緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet55.5

 10月の半ば。

 京夜先輩の戦妹になってから、初めて臨んだ協同の依頼も完遂してすぐ。

 私はその依頼中に怪我をしてしまい戦線復帰ができなくなった美麗と煌牙を引き取ってくれたおじいちゃんの家。

 つまりは私の実家がある長野県諏訪市を目指して、美麗と煌牙を運ぶ依頼を受けてくれた貴希さんが運転する車で中央自動車道を走っていた。

 

「いきなりだけどさ、小鳥の家の人ってみんな同じようなことできるの?」

 

 その道中、助手席に座っていた私に、貴希さんがバックミラーで後ろのおじいちゃんをチラッと見ながらにそう尋ねてくる。

 前の依頼で数日間一緒に生活したおかげで名前で呼び合うくらいには仲が良くなった貴希さんは、数時間前に見たおじいちゃんの力が気になったみたいですね。

 

「これは遺伝らしいです。力の大小は代々出るみたいなんですけど、必ず何かしらの力を持って生まれてくるって。私は歴代でもかなり弱い力みたいであれなんですけど、おじいちゃんは凄いですよ」

 

「凄いって、どう凄いの? 確かになんか話してる様子もなかったのに会話が成立してたみたいだけど……」

 

「おじいちゃんは私と同じ意思疏通できる力に加えて『直接触れた動物と思考会話できる』んです。えっと、簡単に言えばテレパシーですかね。だから耳が聞こえない煌牙とも言葉を使わなくても会話が成立しますし、私が美麗と煌牙を実家で引き取るって言えたのも、おじいちゃんの力があってこそです」

 

 貴希さんの質問に対して丁寧に言葉を返してみると、貴希さんはそれでなんとなく理解をしてくれたようで、視線を前に固定しつつ「へぇ」と一言。

 それで私も後ろのおじいちゃんを見てみると、どうやら今は美麗と煌牙とお話し中みたいで、私達の会話には意識が向いていないみたい。

 

「……美麗も煌牙も、早く家に馴染んでくれると良いけど……」

 

「それは今までの生活……武偵犬としてじゃなくて、普通に暮らすって意味で?」

 

「えっと、それもありますけど、なんと言いますか、私の実家は色々とあれなもので……」

 

 半ば戦力外通告でリタイアとなった2匹だけに、のんびり生活することに違和感が出るだろうことももちろんあるけど、それ以上に実家が『馴染みにくい環境』だろうことを心配しましたが、貴希さんはそれに疑問を浮かべていました。

 まぁ、行けばわかりますよ。行けば……

 それで私が苦笑いを浮かべていたら、後ろのおじいちゃんがどうやら会話を一旦終わらせたみたいで、今度は私の頭の上にいた昴を呼び寄せてその肩に乗せてしまう。

 何を聞いてるのかな……

 

「小鳥や。お前さん、今あの男と一緒に暮らしとるのか。1つ屋根の下で暮らして、寝室も共にしとるのに、寝取り寝取られも起きんのか」

 

 そう思ったのも束の間。

 おじいちゃんはいきなりどストレートに男女の話を持ってきて、動揺した私は顔が真っ赤になって、貴希さんもちょっと車を左右に揺らせてしまう。

 

「おじいちゃん! だから京夜先輩とはそういう関係じゃないんだってば! 一緒に暮らしてるのは戦妹として戦兄から少しでも吸収できるものを吸収するためで、下心はないの!」

 

「しかしなぁ、若い男女が同じ空間に長くいれば、間違いの1つも起きて必然。むしろ不健全と言ってもいいぞ? あっちはあれか? 年下に興味がないのか?」

 

「それはわかんないけど、京夜先輩はそんな欲望に身を任せるような人じゃないもん!」

 

「うーむ……するとあの男、女に対して強い耐性でもあるのやもしれんな。さすがに初夏の辺りからの付き合いのこやつらでは、それ以前のことは知り得んしの。小鳥よ、そういう男は女の武器は効果が薄い。大事なのは押し引きだ。しつこくしても煙たがるし、引きすぎると興味も持たん。一緒に暮らしてるメリットを生かせよ!」

