緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet39

 まさかのヘリコプターで比叡山の森の中、オレ達の場所へとやって来た眞弓さん達は、パッと見で大まかな状況を理解して、ヘリのプロペラ音が響く中で指示を出してきた。

 

「とりあえずその子を乗せてあんさんらも乗りなはれ! ここじゃなんもできまへん!」

 

 言われてオレと愛菜さん達は、倒れるハイマキを協力して持ち上げてヘリに乗せて全員が乗り込む。

 それを確認した眞弓さんがハッチを閉めて早紀さんがノータイムで離陸。ここら辺も無駄がない。

 

「眞弓さん、こいつを診てやれますか?」

 

「人間以外の動物は専門やあらへんから本格的な処置は無理やろうけど、見たところ外傷による出血で弱っとります。止血するだけでもだいぶ変わりますえ。幸音はん、手伝ってくれますか?」

 

 ぐったりするハイマキを診て眞弓さんはそんな判断をして、衛生科にいたことのある幸姉と一緒にテキパキと止血や消毒を行っていった。

 ――ピリリリリ!

 その最中、不意に鳴ったのはジャンヌの携帯で、こんな深夜に電話なんて誰だよと思っていると、相手は白雪なんだとか。

 

「星伽……? どうした」

 

 通話に出て数秒、ジャンヌは向こうの声を聞いてから、その相手が白雪ではなくキンジであることを知らせてきた。

 白雪と合流できてたか。良かった。

 

「レキは無事か?」

 

「遠山、レキは無事かと猿飛が聞いている。……ん? 何故猿飛がいるかだと? そんな些細なことは今はいいだろ。とにかく状況を教えろ」

 

 それからキンジによる状況説明が行われ、それによるとキンジとレキはココに襲撃を受けて、命からがら逃げたがそれでも追い詰められ、そこを間一髪のところでオレ達と同じように事態を察知した白雪に助けられ、重症を負ったレキも一緒に現在車で星伽神社に向かっているらしい。

 

「重症患者がおるんやな? ほならジャンヌはん、ちょう星伽のお嬢さんに替わってくれまへんか?」

 

 話を聞いた眞弓さんは、それでジャンヌに白雪に替わるように促して携帯を受け取ると、何やら話をしてから通話を切ってしまった。

 

「決まりました。早紀はん、星伽神社に向かってください。着陸許可取りましたえ」

 

 ……マジか。

 確か星伽神社って他所者は厳しく選定するはずだが。特に男性は完全禁制。オレ大丈夫なのか?

 

「星伽のお嬢さんは京夜はんのお友達なんでっしゃろ? いやぁ、持つもんは友達やねぇ。星伽神社なんて生まれて初めて敷地に入りますえ」

 

 そんな嬉しそうに言う眞弓さんにオレは苦笑しつつも、重症を負ったというレキの心配をしながら星伽神社に到着するのを静かに待つのだった。

 小高い小山の上に砦のような様相で構える星伽神社。

 その中のヘリポートへと降り立った早紀さんのヘリから飛び出るようにハッチを開けて降りたオレ達は、迎えてくれた星伽の寵巫女(めぐみみこ)――白雪や粉雪ちゃんのような正規の巫女に仕える巫女のこと――にハイマキを引き渡して、これから来る白雪達を待つ。

 その後さほど経たずにやって来た白雪達は、担架で運ばれるレキと一緒に姿を現しオレ達を見つけると走り寄ってきた。

 そして担架で運ばれてきたボロボロのレキを眞弓さんがすぐに診る。

 

「こらまたエライやられ方しはりましたなぁ」

 

「眞弓さん! レキは助けられますよね?」

 

 意識のないレキを見て不安が漏れるオレやキンジ、白雪の顔を見回した眞弓さんは、そこで優しい笑みをこぼした。

 

「ウチを誰や思とりますのえ? 京都で一番の衛生武偵やっちゅう話どす」

 

 それを聞いたオレは安堵の息を吐き、眞弓さんも早速治療のために場所を移動しようとする。

 

「おう眞弓ぃ。ずいぶんおっきく出るやないか!」

 

 そこにやって来たのは、フチ無しの眼鏡をかけた女医。

 おそらく白雪が呼んだ医者だろう。

 

「おばんどす。先生もいはったんですか。これは気付かんですんまへんでした」

 

「その生意気な態度、あとで更正したるからな!」

 

