緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet42

 

「――この修学旅行Ⅰは、そういうことも学ぶものらしいんでね」

 

 加速を続ける爆弾付き新幹線に後ろから迫ってるもう1つの新幹線を見ながら、キンジは捕まえた2人のココに言ってウィンクなんてしてみせる。

 HSSのキンジはキモいなぁ。いや、男目線からだけどさ……

 

「んで? 誰を呼んだんだよ。関西方面から来るってことは、修学旅行Ⅰであっちにいた2年だろ?」

 

「悟いな猿飛。まぁ見てからのお楽しみってやつだ」

 

 そう問いかけてみればキンジはまたニコッと笑ってそう返してきた。

 だから男にそういうスマイルやめろ。感想がキモいしか出てこない。

 それから車両後方から車内に戻ったオレ達は、捕まえたココ2人を理子の近くに放っておき、横の線路を並走してきた新幹線を見る。

 すると先ほどオレが上へと上がるために開けたドアから、向こうの新幹線とを繋ぐチューブトンネルが接続され、人や物の通れる通路ができる。

 

「あや、あやややっ!」

 

 そのチューブから尻餅をついてこちらに滑り降りてきたのは、運動神経ゼロの装備科の天才、平賀文だった。あやや! あやや!

 

「……悪いな、平賀さん。こんな事に巻き込んで」

 

「なんのなんの! お得意様のピンチなら、あややはどこにでも駆けつけるのだ! とーやま君、レキさん、理子ちゃん、みんな大口顧客さまですのだっ。あ、さるとびくんも面白い顧客なのだっ」

 

「すみませんね、面白い顧客で」

 

 なんだか悪気が全くないのに、オレだけ3人と別枠扱いなのが気に食わないが、確かにあややを頼ったのはミズチの件だけだし仕方ないか。

 そう言ったあややは、チューブから伸びるロープを引っ張って工具やら何やらをこちらに引き込んで、それから新幹線を繋いだチューブは取り外された。

 線路と線路の間には信号とか色々あるからな。

 

「あ、あややー! も、も、漏れちゃうー!」

 

 この状況下で何故か上機嫌で機材を組み立てるあややに、後ろの方から理子のヘルプコールが聞こえてきた。

 膀胱炎になったら見舞いくらいには行くから、我慢しろ。

 

「もう少しガマンするのだ! 漏れたら座席のスイッチが漏電しちゃうのだ!」

 

「理子も漏電しちゃう! 早く早く! たすけてー!」

 

 ……なんかコントに聞こえるのはオレだけか?

 

「解除できんのか、平賀よー!」

 

 とはいえ事態は一刻を争う。武藤のそんな運転室からの叫びに、あややは、

 

「――Nothing is impossible!!!」

 

 お決まりの台詞を笑顔で言ってみせた。今はあややが頼りだ。この命、あややに預けるぜ。

 新幹線の速度も390キロに達し、新横浜駅を通過。終着まであと7分あるかどうかといったところ。

 あややは消火器みたいな機材から伸びる管を2本、丁寧な作業で洗面室の窓に張り付けて固定。

 

「気体爆弾は酸素と混ざると爆発する、ってさっき理子ちゃんから無線で聞いたのだ」

 

 言いながらあややは管の先端に据えられたカッターで小さな穴を2つ空け、片側の管から風船のようなものを広げ始めた。

 

「窒素で膨らます、シリコンの風船なのだ! 隅々まで広げて、気体爆弾をこっちの真空ボンベに押し出すのだ」

 

 つまり、片側の管から風船を膨らませて、もう一方の管からボンベに爆泡を移す。ということらしい。

 これなら理子の座る爆破スイッチも窓を割る程度の小型爆弾になり、新幹線も止められる。さすがとしか言いようがないな、あやや。

 しかしその作業も時間との戦い。品川駅を通過。あと3分とないだろう。

 

「キンジ、最後の加速……410キロ……いくぜ!」

 

 そして新幹線は時間的な最後の加速をして、死の時間にさらに近付く。

 ――ピィイイ。

 そこに機材が完了の音を上げて、あややのオッケーも出てすぐ、キンジが武藤に叫んで新幹線に急ブレーキがかかり、オレとキンジは停止にかかる衝撃から守るため、アリア、レキ、あややを抱きかかえて壁に背をつけた。

