緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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 キンジ達が星伽神社を発ってから2時間ほどが経ち、そろそろ東京行きの新幹線にでも乗ったかという頃。

 昨夜からの調査をまとめていた眞弓さんと雅さんが、おもむろにオレを見て手招きをしてきた。

 愛菜さんと千雨さんはテレビを観ながら少しだけ意識をこちらに向け、早紀さんは神社のガレージを見学中。

 なんでも高級な車やヘリまであるというので、いてもたってもいられなかったらしい。

 

「京夜はんやあの根暗っぽい少年、星伽のお嬢さんその他の証言から犯人はココ言う少女で間違いなさそうどす。話やと中国武将、曹操孟徳の子孫や言うことどす」

 

「ただ、そのココ言う少女が出現した場所や時間をまとめると、おもろいことがわかったんよ」

 

「おもろいこと?」

 

 そんな雅さんの言葉に、テレビを観ていた愛菜さんと千雨さんも話に加わってきた。

 

「そや。昨夜の狙撃戦。私らが本格的に動く前やな。そん時に向こうで寝とる子と根暗少年は確実に2キロ近く離れた場所から撃ち合っとった。それから閃光弾と音響弾を撃ち込んで狙撃はシャットアウトしたんやけど、その直後にあの子が原因不明の負傷を負わされて、それから森を抜けとる。調べてわかったんやけど、京くんが駆けつけた場所はその出発地点からすぐ近くやったんや。京くんが音響弾を確認してからあそこに到着するまではだいたい15分くらい」

 

「森の中……しかも真夜中の視界の悪い状態で2キロ近い距離を15分程度で移動するのはかなり難しい、ですか?」

 

「それだけやありまへん。ちょうど京夜はんがそのココ言う少女と遭遇して撃退、信号弾を打ち上げてウチらが駆けつけるまでの間に根暗少年がココと遭遇しとります」

 

「そら凄いなぁ。あないなわずかな時間であの森ん中抜けて追撃したんか? もう瞬間移動やん。幸音とおんなじ超能力者やわ」

 

「その線もなしどす。幸音はんや星伽のお嬢さんの話やと、ここ最近は超能力が絶賛不調中やそうどす。瞬間移動がどない凄い超能力かは知らんけど、尻尾も見せんような慎重な犯人がそない失敗のリスクが高いことするはずない」

 

 そこまでの話を聞いてオレも眞弓さんの意見には同意できた。

 だが、だとするとココが高速移動を可能にしているカラクリがわからない。

 そこでそれを踏まえて眞弓さんが口を開こうとした時に、ちょうど幸姉がやって来て、雅さんがノートパソコンでまとめていた資料に目を通して状況を理解。

 少し考えてから口を開いた。

 

「これ、いま言うと眞弓に怒られそうだけど、いいかな」

 

「もう怒る寸前やからかまいまへんえ」

 

「やめてほしいわそういうの。えっと、私の前にいた組織に、そのココに瓜二つの少女がいたの。名前はツァオ・ツァオ。天才技師で爆弾術に長けてる曲者」

 

 そう幸姉が言った瞬間、眞弓さんが神速の扇子を頭に降り下ろしてほほほ、と笑う。こ、怖い。

 

「今さら組織の名前伏せても遅いわ。こっちには武偵庁のメインサーバーに『ハッキング・クラッキングを黙認』されとる人間がおるんどすえ?」

 

 そう言って眞弓さんが見たのは、隣にいた雅さん。

 この人は昔から遊び感覚で武偵庁にハッキング・クラッキングを仕掛けて、あまりに酷いからセキュリティー強化の手段としてその行為を黙認されているという隠れた実績がある。

 その代わりに武偵ランクをBに下げられてはいるが、ただの幼児体型のお姉さんではないのだ。

 眞弓さんも圧倒的なリーダーシップとSランク評価の医療技術を持っていて、早紀さんもドライバーとして1流。おまけに狙撃も出来てしまう。

 月華美迅は個々の能力もさることながら、総合的な能力も高いチーム。1人として2流はいないのだ。

 

「まぁ、言うてもそこで得た情報は秘匿することになっとるから、雅からそれとなく聞いただけどすけど。それより話の続きをしなはれ」

 

「眞弓が止めたんじゃないのよ……イエナンデモナイデス。えーっとぉ……それで昔そのツァオ・ツァオに初めて会った時に話しかけたらこう言われたのよ。『お前誰ネ』ってね。とぼけた感じもなくて嘘ついてる感じもなかったから、私も『ココとは別人』なんだって最近まで納得してたのよ」

 

