやから、千雨先に降りや。千雨はチャリ漕ぐんめっちゃ速いやん」
「いくらあたしでも車には勝てんて! それにそない頑張ったら汗だくなってまうやろ!」
「アイもチィも落ち着きや。ちゃんと全員乗れるって」
「ジャンヌはんもバスやタクシー使うより安上がりやろ? ウチら土地勘もあって効率エエどすえ?」
「うむ、ではお言葉に甘えさせてもらおう。行くぞ猿飛。時間が惜しい」
…………なんかそういう方向で決まってしまい、即断即決の眞弓さんは早速運転手兼ルートアドバイザーの早紀さんと情報通の雅さんとタイムスケジュールを組みながら駅を出て停めてあった8人乗りの黒のワゴン車に乗り込んで、それに続く形でオレ達も車へと乗り込んでいった。
「ウチら3時頃にイベントあるさかい、寄り道しますけど付きおうてもらいますえ?」
「イベントって何なんです?」
「それは見てのお楽しみや、京ちゃん」
ミーティングで決まった最初の目的地、東福寺を目指す最中。
眞弓さんは扇子を扇ぎながらこれからの予定をざっくり話し、イベントが気になったオレに隣で腕に抱き付く愛菜さんが焦らすようにそう答えた。
「猿飛、お前は愛菜・マッケンジーにずいぶん好かれているようだが、そういった距離感は普通なのか?」
「愛菜は京ちゃんをホンマの弟みたいに思っとるんよ。京ちゃんも京ちゃんで冷たくつき離さんからこれが当たり前になっとるけどな」
「あんまりくっついとるから昔はまっちゃん信者が京くん暗殺未遂にまで及んだゆうバカ騒ぎもあったくらいや」
後部前席に座るオレと愛菜さんを見て、後部後席に美麗と雅さんと座るジャンヌがそんな問いかけをすると、愛菜さんとは反対の隣の千雨さんと雅さんが苦笑混じりにそう答えて昔を思い出す。
あれは停学処分になった人達が多すぎて京都武偵高の黒歴史として葬られたのに、掘り返さないでください。
これ以上何か聞かれると、また何が出てくるかわからないから、ジャンヌにはオレから追々聞きたいことに答える形で黙ってもらった。
笑いながら語るにはあまりにも黒歴史が多すぎて無理があるからな。
それからすぐに最初の目的地、東福寺へと辿り着き、眞弓さんとジャンヌを先頭にずかずか歩き始める。
「東福寺は京都五山の第4位に指定されとって、国宝の三門を始め、重要文化財の開山堂、禅堂、
「ちょっと待ってくれ薬師寺眞弓。あまりにさらりと話しすぎて頭に入ってこない。もっと景観を吟味しながらだな……」
「そないな時間ありまへんえ。今雅が色々写真に収めとりますから、移動中に補完したります。このあとまだ6ヶ所回るさかい、立ち止まるんも無しや」
歩きながら隣のジャンヌにすらすら説明をしていく眞弓さんだったが、その間も一切立ち止まることなく敷地内をざっと歩いて、雅さんがデジカメ片手にどんどん写真に収めていく。
これ、観光って言えるのだろうか。
「早紀さん、このあとどこに行くんですか?」
「次は北上して三十三間堂、清水寺、銀閣寺、詩仙堂。そんで私らのイベント挟んでちょう遅いお昼休憩。それから金閣寺と龍安寺で終いや。ホンマは嵐山近辺も行きたいんやけど、時間ゆうんは残酷やねぇ」
「最低3ヶ所見学でいいのに、一気に過密スケジュールに……」
「ジャンヌちゃんは眞弓と雅と早紀に任せて、私らはラブラブやっとればエエんよ」
「愛菜はそれでエエかもしれんけど、あたしはどないせ言うねん。このワンコとじゃれとればエエんか?」
なんという弾丸ツアーと思いつつ、完全にお役御免になったオレは、隣で緩みきった顔のまま左腕に抱き付く愛菜さんと、すっかりあぶれてしまい美麗と仲良くなった千雨さん、ドライバー早紀さんと他愛ないことを話しながら眞弓さん達のあとをついていった。
その途中、見学に来ていた小学生が、愛菜さん達を見て「ブルーや!」「ブラックもおる!」「イエローもや! かっこエエ!」などと騒ぎ出して、愛菜さん達もフリフリ手を振ってそれに答えていたが、なんのことだかさっぱりだった。
「三十三間堂は正式名を蓮華王院本堂言うて、『通し矢』で有名な場所どす。本堂の軒下は120メートル言うんが一般的やけど、実際は121メートル相当あります。そない違いもあらへんから問題あらへんけど、今でも弓を習った新成人が弓を射る慣習や大々的な弓道大会があります。ちなみにウチらも今年新成人やから、早紀はんが弓を射ます」
「何!? 今年で成人なのか!? 薬師寺眞弓はとっくに成人してると思って……」
――スパァン!
