9月12日。
夏休みも終わって、少しずつ夏の暑さも抜けてきた今日この頃。
オレは現在、新幹線に揺られて昼を回った時間に品川駅へと降り立っていた。
その理由は年に2度ある修学旅行。その1回目の修学旅行Ⅰの目的地であったから。
「人多ッ! 大阪とタイマン張れんで!」
「なんのタイマンやねん」
新幹線を降りてすぐ、千雨さんと愛菜さんの息の合ったやり取りを聞きつつ、早速行動を開始する。
「それじゃあ2時間後に新宿駅に集合ってことで」
「京ちゃーん。幸音の用事がつまらんかったら、すぐ合流しに来てエエからね」
「ほれ、行くで愛菜」
とりあえず最初は愛菜さん達とは別行動となっていたため、そんなやり取りをしたあとに千雨さんにずるずると引きずられながら手を振る愛菜さんを見送ってから、幸姉と一緒に移動を始めた。
修学旅行Ⅰは2年時に作る武偵チームをよく考えて編成するための調整期間として執り行われる行事で、京都武偵高は大阪武偵高と一緒の時期にここ東京の近辺へと足を運ぶことになっているが、現地での集団行動などは全くないため、基本的に各々が自由に時間を使って数日を過ごしまた京都へと帰る。
しかもオレと幸姉は武偵高を卒業してからは武偵として活動しないことが決まっているので、チーム作成には参加しないため、愛菜さん達とは違って完全に旅行に来ている感覚。
本当なら来なくてもいいものなのだが、今回は幸姉が東京に用事があったこともあり、1泊2日の予定で東京に出向いていた。
それでその幸姉の用事というのが、どうやら知人に会う約束をしていると言うことなので、移動していった先は日本最大の武偵高。
レインボーブリッジの南に浮かぶ南北2キロ。東西500メートルの人工浮き島の上に建設された東京武偵高。
通称を学園島というらしい。
台場からのモノレールに乗って降り立ったそこは、さながら小さな街という雰囲気で、京都武偵高のこじんまりとした敷地が悲しくなってしまうほどだった。
その広い敷地に降り立ってから、学園島のマップを確認したオレと幸姉が向かったのは、強襲科の専門棟。
ここでは各学科で専門棟が建つほどの敷地があるため、贅沢な場所だと思いつつ辿り着いてみると、幸姉はそこから先にオレが付いてくることを拒んだので、仕方なく外で待つこととなる。
時間としては午後の専門学科に当たり、時期も普通の平日のため生徒の行き交いがちらほらとある――とはいえ修学旅行Ⅰの時期はほぼ同じ――のだが、若干制服のデザインが違うオレは少しだけ注目されることとなってしまい、居心地の悪い状態となっていた。
そんな時にふと、オレと幸姉が辿ってきた道から、武偵高の制服など着ていない、私服姿の女性が周りをキョロキョロしながら歩いてくるのが見えた。
近付いてくるにつれ、その顔が鮮明に見えてくると、その女性の容姿と薄青色の瞳から純粋な日本人ではないと判断でき、歳もわずかだがオレより上のように思える。
それでついまじまじと女性を見てしまっていたオレは、キョロキョロとしていた女性とピタッと視線が合い思わず視線を逸らしてしまったが、その女性はまっすぐにオレへと近付いてきて目の前まで来る。
「道を尋ねたいのだが」
女性にしては少し低い声のその女性は、鋭い視線でオレを見ながらに口を開く。
第一印象としては男勝りか真面目な幸姉に近いか。
「教務科というところはどこにある? 入学の誘いがあったので来てみれば、迎えも何もないのでな。文句を言ってもいいか?」
「いや、オレはここの生徒じゃないから、文句を言われても困ります」
「ん? しかしその制服はここの物だろう」
と言ったあと、すぐに話が逸れたことに気付き「それはいい」と正すと、改めて道を知らないか尋ねてきたので、オレはここに来る前に見た学園島のマップを頭から掘り起こして、現在位置から教務科への道筋を引き出し女性に教えた。
地図とかはすぐに頭に入れるように教わったのが活きたか。
「ここの生徒じゃないのによくわかる。だが助かった。感謝する」
「あの、ここに入学の誘いがあったってことは、来年辺りに入学予定なんですか?」
「一応はな。まぁしかし、わざわざロシアから呼ばれて来て、拍子抜けするような場所ならその限りではない」
