あの濃すぎるくらいだった愛菜さんの家での一件も、そのあとの祇園祭の警護任務も無事に乗り切ってなんやかんやとやっていたら、いつの間にか夏休みも終わり、季節も夏から秋へと移り変わる9月へと突入。
この時期には2年生がこれから先、武偵として活動する上で永久的に協力関係でいられる武偵チームを結成するために、その編成をよく考えるための修学旅行Ⅰが行われ、大阪武偵高の2年生と一緒に関東――ほぼ東京かその周辺――へと2泊3日で出張っていなくなる。
来年はオレも行くことになるのだが、幸姉とオレは卒業しても武偵としての道は進まないことは決まっているので、ただの観光になるだろう。
そんな修学旅行Ⅰで2年生がいなくなって、すでに一人前の1歩手前で、日々を依頼や任務で忙しい3年生があまり授業にも顔を出さない時期に、これはチャンスとばかりに元気になったのが、オレ達A組の担任、古館遊姫先生。
古館先生は、敷地内のほとんどに1年生しかいないこのタイミングで、ご自慢のお遊びを開催。
これまで先生のお遊びと称した授業に嫌々ながらも参加させられてきた身としては、この上なく嫌な予感しかしなかったが、それを拒否する権利を有さないオレ達生徒は、半ば諦めて古館先生のお遊びに参加させられた。
今回の強制参加のとばっちりを受けた学科は、強襲科・諜報科・探偵科・衛生科・SSR。それから別の内容で情報科もらしい。
そして問題のお遊びの内容は古館先生が自らバリエーションを誇る『鬼ごっこ』シリーズ。その中の『追跡と逃亡』。
追跡と逃亡は、参加者全員が捕まえる標的が違い、1人の標的を追い、また1人の標的に狙われるといった状況になる。
その関係を数珠繋ぎにすれば、1つの大きな輪になるため、別名を『サークル鬼ごっこ』とも言う。
基本的な流れとしては、標的を無力化して、右腕に予め貼ってある支給品のGPS付校章ステッカーを剥がして自分の左腕に貼り、次はその標的が狙っていた標的を狙い、そうして残り人数が2人になるまで続けるといったもの。
GPS付のステッカーを使うのは、もちろん古館先生が残り2人になったかどうかを自分が動かずして知るため。
しかし今回は古館先生には珍しく、最後まで生き残った2人と、撃破数の一番多かった生徒に金一封が贈られるといったものがあり、そうなると目の色が変わるのが大多数の武偵。
オレとしては大迷惑なことだが、それでさっさと脱落するといったことをするのも許されない。
報酬を与える一方で、古館先生は撃破数が1未満の生徒は来月の依頼の報酬は教務科へ全て献上の上で受けるという最悪の条件を出しているのだ。
現1年生の各学科メインの人数は、強襲科25人。諜報科16人。探偵科19人。情報科12人。装備科10人。車輛科12人。衛生科7人。SSR4人の計105人。
それで今回の参加者は依頼でいない人を除いて62人。
全員が撃破数を分け合ったとしても、最低2人――最初にステッカーを取られる人2人か、前者1人に最後まで生き残ってもステッカーを取れない人――はそのとばっちりを受けることになる。
犠牲者が出る以上、このお遊びは真面目にやらないわけにはいかなく、誰かが金一封を狙えば、その分犠牲者が増えるという性格が悪いとしか思えない古館先生の条件の出し方には、悪意しか感じなかった。
そういった内容の話を前日にされたオレ達参加者である1年生は、今朝になって個別で最初の標的を古館先生から言い渡されてステッカーを貰い、1日をいつも通りに過ごしながら鬼ごっこに興じることになった。
「個人的には京くんと眞弓に賭けとんのやけど、撃破数となると悩みどころやね」
と、A組参加者が全員ステッカーを配布されて教室へと戻った段階で、何故かB組の雅さんがオレの席を陣取って、床に届かない足をプラプラさせながらにオレや幸姉、愛菜さん達に唐突な話をしてきた。
「あの、何の話をしてるんですか?」
「京くんや。今回なんで情報科が別枠で参加しとるか考えてみたんか? ミッちゃんもあれで『ゆうたん』と仲エエから、裏で分け前とか色々企んどるんやで。そんで情報科もついででそのとばっちり受けてん」
ゆうたんとは古館先生のことだが、先生にたん付けするのは雅さんくらいだろう。