 どうやら顔見知りらしい2人はそれからナース達と一緒に適切な治療を施せる場所へと移動していき、オレ達は落ち着くために別室で休むことになった。

 

「おい猿飛。さっきの眞弓さんとか言う人といい、そこにいる人達は誰だ?」

 

 レキの心配が薄れて、そこでキンジが近くにいた愛菜さん達に疑問を持ったのか、オレにそう尋ねてきた。

 

「月華美迅。オレが知る京都最高の武偵チームだよ」

 

「月華……美迅!?」

 

 さすがのキンジもその名には覚えがあったらしく、聞いた瞬間に目を丸くしたが、次には疲労で限界だったのかぐらりと体が崩れて倒れてしまった。

 それを白雪が慌てて介抱して、意識がないことを確認したオレがおぶって白雪の指示で部屋に運んでやった。

 それから休息を満足にとっていなかった愛菜さん達も別室で睡眠を始め、幸姉は白雪と一緒に何やら話をするとかで消え、ジャンヌは白雪の1つ下の妹である風雪(かざゆき)ちゃんと中を見学。

 オレは治療を終えて落ち着いたハイマキと美麗と一緒に現在治療中のレキの安全確認ができるまで起きていた。

 それも杞憂だったのだが、改めて治療を終えて眞弓さんから大丈夫と聞かされたオレは、そのあとやっと落ち着いて睡眠をとれたのだった。

 翌朝、十分とは言わないが活動に支障がないほどには寝たオレは、白雪にあまりウロウロ歩かないように言われていたので寝ていた部屋の横の縁側に座って朝の日差しを浴びる。

 しかしやっぱり男子禁制となるとオレはずいぶんな異質らしく、廊下を通る巫女さん達が妙な視線で見ては軽いお辞儀で挨拶してくる。

 い、居づらいなぁ……

 そんなことを感じながら、美麗のブラッシングをしてやっていると、白雪を先頭に眞弓さん達が姿を現してオレに近寄って挨拶してきて、中を案内してもらっていたことを聞く。朝から元気ですね。

 

「ああそうや京夜はん。ウチらこれから早紀はんのヘリで昨夜の現場調査しに行きますけど、一緒に行きはりますか?」

 

「いえ、皆さんなりのやり方があるでしょうし、調査の方はお任せします。それにいま寝てる奴と情報の共有とかもしたいので」

 

「そうどすか。ほな昼過ぎには1度こちらに顔出しますさかい、星伽のお嬢さんもよろしゅう」

 

「あ、はい。お気をつけて」

 

「京ちゃん、帰ったらギュッてしてや!」

 

「約束しかねます」

 

「ほら行くでアイ」

 

 そうして愛菜さんは早紀さんに首根っこを掴まれて引きずられていき、眞弓さん達は比叡山へと向かっていってしまった。

 

「賑やかな人達だね。でも猿飛くん、凄い人達と知り合いなんだね」

 

「まぁ同級生だったし、色々お世話してされてな感じだったしな……良い意味でも悪い意味でも……」

 

「……あまり聞かない方がいいかな?」

 

「そうしてくれるとありがたい。聞いても笑えない話ばっかりだし」

 

 それから少ししてキンジが目を覚まして、ウロウロしていたジャンヌも捕まえて朝食を食べるため移動を開始。

 さらに途中で幸姉も見つけたので5人となった。

 膳殿(ぜんでん)と呼ばれる料亭みたいな場所に来たオレ達に出された料理は、いずれも豪勢な逸品ばかりで正直朝食としては重いと感じたが、何故かエプロン姿の寵巫女達が期待の眼差しでオレ達を見るので、食べないわけにもいかずに両手を合わせてから口へと運んで食べ始めた。

 そんなに客人が珍しいのか。いや、男の客なんて今までいなかったんだったな。

 それでオレやキンジ、ジャンヌの反応を見た巫女さん達は満足したのか引っ込んでくれて、オレも少し落ち着いて食べ始める。

 

「それじゃ情報交換といきますか。まずキンジ。お前が最近レキと昼夜問わず一緒に行動してるのは知ってたが、その経緯は?」

 

「昼夜問わず……キンちゃんとレキさんが……」

 

 食べながら情報整理も兼ねてとりあえずキンジに話題を振ってみたのだが、食い付いたのは白雪。

 おっと、これはキンジの返答次第では血を見るぞ。

 

「誤解するな。俺はレキに狙撃拘禁されてたんだ」

 