三十三間堂に場所を移して早速説明を始めた眞弓さんに対して、ジャンヌが失礼極まりないことを叫ぶと、すかさず眞弓さんの『鉄扇制裁』が頭に振り下ろされていた。南無三。
「眞弓はあたしらの中では一番大人っぽく見えるさかい、ジャンヌの驚きも納得……ギャア!」
「聞こえとりますえ千雨はん? 嫌どすなぁ、自分が子供っぽくて年齢相応に見られへんのをひがんでウチに矛先向けるんやから」
ジャンヌの様を見て千雨さんがボソリと呟くと、地獄耳の眞弓さんはくるりと顔を千雨さんに向けてニッコリ笑顔。やはり心が笑ってない。
「まぁ千雨は女性としてのパーツにメリハリないからひがむ気持ちはわからんでもないわ。気合い結びもガキっぽいってやめとるんよ」
「おう愛菜! 喧嘩売っとんのやったら買うたるで! ここは傷モンにしたらあかんモンばっかやから、愛菜が圧倒的不利やけどな!」
眞弓さんに乗っかる形で愛菜さんがそう言うと、スレンダーすぎることを気にしてる千雨さんが、その腰に携えたふた振りの日本刀に手をかけて構える。
しかし挑発した愛菜さんは、全く取り合わずにオレの腕を引いてさっさと先に行こうとした。
そういえば千雨さん、前髪をひとまとめに結ぶ自称『気合い結び』をしてないなと思ったら、そんな事情があったのか。
「ダメやで千雨ー。私らは治安維持貢献しとるから武装許されたままここに入れてんねんで? 私情でポンポン刀抜いたらあかんよ」
「そやでチィ。それにチィより年齢不相応な体しとるんがあそこにおるやろ」
京都の寺社などには重要なものが多いため、基本的に銃器や刀剣類は入り口の受付でシャットアウトされてしまう。
現にジャンヌは装備していた銃――ツァスタバ・Cz100――とデュランダルを受付に一時的に預けている。オレも例に漏れずにクナイや手裏剣を預けている。
しかし月華美迅の5人は、そんな決まりを無視するように武装したまま入れている。
そこで彼女達が『凄い人達』なのだと再認識させられる。普段がこれだからな。
そういった正論を愛菜さんと早紀さんに言われた千雨さんは、ぐぐぅと唸りつつも刀から手を離して、せっせとデジカメで写真を撮る雅さんを見やりホッと息を吐いた。
雅さん、見た目は小学生と遜色ないからな……中身はとんでもないけど。
それから流れるように清水寺へと場所を移したオレ達は、さっさと移動してあっという間に有名な本堂『清水の舞台』へとやってきてそのせり出した縁に立った。
「まぁ、ここが京都で最も有名な場所や言うてもエエさかい、今更説明も何もないやろうから、ちょっと趣向を変えましょか。諺にもある『清水の舞台から飛び降りる』つもり言うんは、ここから飛び降りるくらいの気持ちで思い切って行動する言うもんどすけど、実際にここから飛び降りたんが過去に234件あった言う話どす。高さ的には危ないんやけど、生存率が8割以上言うんは不幸中の幸いどす」
「よし、では飛び降りろ猿飛」
「ふざけるな! 生存率8割って言っても、怪我しないわけじゃないだろ!」
「なに、私はお前ならば怪我ひとつせずに着地すると信じているぞ」
そんな冗談なのか判断しにくいことを言うジャンヌは、柵に寄りかかって下を覗きながら笑顔を向けてくる。
期待されても飛ばないっての。確かに昔飛んだ……というか落とされたことはあるがな。眞弓さんに。
そんな過去があるからなのか、話をした当人の眞弓さんは、愛菜さんや千雨さんと一緒に、オレ達と同じく社寺見学に来ていた武偵高生徒に声をかけられてそちらに対応していた。
やっぱり有名人だな。サインなんてねだられてる。
その後眞弓さん達と一緒に行動してたオレ達が言及されそうになったが、面倒臭いのでテキトーにあしらってさっさと移動し次の目的地である銀閣寺へ。
ちなみにこの移動の時点ですでに昼の12時を回っていたが、気にしないでおこう。
「銀閣寺ぃ! 正式には
到着して早々、役割を交代してデジカメを持つ眞弓さんと説明を始める雅さん。
しかし雅さんの手には開かれたままの携帯が。