今回のペナルティーは、1ヶ月報酬を教務科へ献上することだが、その全部が古館先生の懐に収まるのは確定的に明らかだったのだが、どうやら夏目先生も1枚噛んでるらしい。
あの2人の先生が悪巧みをすると、とことんやるというのは京都武偵高では有名らしいが、今まではナリを潜めていたということなのか、はたまた大規模な悪巧みはそんなにやらないのか、オレが遭遇するのは初めてということになる。
それで先ほどの雅さんの言葉を思い出せば、オレと眞弓さんに賭けてると言っていたところから推測するに、おそらく情報科は賭博でもやらされているんだろう。
「……賭博って、どんな感じなんです?」
「生き残る2人と撃破数の一番多い人を当てるだけやねんけど、生き残る2人は賭け金で1万円取られて、しかもピタリ賞やないとミッちゃんの総取りやし、撃破数は早いもん勝ちの1人指名制で、一律2000円やから、勝ってもプラスで22000円にしかならへん。ミッちゃんこっちに勝たせる気ほとんどないねんで。自分は掛け金払わんし、卑怯やねん」
と、オレの問いに対してスラスラと述べた雅さんは、最後にプンプンと効果音の付きそうな膨れっ面で腕を組んだ。
「情報科のとばっちりはまぁエエとして、雅ぃ、何で生き残る2人が京ちゃんとあの線目な・ん・や?」
とりあえず雅さんの話の全容が見えたところで、今まで黙っていた愛菜さんが、雅さんの後ろへと回って左右から頭をがっしりと押さえてぐわんぐわん動かし始めた。
どうやら自分の名前が挙がらないで、眞弓さんの名前が挙がったのが不満だったらしい。
愛菜さんに頭をミキサーされた雅さんは、解放されると同時に机へと倒れ込んでしまい、今日はバリバリに男勝りで、先日のランク考査において強襲科でちゃっかりAランクを取得した幸姉が、心配そうにほっぺをつついていた。
「でもなんで愛菜さんは雅さんの予想に文句を言うんです? あくまでも予想ですよ?」
「京ちゃんはわかってへんなぁ。競馬とかの合法賭博でも、下馬評とかあるやろ? んで、ここは武偵高で、その下馬評を作るには自分で色々調べなあかん言うこっちゃ。そんで誰が生き残る可能性が高いかを推測する。ただの賭博やけど、当てるためにはデータ収集を必要とされる情報科にはうってつけの内容やってこっちゃ」
「その情報科の1年で実質トップの実力を持っとる雅の予想が最も信頼ある下馬評やってこと。それで名前が挙がらん言うんは納得したないってだけや」
なるほどなぁ。
千雨さんの説明と愛菜さんの補足で納得するオレと幸姉。
そこでちょうど教室に古館先生が入ってきて、どうにも自分のお遊びが楽しみらしく、いつものように低血圧によるローテンションな様子はなく朝から絶好調で、その様子を見た雅さんが物凄いフレンドリーに「今日は元気やなゆうたん!」と言って、古館先生と2、3言葉を交わしてから教室を出ていってしまった。
それを見届けてから空いた席に着いたオレは、古館先生のハイテンションに苦笑しつつも、これから始まる鬼ごっこに意識を向けていった。
そういえば雅さんの撃破数の予想、誰か聞いてなかったな。誰って予想したんだろう。
古館先生による朝のホームルームが終了すると同時にスタートした鬼ごっこ、追跡と逃亡。
午前授業は一般教科なので、普段なら何気ない会話で賑わいを見せるのだが、今回ばかりはそうもいかないようで、教室にはすでにピリッとした空気が流れていて、皆が皆、周囲への警戒をしていた。
情報科と装備科と車輛科の生徒は関係なくいつも通りなのだが、それ以外の学科の生徒は、誰が自分を狙っているかわからないから、いつ狙われても動けるように各々が牽制し合っていた。
「そんで京ちゃんのターゲットは誰なん?」
そんな中で隣の席の愛菜さんは、こんな空気などお構いなしにオレへと笑顔で話しかけてきて、その話に食いついた幸姉と千雨さんもオレ達の方に振り向いてきた。
というか食いつかれても教えるわけないんですけど。
「いいんですか? 一応オレも愛菜さん達の敵ってことになってますけど、呑気に話なんてして」
「エエんやて。こないに人の多いところでアクション起こすアホがおったら、そっちの方が問題やし」