 ……それを聞いてオレは同じような経験をしたなと記憶を遡っていた。

 ココと再会したのは始業式のあった日、学園島でだ。

 そこでココは開口一番でオレに「久しぶり」と言った。これはココの記憶にオレが完璧に存在していたことを意味する。

 だが昨夜会ったココは、暗がりではあったが、最初オレを見て「誰だ」と言ったのだ。

 それ以前にオレの声までも記憶したはずのココが気付かないはずがない。

 

「それで雅の資料を見て納得したわ。おそらく彼女、ココは……」

 

 その話を踏まえて、幸姉がココのカラクリの正体を言おうとした時、点けっぱなしだったテレビの番組が勝手に切り替わって、何かの臨時ニュースに替わった。

 あまりに突然だったため、幸姉も言葉を切ってテレビを見て、眞弓さん達もオレも釣られるようにテレビを見た。

 

『――現在、東京行き山陽・東海道新幹線のぞみ246号が走行中、何者かの手により占拠されました。これにより乗客と運転手が人質となり、犯人からは日本政府への身代金の要求がされているとのこと――』

 

 エクスプレスジャック。

 しかもこの新幹線は確か……

 

「これ、星伽のお嬢さんと根暗な少年の乗ったやつやな。偶然やとしても運のない子らどす。疫病神にでも憑かれとるん違いますか?」

 

「眞弓、冗談言うとる場合やないって。京ちゃんの知り合いが巻き込まれとんのやで。助けな」

 

「まっちゃん、言うても私らにお呼びがかかっとらん時点で畑違いや言うことや」

 

「それにウチ、あんま関西から遠出したないどす。要請や依頼やないことにまで手を回しとる暇もあらへんしな」

 

 一見すれば眞弓さんが面倒臭がっているように見えるが、実は違う。

 眞弓さんは眞弓さんでちゃんと後先を考えて動かないと即決したのだ。

 それがわからない愛菜さん達ではないので、リーダーの判断に渋々了承した。

 

「……京夜、あなたはどうする?」

 

 少しの沈黙のあと、最初に口を開いたのは幸姉。幸姉はまっすぐにオレを見てその答えを待つ。

 オレは月華美迅や幸姉とは違い、今すぐにでも現場へと行けるし、行動に制限もなにもない。だからこその問いかけだった。

 

「……オレは……」

 

 だが、オレが行ってどうなるわけでもない、かもしれない。

 ひょっとしたらもうキンジと白雪が解決のために動いていて、助けなんて必要ないかもしれない。ならオレが行く意味は……

 ――ガシャン。

 そんな時にテレビの音とは違う別の、何かを持ち上げたような音を聞き取ったオレは、その音の発信源である部屋のすぐ横の廊下に目を向けた。

 そこには、体のあちこちに包帯を巻いたままの状態で、自らの唯一無二の武器、ドラグノフを肩に担いだレキが。

 起きたのか。いや、そんなことは今はいい。問題なのは……

 

「レキ、どうするつもりだ?」

 

「行きます。キンジさんが危ない」

 

 どうやらオレ達の会話を聞いていたらしいレキは、いつもの無表情のままそう言い放った。

 

「ダメだ。眞弓さんも言っていた。お前はまだ絶対安静。ましてや戦闘行動なんて死にに行くようなもんだ」

 

「戦えます」

 

「ダメだ!」

 

「行きます」

 

 ……こりゃ折れないぞ。

 これ以上言い合っていたら強引にでもオレ達を排除して行ってしまう。それこそ銃を向けられて、な。

 その様子を眞弓さんはクスクス笑いながら静観。幸姉達も何も言わない。なんなんだよ。

 

「……何でそんなに必死になる?」

 

「キンジさんは私の大切な人です。助ける理由などそれしか必要ありません」

 

「……わかった。ならオレも行く。お前のことはキンジからお願いされてるからな。それで死なれたらオレがキンジに殺されるかもしれん」

 

「京夜さん……」

 

 それでレキはほんの少しだけ無表情の中に喜びを含めたような表情をした。

 お前はもっと人間らしく感情を出せよ。

 

「幸姉、オレは行く」

 

「ダメね」

 

 それからすぐに幸姉に向き直り、さっきの返答をすると、今度は幸姉がオレの前で仁王立ち。

 その表情は、若干怒っている?

