緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

73 / 288
Bullet47

 

 ――ぎゃー!

 宣戦会議のあった翌朝。

 いつものように小鳥の朝食を食べていると、下の部屋からアリアのそんな甲高い悲鳴が聞こえてきて、聴覚の優れる美麗と煌牙がビクンッ! と顔を上げるが、オレや小鳥は至って普通にそれを聞き流す。

 どうやら玉藻様やシスターメーヤの言った通り、すぐにどうこうなることはないらしい。

 しかし、いつ寝てるのかさっぱりわからない新しい住居人、羽鳥・フローレンスは、その声に聞き覚えがあるような表情で当たり前のように食べていた朝食を中断。こいつからも食費は徴収しなくちゃな。

 

「小鳥ちゃん、今のはアリアかな?」

 

「あ、はい。たぶんそうだと思います。もしかしてこちらに来てからまだ会われてないんですか?」

 

「残念ながらね。彼女とは不思議とすれ違いが多くてね。会おうとすると会えないんだよ。だから私も時の運に身を委ねているのさ」

 

 うざっ……

 きっとアリアのやつもこいつのウザさが嫌で避けてるんだな。こいつが転入したことくらいはもう耳に入ってるだろうし。

 そんな予想をしながら、朝食を終えて各々が準備をして登校していって、最後にオレが部屋を出る直前になって、そこで携帯に着信があった。

 着信はメールのようで、送信者は昨夜から眷属の誰かを追っていって姿を眩ませていたジャンヌ。

 何か知らせるためにメールしたのかとすぐに内容を読むが、別にそうではなかった。

 メールには短い文で「クジ引きは頼んだ」と。

 はて? と一瞬考えてしまったが、これは今日の4時間目の3クラス合同のLHRで決める『アレ』だとすぐに思い当たる。

 ああ……そんなのあったなぁ。

 そうしてジャンヌからの頼まれ事を頭に入れて登校していったオレは、教室に入ってから微妙な顔をするキンジを発見。

 その原因がアリアにあるとすぐに見抜いたオレは、ざっと教室を見回してみたが、アリアがいない。

 

「またアリアと喧嘩でもしたのか?」

 

「してない。よくわからんがあいつが勝手に騒いで突っぱねられたんだ。というかなんで俺の顔を見て最初の質問がそれなんだ?」

 

「お前がそんな顔するのはアリア関連くらいだろ。不知火とかも言うと思うし。んでアリアは?」

 

「知らん。学校に行けないじゃないって騒いでたし、今日は来ないかもな」

 

 それでキンジは自分の席にとっ伏してしまい、もういいだろ的な雰囲気を醸し出したので、毎度ご苦労なキンジに両手を合わせてから自分の席に着いて一般授業を受けていったのだった。

 英語、化学、漢文といたって普通に授業をこなして、3クラス合同のLHRが行われる体育館に移動する直前。

 来ないかもと言っていたアリアが、昨夜ヒルダに噛まれた首筋に絆創膏を貼って姿を現した。

 何やらキンジを警戒してる素振りを見て取れたが、2人の関係に割って入るのもそれなりの勇気が必要なためスルー。

 厄介そうなことには首を突っ込まない。賢明だ。

 そんなわけで体育館に移動を終えると、騒がしく自由な2年の生徒が思い思いに誰かと会話をしていて、うるさい。

 しかもその内容がほとんどこれから行われる『アレ』なのが鬱になる。

 

「ガキども! それじゃ文化祭でやる『変装食堂(リストランテ・マスケ)』の衣装決めをするぞッ!」

 

 ――ドンッ!

 騒がしい生徒を天井への威嚇射撃で黙らせて、蘭豹がそう叫ぶ。

 静まったタイミングで今度はタバコを吸いながらの綴がむせながらチームごとに分かれるように指示を飛ばし、オレはジャンヌがリーダーのチーム『コンステラシオン』のメンバーと合流したが、京極は例により欠席で、残りの2人のうち何故か中空知が自分より小さい島の後ろに隠れてオレを避ける。