「何で自ら『あたしはこいつ狙ってますよー!』って言わなあかんねんって話やろ」
「殺るならもう少し利口に殺るって話よ、京夜」
3人が3人、オレに言うというよりも、異常に警戒する他の人達に言うようにしてそう話すので、それが聞こえたクラスの参加者の何人かは、それで苦笑しつつピリッとした空気をわずかに緩めて何食わぬ顔をして姿勢を変えていた。
実際のところ、この追跡と逃亡では、ただ標的を狙って、自分を狙う相手を見つけて身を守るだけでは生き残れない。
入学式の際にオレがやらされた『追い込み』では、逃げる側に要求される能力が『危険予知』『強襲』『状況判断』と色々。
追い込む側でも『連携』『索敵』『作戦立案』などと必要とされる能力が非常に多い。
そうして何気ない会話を幸姉達としたあとは、いつものように授業を受けていたのだが、この時にも情報戦は行われている。
追跡と逃亡において、まず最初にやることは、誰が自分を狙っているかを知ること。
標的はすでに明確にされてる以上、そちらをどうするかなど後回しでいい。
とはいえ人間というのは、何かを狙えと言われれば、意識的にしろ無意識的にしろ、必ずどこかで違和感が生じる。
わかりやすいところでは視線がそうだが、そういったものを注目して見れば、誰が誰を狙っているかを大雑把にでも予測することが可能となる。
その予測を1つの線とするなら、それをいくつも作り出して繋ぎ合わせていくことで、1本の線になって、端と端が合わさり円になる。
つまりはこの鬼ごっこにおける全体像が見える。これがこの追跡と逃亡の最重要ポイント。
参加者の脱落は右腕のステッカーの有無で確認できるし、全体像が見えていれば、そのぶん前後の敵に集中できるということだ。
それを最も成功させやすい方法は、自分の前後の生徒が誰を狙っているかを順を追って調べていくこと。
安全性などを考えれば、自分を狙ってくる生徒をマークするのがベスト。
相手への牽制をしつつ、その後ろで狙う相手を調べられるからだ。
だからといって見える情報を放っておくことも勿体ない。
だからこそこういった授業中に得られる情報を整理して、線の数を増やしておく。
どのみち午前中はこの情報戦が主流になるはずなので、ここでアクションを起こすやつがいれば、さっき愛菜さん達が言ったように、相当のアホか、はたまた相当のやり手かだ。
行動が早ければ、獲得したステッカーを左腕に貼る関係上、誰が仕留め仕留められたかが明白になるしな。
あとは参加者同士での情報の共有も視野には入るが、こちらは可能性としては低い。
あってもせいぜい2人組。自分達が生き残るための共同戦線といったところが限界だ。
むしろ厄介なのは情報科だろう。
今回は賭博参加ではあるが、自分が勝つことを強く望むならば、賭けてる生徒が勝つように仕向けることもしかねない。
古館先生も夏目先生もその事について何も注意をしていない辺りでも、わかってて黙認してる可能性が高い。下手をすれば出来レースにもなりかねないわけだ。
もう1つ、可能性としてあるのは、ペナルティーを回避するだけの共同戦線。
そういった消極的な作戦ならば、3人以上の徒党で標的を倒して回ることも考えられる。数の暴力とはよく言ったものである。
考え出せば様々な予測が立つわけなのだが、こればかりは蓋を開けてみないことにはわからないため、とにもかくにもまずは情報収集が先決。
幸いというならこのクラスにオレの標的がいないため、授業中なら標的に悟られることなく情報収集ができ、クラスの参加者を視線などで攪乱もできること。
それら様々な情報戦を静かに繰り広げて最初の授業が終わってみれば、確定とはいかないまでも、A組にオレに探りを入れてくる生徒はいなかった。
となれば後手に回るのは癪なので、早めに動いておく。
結論を出したオレは、今にも抱きついてきそうだった愛菜さんに「トイレへ行く」と言って回避すると、教室を出てなるべくゆっくりと目的を達成する。
この状況下でトイレのような狭い空間に入るのはある意味でチャレンジャーと言える。出入り口が1つしかないからな。
だからなのか、トイレにはオレしかいないし、何かの偶然であってほしいが、装備科と車輛科の生徒の姿も見えなかった。飛び火を恐れたか?
