緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Reload2

 入学早々から担任の自由なスタイルに振り回されるオレ達A組。

 現在は入学式をフケて古館遊姫先生によって怪しげな遊びに強制参加させられている。

 

「んじゃ遊姫先生考案の『鬼ごっこ』ルール説明な。まぁ今回は初めてってことでシンプルな『追い込み』ルールでやるか」

 

 古館先生はそれから説明は1度だけと付け足してから、その追い込みルールとやらの説明をし出し、拒否権のないオレ達はとりあえず真剣に説明を聞き出した。

 

「追い込みはまず『逃走者』を1人決めます。あとは全員でそいつを捕まえる。以上」

 

 えっ? それだけ? それなんていじめ……

 

「はい先生! どないすれば捕まえたことになるんです?」

 

「いいね千雨ちゃん。簡単簡単。動けなくしてここに連れてきたら終了」

 

「逃走者の勝利条件はどないなんです?」

 

「愛菜ちゃんも良いカンしてるね。今回は制限時間制と全滅制でいくかね。逃走者は制限時間内を逃げ切るか、鬼を全滅させれば勝ち。鬼は見えるところに必ずこのステッカーをつけて、それを逃走者に取られたら脱落。素直に教室に戻ってきな」

 

 大雑把なルールを言ってから千雨さんと愛菜さんの質問に答えた古館先生は、質問に答えながら教壇から直径10センチくらいの『鬼』と書かれたシールタイプのステッカーを取り出して見せてくる。

 というかルール説明されてないこと多い。何が以上だったんだか。

 

「でもまぁ、初日から怪我人が多数ってのもあれだからさ、得物はなしね。使っていいのは徒手格闘のみのCQC(近接格闘戦)。行動範囲は校舎内のみ。外出るなよー。制限時間は1時間。それじゃ逃走者決めるよー!」

 

 それを最後の説明とばかりにスラスラと述べてから、なんか軽いノリで逃走者決めが始まる。

 

「でも君らに決めさせてジャンケンとかで情報科の子とか逃走者にされてもつまんないし、遊姫先生が勝手に決めちゃいます。なんかいきなり男子から不評を買った猿飛京夜君! 君が逃走者だ!」

 

 ズビシッ!

 そんな効果音でもしそうな指名で逃走者にされたオレ。

 途端、教室内の男子から物凄い殺気が立ち上がり、やる気のゲージがMAXに。

 完全に『殺る気』だ。それならいっそ……

 

「それじゃ逃走者は今から5分やるから逃げて。その間に鬼はこのステッカー貼って作戦会議なりなんなりしなさい。逃走者を捕まえてここに連れてきたら、そいつは逃走者に好きな命令を1つして良しとする」

 

「えっ! 先生! それいま言うんですか!」

 

「だって君、テキトーに捕まって終わりにしようとしたでしょ。探偵科教諭ナメんなよ?」

 

 くそっ!

 開始早々に幸姉に捕まって終わりにしようとしたのに、それだと捕まるわけにはいかなくなった。

 何故ならこういう報酬がつくと幸姉は……ぎゃあ! すでに目が「なに命令しようかな」ってなってるし! 愛菜さんも千雨さんも「面白い」みたいな笑顔になってる!

 ダメだ……この鬼ごっこ、勝つしかない。

 

「……先生、逃走者が勝った場合の報酬は?」

 

「おっ、いいね。じゃあこのクラスの全員に共通の命令を1つできるってことで。それじゃ行けーい!」

 

 もうやるしかない。男子に捕まったらほぼ死ぬ。

 幸姉達に捕まったらなに命令されるかわからない。これは酷い……

 入学早々から酷い目に遭ったオレは、先生の合図で教室からダッシュ。

 とにかく1時間逃げ切ることに集中し出した。

 というか教室出て隣のB組覗いたら、普通にみんないるし。この学校自由すぎないか?

 などとどうでも良いことを考えたのを最後に、まずは校舎内を走りながら散策。

 ただ逃げるだけだと、袋小路に追い込まれたら終わりだ。

 なにせ相手はクラスメート約30人。うち前線の学科の生徒が……ああ! 自己紹介途中から聞いてねぇ!