そう話した女性は、それを最後に立ち去ろうとしたのだが、その拍子に懐から何かを落としたため、反射的に拾い上げようとして手を伸ばすと、向こうも同じように手を伸ばしたため、手と手が触れそうになる。
が、女性は途端にその手を引っ込めて逃げるようにオレから距離を取ったので、それを不審に思いつつも落とし物を拾い上げて女性へと差し出すと、女性は落とし物をつまむようにして受け取って懐へと収めてしまう。
「……悪いな。私は『ある事情』で人との接触を避けている。男は特に。決して君を嫌ってのことではないことをわかってほしい」
女性はそうやって今の行動の理由を話すと、返事を聞くわけでもなくさっさと道を行ってしまい、何も言えなかったオレは調子が出ない感じで首を傾げてそれを見送ると、不意に女性に見覚えがあったことを思い出した。
他人の思考を触れただけで読み取ってしまう能力を持つ、オレより1つ歳上のロシア人と日本人のハーフ。
だと、幸姉が同じ超能力者だからと読み漁っていた中のロシアの取材記事に書かれていたか。
記事の中には確か自由の利く能力ではないとかなんとか書かれていた気がするが、それの影響なのか。
そんなことを思い出してみると、改めて生まれ持って超能力を身に宿す者の優秀さと不自由さの両面性を同時に感じてしまう。
幸姉も今でこそ面に出さないが、きっと今もその能力に不自由さを感じているのだろうから。
「珍しいわね。京夜がボーッと突っ立ってるなんて」
時任ジュリアの歩いていった方角を見ながら思考していると、用事を終えたらしい幸姉が突然顔を覗き込むように視界へ入ってきたので、少し驚きつつも「どうしたの?」という顔をする幸姉に「なんでもない」と返しつつ、用事を終えた学園島を出るために並んで歩き始めた。
「幸姉はさ、自分に超能力があって良かったって思ったことはある?」
「突然なに?」
「いや、さっき時任ジュリアと会って、見てたらなんか不自由そうだなって少し思っちゃったから……」
グニッ。
歩きながらにそんな話をしてみたら、いきなり手をつねられてしまい、思わず跳ねてしまう。何でつねった?
「時任ジュリアって、ロシアの
オレの何でという表情を完全に無視して涼しい顔で話に乗ってきた幸姉。
なにこの反応。戸惑いしかないんだけど。
「それで質問には肯定で答えれば安心するのかな?」
「安心とかそんなんじゃ……ただ幸姉も同じように超能力者だから、どうなんだろって」
「……先天性の超能力って、望んだものではないから、人によってはいらないとか思ったりするのかもしれないけど、私はあって良かったっていつも思ってるよ。まぁ、超能力が強すぎてこんな体質にされちゃったけど、それでもなきゃいいのにって思ったことはないかな。だって……」
と、そこまで言って急に口を閉ざした幸姉。
しかしそこは結構重要な部分なだけに、オレも気になって聞き出そうとしたが、笑って誤魔化されてしまう。
「とにかく! 私はそういうネガティブな感情で自分の超能力と向き合ったことはないの! それでいいじゃない。はい、この話は終了ー! 早くしないと愛菜達との合流時間に間に合わないから、ほら走る!」
結局そこから強引に話を終わらされてしまい、こちらの言葉などお構いなしに走り出してしまった幸姉を追うようにして、オレも仕方なく走り出すのだった。
学園島を出てすぐに山手線を使って新宿駅へと辿り着いたオレと幸姉は、一足先に来ていた愛菜さんと千雨さんと無事に合流。
話によれば、2人は秋葉原に乗り出していたみたいだが、どうにも武偵は目立ったらしく、常に視線がまとわりついて観光どころではなかったのだとか。
まぁ、武偵が行くような場所でないのは確かだ。
「大阪もどっこいやけど、東京はなんや……移動だけで疲れんねんな……」
「人のいない土地に行きたいわ……」
秋葉原を経験した愛菜さんと千雨さんは、そんな感想をオレ達に述べつつ、備え付けのベンチでぐったり。
来てから半日も経ってないが、この2人に東京が合わないのは明らかだった。
というか、今日は平日だからまだマシなんじゃなかろうか。休日になったら死ぬかもしれないな。
「それじゃああれね。のんびりするために浅草にでも行きましょうか。都心よりはずいぶん穏やかな場所だし」