 ――ィィィィィィィイ――ギィィィィィィィィィ――

 耳をつんざくようなブレーキ音にアリア達を抱きかかえているために耳を塞ぐこともできないまま、その衝撃にも耐え続け、洗面室の窓からは、ばすんっ! と爆発音がして窓が吹き飛んでいたが、爆泡は爆発しなかった。成功したようだな。

 そのあと新幹線は窓越しにも見てとれるブレーキによる激しい火花を上げながら1キロほど走り続け、東京駅のホームまで入っていった。

 ギィィィィィ……ギィ……

 そして後ろにもうもうと煙を上げながらの新幹線は、そのホームでやっと停止したのだった。ホントにギリギリセーフだな。

 東京駅のホームは前もって人払いがされていて、爆発した際の盾のつもりか、無人の列車がいくつも停められ、さらに土嚢(どのう)まで積み上げられていた。まぁ、最良の対応かもな。

 そうしてキンジ達がホームへと出ていく様を見ながら、武藤が2人のココを鷲掴みで持ち運ぶのを最後に車両を出ようとしたが、理子の姿がない。アイツ先に降りたのか?

 そう思ってホームとは反対の窓から外を見ると、いた。

 どうやら女の子としてトイレに駆け込む姿を見せたくなかったみたいだな。わざわざ反対のホームに行くあたりがその証拠だろ。

 それで全員の無事を確認したオレは、借りていた手鏡を返そうとホームから降りて車両に背を預けながら線路の上で待っていると、何やらスッキリしたような表情の理子がひょいっと反対のホームから降りてオレに近付いてきた。

 

「ほれ、借りてた鏡」

 

「そんなの戻ってからでいいのに。それとも理子と2人きりでお話ししたかったとか? きゃはっ」

 

「まぁそれもある。決めたよ理子。オレは武偵を続ける」

 

「そっか。駆けつけてきた時からそんな気はしてたけど、後悔はしてない?」

 

「幸姉曰く、オレは幸姉1人を守るような小さな器ではない、らしいぞ?」

 

「じゃあ、これからは理子のこともちゃんと守ってよね」

 

「報酬は払ってもらうぞ?」

 

「じゃあ体で……ふぎゃっ!」

 

 ふざけたことを言う理子にデコピンをお見舞いしつつ、オレはまたこんなバカな言い合いができることに少し嬉しさを感じている自分を自覚していた。

 

「――妹達、撤退ヨ。一旦、香港に戻るネ」

 

 理子との話も一段落として、キンジ達と合流しようとホームに上がろうとした時、遠くの方。

 おそらくホームの端からココの声が聞こえてきて、反射的に行動をキャンセルして姿を隠す。

 位置的には車両先端を影に、キンジ達のいるホームの端。そこにココがいるようだ。まさか狙姐か?

 そこでオレは逃げた時の狙姐の行動に余計な行程があったことを思い出した。

 ただ逃走するだけなら、煙幕を張る必要がなかったのだ。

 あれはパラシュートのようなもので飛んだのがダミーであることを隠すために使用したということ。

 そして本人はこの新幹線にここまでしがみついていたということ。根性あるな。

 

「レキ動くだめネ!」

 

 そこでまた狙姐の声が聞こえて横のホームを覗き見ると、ドラグノフを構えようとしたレキが、言う通りに構えるのをやめた。

 おそらく狙姐は拳銃の有効距離から離れて狙撃銃でレキが殺されると困る人間。ここだとキンジが狙われていたから言う通りにしたのだろう。

 これでキンジとレキが動けない。姿が見えてるはずのアリアも。

 

「理子、ホームの下を通って狙姐の近くに接近するぞ。いま動けるのはオレ達だけだ」

 

「無音移動法は京夜の十八番だ。あたしが気付かれない保証はない。リスクは避けるべきだ」

 

「ならオレだけで……」

 

 オレは状況を把握したところで隣の理子に言いつつ、停まってる車両とホーム下の空白地帯を指差すが、理子は成功率を見た意見で却下してきたので、オレが行こうとした時。

 

「風、レキをよく躾けた。人間の心、失わせてる。この戦いでよぉーく分かたヨ。お前、使えない女ネ。だからもう、お前、いらない。キョーヤ! どこかに隠れてるの分かてるネ! 大人しく姿を見せないと、皆殺しネ!」

 

 まさかのご指名を受けてしまった。そりゃお気に入りの特技を封じにかかるのは当然だよな。

 時間をかけると誰か殺しかねないので、オレは理子にやっぱりホーム下を行かせる事にしてジェスチャーで促すと、理子も言うことを聞いてホーム下へと行ってくれて、オレはホームに上がってキンジの隣に立って姿を見せた。