 とにかく約半数は強襲科とかその辺だ。あとはバックの情報科とか装備科、車輌科。

 そこら辺にタイマンで負けるとは思わない。SSRもCQCだけならほぼ無力だろ。幸姉はそうも言ってられないけど。

 さて、向こうが連携してくるとすれば、数人のグループに分かれての蹂躙……ローラー作戦といったところか。端から端へ逃げ場を奪っていく。

 2人1組として約15組。半分がバックと考えれば実質的には7、8組。

 その数でローラー作戦をやるには少々穴ができる広さはあるな。

 生徒手帳にあった校舎の見取り図を見ながら冷静に構造を把握したオレは、逃げ始めて5分が経ったことを確認すると、とりあえず2階の階段のところで待機。

 校舎は屋上付きの地下1階含めての5階建て。逃げ回るには階段は必要不可欠だ。

 校舎は中央に中庭を据えてドーナッツ型に造られていて、地上階は校舎を1周できるが、それは単に挟撃に合いやすいことを意味する。横の動きだけでは逃げられない。

 地下階は大きなT字路の廊下と専門学科用の訓練スペースと外への出入り口しかないから今回は使わない。

 あとはステッカーの貼る位置が気になるところ。

 取られづらい場所となると、やはり背中。追う側が背中を向けることはまずないからな。

 逃げてるだけではあちらの数を減らすのは困難だろう。

 だが、数を減らさなければ1時間も逃げ続けるなんて不可能に近い。消耗戦で1人のオレが不利なのは明白だからな。

 とにかく発見された時の最初のアクションは決まっていた。出会い頭で相手が2人以下なら倒す。以上なら逃げる。これでいい。

 そうして待ち構えていると、1階の階段の方に気配を感じた。わずかな足音から察するに、数は2。

 それならと2階の階段を踊り場を通らずに飛び降りて静かに着地し、1階階段の両サイドの角に隠れてる2人の内、1人を素早く拘束し後ろ手に取ると、もう1人を捕らえた武偵で距離を取る。

 そのあとすぐに予想通り背中に貼られていたステッカーを剥がしてリタイアさせると、その武偵を前に押し飛ばして、前の武偵が横へ躱したところを逃さず床に沈めてステッカーを剥がす。ふぅ、まずは2人。

 しかしそこで油断もしてられない。何故ならこの2人、見れば耳にインカムをはめていて、今ので居場所を知られたに違いない。

 だがこれはオイシイ。オレは失格になった強襲科の男子2人からそのインカムを奪い、1つは自分の耳に、もう1つはポケットにしまって再び動き出す。

 期待通り、インカムからは逐一で機動組の場所と移動経路が報告されて、オレはそれを参考に逃走ルートを模索。

 しかしこの中に今のところ幸姉や愛菜さん達の声が聞こえない。どういうことだ?

 とはいえ数を減らすチャンスを棒に振るわけにもいかない。

 

「ターゲットを発見。場所は3階多目的ホール」

 

 まだ声変わりが完了してないオレの声は幼さがあるが、それなりに太くすることもできるので、その声でインカムを通して誤情報を流す。

 先程までの報告から、誰がどこからそこへ向かうかを最短距離で予測しその道中で待ち伏せ。確実に鬼の数を減らす。

 結果、待ち伏せで仕留めたのは強襲科と諜報科の2人組。

 しかしそれに少し手間取ってしまい、さっきのが誤情報だったことが知れ、挙げ句予測してなかった経路から来た鬼に発見されてしまい、逃走。

 その間に手に入れて耳につけていたインカムを外して廊下に投げ捨ててみせ、階段と角を使って振り切ることに成功。包囲前に振り切れなきゃ危なかったな。

 それから少し消耗した体力を回復する間に、奪っていたもう1つのインカムを耳に装備。

 

『……つはインカムを捨てた。また報告を頼む』

 

 どうやらグッドタイミングだったらしい。

 先程の予期せぬ発見はたまたまだが、これは作戦の内だった。鬼の前で『あえてインカムを捨てる』という行動にはこういった意味がある。

 情報撹乱に用いたインカムを敵の前で捨てれば、敵はもうオレがそれが出来ないと思い込む。

 そこで今度は撹乱に用いずに聞くことだけに用いて相手の情報を掴む。

 幸いインカムは小型で片耳に取り付けられるタイプだから、注視しないと付けていることはわかりにくい。

 さて、これであとはだだ漏れの情報の元に鬼を狩っていく。追われる立場?