 

 本当にこのおじいちゃんは人の話を聞かないんだから……

 それにしてもおじいちゃんがこんなに京夜先輩を気にかけるなんて、ちょっと意外だな。

 おじいちゃん、基本的に人に関心を持たないし、実家だって近所付き合いが面倒だからって理由で街の端っこに建ってるもんなぁ。

 まぁ、実家がそんなところに建ってる大きな理由はもっと別にあるけど……

 女性に耐性があるっていうのは、理子先輩や幸音さんなんかの扱い方を見てるとなんとなく納得しちゃうところあるかもなぁ。

 でもでも、恋愛感情は私にはないし、京夜先輩も絶対にそんな風に私を見てないんだよね。

 最近仲良くなった幸帆ちゃんを見ててわかったけど、幸帆ちゃんとの距離感が私と同じだったから、きっと妹みたいに思ってくれてるんだと思う。

 それはちょっとだけ、女として悔しいけど……

 そう思いつつもちゃんとおじいちゃんには念を押してその気はないことを言ってから、横の貴希さんを見ると、何やらブツブツと「押し引き……出過ぎず引き過ぎずか……」などとおじいちゃんの言ったことを真に受けてました。

 そうやって真剣に悩んでる貴希さんを見てたら、ほんのちょっとだけ羨ましく思ってしまったのは、きっと私が恋をしていないから……恋愛、かぁ……

 それからもおじいちゃんが美麗達から引き出してくる京夜先輩との同居生活のあれやこれやに振り回されツッコんでいたら、いつの間にか長野県諏訪市に到着。

 出発した時間も時間だっただけに、外はもう完全に暗くなっていて、中央自動車道から国道へ入って上諏訪の北部を目指し、その途中、諏訪市のシンボルとも言える諏訪湖は見えませんでしたが、そんな諏訪湖をスルーして街の中心からどんどん離れていき、おじいちゃんと私の指示で車は近くを流れる川を沿って登り、田畑が多くなって住宅が少なくなってきたところでようやく実家の近くへと到着。

 舗装されてない土の道へと入って進んで辿り着いた古き良き木造建築の大きな庭付きの家。久しぶりの我が家ですね。

 車は家の近くに適当に停めて、目の見えない美麗を補助して家の敷地に入ると、スライド式の玄関の前で待っていたおばあちゃん――芳乃(よしの)と言います――が美麗と煌牙を見てちょっと驚いた顔をしたけど、次には私達を温かく迎え入れてくれた。

 おばあちゃんに迎えられて早速家の中へと入ろうと玄関を潜ったところで、待っていたのは大きさは違うけど綺麗に横並びしてお座りをする5匹の犬。

 5匹はうるさく吠えることもなく、私達の姿を確認してから「ワンッ!」と揃ってひと吠え。

 言葉にすれば「いらっしゃい」と「おかえりなさい」をバラバラに言ってたけど、そんなお出迎えに初めて来た貴希さんは面食らう。

 そりゃ訓練された犬でも難しいことしましたしね。

 

「みんな久しぶりー」

 

 その5匹に一言、私が挨拶すると、5匹も「小鳥だ小鳥だ!」と喜んでくれるけど、まずいなぁ……そんな騒ぎ方すると……

 そう思ったのも一瞬で、次には家の奥から地鳴りのような振動が私達を襲い、数秒後には玄関を埋め尽くすほどの犬と猫が姿を現して私達を取り囲んで身動きが取れなくなってしまった。その数20を越えています。

 

「な、なになになに!?」

 

「す、すみません貴希さん。家はこの通り大所帯で、街の中心に住めないんですよ……」

 

「これはいくらなんでも多すぎ……」

 

 取り囲んだ犬と猫に戸惑いまくりの貴希さんはさすがに多いと苦笑を漏らし、美麗と煌牙もこの事態に硬直。

 周りから「小鳥お帰りー」とか「こっちは綺麗な人だー」とか「でっけぇなお前ら」とか「新入りか?」とか「まぁくつろいでいけ」とか聞こえてきますけど、とりあえず中に入らせて……

 