 あー、前にもジャンヌに「視界に入るな」って注意されたっけ。

 嫌われてんのかねぇ、オレ。夏休みのあの事件でふざけたからかなぁ。

 などと中空知に嫌われる原因について考えていると、手伝いの1年生、幸帆が上に丸い穴の空いた箱を持ってこちらに近寄ってきた。

 箱の中には、オレ達2年の一部が担当する『変装食堂』。

 そこで着る衣装を決めるためのクジが入っていて、ジャンヌがメールで言ったクジ引きはまさにこれ。

 変装食堂は普通の高校で言うところのコスプレ喫茶のような出し物だが、ここは武偵高。

 着た衣装の職業をきちんと演じ、それらしく振る舞う事が求められるのだ。

 つまり『なんちゃって』は許されない。真面目にやらないと教務科による体罰フルコースもあるとあって、みんな命がけである。

 変装自体は諜報科のオレにはあまり抵抗はなく、大抵の職業なら即決する覚悟はある。

 しかし引き直しは1度のみ。2度目に引いた衣装は確定となるため、連続して苦手な職業などを引けば、地獄を見ることになる。だから気楽には引けない。

 

「どうぞ京様。京様ならどんな衣装も絶対に着こなせますよッ!」

 

「その根拠はどこから来るんだ……」

 

 そうやって目をキラキラさせながらに箱をオレの前に差し出した幸帆は、幸帆なりにクジを引くのをためらうオレを励ましたのだろうが、どんな衣装もというのは無理がある。

 何故ならこのパンドラの箱には、オレが最も嫌う『ハズレ』まで、容赦なくぶちこまれている。

 それを引いた日には……自殺も考えよう。

 

「あ、待った幸帆。先にジャンヌの分のクジを引きたいんだが」

 

 直前になって1度インターバルを置きたくなったオレは、そこでジャンヌの分のクジを先に片付けることを思い付き幸帆に進言すると、幸帆は快く承諾し、持っていた男子用の箱から女子用の箱に持ち替えた。

 オレはその中から適当に手に取った4つ折りの紙を引き抜きその紙を開いた。

 『ウェイトレス(アットホーム・カフェテリア)』

 うん。確かジャンヌは可愛い衣装は好きだったはずだし、以前読んでいたファッション雑誌にもそれらしいものに丸印が点いてたから問題ないな。

 そうして引き直しをせずにジャンヌの衣装を決定させたオレは、それで軽く息を吐いて落ち着くと、今度は自分の分のクジに手を伸ばそうとした。

 

「ぎゃー! 寄ってくるなー!」

 

 そんな時にアリアの甲高い声が体育館に響き、思わずそちらに目を向けると、そこではホルスターからガバを抜き臨戦態勢のアリアが、ニコニコ笑顔で近寄ろうとする羽鳥のやつを牽制していた。ああ、ついに遭遇したか。

 

「酷いなぁアリア。私はこんなにも再会を待ちわびていたというのに」

 

「こっちは待ってなかったわよ! とにかくあたしの半径10メートル以内に近寄らないで! この、お、女たらし!」

 

「女性を大事にするのは私のポリシーさ。それを女たらしなんかと一緒にされるのは心外だよ。みんなもそう思うよね?」

 

 どうやら予想通り良好な関係ではないらしいアリアは、羽鳥を相当毛嫌いしていて、そんなアリアにも終始笑顔を崩さない羽鳥は、言って周りの女子達に賛同を求めると、女子の半分以上が賛同。

 他は判断が難しいといった感じで、男子に至っては心底呆れた顔を浮かべていた。

 オレも今そんな顔をしているだろう。間違いない。

 行動や言動のイチイチが鬱陶しい羽鳥を退けたアリアは、どすどすとオレへと近寄ってきて話をする。何用でしょうか?

 

「フローレンスがあんたの部屋で暮らしてるって話、本当なのね?」

 

「おかげで居心地が若干悪くなった」

 

「でしょうね。あいつは周りを自分好みの環境に作り替える無駄な才能があるわ。これから取り込まれないように注意しなさい。あと、寝室の上下扉は絶対に使わせないで」

 

「使わせたらどうなる?」

 

「風穴ドリルよ」

 

 おお。風穴言われたの夏休みのサッカーの時以来だな。しかもドリルとか、抉られるのか……

 しかしキンジのようにガバで撃たれるのは避けたいので、あの上下扉は羽鳥のやつには絶対に使わせないことを心に誓ったところで、オレとアリアは近くにいた幸帆と風魔にクジ引きを催促されてしまい、そういえばと思い出したところで改めてクジを引こうとすると、途端に近くの女子数人と男子数十人がオレとアリアを見て、コンステラシオンのメンバーとバスカービルのメンバーも近くに寄ってきた。

 何でこんなに注目されるんだ?