 違うぜ。立場はいま逆転した。

 

「おったで! 2階、2年生の教室前!」

 

 それから鬼の位置情報を元に、おびき寄せの作戦を実行したオレは、まずあえて見つかり逃げに徹すると、1階へと降りてその先でぶつかる鬼に気付いてないように衝突地点へと駆けて、ちょうど角で待ち構える鬼に正確な回避行動をやってのけて、すれ違い様にステッカーを取り撃破。これで6人。前線の戦力はだいぶ削った。

 しかしそこで終わると後ろを追いかけてくる鬼2人と別の鬼に捕まる。

 なので時間的にそろそろ入学式も終わるだろうと踏んで、1階の体育館へと行ける廊下へ行けば、ちょうど入学式に出ていたC組の生徒が教室へと戻ろうとしていたので、オレはそのままその中に突っ込む。

 なんだなんだと道を開ける生徒の中、オレはその中心でザッと止まり、後ろを追いかけていた鬼2人と対峙。すぐに元来た道を帰る。

 そして鬼2人と激突する前に、横の窓枠の下に足をかけて跳躍。

 鬼2人を飛び越えてすぐに横に避けていた生徒達に紛れて、一瞬見失った隙を突いてステッカーを剥がした。

 これで前線の数は半分くらいには減ったか。

 

「おもろい子がおりますなぁ」

 

 ――パチンッ。

 それから次の行動をどうするか考えてると、不意に後ろから聞き覚えのない女性の声と何かを閉じた音が聞こえて、そちらを振り向くと、そこには銀色のショートカットで開いてるのか疑う線目の閉じた扇子を持った女子生徒がいて、その顔には何故か笑顔があった。

 

「『今朝も』なんやさりげなく逃走犯を捕まえとりましたが、今度は逃げる側どすか。忙しおすな」

 

 おそらくはオレと同じ1年生でC組。

 だがわかった。今朝の視線の正体はこの人だ。

 肩をポンポンと扇子で叩きながらに語るその女子生徒は、今のやり取りを見てオレの状況を把握し、その状況を面白そうにしていた。

 

「そない警戒せんでもなんもしまへんて。それより黙っとると危ないんとちゃいますか?」

 

 この人に意識を向けていたら、自分がいま置かれてる状況も一瞬忘れていた。

 言われてからオレは目の前の女子生徒を無視して再び駆け始めた。

 そうだ。今は鬼ごっこに勝利しなきゃ。

 

「『駒』としては優秀そうどすな」

 

 去り際にボソッと聞こえたその声は、妙にオレの耳に残った。

 なんなんだあの人……入学早々にまた変な人に目をつけられてしまった。

 残り時間はあと30分。

 次にオレが起こすアクションは結構大胆なもの。

 おそらくは支援系学科の生徒は教室から出ずにサポートに徹していると予測し……というかこれだけ校舎を動いて鬼との遭遇率が低すぎるから、1ヶ所に固まってるのはほぼ確定的。

 だからこそ拠点への突攻は奇襲としてはなかなか。一網打尽にできるかもしれない。

 思いつつA組の教室前まで行ってみると、ガード的な役回りの鬼は見えない。

 中にいたら若干厳しいが、インカムから聞こえる情報からは教室内からの報告が上がらないので、たぶんいないと信じたい。

 戦闘員がいないとは言っても、連絡手段は当然万端なので、時間をかければ救援によって教室に閉じ込められて終了。電撃戦ってやつになる。

 それで意を決して教室の後ろのドアから侵入したオレは、すでに脱落して談笑してる鬼達を教室内で捉えて、次に教室の奥二隅に机と椅子を積み上げて出来てる2つのバリケードを見てちょっと怯む。

 これに突っ込むにはリスクが高そうだ。

 

「来たよ! 教室!」

 

 教室のドア付近でどうするか考え直す間に、バリケード内の女子生徒がそんな声をあげて、おそらく救援を呼んだ。

 これは予測された上での陣形だな。バリケードが2つというのもイヤらしい。

 2つを壊して鬼を減らしてる間に救援が到着してしまうからな。こんな先読みしたような動き、まだ情報量の少ないオレに対しての布陣ではない。

 そう結論付けてから、バリケードの奥に見える鬼の人数をパパッと数えて、その中に幸姉と愛菜さん、千雨さんがいないことを確認してから急いで教室を脱出して、インカムの報告から逃走ルートを導き出すが、最悪なことに安全なルートが見つからなかった。どこを通っても鬼とぶつかってしまう。