「それでリマ症候群(シンドローム)を狙ってレキと仲良く京都を回り、一緒の宿に泊まっていたところを襲われたのだ」

 

「仲良く……一緒の宿に……ふふ……ふふふふふ……」

 

「狙撃拘禁? また面倒なことになってんな。というかジャンヌ。知ってたなら教えろよ」

 

「聞かれなかったのでな。それに遠山には内密にと頼まれていた」

 

 ああそうですか。性格の悪い聖女様ですこと。見た目は幸姉と同じくらい綺麗なくせに。

 と思っていると、ジャンヌは素知らぬ顔で黙々と食事を進めて、白雪は何やらぶつぶつ小声で空恐ろしいことを呟いていて、キンジはその白雪に顔を青ざめ、幸姉は我関せずといった表情で沈黙。

 狙撃拘禁とは、狙撃手によって逃げられない状況に置かれてしまうことを言い、ジャンヌの言ったリマ症候群は、そういった状況を打開するために相手と仲良くなりそれ自体をやめてもらうよう働きかける心理的解決策の1つだ。

 

「んで、狙撃拘禁の理由はお前がレキの言い分をはいわかりましたって承諾しないから、だろ? 何を要求されたんだよ」

 

「……結婚」

 

「け、けけけけけ結婚!? キンちゃん様とレキさんがけけけ結婚!? そんな私の預かり知らぬところですでにキンちゃん様とレキさんは大人の階段をぉぉ!?」

 

「落ち着いて白雪ちゃん。いま京夜が言ったでしょ。すんなりはいと言わなかったから狙撃拘禁されたって。だからまだ大人の階段は登ってないわよ。リマ症候群のために『手段』として使ってない限りは、ね」

 

「生々しいな、真田幸音……」

 

 確かに生々しい。というかジャンヌは『そういう知識』はあるんだな。

 キンジなんかは本気でわかってないし、白雪は想像したのか顔が真っ赤……

 いや、瞳に光が宿ってない。怖っ!

 

「まぁ、それも含めて食事が終わったら改めて話しましょうか。私達超能力者の最近の不調の原因である璃璃色金(リリイロカネ)も関わってくるでしょうし、昨夜白雪ちゃんからレキちゃんが源氏の末裔かもとも聞いてるし」

 

 話が逸れつつあったオレ達を見て、年長者として話を区切った幸姉は、そんな意味深な単語を次々出してから朝食を普通に食べていき、それを聞いたジャンヌは1度幸姉を凄い目で見るが、あとで話すと言われては言及するのも躊躇われてしまう。

 そうして朝食を食べ終えたオレ達は、場所をレキの寝かされる救護殿へと移して、風雪ちゃんも交えて改めて話を始めた。

 

「さて、面倒だから詳しい説明を省くけど、京夜はまだイロカネについては何も知らないのよね?」

 

「確かシャーロックが『緋色の研究』とかって何度か口にしてるのは聞いたが、肝心な時に気絶してたからな。キンジはちゃんと聞いたんだろ?」

 

「あ、ああ。シャーロックが言ってたヒヒイロカネは超常の金属だって。それがあればただの人間でも超能力が使えるようになるらしい。理子の持ってる十字架もそれと同種の金属が含まれてるとか。緋緋色金。緋弾は今はアリアの体に埋め込まれる形で継承されてる」

 

「オッケオッケ。それくらいの知識でいいわ。それでそのイロカネの中にさっき言った璃璃色金っていうのがあるのよ。それは私達超能力者に悪影響を及ぼす璃璃粒子っていうものを散布する。それでその璃璃色金は代々『ウルス族』と共にあった。たぶんレキちゃんはそのウルス族の1人。だよね、風雪ちゃん?」

 

「はい。蕾姫(レキ)という名前もウルスの純血姫が代々使ってきた名前ですので間違いないかと」

 

 淡々と語られる話に、オレは具体的な質問などが出来ない。

 

「さすがシャーロックと暇潰しの娯楽を共にしていただけあって、色々と聞いていたらしいな、真田幸音。しかしレキはやはりウルス族だったか」

 

「んで? そのウルス族ってのはどこにいる部族なんだよ」

 

「ウルス族はロシアとモンゴルの国境付近に隠れ住む少数民族だ。その祖先は弓と矢でアジアを席巻した蒙古の帝王――チンギス・ハン。ウルス族は皆、彼の末裔だ。しかしウルスは閉鎖的な民族だったため、シャーロックがイロカネ絡みの交渉に訪れた5年前にはすでに47人しか生き残りがいなく、それも全員が女だったらしい」