たぶんいま調べたことを我がもの顔で言っているのだろう。雅さんらしい。
だがここにも武偵高の生徒がちらほらいて、眞弓さん達を見つけては握手やら何やらを求めてくる。
愛菜さんなんかはオレと一時的にではあるが離れることになるから少し不機嫌そうにしていたが、そこは長い付き合いだからわかる心境であるため表情には出ていない。
オレもオレでまた言及されることになり、京都武偵高で一時期インターンでいたからと嘘を言って誤魔化していた。
実際は同級生だったが、それを話すとまた面倒なことになるから黙っておく。
「それにしても東京もんはミーハーが多すぎます。おんなじ武偵なんやから、そない騒がんでもよろしやろ」
「ホンマや。やっとることも大差ないんやから、知名度聞いて寄ってくるんはちょう迷惑やわ」
武偵高生徒をあらかた処理してから近寄ってきた眞弓さんは、肩を叩きながらにポツリと呟き、早紀さんも便乗する。
思ったことを口にするのはこの人達の良いところであり悪いところだろうな。
「あかーん。京ちゃんと全然ラブラブ出来んでストレス溜まるわぁ。幸音ん家行ったら膝枕くらいのご褒美もらわな死んでまう」
「大袈裟やで愛菜。京ちゃんはちゃんと断りぃよ?」
「さすがに膝枕をする勇気はありませんって」
「昔は2人で一緒に寝たりしたことあるやんか……」
「それは愛菜さんが……とにかく膝枕はしないです。幸姉から真面目な話もあるでしょうし、オレも家に顔出さないといけないですし」
また一般公開できない話をしそうになったので、続けるわけにはいかないと言葉を飲み込んで終わらせると、愛菜さんはショボくれてしまったが気にしたらダメだ。
あれは愛菜さんの罠。手を差し出せば際限なく甘えてくる。
それは色々と困る。嫌ではないが困る。
そうして続く詩仙堂丈山寺も見学し終えて、いよいよ眞弓さん達が言っていたイベントなるものにお昼休憩も兼ねて付き合うこととなった。
それでやって来たのは、北大路にある文化会館。
イベントまで準備があるとのことで、その間に文化会館があるキタオオジタウンのファミレスで昼食を済ませていたオレとジャンヌは、注文した料理に手をつけながら話をしていた。
「今だから話してやる」
「何をだよ」
「私はイ・ウーにいた頃、どうしても手が出せなかった……いや、出そうと思えなかった場所があった。それが京都武偵高だ」
手が……ということはおそらくジャンヌが超偵専門の誘拐犯『魔剣』として活動していた頃のことだろう。
「当時は京都武偵高にイ・ウーの目に止まる超偵がいなかったから私も見て見ぬふりをしたが、まさか当時密かに恐れていた月華美迅があんな能天気な集団だとは思わなかった。正直拍子抜けだ」
「そりゃ『いつもの』眞弓さん達を見ればそう思うかもな」
「うむ、しかし実績はどうだ。調べれば任務達成率はほぼ100%。ここ2年の京都市内での犯罪率は5割減。その貢献者達があれだというのだから我が目を疑う」
「昔からスイッチのオンオフがハッキリしてる人達なんだよ。特に眞弓さんは文字通り『人が変わる』しな」
「……何か事件が起きないものか。そうすれば彼女達の実力を垣間見れるかもしれん」
「冗談でもやめてくれ。眞弓さんは使える駒は全部使う主義だから、オレもジャンヌも顎で使われるぞ」
「だが薬師寺眞弓は『
「そこら辺は月華美迅が他の武偵チームとは違うっていう証明になるのかもな」
まだ月華美迅の実力が計れていないジャンヌは、それでふむふむと思考していたが、それで何かわかるわけでもないため、すぐにやめて料理に手を伸ばしていった。
そして眞弓さん達に言われた時間に文化会館のコンサートホールに足を踏み入れたオレとジャンヌは、そこにいた小学生とそれ以下の育児の親子集団に呆然。席はほとんど埋まってしまっていた。
仕方なくホール後ろで立つことにしたオレ達は、ホール出入り口に立て掛けてあった『武偵戦隊マモルンジャー・ヒーローショー』なるものに冷や汗を流しつつそれが始まるのを待った。