 仕方ない。考えたオレは隣のB組の教室に後ろから音もなく侵入してやり過ごす。

 しかしドアはどうしても開閉しなくてはいけないため、当然のごとくB組の生徒と担任の夏目先生の視線がオレに集まる。あ、やべぇ……夏目先生って確か元武偵庁……

 

「なんだ少年。さっきから騒がしいと思っていたが、遊姫のやつがさっそく何かやらせてるな? 逃げてるところを見るに鬼ごっこの『追い込み』だな。大抵は逃走側が速攻死ぬんだが、どのくらい逃げてる?」

 

「あ、えっと……3、40分くらいですかね」

 

「よく逃げてる方だな。銃声がないからCQCのみなんだろうが、それでも上出来だ」

 

 どうやら古館先生のこれはずいぶん有名らしい。

 確かに考えてみれば武偵としての能力を『使わされてる感』はある。

 おそらく古館先生はこういった遊び形式の授業を好んでやる性格なのだろう。

 

「でもあんまり頑張りすぎるなよ? 遊姫は面白そうな生徒がいたらお気に入りにして授業で『遊ぶ』からな。入学早々そのリストに載りたくはないだろう? 少年」

 

 確か古館先生は探偵科の先生だって言ってたから問題ないよな。

 そう思っているオレに対して、夏目先生は怪しい笑みでオレを見て甘いなと一言。読心術ですか……

 

「遊姫は探偵科の教諭だが、生徒数も多くはないからな。学科の枠を越えて合同授業なんて週に2、3回はあるぞ」

 

 うげっ……マジかよ……

 あの先生の意味のわからないハイテンションはちょっと合わないんだよな。目をつけられたくない。

 夏目先生の言葉によって渋い顔をしたオレは、そのあと横の廊下を走る足音を聞き身を屈め、意識をそちらに集中。隙を見てここから出なきゃな。

 

「ふむふむ、君が今年唯一のインターンか」

 

 と、オレが廊下に意識を向けた矢先に、目の前で立ち膝の状態で声をかけてこちらを至近距離から観察する女子生徒が現れる。

 背丈は立っても140センチくらいか。

 明らかに場違いな幼さを感じる可愛い容姿に、綺麗な茶髪を3つ編み……いや、3つ編みにした髪を3つ使ってさらに3つ編みにしている。なんか手間がかかってるなぁ。

 そして膝の上には開かれたノートパソコンが乗せられていて、紐で首から補助もしている。

 

「編入試験で上級生を倒してまうとはなかなかやな。あ、私は宮下雅。雅でエエけど、これでも今年で16歳やから、ちゃんとさん付けせなメッ! やからね」

 

 可愛らしい声でそんな自己紹介をしてきた雅さんは、それからオレに名乗らせようとしたのか、沈黙。

 しかし名乗る前に夏目先生がそれを遮る。

 

「ミヤ、自己紹介とか今する時間じゃないんだけど」

 

「エエやんミッちゃん。細かいこと気にしとったら婚期逃すで? 現に24になった今も彼氏おらへんみたいやし」

 

「ミヤ、お前明日からしばらくプロファイリングの方に回すけど、文句はないな?」

 

「それは堪忍や! ミッちゃんめっちゃ美人さんや! 惚れてまうやろー! 男子もみんなそう思うやろ?」

 

 何やら知り合いっぽい雰囲気の夏目先生と雅さんは、割とタメ口でそんな会話をして、雅さんはクラスの男子を強制的に巻き込んで巻き返しを図った。

そりゃ元武偵庁の武偵相手に下手なことは言えない。

 男子も雅さんに振られて慌てて「夏目先生さいこー!」とか「付き合ってください!」とか言い始める始末。

 そんな中で男子を煽る雅さんを後ろからひょいっと両脇を持ち上げた人物がいて、足が浮いてしまった雅さんはほえ? と頭上を見上げた。

 

「そんくらいにしとき、ミヤ」

 

「さっちん! その持ち方やめてや! スカートの中見えてまうから!」

 

 確かにオレの位置からだとモロ見えだが、そこはノートパソコンが上手い具合にブラインドになってセーフ。

 しかし容疑をかけられたくないので立ち上がり同じくらいの目線になった雅さんを見て、それから後ろのさっちんと呼ばれた人物を確認した。

 身長は170センチくらいあり、水色の長い髪をポニーテールにしてまとめて、キリッとした目と端正な顔立ちにモデルのような体型で、いわゆるカッコ良い系の女子生徒。

 現在155センチのオレからすれば結構迫力のある人だ。

 