ぐったりする2人を見ながら、幸姉は気を利かせてそんな提案をするが、2人は動くのもダルそうにしながら顔を見合わせて、それからオレと幸姉の顔を見て「ここで死んでてもしゃーないしな」と了承。
ベンチから立ち上がると、いつものテンションで動き始めて、それに釣られるようにオレと幸姉も移動を開始した。
「「「「あ……」」」」
「なんどすか?」
そうして訪れた浅草。
その雷門の下にて、同じくして東京へとやって来ていた眞弓さんご一行――眞弓さんと雅さんと早紀さんの3人――とばったり鉢合わせ。
実は東京に来る前にオレと幸姉がどちらと行動を共にするかで揉め、結局ジャンケンで愛菜さん達と行くことになった経緯があり、こうして打ち合わせてもいないのに遭遇してしまうと正直言葉が詰まるというわけなのだが、オレ達のそんな反応に眞弓さんは少しイラッとした感じで返してきたので、慌てて何でもないと誤魔化す。
「だから言うたやんか。ジャンケンで取り合いなんかせんで7人で仲良う東京見物しよて。眞弓もまっちゃん達もピリピリしすぎや」
微妙な空気が漂う中でどうしようか考えていると、雅さんが間に入ってきてそんなことを言うが、眞弓さんと愛菜さん千雨さんは視線をぶつけ合うのをやめない。
どうしてそんなに仲良くしようとしないのか。
「おや? おやおやぁ?」
そんな時だった。
オレ達とは違う第三者の声が聞こえてきて、みんなして声がした方向へと顔を向けてみれば、そこには武偵高の制服を着た5人組の男子がいて、制服のデザインから5人が大阪武偵高の生徒だとわかった。
「誰かと思えば、京都武偵高の『欠陥品』やないかい」
その中で先頭に立つ黒髪のツンツン頭の男子が、見下すような態度で愛菜さん達に声をかけ、今さっきの声の主が彼だとわかる。
身長は180前後。腰にはひと振りの日本刀が携えられていた。
そしてその男子生徒が耳を疑うような言葉を発した瞬間、愛菜さん達は何も言わなくなり、千雨さんに至っては完全に顔を俯かせていた。
「京都ではご活躍されとるようで。わざわざ大阪から『逃げた』甲斐あったっちゅうわけや。のう……千雨ぇ」
「…………」
「なんや? 親戚と言葉のキャッチボールもできんコミュ障になってもうたんか?」
ガッ!
と、その瞬間に愛菜さんが男子生徒に飛び付こうとした時、その腕を千雨さんが引いて止めるが、その手は小さく震えていた。
従兄弟か何かだろうか。何かあるな。
「『流派』も我流の暴力不良女。力でしか物事を解決できん金髪。1人でなんもできん狙撃手に、機械いじりしか能のないチビ。ここまで欠陥品ばかり集まると笑うしかあらへんわ」
はははっ!
そうやって愛菜さん達を馬鹿にする男子達は、みな揃って笑い始めて、それにはまた愛菜さんが飛び付こうとしたが、それでも千雨さんはやらせようとしない。
その千雨さんの影響なのか、早紀さんも拳を固く握って堪えていた。
「見たことないやつもおるけど、類は友を呼ぶ言うしな。欠陥品同士仲良うやりや」
この男の発言に段々イラついてきたオレだったが、愛菜さん達が手出ししないところを見るに何かあると判断し沈黙したのだが、やはり気になるため、すすっと後ろへ下がって雅さんにひっそりと話を聞く。
「
「ああ、前に早紀さんが言ってた向こうの人と仲が悪かったっていうあれですか」
「あれはその主たるもんやけど、まっちゃんもちっちも入ってきた当初は抜き身の刀みたいなもんやったから、それでよくいざこざがなぁ……」
と、雅さんが話す内容は、今の2人の姿からはなかなかに想像し難いのだが、本人達も昔『やんちゃしていた』と言っていた辺りからそうなのかと少し強引に納得。
「しっかし千雨。お前もよく武偵を続けれたもんやな。道場の看板汚したくせに、今はダブラ・デュオ呼ばれてちやほやされて。どの顔して面に出てきたねん。なにがダブラ・デュオや」
「…………あらへん……」
話を聞いてからも秀二の言葉は止まることはなく、いよいよオレですら怒りが込み上げてきたタイミングで、初めて千雨さんが口を開いた。
しかしその声は完全に聞き取れないほどに小さく、それにまた秀二が「なんやて?」と煽ってくる。
「……あたしが武偵をやるのと、昔のことは関係あらへんやろ……」