 予想通り、狙姐はホームの端で狙撃銃を構えてこちらに狙いを定めていて、アリアは捕まえていたココ2人に足でしがみつかれて動けなくされている。

 狙姐との距離は約100メートルくらいか。

 

「レキ――お前、まだ弾を持ってるはずネ。それで死ね。今、ここで」

 

 オレが姿を見せて満足した狙姐は、次にこの交戦距離で一番厄介なレキに自害を命令する。

 

「お前死ねば、キンチは殺さないネ。キンチは使える駒ヨ、ココも殺したくない」

 

「ココ。あなたが言う通り……私はあと1発、銃弾を持っています。私が自分を撃てば、キンジさんを殺さないのですか」

 

 ちょ、ちょっと待てレキ! まさか本当に死ぬ気か!?

 

「よせレキ! どうせアイツは俺を――」

 

「レキ、言ったよな? 死なないように努力するって」

 

「キンチ、キョーヤ喋るな! レキ、今の話は曹操(ココ)の名にかけて誓ってやるネ」

 

 名にかけて?

 ああ、確か眞弓さんが曹操孟徳の子孫とかってチラッと言ってた気が。

 いや、そんなことよりレキだ。頑固なレキのことだ。

 オレ達の言葉なんて聞き入れやしないだろう。

 

「待つ、ココに不利ネ。レキ、今すぐ自分を撃つネ。待たされたら、ココ、キンチを撃つ。レキ、その後でココを撃てばいいネ。他にキンチ取られるより、ココは相討ちを選ぶヨ」

 

「ココ。藍幇の姫。ウルスの蕾姫が問います。今の誓い――キンジさんを殺さない事、守れますか」

 

「バカにする良くないネ。ココは誇り高き魏の姫ヨ」

 

「――誓いを破れば、ウルスの46女が全員であなたを滅ぼす。かつて世界を席巻したその総身を以て、あなたの命を確実に奪う。分かりましたね」

 

 淡々と話すレキは、言いながらドラグノフのストックを足元に置き、銃口を自らの顎の下につけて自害の準備を整えた。

 

「よせ……レキ!」

 

「レキ……怒るぞ」

 

「キンジさん、京夜さん。ウルスの女は銃弾に等しい。しかし私は……失敗作の、不発弾だったようです。不発弾は、無意味な鉄くずなのです」

 

「やめなさいレキ! あんた騙されてるわよ!」

 

 アリアもココ2人にしがみつかれながら叫ぶ。

 全くその通りだ。死ねば約束を破ったこともわからないんだからな。

 

「キンジさん。あなたは人を殺すなと私に命じましたが、私は今、主人を守るために――私自身を撃ちます。ですが、これは造反には当たらない事を理解してください。なぜなら――私は1発の銃弾――」

 

 銃弾を撃ってもそれは人を殺してないから造反じゃないってか?

 お前のおまじないの言葉ってのは、都合がいいな。だがどうする?  オレの本気の武偵としての活動で、早速仲間が死ぬなんて耐えられないぞ。

 考えている間に、レキはその靴を脱いでドラグノフの引き金に足の指を掛ける。

 

「「お前は銃弾なんかじゃない!」」

 

 オレとキンジが同時にそう叫ぶが、それでもレキは躊躇うことなく、その引き金を引いてしまった。

 ――ガチンッ!――

 しかし、そのドラグノフから銃弾が発射されることはなかった。

 この事態に驚いたのは、オレはもちろんだが、引き金を引いたレキ自身が一番驚いていた。

 

不発弾(ミスファイア)……」

 

 アリアもレキの不発弾に驚きの声をあげ、じたばたと動くのも忘れていた。

 レキが不発弾するところなんて初めて見た。

 レキは徹底した整備と弾の選別を行うことで不発弾の出る確率を万に一つ……いや、億や兆に一つの確率まで下げている。

 だからこそ、この状況下で不発弾など、奇跡以外でもなんでもな……

 そこでオレはここに来る前に星伽神社でのキンジの行動を思い出す。確か、レキのドラグノフを整備したよな?