 

「そんな判断で私はあなたを行かせるわけにはいかない。気付きなさい。これはあなたにとっての分岐点。中途半端は許されないのよ」

 

 分岐点……何故……

 と一瞬思ったが、それもすぐにわかってしまう。

 これはオレが『自分の意思で武偵として行くか』を問われている。

 つまりは今この場でオレはあの時の返事を出さなければならない。

 武偵としてレキと一緒に行けば、それはもう真田幸音の従者としての道を捨てることになる。

 

「……事件を解決したらまた戻って……」

 

「甘えるな! 猿飛京夜!」

 

 だがそれはいま急いで出すこともない。

 とも思ってそう言いかけたが、幸姉は最後まで聞かずにオレに対して怒鳴る。これは本気の本気。

 

「『武偵は自立せよ。要請なき手出しは無用の事』。あなたの助けなんて金一の弟には必要ないわ! 『自ら考え、自ら行動せよ』。あなたの選択を金一の弟とレキちゃんに押し付けるな!」

 

 いま言われたのは、武偵憲章の4条と6条。

 武偵は簡単に人に頼ってはいけない。どうしてもの時には必ず連絡を寄越してくる。

 オレにいま何も連絡がないなら、それは確かにキンジに必要とされていないということ。

 武偵は自ら考えて行動し、その行動に責任を持たねばならない。

 今オレはキンジとレキにその行動理由を押し付けた。そこにまるで強制力でもあったかのように、だ。

 

「それでもあなたが行くと言うなら、あなたは私や眞弓達に納得のいく理由を提示しなければならない。自らの意志で! あなたの行くべき理由を!」

 

 そんなの、ない。理由なんてあるわけがない。

 今のオレは何もかもを他人に委ねてしまっている。その行動理由も、責任も、何もかも。

 そこにオレの意志など何1つとしてない。情けない。どうしようもなくカッコ悪いな、オレ。

 そんなオレを愛菜さんが見かねて声をかけようとしてくれたが、それを眞弓さんが手で制した。

 幸姉の甘えるなという言葉の意味は、眞弓さんにも理解できているのだ。

 

「京夜さん」

 

 そんなオレに声をかけたのは、オレのせいで足を止めているレキ。

 

「京夜さんが現在置かれている状況は理解しかねますが、行動理由など深く考えることではない。と、私も最近考えました。京夜さんはキンジさん達が危機と知って、どうしたいと思ったか。それが答えではないのでしょうか」

 

 ……レキが、オレに『感情』を説いた。

 それは自分には感情はないと言っていた昔のレキからは到底出ることのない言葉だった。

 つまりはこの十数日でレキの中の何かが変わったのだ。キンジ、お前何をしたんだ?

 だが、それを言われてオレはテレビの映像が流れた瞬間の自分を思い返していた。

 ニュースを聞いて、眞弓さんの言葉を聞いた瞬間、オレは無意識の内に降ろしていた腰を上げて『立ち上がっていた』のだ。

 それはつまり考えるより先にオレが『キンジ達を助けに行こうとしていた』という事実になる。

 そこに悩みなど入る余地はなかった。

 

「そうだよな……そうだったよ。まさかレキに諭されるとは思わなかったけど」

 

 そんな失礼な言葉にも、レキは何もリアクションなし。

 しかし肩に担いだドラグノフをもう1度担ぎ直してオレをまっすぐに見つめ、その目は「早くしろ」と急かされているようだった。

 

「決めたよ。幸姉、オレはキンジ達を助けたい。それはあいつらがオレの『仲間』だから。そこに武偵とかそんなの関係ない。仲間っていうのは、そんな勘定で助けたりしないし、オレもそんなこと考えてない。レキも言ってたな。大切だから守るんだ」

 

 そんな答えに幸姉は真剣な顔のまましばらく沈黙。

 しかし次に見せた表情はオレの知る限りで一番優しい笑顔だった。

 

「それが『意志』よ、京夜。武偵は自らの感情を抑えないといけない。でもそれは感情を殺すことではないわ。命令や作戦でその通りに動くのは当たり前だけど、本当の窮地で動けるのは明確な自分の意志を持つ人。眞弓達がそうであるように、ね」

 

「感情的に動くな言うんは、冷静な判断が欠ける場合がほとんどやからどす。その点では京夜はんは始めから問題あらへんかったえ。あとはそれを自分の意志で動かすことができるかっちゅうことどす」

 

「それからこれは言っておくわね。京夜は私1人だけを守るなんて『小さな器』に収まる存在じゃないのよ。あなたはもっと大きなもの、たくさんの人達を守れるわ。だって京夜は私が……この真田幸音がただ1人愛した男なんですから」

 

「あー!! 幸音が告白とか卑怯や!! 京ちゃん幸音のことずっと……」

 

「愛菜黙っとき!」

 