「は? なに言うてんのや。面汚しが表舞台に上がること自体が許されることやないっちゅうねん。日陰者は黙って不良どもの親玉やっとれば良かったんや。お前さえいーひんかったら『兄貴』も……」
「兄さんの話はせんで!!」
そうやって秀二の言葉を切るようにして叫んだ千雨さんは、そこでハッと我に返ってみれば、次にはその目に涙を浮かべて逃げるように走り出してしまった。
当然、今の状態の千雨さんを1人にするなどできるはずもないので、慌てて跡を追い始めた愛菜さんと幸姉。
オレもその様子を見て笑う秀二に心底イラつきながらもすぐに追いかけるため、歯を食いしばりながら背を向ける。
そしてその後、微かにではあるが、よく聴いている鋼鉄製の扇子が開く音を耳が捉えたが、今はそれを気にしてる場合でもないので、振り向かずに千雨さんの跡を追っていった。
雷門を潜って200メートルほど直進した先まで来たオレは、そこで立ち止まって待っていた幸姉を見つけて近寄ると、幸姉はその道の脇へと指を差して千雨さんの居場所を教えてくれた。
道の脇、ひとけの少ない日陰で体育座りをして顔を俯かせる千雨さんと、その隣に寄り添う愛菜さんの姿を見たオレは、どうしていいのか困ってしまう。
本当に、こういう時に言葉を見つけられない自分が情けない。
「千雨、過去は過去として受け止めて、今を精一杯に頑張るっていうのは簡単じゃないけど、私は今の千雨が何かしちゃいけないなんて言われるような人間だなんて絶対に思わない。だからもっと自分を誇って良いと思う。まだ何かを背負っているなら、私達に話してみなさい。それで何か変わるかもしれないし、少なくとも千雨のことをもっと知ることができるわ」
オレが言葉に困っていると、幸姉が言いながら千雨さんの隣に腰を下ろして座り、千雨さんの反応をうかがい始めた。
今日の幸姉は他人の世話焼きが大好きで怖いぐらいに気の利く『世話好き』。
だからというわけではないが、今の幸姉にはどことなく安心できる雰囲気があって、千雨さんもぐずっていた息使いが段々と落ち着いてきて、数分後には嗚咽のような声も聞こえなくなった。
「…………秀二には、10も歳の離れたお兄さんがおんねん」
それからすぐ、少しだけ隠していた顔を覗かせた千雨さんが話を始めて、オレ達はその話に耳を傾ける。
「沖田
始まったのは秀二の兄、秀一さんの話で、この時の話をする千雨さんはどことなく楽しそうで、聞いていて全然嫌な気はしなかった。
「兄さんに筋がエエって褒められるたんびに、それが嬉しくて夢中になって練習して、小3になる頃に秀二を実力で抜いてもうて、それから秀二がひた向きさをなくしたんは残念やったけど、それでもやめへんかったからそん時は気にもせんかった。そんで小5になった頃に、兄さんが道場に顔出さんようになって、武偵の道を歩み始めたんよ。もう20歳過ぎてたから、武偵高を出た人達とじゃ勝負にならんとか役にも立たんって道場で毎日陰口叩かれて、それ聞いたらなんや無性に腹が立って、怒りが爆発したある日、気付いた時にはその人達を剣術でボコボコにしとった。兄さんから習った剣術でや。最低やろ……」
そこでまた俯いて顔を隠してしまった千雨さん。
しかしすぐに話を続けようとして、流れた涙を拭って顔を上げた。
「でも、あたしは兄さんがどないな想いで武偵になるって言うたか聞いとってん。兄さんは『人を守れる剣術で、たくさんの人を危険から守ってあげたい』って、そんな立派な想いで武偵になるって言うてたんや。それで自分の剣術の凄さが世に広まればなお良しって。それやのにそんな想いも知らんで役立たずとか言うてるの見たら、我慢なんてできへんかった。幸い怪我した人も大事には至ってへんかったけど、それが原因であたしは道場を破門にされて、あたしを親身になって指導した兄さんは『指導者失格』のレッテル貼られてしもて……合わす顔もあらへんかったあたしは、それきり兄さんとも会わへんでそこらのチンピラ束ねて不良のリーダーになってしもたわけや……今の2刀流も、体に染み付いてもうた剣術を捨てるために強引に身に付けたもんやし……」