 そう思いキンジを見ると、あのキモい笑顔を向けてきたので、それに軽い吐き気を覚えつつ、レキの自害を止めたキンジに感謝。

 これで状況は変わった。レキのドラグノフにはもう不発弾だけ。

 なら狙姐が次に狙うのは、HSS状態のキンジ。次点でオレだろう。

 この空白の思考時間でオレが出来る最良は、狙姐に撃たせること。

 キンジが軽いジェスチャーでボルトアクションの装填動作をして見せたことから、狙姐の狙撃銃がボルトアクション式のライフルであると理解したオレは、1発1発を排莢して装填する、撃つために連射ができない特性の弱点を突く1手を考えた。

 ――ダッ!

 全員が動きを止めてる中、狙姐めがけて一直線に走り出したオレは、こうすることでさらに狙姐の判断に迷いを生じさせる。

 いま近付くオレを撃つべきか、驚異となるHSSのキンジを仕留めるべきか、はたまた体勢を立て直すため1度退くか。

 そして仕留めにかかるなら優先度ではほぼ五分。どちらが狙われてもおかしくない。

 だが、キンジは自害に失敗したレキに近寄っていった。そこに意図するところがあるなら、オレがやれることは、次に繋げること。

 100メートルなら、全力で走れば10秒後半くらいか。近付けばそれだけオレが狙われる可能性が高い。

 だが、オレも勝算がなくて前へは出てない。

 

『自己防衛の反射なんて、命の危機がない限り身に付かないぞ』

 

 それはシャーロックとの対決を終えて、武偵病院で理子に言われた事だ。

 自己防衛の反射。これは言われてみれば確かに昔、比叡山で1ヶ月に渡るサバイバル生活で、トラウマになるレベルで身に付けていた。

 下山を許さない過酷な条件で、親である佐助に昼夜を問わずに命を狙われ続け生き残った。

 江戸幕府が崩壊してから、猿飛はその忍の術を多岐に渡る術から、たった1つの秘伝へと凝縮した。

 減退したのは『殺し』の術。暗殺術もこれに伴い使わなくなり、猿飛は主を守ることに特化した。

 その究極が『死なない術』。不老不死とかそんな桃源郷のような夢物語ではない。

 自分が死ぬことなく、主から危険を退ける。それが猿飛の行き着いた秘伝。

 その秘伝の第1段階である『自分が死なない術』を、すでにオレは習得している。

 第2段階の『対象を死なせない術』も、現在進行形で磨いてる最中だ。

 自分が死なない、とは言うが、それがどのようなものかと言えば、『死に至る脅威を反射的に回避する』こと。

 つまり即死レベルの攻撃なら、逆にオレの体は簡単にそれを回避してしまうということ。中途半端に腕や足を狙われる方が対応が難しい。

 だから今この状況で、狙姐がオレの額か心臓、或いは出血の止まらない箇所を撃つなら、オレは体の動くままに避ければ、死にはしない。

 しかし、この土壇場で今まで意識的に頼ったことなどない術に、簡単に信頼を置けない。

 これは未知への恐怖と同様だ。絶対じゃないからこそ、不安が体を硬直させる。

 

「キョーヤ!」

 

 そうしてオレが自らに備わる力を信じきれないでいた時に、狙姐がオレの名を叫びその狙いをオレへと定めてきた。

 こうなったら信じるしかない。シャーロックの攻撃を防ぎ、オレに一撃入れるだけの隙を作ってくれた、この力を。

 ――パァン!

 覚悟を決めた瞬間、狙姐はオレへと銃弾を放つ。

 ――疑うな、信じろ――

 そう心に言い聞かせて、オレは減速することなく走り続け、クンッ! とオレの意思とは別に左に曲がった首の痛みと、右のこめかみを掠めていった狙姐の銃弾による痛みに顔が歪むが、死んでない。

 こめかみから血は流れたが、切った程度だろう。問題ない。

 それには撃った狙姐も唖然。銃弾の再装填も忘れていた。

 『死の回避(デス・イべーション)

 やればできるもんだな。トラウマもののサバイバルも無駄ではなかったか。

 だがこれで狙姐はもうオレを止められない。距離もあと30メートルない。

 再装填はしてるようだが、もう……

 ――ヒュン!

 そう思っていたオレの後ろから前へ、高速の何かが通り過ぎていった。

 おそらく銃弾。だがこの距離となると、レキしか撃てないぞ。

 後ろを振り返ろうとも思ったが、狙姐から目を逸らすのは危険と考えそのまま走っていたが、その狙姐はまたオレへと発砲。

 しかしその狙いは斜め上、あさっての方向へと銃弾は飛んでいった。

 そして狙姐は、よろっ、よたたっ、とよろけてから、その場にコロンと倒れた。

 あれは、いつかのハイマキに放ったレキの狙撃技術か? だとしたら今の後ろからの狙撃は100%レキだ。

 だっ!