「京都の平和を守るため!」
「京都の人を守るため!」
「武偵の国からやって来た!」
「愛と正義の使者!」
「武偵戦隊!」
「「「「「マモルンジャー! 見参!!」」」」」
そんな掛け声で登場したのは、いかにも戦隊モノといった赤、青、黒、黄、桃。5色のコスチュームをした眞弓さん達。
各々が決めポーズをする眞弓さん達の首にはそれぞれの色のなびくくらい長いマフラー。顔はオープンでマスクは被ってないから、どれが誰かはすぐにわかった。
そしてその手にはそれぞれの武偵活動での武装が。
「……おい猿飛。本当にあれが関西で最高レベルの武偵チーム、月華美迅なんだな?」
さすがのジャンヌもあの様を見て本気で疑いたくなったようだ。
オレも初めて見る眞弓さん達の姿に言葉を失ってしまった。
しかしそんな眞弓さん達の登場に子供達はおおはしゃぎ。ホール全体が揺れるほどの歓声が沸く。
それでオレはここに来る前の小学生や園児達の眞弓さん達に対する「イエローや!」「ブルーもおる!」などの声の正体がわかった。
そのあと、ずいぶんと手慣れた演技でヒーローショーをこなす眞弓さん達は、悪役を倒したあとにホールを歩いて子供達と握手をしたり写真を撮ったりと大忙し。
その間オレとジャンヌはホール後ろで呆然と立ち尽くしていたが、1度だけ近寄ってきた眞弓さんにヒーローショーが終わったら控え室に来るように言われて我に帰り、その言葉通りに客がみんないなくなってから、ホール脇の扉を潜り裏の控え室へと足を運んだ。
「ビックリしましたやろ? 京夜はん昔からネット使て調べたりせぇへんから絶対知らん思て黙ってたんどす」
「京ちゃん京ちゃん! 私の演技どやった? いつもよりかわエエ感じでやったんやけど」
「とりあえずオレを男として扱ってくれませんか。そんな堂々と着替えられると悲しくなります」
控え室に入ってすぐに着替えていた眞弓さんが、下着姿のまま笑ってそう説明して、これまた下着姿の愛菜さんが無邪気に近寄ってきたが、この人達はオレが入ってきたのに全く抵抗なく堂々と下着姿を晒して着替えをするのでちょっとイラッとした。
オレももう17になるのでそこら辺の羞恥心を持ってほしいが、この人達にとってオレはいつまでも『年下の男の子』なんだなと感じさせられた。
しかしジャンヌのオレを見る視線が冷たい。
オレだって好きでこんな扱いを受けているわけじゃない!
と、俯きながら言ってる間にとりあえず直視できるくらいにまでは着込んだ眞弓さん達にオレは安堵しつつ、今回のイベントについて言及した。
「言いましたやろ? 武偵のイメージアップのための宣伝。今年の春から京都だけで行なっとるローカルヒーローどす」
「駅で言うてたCMもあの格好で出とんねんで。今じゃ京都で知らん人がおらんくらい有名になってもうて、街歩いてても『ブラックや!』『刀の人や!』言うて名前で呼ばれんくらいや」
「千雨は一番男の子受けエエからな。刀は男の魂! 言うんもホンマなんやねぇ。ちなみに早紀のワルサーが次点で人気や」
「これはデリケートやから人にお勧めはしたないんやけどね……」
愛菜さんに言われて早紀さんは持ち込んで壁に立て掛けていた狙撃銃――ワルサー WA2000――を見ながら呟く。
ちなみにこの狙撃銃は7月に遭遇したパトラも使っていたものだ。
「さて! 人気のないウチや雅に振られる前に寺社見学に戻りますえ! 寺社の営業時間は基本夕方5時には終わってまうさかい、こっからノンストップどす。終わったら終わったで幸音はんの家に行かなあきまへんし、急ぎましょ」
そこで話題が自分に向く前に話を区切った眞弓さんは、パンパンと手を鳴らしてみんなを急かすと、ジャンヌの腕を引いてさっさと控え室を出ていき、それに続く形でオレ達も控え室を出て文化会館を後にして、金閣寺、龍安寺と本当にノンストップで見て回った。
それはもう見学と言えるのかもわからないほどのスピードであのジャンヌが振り回されていたくらいだ。