と思っていれば、どうにも悪い予感というのは当たるもので、用を足した辺りで2人の男子が出入り口を塞ぐように姿を現してこちらに明らかな敵意を向けてきたので、オレも早速かと思いつつ臨戦態勢に入った。
2人共に強襲科の生徒でランクはB。数的不利はあるが、油断すれば一瞬で決着する戦力差しかない。
それはあちらもわかってる上で2人で挑んできたのか。
とにかく、狭い空間で逃げ道も絶たれたオレは、唯一の脱出路となる窓へと近付くが、窓を開けて脱出するにしてもここは4階。
しかも窓は下から45度しか開かないタイプなので、破壊でもしないと体すら入らないし、そんなことをやってる隙に2人に倒されてしまう。
しかしそれしか方法もないと2人もわかってるはずなので、意を決して窓に手をかけて行動開始。
それを見た2人もほぼ同時にオレへと接近をしてきた。が、
「うおっ!?」
「なっ!? バカッ!!」
2人はオレへと近寄ろうとした瞬間に、足元で引っ掛かるように仕掛けていたオレのワイヤーに足をとられて転倒。
そこに間髪入れずに封殺しにかかって終了。両手両足を後ろでひとまとめにして拘束した2人をトイレから引きずり出して廊下へと放り投げてから、その2人を狙う生徒を目の前で待ってみた。
追跡と逃亡において、襲撃側を迎撃してはダメなルールは存在しないため、こうして無力化してもいいし、こうなった標的からステッカーを奪うなど簡単。
だからこそ強襲での失敗は許されないわけだ。
そうして次の授業の開始まで放置してみたが、さすがに人の目がある中で堂々それを行う勇者はいなかったので、仕方なく情報を対価に2人を解放して次の授業へと出席していった。
引き出した情報はもちろん誰を狙っているのかだが、どうにも2人ともオレが標的というわけでなはなかったらしく、後々厄介になりそうなオレを先に脱落させてしまおうという魂胆だったようだ。
迷惑極まりない。オレは前後の相手とか関係なく狙われるらしい。
これは愛菜さん達や眞弓さん達と行動してる影響が大きそうだな。
トイレでの襲撃以降、これといったアタックをしてくる生徒もいなくて、午前授業が終了した時点での脱落者は未だなし。
水面下ではどうだったかは把握できていないが、ここまではやはりほとんどが情報収集に徹していたようだ。
しかし昼以降はそれだけに留まるわけはなく、むしろここからが本番。
昼休みはどうやら動き出す生徒が多くなってるようで、今まで教室内に留まっていた生徒の姿がいくらか見えなくなって、愛菜さんと千雨さんも性格上待つタイプではないので、早速狩りに出掛けていて、幸姉は空腹でやる気が減少していたのか、今はオレと一緒に昼食にありついていた。
「幸姉は動かないのか?」
「腹が減ってはなんとやら。焦ってヘマするのだけは避けたいしね。京夜はどうするのよ」
「オレは標的がステッカーを獲得したら動く予定。先生方の思惑通りに動くのは癪だし」
「それで京夜もステッカー取ったら適当に脱落するわけね。優しいんだか甘いんだか」
言いながら焼きそばパンの最後の一切れを口に放り込んだ幸姉は、それをお茶で胃袋に流し込んでから席を立って、オレに軽く手を振って教室を出ていってしまった。
幸姉が言った通り、オレはそうしようと当初から考えていたわけだが、オレがそうしたところで全体の流れを制御できるわけでもないので、結局は前後の生徒の安全だけしか確保はできない。
「なんや難しい顔しとんな、京くん」
1人考えながら昼食を食べていたら、なんの目的かはわからないが、雅さんがやってきて前の席を陣取ってそうやって尋ねてきた。
「何かお得な情報でも入手しましたか?」
「そんなん京くんに必要ないやろ。私は『みんなみたいなこと』はする気もあらへんし、そないなことせんでも京くんは生き残るやろ?」
みんなみたいなこと、とは、おそらく他の情報科の生徒を指しているはず。
実際のところ、すでに他の情報科生徒2人から、独り言と称する耳打ちをいくつかされてしまっているが、それは言わないでおこうか。
「そういえば雅さんは撃破数の予想は誰にしたんですか?」
「およ? 朝に言うてへんかったっけ? 私はもちろん京くん! って行きたいところやけど、京くん倍率高くて賭博開始時点で早いもん勝ちやったからなぁ。無難に眞弓に入れといたわ」
「……なんでオレの下馬評ってそんなに高いんですかね?」
「そら京くん自身がわかっとるはずやで。これは一部での話やけど、『猿飛佐助の再来』ってくらいに言われとるのも事実やし。まぁ、お前ら猿飛佐助を見たことあるんかい! ってツッコミ待ちの称号みたいなもんやから、気にせんでもエエと思うで」
本当にそうだよ。そんな初代様に失礼な称号はいりません。
昔は戦国時代だったから、平和ボケしてる今の時代で再来なんてしたら、それこそ超人レベルだって話だ。
「まぁ、あの眞弓に認められとる時点で私の中での株価は相当なもんやし、素直に自分を誇ってもエエと思うで」
「それも意味深ですよね。雅さんの眞弓さんに対する評価が凄く高いのも気になります」
「それは眞弓が本当の意味で『強い』って知っとるからな。身内ならぬ親友贔屓や思われてもしゃーないけど、眞弓も飄々としとるように見えるけど、ホンマは……」
ゴヂンッ!!