 ……この人達は最初からオレがこうすることをわかってたんだ。

 だからここで決断『させてくれた』んだ。

 やっぱりオレはまだまだ『年下の男の子』、『世話の焼ける弟分』なんだな。

 

「オレも幸姉のこと、ずっと好きだった。だから凄く嬉しい。でも、オレはこの想いを、気持ちを1度捨てる。それはオレが前に進むため。幸姉への執着を完全になくすためだ」

 

「ぷぷー! 幸音フラれとるわ! 今日はやけ酒でも飲みに行こか!」

 

「まっちゃん、ホンマ黙っとき……」

 

「私も長い間京夜を独占しちゃったし、そろそろ他の男をちゃんと見ないといけないなーって思ってた。だからお互いこれでまたゼロからスタートね」

 

「京ちゃんの彼女が幸音になっても絶対認めんけどなぁ」

 

「愛菜お姉さんは厳しいどすなぁ。この分やと京夜はんは一生独身どすえ」

 

「愛菜が嫁ぐ選択肢はないんか?」

 

「弟を寝取る気なんてあらへんよ。私は京ちゃんの幸せを一番に考えとんのや!」

 

「え、ちょっと待って愛菜。それだと私が京夜を幸せにできないと解釈できるんだけど……」

 

 ……なんか話が脱線してきたが、とにかくこれでオレは自分の意志で前に進んだ。

 もう誰かに道を選んでもらうわけにはいかない。相談はするだろうけど。

 

「ほな! そうと決まったらパパっと解決してきましょ! 雅!」

 

「もうさっちんに連絡入れといたわ。いま星伽のヘリをスタンバイしてくれとる。京くんと無口ちゃんははよガレージに行き! さっちんが片道切符で送ったる!」

 

「はいっ! レキ、行くぞ! 美麗はハイマキについていてやれ。解決したらちゃんと戻ってくるからな」

 

「美麗、よろしくお願いします」

 

 話が完全に脱線する手前で眞弓さんが両手を叩いて本筋に戻して、雅さんがオレとレキを誘導。

 それに従いオレとレキは星伽神社のガレージへと足を運んでいった。

 

「はよ乗りや! 間に合わへんで!」

 

 ガレージに着くと、すでにヘリに乗り込んでコクピットに座った早紀さんがオレとレキを急かしており、その近くには風雪ちゃんが。

 おそらく一緒に行く気なのだろう。姉のピンチだからな。

 

「猿飛様、早くお乗りください」

 

「風雪ちゃんも行くんだろ?」

 

「いえ、このヘリはパイロットと2人乗りなので副座は1つしかありません。なので私は待機します。お姉様を、よろしくお願いします」

 

 言った風雪ちゃんは、本当は行きたいのに、それをグッと堪えているように見えた。絶対に助けないとな。

 そう思って先に乗り込んだレキに続いてヘリの手すりに手をかけて1度だけ後ろを向くと、そこには笑顔で送り出してくれる幸姉達が。

 

「やるなら中途半端はなしよ!」

 

「ウチが京夜はんの名前を憶えたゆう意味、ちゃんと理解して行きなはれ!」

 

「京くん! 本気の力、ビシッと見せたってや!」

 

「今度東京遊びに行くさかい、よろしゅうな、京ちゃん!」

 

「困った時はいつでもお姉ちゃんを頼りぃよ? 絶対やで!」

 

「幸帆と誠夜にもよろしく言っておいてください! 皆さんありがとうございました!」

 

 それで1つしかない後ろの副座にレキを抱くようにして乗り込んでハッチを閉めたあと、ヘリはすぐに離陸を始めて、現在ノンストップで走るのぞみ246号を追いかけて京都を出発した。

 

「京、着く前に言っとく。あんたの携帯に私らの番号登録しといたさかい、困った時はいつでも連絡しぃや。京から1度も言われたことないけど、私らは昔から京の『仲間』やからな」

 

「いつの間に……でも、ありがとうございます」

 

 移動中、早紀さんが余裕のある内にオレにそう言って、いつの間にか登録されていた月華美迅5人の番号を確認したオレは、1年半前にもう京都には戻らないと決めて手放したものが戻ってきたことに感謝しつつ、これからの戦いのために準備を整えていった。

 レキも満身創痍の体でキンジが整備したドラグノフを懐に抱えて、ただ来たるべき時を待ち続けていた。

 だが、レキに無理は絶対させない。レキに何もさせずに終わらせるのがベスト。

 負傷などさせたら送り出してくれた幸姉達に顔向けできない。

 だから頑張らないとな。オレが自らの足で踏み出す最初の1歩だ。躓いたらカッコ悪い。

 ――やってやるさ!

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