 と思いながらも、オレとアリアがそれぞれ箱に手を突っ込んで、適当に紙を選んで引き抜きその紙を開くと、そこには……

 『看護師(ナース服)』

 そう書かれていた。

 それを見た瞬間、オレが最も恐れていた『ハズレ』を引き当てたことに絶望を感じながら、隣のアリアを見てみると、アリアの紙には『アイドル』の文字が書かれていて、それを見るアリアは赤面しながらも涙目で、これは絶対に引き直しだなと予想しつつ、次にオレ達のクジを後ろから覗いていたキンジ達を見ると、みんな今にも吹き出しそうな顔で必死に笑いを堪えているのがひと目でわかった。

 その中でも理子のぷしゅ、ぷふっと笑いを漏らす堪え方が心底イラッとしたので、オレは引いたクジを丸めて全力投球で理子の額にぶつけてやる。

 それを受けた理子は、ムギャッ! と奇声をあげて額を両手で押さえた。

 額に当たったのに「目が! 目がぁ!」と言う辺りはバカとしか言いようがない。

 

「「チェンジ(よ)だッ!」」

 

 クソみたいな1枚目のクジを破き捨てたアリアと一緒に幸帆と風魔に物凄い剣幕で引き直しを要求すると、2人はその勢いにたじろぎつつも、持っていた箱をオレ達に差し出してきて、オレとアリアは同時にガバッ! と穴に手を突っ込んで、1枚の紙を取り出し、確定となる衣装の中身を恐る恐る確認した。

 『給仕(女物の着物・老舗風)』

 この時オレは思った。

 この箱には『女装用の衣装』が書かれた紙しか入っていなくて、オレは誰かの陰謀によってそれをまんまと引かされたのではないか、と。

 しかしそんなわけもなく、もはや死んだ魚の目で隣で同じように灰になりそうな表情のアリアの紙を確認すると、そこには『小学生』と書かれてあった。

 普段のオレならここでひと笑いどころか、バカ笑いを惜しみなく披露するところなのだが、生憎と今はそれどころの心理状態ではない。

 

「やったーー! やったよアリア! ある意味ハマり役だよ! きゃはははは! キョーやんもスゴすぎるよ! じょ、女装のダブル役満で、り、理子の点棒は吹っ飛びました! ふ、腹筋がねじれるーー!」

 

 そんなオレ達に我慢の限界が来た理子が、腹を抱えて床をゴロンゴロン転がって笑い出す。

 それに釣られて我慢していた白雪やキンジも一斉に吹き出してきた。

 そのキンジ達の反応で現実に戻ってきて壊れたアリアが怒り爆発でガバを抜き放つ。

 

「今のは無し! 無し無し無し無ぁーーーーーーしッ! まずアンタは死刑!」

 

 自制心を失ったアリアは、箱を持つ風魔にガバを向けて本気で撃とうとするが、いち早く察したキンジと理子に飛びかかられて動きが鈍る。

 

「やめろアリア、撃つな! 蘭豹もいるんだぞ! 俺らまとめて処分されるだろうが!」

 

「あきらめようよ『アリアちゃん』! 理子が衣装作り手伝ってあげる! きゃはははっ!」

 

「誰がアリアちゃんよ! 風穴! 風穴流星群! 風穴ビッグ・バーンッッッ!」

 

 歴代で最強クラスの風穴を宣言したアリアは、2人に拘束されてもまだ荒ぶる。

 そんな感じのアリアに対して、オレはというと、アリアを拘束するキンジと理子の頭を掴んで万力のようにアイアンクローをお見舞いしてアリアから引き剥がしてから、両手に防刃グローブをはめてアリアの肩に手を置いた。

 

「アリア、知ってるか? 人間って、簡単に壊れるんだぜ? 例えばこのクナイを額に勢い良く突き刺せば、あっという間に動かない人形の出来上がりだ」

 

「あら京夜、それ素敵ね。あたしも脳天に弾を撃ち込んで量産してあげるわ」

 

 フフフ……フフフフフ……

 もう自分が何を言ってるかもよくわからないが、とりあえずこの場にいる全員を血祭りにあげる覚悟は決まった。

 

「ま、待てアリア! 猿飛! というか猿飛! お前まで壊れるな!」

 

「荒ぶるキョーやん降臨! そんなに女装が嫌なのかな? 大丈夫だよキョーやん。理子が全面協力してゆきゆきみたいな美人さんに変えてあげるから。名前は『京子ちゃん』かな? くふっ!」

 

 ――ブチン!