 

「ふーん。だからキンジを狙撃拘禁までして求婚したわけか。女しかいないんじゃ子孫もくそもないしな」

 

 レキがチンギス・ハンの末裔だってことには驚いたが、それよりもキンジへの求婚の謎が解けたのが大きかった。

 おそらくレキはキンジのHSSを知っていて、強い男を選んだってわけだ。

 

「ちょっと待ってくれ。確か真田さんの話だと、レキは源氏の末裔かもとかって。チンギス・ハンは源氏じゃないだろ」

 

「キンちゃん。チンギス・ハンは1000年ぐらい前に日本から大陸に渡った九郎判官――源義経なの。当時の蒙古帝国では、彼はゲンギスケンって呼ばれてて、それが訛ってチンギス・ハンになったんだよ」

 

 …………牛若丸ー!

 などと心で叫んでみる。

 史実では源義経=チンギス・ハンはまゆつばものだと言われていたが、それは昔の星伽が隠ぺいしたことらしい。

 星伽って凄いな。確か弥生時代より前からの歴史があるんだっけ。

 オレと幸姉の表立った先祖の歴史は安土桃山時代からだから、文字通り桁が違う。

 それから話は一段落となり、各々が自由に時間を使い始め、キンジはレキのドラグノフを整備してやっていて、白雪と風雪ちゃん、幸姉はまたどこかへと行ってしまい、ジャンヌはこのあとすぐにかなえさんの裁判関連で京都を発つという。

 だから京都観光を急いでいたんだな。

 オレはというと、キンジとジャンヌが現在廊下で話しているのを確認しつつ、すぐ横の室内でレキの傍らで丸くなる治療済みのハイマキの体を触りつつ怪我の程度を素人なりに改めて診ていた。

 安静にしていれば無事に治りそうだな。

 

「おい、猿飛」

 

 そこで話を終えたらしいジャンヌがふすまを少し開けてオレに声をかけてきたので、促されるまま外に出てジャンヌのあとをついていき、星伽神社の本殿正面の石段までやって来た。

 その下ではジャンヌの送迎のためか車が1台待機していた。

 

「まだ決まらないのか?」

 

「決まらない? あ……」

 

「……それでは流されてしまうぞ猿飛。今までは何のための猶予だったのだと本気で怒られても文句を言えん」

 

「……だよな」

 

「私はもうこちらに来ることはない。もしかするとお前と会うのもこれが最後になるかもしれん」

 

「……ありがとな、ジャンヌ。最後までオレのこと気にかけてくれてさ」

 

「……私は留学生という体だ。だから日本の武偵連盟の通りにチームを作る必要はない。私もチームなど……そもそも武偵であること自体無理強いされていることだ。それなのにお前が……いや、これ以上は言わん。お前の選択だ。せいぜい真田幸音に泣きつかないようにするんだな」

 

「ジャンヌ。お前は武偵に向いてるよ。オレが保証してやる」

 

「お前の保証など何の役に立つというのだ。まったく……では『また』な」

 

 そう言ってジャンヌは石段を降りて車に乗り込んで星伽神社をあとにしていった。

 何がこれ以上は言わんだよ。ちゃんと『また』とか言ってんじゃねーか。

 そう思いつつも、まだあちらで引き留めてくれる人達の顔を頭に浮かべたオレは、自然と笑みがこぼれてしまっていた。

 それから昼の3時頃に比叡山での調査を終えて帰ってきた眞弓さん達は、オレやキンジに調査の報告をしてくれたが、ココ達を追う手がかりなどは掴めなかったとのこと。

 さすが2年前にも月華美迅とオレと幸姉から逃げ切っただけある。尻尾すら掴ませないとはな。

 そしてその報告を聞いたあと、キンジと白雪もジャンヌ同様かなえさんの裁判関連の案件で京都を発つことになり、未だ眠るレキを心配しつつもオレや風雪ちゃんに任せて行ってしまった。

 オレはかなえさんの裁判関連ではキンジとほぼ同様の証言になるため、そちらにはあまり関わってない。

 だから未だオレは『猿飛京夜』としてはかなえさんと対面していない。

 あの人にもどんな結果にせよ、ちゃんと言わないといけないな。相談しっぱなしは無礼すぎる。

 そうして報告を終えて食事を始めた眞弓さん達を横目に、オレは決断のために頭を悩ませるのだった。

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