「お前ら、迎えは日替わりで5匹と決めただろ。決まりを守れんやつは朝飯抜きだな」

 

 周りの声に頭がぐわんぐわんし出したタイミングでようやくおじいちゃんが玄関に入ってきてそう言うと、今まで騒いでいた子達は一斉に家の奥へと走り去ってしまい、残ったのは最初に玄関にいた5匹だけ。助かったぁ。

 

「ったく、ちょっと油断するとあれだ。さて、まずは晩飯からだな。ばあさん、飯を頼む」

 

「小鳥が帰ってくるのを黙ってたのが裏目に出ましたね。いま準備してきますから、居間で待っててください」

 

 さすがのおじいちゃんのひと声で場が収まると、あの事態でも動じなかったおばあちゃんが改めてそう言って先に奥へと引っ込むのを見てから、おじいちゃん先導で居間へと移動した私達。

 居間には先ほど押し寄せてきた犬と猫の何匹かがさっきのがなかったようにくつろいでいて、動物番組の入ってるテレビの前に並んで座り尻尾を振りながら鑑賞している子達がまた可愛いのですが、それらを見つつ真ん中に置かれた炬燵へと入った私達。

 家はこの時期ならまだ都合上寝る前まで庭窓全開なので、毎年早めに炬燵が登場するのですが、居間から見えるだけでも庭でじゃれつく犬や猫がちらほら。

 毎日元気な子達なので、開放的な空間を意識してるのです。

 現在で家には犬が18匹に猫が38匹。鳩が12羽に鷹と鷲がつがいで1組ずつ暮らしていて、近隣からは『橘動物園』などと呼ばれる始末ですが、近くの幼稚園などには人気を博していたりします。

 それで炬燵へと入れば、おばあちゃんの料理が出てくるより早く貴希さんの懐に潜り込む猫が1匹。

 それにはちょっと驚く貴希さんでしたが、これは家の歓迎の印なのです。

 

「そいつは好きにしてくれて構わんよ。邪魔ならどかせば離れるし、いたずらもせんから」

 

「あ、大丈夫です。可愛いです」

 

 そんなおじいちゃんの言葉に猫を撫でながら答えた貴希さんは、もうちょっとメロメロ。

 周りがワンニャアちょっとうるさいけど、まぁ慣れればどうということもないでしょう。

 そして少し待ってから出てきたおばあちゃんの料理を食べた私達は、もうずっとたくさんの家の子達に囲まれながらも、どうにか仲良くしている美麗と煌牙を見て安心しつつ、入るように言われたお風呂に貴希さんと一緒に入って、上がった頃には時間も10時を回ろうとしていて、実家にいた頃に私が使ってた部屋に並んで敷かれた布団に入ると、久しぶりなのと新鮮だからか私と貴希さんの布団に侵入してくる子達がわらわら。

 それに対して思わず笑みがこぼれてしまった私と貴希さんは、ちょっと寝苦しく思いながらもそのまま就寝。

 明日の昼過ぎには東京に帰るから、昼前にでも貴希さんに色々見せたいな。

 そんな明日のことを考えながら、横の貴希さんに顔だけ向けてみると、貴希さんも丁度こちらを向いて目が合ったので、何か話さないとと勝手に思って話題を振ってしまう。

 こういうところが落ち着きないとか言われるんだよな……

 

「あの、貴希さんって、いつから京夜先輩とお知り合いになったんですか?」

 

「んー、知り合ったのはお兄ちゃん経由でってのが最初。依頼で足が必要だからって駆り出されて会ったのが武偵高では初めてだったんだ」

 

「へー。ということは、その依頼で京夜先輩がただ者ではないとわかったわけですね」

 

「……ちょっと違うかな。それよりもっと前から、私は京夜先輩のこと知ってたから」

 

 意外なことに貴希さんは、京夜先輩と知り合うより前に京夜先輩のことを知っていたと言うので、どういうことなのかと尋ねようとしたら、それを察した貴希さんは割り込む隙もなく話を続ける。

 

「小鳥は、関西の『月華美迅』って武偵チーム知ってる?」

 