 理子のその言葉で完全に怒り状態になったオレは、その瞬間から綴に負けないレベルの据わった目で理子やキンジ達を見てその手に持てるだけのクナイを持った。

 

「今日が貴様らの命日となることをここに宣言する。ここにいるやつら全員を消せば、オレとアリアが『クジを引いた』という事実が無くなるわけだからな」

 

「風穴祭りィー!!」

 

「ふざけんな!」

 

「「問答無用ッ!!」」

 

 そんなキンジの叫びなど一切無視して暴れ始めたオレとアリアは、まず最初に一番近くにいたキンジと理子をそれぞれ狙うが、直前でオレを幸帆が、アリアを風魔が取り押さえにかかってきて、その腰に抱きついてきた。

 

「京様! 落ち着いてください! らしくないですよ!」

 

「神崎殿も落ち着かれよ! そのようなことをされても捕まるだけにござる!」

 

 抱き付きつつなだめにかかってきた幸帆と風魔だったが、今のオレ達がそんな言葉で止まるわけもなく、抱き付かれたままの状態でズルズル引きずりながらキンジ達に攻撃を仕掛けるオレとアリア。

 アリアはガバで頭のみを狙い、オレもクナイで額だけを狙うが、確実に殺しにいってるために逆に回避が容易らしく、キンジも理子も的確に避けてしまう。クソが!

 

「なに騒いどんねん!」

 

 そんな感じでギャアギャア騒いでいたら、当然教師である蘭豹が介入してきて騒ぐオレとアリアにいきなりM500をぶっ放してきた。

 

「衣装が気に食わんくらいで暴れんなや! 武偵なら腹括れ!」

 

「ほほう、じゃあ蘭豹。アンタは『変なおじさん』とか書かれた紙を引いても腹を括れるのか? 無理だろ? 無理だよなぁ。この前も合コンで1人あぶれたアンタがそんな恥ずかしいことできるわけが……」

 

 ――ドンッ!

 普段は教師に反抗しないオレなのだが、今はネジがいくつか吹っ飛んでいるため、生徒間で噂となっていながら口には出さない蘭豹の秘密を暴露した瞬間、その蘭豹から腹に1発銃弾を浴びせられ、腰に抱き付いていた幸帆はそれに驚いて離れて、オレは体をくの字に曲げてうずくまり膝をついた。おのれ蘭豹!

 

「図星突かれて銃で黙らせる、か? それで武偵ならとかほざくなよ蘭豹」

 

 腹を押さえてうずくまりつつも、オレは顔を上げてなおも蘭豹に噛みつく。

 そんなオレの言葉にアリアも「そうよそうよ!」と賛同するが、当の蘭豹はこめかみに血管を浮き上がらせてM500をオレに向けたままで、銃で黙らせる気満々。

 

「アリア、2人でやれば蘭豹くらい倒せる。キンジ達はその次だ」

 

「面倒な方から片付けるわけね。上等よ!」

 

「ほざけガキども! ヒヨッコが束になったところで相手になるわけないやろ!」

 

「「今からそのヒヨッコに負ける(のよ)んだよ!!」」

 

 銃弾のダメージから回復したオレが、立ち上がりつつアリアと共同戦線を張ると、それをあざ笑うかのように怒鳴る蘭豹。

 そしてオレ達の叫びを皮切りに、蘭豹との壮絶な戦闘が始まり、体育館はたちまち銃声や金属同士がぶつかり合う音で満たされていった。

 そのあと1時間にも及ぶ蘭豹との激闘を繰り広げて、それでも決着が着かずに後先考えずに暴れてヘトヘトになったところを高天原や綴に取り押さえられ、アリアは「小学生やります」と言うまで蘭豹から30回以上にも及ぶジャーマン・スープレックスを食らわせられ、オレは綴とマンツーマンで2時間以上にも及ぶ精神攻撃を受け続けて「女装します」とズタボロの精神状態で言わされたのだった。

 そんなオレの人生でも間違いなくトップに入るであろう暴動を繰り広げて、身も心もズタボロになって家へと帰ってくると、リビングには小鳥と羽鳥、それから事前に泊まりに来ることを伝えていた幸帆の姿があり、オレが帰ってくるまで夕飯を食べないでいたらしく、リビングに入ってきたオレを見て小鳥と幸帆がすぐにキッチンの方へと移動していった。

 

「京夜先輩、変装食堂で女装することになって、それが嫌でアリア先輩と一緒に蘭豹先生と乱闘したって聞きましたよ」

 

 夕飯を食べ始めて十数秒。

 向かいの席に座る小鳥がさっそく疲労の原因を抉ってきたが、すでに落ちるところまで落ちたオレはそれにすらほとんど反応せず「ああ」と肯定して黙々と夕飯を食べる。

 