「ミヤは情報通やさかい、知りたがりなところあんねん。ぐいぐい距離詰めてくるんは許したってな」

 

「いえ、別に気にしてません、けど……」

 

「ほれ、『京くん』もこう言うとるやんか。っちゅうか下ろしてやさっちん!」

 

「名前知っとんのにわざわざ自己紹介させようしとる小娘はこうや!」

 

 そう言ったさっちんと呼ばれる女子生徒は、持ち上げたままの雅さんをその場でぐるんぐるんと回し始め、目が回った辺りで床に下ろして解放。

 雅さんはフラフラとしながら教室のドアに手をかけるが、ふらつく体をコントロールできずにドアを開放。廊下に倒れ込んでしまった。

 それによって廊下にいた鬼連中がなんだなんだと視線を集めたため、一転してピンチな状況に。何してくれてんの!

 

「おお進藤。お前なかなかに鬼畜だな。逃げ隠れてるやつを部外者が追い込むとか性格ひねくれてるとしか思えん」

 

「せ、先生! 誤解される言い方せんといてください! 私はそないなつもりあらへんかった!」

 

 まぁ雅さんがこんな動きするなんて予測できる方が凄いが、そもそもさっちんさんが回さなきゃこんなことにはならなかったわけで……

 と、悠長に考えてる時間も鬼連中がこちらに近づいてくるので、もう覚悟を決めて2、3人仕留めて逃げるしかない。

 それで動き出そうとしたオレに対して、さっちんさんが両手の平を合わせて謝罪してきた。

 

「堪忍な。私は進藤早紀言うねん。これで捕まったら責任は取るさかい、何でもゆうてな?」

 

 いや、そんな責任とかは……

 返事を返そうとしたのだが、これ以上は教室を出るタイミングを逃すので、左手でフリフリ。

 別にいいですと表してから教室を勢いよく出て、無警戒で近寄ってきていた鬼2人を真っ先に倒して、それから廊下で倒れる雅さんを教室に押し返して教室内に一礼してからドアを閉め、「いたで! やってまえ!」などと叫ぶ鬼2人から逃走。

 階段を登って、踊り場からUターンして飛び降りて2人いっぺんに巻き込み転げ落としてからステッカーを奪い取り撃破。

 結果として挟み撃ちなどを受けずに4人撃破できたので、雅さんと早紀さんには感謝すべきか。いや、結果オーライだしそうでもないよな。

 とにかくとして、残る前線の鬼は教室にいたバック組の人数から逆算して4人。

 それにおそらく別行動の幸姉と愛菜さん、千雨さんで7人だな。

 さすがにここまで来ると疲労が出てくる。1時間逃げるというのは、想像よりしんどい。

 『経験値』として持っていなければ、神経をすり減らしてすでに捕まっていただろう。

 でもまさか猿飛の修業がこんなところで役に立つとは思わなかったが。

 廊下の角に身を潜めながら2年前に行った地獄のサバイバルを思い出してぞぞぞ、と寒気を覚えたのを無理矢理振り払い、また頭を切り替える。

 あれで何回死にかけたっけな……じゃなくて!

 それから約10分かけて慎重にかつ、大胆に幸姉達以外の数が減ったことによって分散していた残りの前線の鬼4人を各個撃破して、残り時間が10分を切る。

 あとは幸姉達に遭遇しなければ万々歳なんだけど。

 しかしそれは叶わない願いとなった。

 やはり逃げるなら階段を利用するべきと思って、そこまで行ってみれば、そこには腕組みして仁王立ちする幸姉の姿があり、キョロキョロと周りを観察していた。

 仕方なしに校舎に2ヶ所ある階段のもう1つに向かってみれば、そこに今度は愛菜さんの姿が。

 ここは1年の教室がある3階だが、階段を押さえられてしまった。

 いやだが、幸姉達がオレの居場所をわかってやってる感じでもない。

 たぶん1階から順にあぶり出しでもやり始めていたのだろう。

 となると姿の見えない千雨さんがこの階を徘徊……

 

「おったで! 京ちゃんはっけーん!」

 

 してたー!