 もはや立てなくなった狙姐を捕まえるのは簡単だったため、走るのをやめてワイヤーを取り出していると、ホームの下から理子が飛び出してきて狙姐のその背にへばりつく。ああ、頑張ってここまで近付いてたんだな。偉いぞ。

 

「み、峰理子ッ!」

 

「ツァオ・ツァオ! あれもツァオ、これもツァオ。3人もいたんだねェ。くふっ!」

 

 理子は両足で狙姐の胴にしがみつき、両手で両腕を羽交い締めにし、ツーサイドアップのテールを動かして首を締める。

 あれは抜けられない。オレでも決まったら無理だな。

 

双蛇頸刎崩(シャンシケイケイホー)。自分の技で眠りな、ツァオ・ツァオ。あたしに教えたのがアダになったな」

 

 それでもまだ抵抗しようとする狙姐にオレは目の前まで近寄って話しかけた。

 

「もうやめとけ狙姐。素直に捕まって、それでまともな『ビジネス』をしてくれるなら、オレも突っぱねたりしないからよ。藍幇が『善の一面』を持ってることも知ってるから、なおさらな」

 

 そう言ってやると、狙姐は抵抗をやめてキュッと身を縮めるので、理子も絞め技を解いてオレがワイヤーで縛る。

 

「キョーヤ……お姫様だっこがいいネ」

 

「ん? それは叶わん願いだな。君はいま犯罪者。立場を理解しろ」

 

 ワイヤーで縛ってから、持とうとしたオレを見て狙姐が顔を赤らめてそんな要求をしてきたが、それを笑顔で却下したオレは、右肩に狙姐を担いで荷物のように運ぶ。いやー、軽い軽い。

 

「あはははは! ツァオ・ツァオ! キョーやんに色目使うなんて100年早いって!」

 

「み、峰理子!」

 

 担がれた狙姐を見て理子はゲラゲラ笑いながら、オレの左腕に抱きついて、これ見よがしに見せつけ煽り、それに反応して狙姐がじたばた暴れるので2人に黙るように怒鳴ってからキンジ達の場所まで無言で到着。

 捕まっていたココ2人に狙姐も加えてこれで一件落着っと。

 見れば何故かキンジの右頬から血が出ていたが、どうやら先程の狙姐の狙撃はオレだけじゃなく、後ろのキンジの額も同時に狙っていたらしい。恐ろしいな。

 しかもそれを防ぐキンジもまた化け物だ。なんでも両手の人差し指と中指で銃弾を挟んで軌道を逸らしたとか。

 それで突き指で済んでるからまた化け物。その事をそのまま言葉にして感想としたら、

 

「猿飛、お前もたいがい化け物だよ。あの距離で狙撃銃の銃弾を避けるって、どんな反応速度だって話だ」

 

 こうだ。こっちは『避ける』のワンアクション。しかも条件反射だ。

 だがお前はなんだ。『見る』『構える』『処理』のスリーアクションだぞ。次元が違うわ!

 また1つ、キンジ超人伝説に歴史が刻まれたのを認識しつつ、崩れた正座でドラグノフを抱くレキを見ると、そのレキが、涙を流していたのだ。

 

「もう……聞こえないのです。風の声が――もう、聞こえない。風はもう、何も言いません」

 

 風、か。

 レキもどうやらオレと同じで、今まで自分で考えて歩んできてなかったんだろう。風が命じるままに。

 オレで言う、幸姉のような存在に、ずっと従って。

 

「いいじゃないか。オレもやっと自分で歩き出したけどさ、言われた通りの道を歩くより、ずっと楽しいよ」

 

「だな。風は気ままに吹くもんだろ。それに――1人じゃない。俺が一緒だ。何たって、お前が学校にチーム登録を提出しちまったからな。この間、勝手に」

 

 オレとキンジの言葉に、レキは黙っていた。

 しかし、それからレキは顔を上げて、しばらく1人でその綺麗な声で不思議な歌を歌い始めて、オレ達はそれが終わるまでその歌に聴き入っていた。

 これは風との別れの歌。そんな気がしたオレは、歌い終わってこちらに振り返ったレキが、ほんの少しだけ、微笑んでいたような、そんな気がしていたのだった。

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