「それはもちろん。一昨年辺りから知名度が上がってきた女武偵5人の凄腕チームですよね。あの人達に憧れてる武偵はかなりいますし」

 

「私、お兄ちゃんと上京するより前は関西の方で暮らしてたから、月華美迅がまだ京都武偵高に通ってる頃に、その活躍を間近で見るチャンスが1度だけあったんだ。その時だよ、京夜先輩を見たの。月華美迅の華やかな活躍の裏で、トラブルとか色んなものを未然に防いだり、民間人の安全を確保したりしてね。みんなそんなところ見てなかっただろうけど、私は月華美迅の5人よりも、京夜先輩を目で追ってた。そうして見たらわかったんだ。無駄がない動きに状況への即応力。その姿がすっごく綺麗でカッコ良くて、初めて武偵に憧れを持った。武偵としての目標とは違うけど、今も私にとって京夜先輩は憧れで、だから東京武偵高に来て京夜先輩と会った時は、心臓が止まりそうになった。まさかこんなところで憧れの武偵と会えるなんてって。当時は何故か武偵ランクがE評価で絶対おかしいって思ったけど、そんなことを気にするような人じゃないって知り合ってからわかったし、今は正当な評価が点けられて鼻高々だったり。これが私の憧れた京夜先輩なんだぞ。ってね」

 

 とても嬉しそうに京夜先輩のことを話してくれた貴希さんを見て、私はまたあの感情が芽生えてくる。

 ――なんだか、羨ましいな……

 今度のは恋愛とかではなく、私の知らない昔の京夜先輩を知ってる貴希さんが、純粋に羨ましかったんです。

 半年近く、京夜先輩とは共同生活をしていますが、私はそれ以前の京夜先輩というのを情報でしか知らないわけで、幸音さんや幸帆さんのように昔はああだったこうだったと語れるものが何1つないのが、少しだけ寂しかった。

 それをまた感じてしまって、表情もちょっとだけ寂しさを現してしまった。

 

「だからね、小鳥が京夜先輩の戦妹になったって聞いて、最初はちょっと羨ましいって思った。私は車輌科で走ることしか能のない武偵だから、諜報科の京夜先輩から学べることを上手く生かせないって。徒友制度をダシに近付くのも卑怯でズルいって思ってたしね。でもそんなことよりも、武偵ランクに関係なく京夜先輩のことをちゃんと見て戦妹になる人がいて、嬉しかった。当時の同期はみんな京夜先輩を反面教師だ落ちこぼれだって上っ面だけ見てて腹が立ってたから、余計に嬉しくって。だからありがと」

 

「そんな! 私は貴希さんにお礼を言われるようなことは何も。お礼を言うのはむしろ私の方です。京夜先輩のこと、ちゃんと理解してくれてて、ありがとうございます。それに今のお話から、貴希さんが京夜先輩のことを大好きなこと、いっぱい伝わってきましたよ」

 

「……それもね、一方的なものだし、結構頑張ってアプローチしてきたつもりなんだけど、当の京夜先輩は気付いてくれない。たぶん私を恋愛対象として見てくれてないんだと思うんだ。精々『可愛い後輩』が関の山かな。難攻不落すぎて最近はどうアプローチすればいいのかわかんなくなってるんだよね……」

 

 てっきり私の言葉で恥ずかしがったりするのかと思ったのですが、貴希さんはそんな様子も見せずにホトホト困ったという表情でため息をつく。

 確かに京夜先輩は鉄壁要塞ですよね。この半年で理子先輩なんかの積極的なアプローチに対しても動じたところを見たことないですし、最近でもCVRの方に女装のお手伝いと称して近付かれた時も平然と話してお断りしてましたし、どうなってるんでしょうかあの人は……

 唯一、グラついてた人が幸音さんだけだと思いますね。やっぱり年上が好みなのでしょうか。

 

「……年上好きなのかも……」

 

「……やっぱり? そうじゃないと納得したくないんだよねぇ……私これでも鈴鹿サーキットとかでちやほやされてるのに、少しもドギマギしてくれないから自信無くしそうで……」

 