そうやって雅さんが何か重要なことを話そうとした瞬間、突然雅さんの頭に鋼鉄製の扇子が落とされて、それを受けた雅さんは机に顔面を激突させて沈黙。
それを行った張本人、眞弓さんは、いつもの笑顔でオレに挨拶してから沈黙した雅さんの首根っこを掴んでしまう。
「雅も意外とおしゃべりで困りますわ。京夜はんも他人の秘密を本人のいないところで聞こうとしたらあきまへんで? どっかの馬の骨ならまだしも、ウチは知られとうないことがぎょうさんあるさかい、深追いして死にとうないやろ?」
それだけをオレに言い残した眞弓さんは、気絶してしまっていた雅さんを引きずりながら教室を出ていってしまい、オレはその後ろ姿を見送ることしか出来なかった。
普段から線目だから、マジのトーンが異常なプレッシャーを放つんだよな、あの人。
去り際、その眞弓さんの左腕にちゃっかりステッカーが貼られていたのが見えた時はさすがだと思ったが、この前のランク考査で上の席を実力でもぎ取った――枠に空きがなかったが、入れ替えでSランク入り――あの人だからなのか驚きは特になかった。
その後の午後の授業時間中で、予定通りにステッカーを獲得した標的を撃破したが、その間に4回も襲撃され、その全てを迎撃して吊し上げていたりした。
当然襲撃者は全員身動きのとれないまま狩られて、今のオレを狙う生徒は、幸か不幸か幸姉となっていた。
そしてオレが次に狙う標的はこれまた幸か不幸か千雨さん。
これまでの情報を整理して残りの生徒数を数えてみたところ、午後の授業終了の今の時点で残り6人以下という結果になった。
幸姉の後ろが愛菜さんで、千雨さんの前が眞弓さんだったので、愛菜さんと眞弓さんの間に1人2人いるかなくらい。
やはりというか、残ってくる生徒も1年の筆頭ばかりになったな。
とにかくノルマはクリアしたので、さっさと幸姉に負けようかと思ったのだが、その幸姉からメールが届き、内容を見てみれば『手を抜いたら使用人全員によるおもちゃの計』と書かれていて、それに戦慄したオレはわざと負けることも出来なくなってしまった。
使用人さん達、前から女装させようとか画策してるのを耳にしてたからな。これはヤバイ。
まさかの幸姉との真剣勝負を余儀なくされたオレだったが、この際千雨さんに玉砕覚悟で仕掛けて拘束されるくらいやればいいかと思い、千雨さんにアタックしようとしたのだが、その千雨さんはちょうど眞弓さんに仕掛けていたのでその様子を見ていれば、近くには眞弓さんに倒されたらしい生徒もいて、撃破後の隙でも突いたのかと予想。
しかし眞弓さんはそんなことも意に介さずに千雨さんと相まみえると、扇子を用いた合気道のようなもので千雨さんの突撃を無効化して地に伏すと、持っていた手錠で備え付けの固定ベンチの足と千雨さんの手を繋いでしまった。
「なんや猪でも来たんかと思いましたわ」
「死ね! いっつもニヤニヤしとってキモいねん!」
「さーて、残りは猪の片割れと主従コンビだけやろか」
犬猿の仲……
ギャアギャアと怒鳴り散らす千雨さんをガン無視してボソボソ呟きながらその場をあとにした眞弓さんを見送って、持っていた刀で手錠を破壊しようとする千雨さんに近づいたオレは、申し訳なく思いながらも、その腕からステッカーを頂戴して脱落させ、悔しそうにする千雨さんの手錠を解錠してあげてから、一言「頑張りや」と貰って、眞弓さんの尾行を開始した。
眞弓さんに隙がないなぁ。
と思いながら、幸姉の襲撃を警戒していたのだが、その幸姉はと言うと、照れた様子で正面からオレの目の前に現れて、愛菜さんに負けたことを告げてきたので、なんだか拍子抜けしてしまったが、眞弓さんがいま愛菜さんに狙いを定めてるところから、3すくみ状態で、あと1人脱落すれば終わることが確定した。
ので、もう完全にスイッチを切って愛菜さんに負けようとしてたら、校内放送が始まり、古館先生によって鬼ごっこが終了したことが告げられた。
結局、雅さんの予想通りになったな。
そうして結果発表を行ってみれば、撃破数においても眞弓さんの6人が最高記録となり、全額儲けが雅さんの懐に入っていたのは、全くの余談である。