「そんで、そん時の千雨は不良娘やったけど、その実は人様に迷惑かけとる他の不良共を懲らしめるためだけに動く世直しまがいのことしとって、端から見ればそら喧嘩っ早いガキ思われてもしゃーないくらい不器用な正義を振りかざしてたっちゅうのが『やんちゃ』しとった頃の千雨や」
独白した千雨さんがどんどん暗くなるのが嫌だったのか、愛菜さんなりに気を利かせてその後の千雨さんについて補足してくれたが、それを聞いた千雨さんは恥ずかしそうに「その話はやめや!」と愛菜さんにツッコミ、オレも幸姉も少しだけ笑ってしまった。
「愛菜かて、あたしらの鎮圧依頼で会った時はごっつい強面で、したっぱくらいなら視線だけで制圧しとったし、今とえらい違いやったやろ」
「あーあー聞こえへんなー。私は今も昔もキュートな女の子やったしぃ」
「嘘つけ。無駄な被害出さんようにリーダーだったあたしと一騎打ちやった時なんか『暴れるだけしかできんガキが粋がんなやボケェ!!』とか『得物がないと喧嘩もできんのかコラァ!!』とか……」
「きーこーえーへーんー!」
そして始まってしまう2人の思い出話で完全に和やかなムードになるが、耳を塞ぐ愛菜さんの頭を軽く小突いた千雨さんは、それから話を切り替えると同時にテンションを少し下げた。
「そんなこんなで愛菜と色々あって、『嫌われもんの不良で世直しやっとるくらいなら、武偵としてみんなに認められるようにやればエエやん』なんて言われてな、それで中1の秋頃やったけな? そんくらいで大阪武偵高の中等部に編入して、そっからは愛菜と一緒に行動するようになって、ダブラ・デュオ呼ばれるようになったり、雅や早紀とも仲良うなって、道場に通ってた時と同じくらい楽しい日々やった。ただ、中等部には秀二もおったから、あたしの事情を知って嫌う人も多くてな。兄さんが家の嫌われもんになったのはあたしのせいやってずっと恨まれてんねん。それは事実やし、あたしも謝って済む問題やないことくらいわかるから、秀二にはなんも言えん。そのせいであたしと仲良くする愛菜達にも辛い思いさせてもうて、そんで京都武偵高への編入を決めて、巻き込む形で愛菜達もついてきてくれたっちゅう経緯があんねん」
以前、早紀さんもそれとなく言っていたが、確かにそんなことがあれば大阪武偵高に通うことは辛いものとなっていたはず。
今でこそ毎日元気に笑ってる千雨さん達だが、皆一様に辛い経験をして京都武偵高に来たのだとわかると、その笑顔がどれだけの価値を持つか実感する。
この人達は、必死に頑張ってきたんだ。それなのにあの男は……
「……千雨さんの話が事実だとしても、やっぱり秀二は言い過ぎだ。しかも千雨さんだけじゃなくて、愛菜さんや雅さん達まで見下すような物言いで……」
「おおきに、京ちゃん。秀二はあたしと一緒で兄さんにベッタリやったから、尚更許せんのや。兄さんから習った剣術を貶めたあたしが、な」
「……本当にそうかしらね。私には少し違う見え方ができちゃったけどなぁ」
話が終わって、ようやく言葉を見つけられて口に出してみれば、千雨さんはすぐそう返して暗い顔をしてしまうが、世話好きな幸姉がここにいる誰もが予想しなかったことを言うので、3人で同時に幸姉を見てしまった。
「そんな『どんな見え方が?』みたいな顔されると、困るんだけどな……」
「エエから話してみぃや。こっちは当事者なんやで」
「んー、まぁ、これも私の仮説でしかないし、鵜呑みにされても困るからね。秀二君って、千雨と同じで秀一さんが大好きだったわけでしょ? それで千雨の方が成長の伸びが良くて、先に習い始めたはずの秀二君が千雨に追い抜かれてしまった。秀二君が妙にやる気をなくしたのがその時期なら、それはたぶん彼にとっての『壁』ができたのよ。でもその立ち向かうべき『壁』をどうするべきか悩んでるうちに、その『壁』が突然なくなってしまった秀二君は、その気持ちを……」
――ピピピピピッ!
そんなタイミングで鳴ったのは、幸姉とオレの携帯。
こんなタイミングで誰かと確認してみると、相手は眞弓さん。
幸姉の方は雅さんだったらしく、ほぼ同時にかかってきたことから偶然ではないとわかり、すぐに通話に応じた。
『ああ京夜はん? そこにみんなおりますか?』
「はい。幸姉も愛菜さんと千雨さんも」
『まぁ気乗りもせんどしたが、ちょっとした事件が発生しましたさかい、雷門まで来てもらえまへんか』