「そういえば京都武偵高ではインターンで3年間幸音さんと一緒の学年だったって。そういう環境だったから同世代以下は子供に見えてるのかもですね……」

 

「……でも、諦めたくない……」

 

 貴希さんも薄々勘づいていたのか、年上好きを否定することもなく意見が合ったけど、何やら小声で呟いたと思うと、顔を私から背けて一言「おやすみ」と言ってから沈黙してしまったので、私も話し相手がいないとあって、それからすぐに夢の中へと落ちていった。

 翌日。

 いつも通りの貴希さんに安堵しつつ、みんなで朝食を食べて――私達の朝食の前に動物達の朝食を食べさせた――から、東京に帰る昼過ぎまでの暇な時間。

 基本的に周りには何もないとあって貴希さんも犬と猫と遊んで過ごしていましたが、ここは『橘サーカス』の凄さを見せてあげましょう!

 そう思って縁側で座っていた貴希さんを観客にして、庭に私の呼びかけに応えた子達が集結。

 犬猫合わせて12匹。何か始めるとあって居間からおじいちゃんとおばあちゃんも見学に出てきて縁側に腰かけてきたので、ちょっと緊張しつつも開演です。

 

「それではまずは縄跳びを」

 

 そして始めたのは縄跳び。

 今回の中で一番大きい子に縄の端をくわえてもらって、私が縄を回すと、2、3匹のグループが入れ替わりで入って跳んで出てを繰り返していく。

 それに貴希さんは口を開けたまま呆然としていて、その反応が面白かった私は次に大きい子を下から順に背中に乗せて『犬猫だけのブレーメンの音楽隊』を披露。

 私が指揮者のように手を振ると、みんなもそれに合わせて鳴き声で応えてくれる。

 高いところには当然猫を乗せてますが、土台の子が「小鳥……ヤバイ……」と漏らしたところで音楽隊を解散。よく頑張ってくれたね。

 そのあとは適当に玉乗りとかを好きなようにやらせてみたら、前よりみんな上手くなってて私も驚いたけど、それよりもずっと見ていた貴希さんがようやく言葉を発してくれる。

 

「きょ、曲芸……」

 

「貴希さんも指示すればみんなやってくれますよ。やってみます?」

 

「や、やる!」

 

 と、橘サーカスが気に入ってくれた貴希さんは、私がそう言った後に縁側から立ち上がって私と入れ替わりで庭の子達に色々とやらせ始めて、楽しそうに遊んでくれてるのを見て私も満足。

 

「小鳥よ」

 

 その様子を見ていたら、横に移動してきたおじいちゃんが唐突に話をしてきたので、私もその話に耳を傾ける。なんだろう。

 

「お前には昔、橘の家の力は『動物と話ができる力』だと話したが、あれは幼いお前にもわかるように教えたに過ぎん。橘の力の本質は『自然と対話する力』だ。その対話が最もしやすいのが動物だというだけの話でな。おじいちゃんはずいぶん劣化しているが、それでも『万物を色で大別し色の大小で調子の良し悪しを視る』ことができる。人なら赤。自然物は緑。物は青といった具合にな。それで昨日会ったあの男が放つ色は『黄色かった』のだ。これは野生動物の色と同じ。今まで生きてきた中であんな人間はほとんど見たことがない。だが、あの色を放つ人間に悪い人間はおらんかった。英理さんが『イイ男』だと言っていたのも頷ける。吉鷹のやつは見込みがなかったがの、小鳥にはおじいちゃん以上の力が眠っておる気がするから、今は理解できずとも、自分の力の本質くらいはわかっておけ。戻る前にそれだけ言っておきたかった」

 

 そうやって言うだけ言ってからおじいちゃんは私の言葉も聞かずに縁側から立ち去ってしまう。

 自然と対話する力、か。

 なんだか漠然としててよくわからないけど、それが理解できたら、きっと今よりももっとこの力を好きになれる。

 そんな根拠のない自信が、その時の私にはあった。

 それから十分に遊んだ私達は、昼食を食べてからおじいちゃんとおばあちゃん、美麗と煌牙に見送られて橘の実家を後にして東京へと戻ったのだった。

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