 愛菜さんの様子を確認していたら、直線廊下の端っこから千雨さんの大声が響き渡り、それを聞いた愛菜さんもぐりん! とこちらへ向き直り、一目散に駆け出し、千雨さんも距離を詰めてきた。

 2人とも陸上短距離走者レベルに速い。このままでは挟み撃ちに遭う。

 だが、これは鬼ごっこ開始当初から予測していた1つ。最悪挟み撃ちにあっても、片方だけ相手して撃破できれば、突破し逃げられることを想定していた。

 だから1対1ならむしろありがたいくらい。

 はずだったのだが、現実とは残酷なもので、そうそう上手くはいかなかった。

 何故なら接近してきた愛菜さんも千雨さんも、ステッカーを自分の胸に堂々と貼っているから。

 これではどうあがいても撃破には愛菜さん達の胸を直接触ることになる。卑怯だ!

 そうやって躊躇ってるうちに2人に挟まれてしまうが、愛菜さんも千雨さんもひと息に飛び込めないギリギリの間合いで距離を取り、あえてオレに選択肢を与えて停滞させてくる。

 くそぅ、突っ込んできてくれれば何がなんでも躱して突破したのに……

 

「そのステッカー、誰の案ですか?」

 

「これは幸音や。京ちゃん思春期突入しとるからあたしらの胸触るんは抵抗あるやろって」

 

「千雨は触るとか言うだけの胸ないやん。中等部の3年間でカップ数も上がらん万年Aカップのつるぺったんやろ」

 

「うっさいわデカパイ! なんやEカップって! イヤミのEかっちゅう話や! それにデカイと動くたんびに揺れて痛そうやし、ホンマご愁傷さまやわ」

 

「ないよりある方がエエに決まっとるやろ。男はみんなおっぱい好きやねんで。そない揉んでも揉んだかわからん胸やと付き合う男が可哀想や。それとイヤミはIやアホ。あ、Aはアホやね。プッ!」

 

「誰がアホや! デカパイなんて所詮男を引っかける道具やねん! それで釣っても長続きせーへん言う話や。そっちの方が涙出てくんで」

 

「それあんた全国の巨乳敵に回したで! 世の中巨乳がコンプレックスの女がどんだけおるか千雨は考えたことあんのかいな!」

 

「貧乳かてコンプレックスの女がどんだけおるか考えたことあんのかいな!」

 

 えっ……なんでステッカーの話から胸の話になってるの……

 でもこれなら横抜けそう……

 

「なら京夜に好みでも聞いてみればいいんじゃない?」

 

 それで実際に千雨さんの横を抜けようとしたところで、その後ろから幸姉も合流。

 愛菜さん達同様に胸にステッカーを貼っていて、さりげなく逃げ道を潰してくる。

 

「それエエな。京ちゃんは巨乳派? 貧乳派?」

 

「えっと……オレは胸にはこだわりは……」

 

「嘘はあかんで京ちゃん! 今朝愛菜に抱き付かれた時、胸押し付けられて嬉しそうにしとったやんか!」

 

「そんなことない……ですよ」

 

「エロガキやな。巨乳好きのエロガキや」

 

「だからしゃーないねんて。男はみんなおっぱい好きやねんから。京ちゃんエエんやで? 巨乳好きでも恥じることないねん。健全そのものや!」

 

 なんか勝手に巨乳好きにされた……本当に胸の大きさとか好みに入らないのに……

 そんな言い合いに無理矢理参加させられてうなだれた瞬間、オレの視界は天井へと向きを変え、気付いたら廊下に倒されていた。

 やったのはもちろん幸姉。幸姉は倒れるオレの額に右手を置き、腹に乗っかる形でマウントポジションを取って一言。

 

「さて、京夜は誰に捕まりたい?」

 

「…………できれば無理な要求のこなさそうな愛菜さんがいいです」

 

 その後両腕に幸姉と愛菜さんが抱き付いた状態で千雨さんが背中におんぶされるという意味不明な拘束――抜け出せなかったから凄いが――で教室に連行されたオレは、開始前に取り決められた通りに捕まえた愛菜さんの命令を聞く。

 

「ほんなら、これからずっと仲良くしてください。お願いします」

 

 言い渡された命令は命令ではなかったが、オレは本当に無理な要求をしてこなかった愛菜さんに感謝しつつ、そのお願いを受け入れて、慌ただしい京都武偵高の初登校は幕を閉じたのだった。

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