「それでですね。京夜先輩の女装、私のクラスでももう話題になってて、CVRの子なんて衣装の用意とかメイクも全部やりたいってはしゃいでましたよ」

 

「幸帆、着物って幸姉に頼めばなんとかなるよな? あとメイクとか着付けは幸帆に頼む……」

 

「え? あ、はい。京様のご期待に添えるように頑張ります」

 

「あ、あれ? 私は頼ってくれないんですか?」

 

「お前着付け出来るのか? あと化粧。幸帆はその辺は完璧レベルだぞ」

 

「い、今から勉強します!」

 

「却下だ」

 

 何故かテンション高めな小鳥を幸帆の優秀さで追い払い、夕飯を食べたら幸姉に連絡することを決めたオレは、今の話に割り込むことなく黙って聞いていた羽鳥に視線を向けると、やっと私に触れるのかい? と言った顔をしてきた。うざっ……

 変装食堂の衣装は全て自前で用意する決まりがあり、しかもなんちゃってを許さないため、ある程度の使用感……リアリティーも持たせなければならない。

 そういった衣装をこの時期になると潜入捜査で作ることの多いCVRの生徒が商売繁盛とばかりに調達を引き受けたりする。

 そんな中で着物なんて出費の高そうな衣装を依頼したら、どれだけ搾り取られるかわからなかったオレは、綴に降伏したあとの帰り道で調達と手伝いにアテをつけていたのだ。

 

「んで、お前は何の衣装を着るんだよ、羽鳥」

 

「一応君とアリアが騒ぐまでは話題になってたんだけどね。さすがに暴動の騒ぎには勝てないさ」

 

「……だから何の衣装だっての」

 

「ホスト、だそうですよ」

 

 どうせ聞かなきゃずっとあの顔したままだろうと感じて質問してみれば、答えが返ってこなく、イラッとして聞き返すとオレの心情を察した小鳥が代わりに答えてくれた。

 羽鳥、お前は通訳が必要なのか?

 

「おーおーお似合いですこと。お得意の口説き文句を使いたい放題なわけだ」

 

「何か私に怒りをぶつけている風に捉えてしまう言動だね。腹を括ったのなら他人に当たるのはやめてくれないかな? 京子ちゃん」

 

 こいつ、理子が言ったの聞いてやがったな。

 だがこいつと言い争っても水の掛け合いにしかならない。

 つまりどちらかが大人にならなければ終わりが来ない。

 だから今回はオレが退いてやる。決して言葉が武器の尋問科に勝ち目がないと思ったわけではない。絶対に。

 そうやってオレが先に退いてみれば、それがつまらないような表情を浮かべた羽鳥は、それからいつものように小鳥と幸帆と話しながらの食事に戻っていった。

 

『アハハハハ! 京夜がじょそ、女装とか、アハハハハ……ゲホッ! ゲホッ!』

 

 夕飯を終えて自室へと入り、変装食堂用の着物を調達するために幸姉に連絡を取って、事情を説明すると、こんな時に限って『男勝り』な幸姉で、話を聞いて咳込むほどの大笑い。

 携帯越しですら腹を抱えて笑ってそうなのが容易に想像できた。

 

『き、着物ね。オッケオッケ。プッ、数日中にそっちに送るから……プフッ!』

 

「しゃべるか笑うかどっちかにしてくれ。もう散々笑われて怒りすら沸いてこないから……」

 

『ごめんごめん。でも京夜が女装なんて生まれて初めてでしょ? せっかくの機会なんだし、とことんやって周りをビックリさせなさい。幸帆もやるからには満足いく出来に仕上げると思うしね』

 

「そのつもりで腹は括ったよ。それに昔から色んな女の人を見てきたから、仕草とかその辺もたぶん問題ないし」

 

『その発言、京夜が遊んでるみたいで面白いわね。でもそうね。愛菜は古き良き日本の伝統を次ぐ血筋だし、眞弓や早紀も京美人って言えるもの』

 

「あ、女装の件は愛菜さん達には言わないでくれよ? 知ったら絶対写真送れとか言ってくるから」

 

『じゃあ私には送ってきなさい。それが条件』

 

 まぁ、愛菜さん達に知られるよりマシか、と思いつつ、携帯越しに期待を込めて笑ってそうな幸姉に「了解」と返事をしてから通話を切ったオレは、それで改めて女装するんだなと実感して大きなため息を1つ吐いたのだった。

 それから武偵高はしばらく文化祭準備のために短縮授業となり、幸姉から送られてきた着物を最初に着る運命の日が間近に迫っていた。

 …………死にたい……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。