緋弾のアリア~影の武偵~   作:ダブルマジック

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Bullet59

 

 ヒルダとの戦闘から一夜明け、武偵病院に運ばれた理子は、運ばれた時にはもうすでに安全圏にまで回復していて、体の毒もほとんど解毒されていたらしく、耳の治療と自然回復だけで朝には目を覚ますだろうと言われてそのまま個室に寝かせられた。

 その横でオレは椅子に座りながら器用に寝ていたのだが、射し込んできた朝日で目が覚める。

 

「あ、起きちゃった」

 

 そんな残念そうに声を発したのは、目の前で寝ていた理子。

 理子は上体を起こした状態でいつからかはわからないがすでに起きていたようで、オレの顔を覗き見ていたのかちょっと顔が寄っていた。

 

「寝顔を見る趣味があったのか?」

 

「ちょっと違うかなぁ。キョーやん、理子の前で寝顔見せてくれたこと1度もなかったから、貴重な1枚を脳内に焼き付けてたの」

 

 そりゃお前に寝てるところを見せたら何されるかわからないから、こっちもずっと気を張ってたんだよ。

 だが、今回は油断した……何もされてない、よな?

 そんなオレの心中を察したのか、クスクスと笑いながら「なんにもしてないよ」と言う理子を一応信用する。

 

「アリアとキーくんは?」

 

「一緒に運んできたヒルダの方の診断待ち」

 

 会話ができるようになったことでアリアとキンジのことを聞いてきたのでそれに答えると、ピクッと、ヒルダの名前を聞いた瞬間に強く反応した理子。

 その顔にはどうして助けるんだといったところもあるか。

 

「助けるなってか? そりゃお前にとっては殺したいほど憎いやつだろうけどよ。オレはそれで理子に罪を被ってほしくないし、あいつには理子をいじめてきたことを生きて猛省させてやりたい。これから先、ずっとな。それで理子の気が晴れるかってのは知らないけど、殺す殺されるで終わる出来事は気分のいいものじゃない」

 

「……それでまた、理子をいじめようとしたら?」

 

「うーん……あいつはオレ達に負けたわけだから、極東戦役のルールに従えばあいつをどうするかは師団の判断で決定できるから、そんなことをさせないことは可能だけど、もしお前に何かしようとしたら、オレがまたメッタ刺しかもな。今の治療で魔臓の位置も判明するだろうし、次はもっと手早くできる」

 

「そういうのキョーやんらしくない。キョーやんはこれからも『綺麗な手』でいてよ。理子もその方が嬉しいし」

 

 綺麗な手、か。

 ヒルダ相手とはいえ、あんなことをしたオレの手が綺麗なんてことはないと思うが、理子にとってはそうなんだろう。

 言われて自分の手をグーパーして小さく笑うと、理子も恥ずかしそうな笑顔を浮かべていた。

 その笑顔をまた見れたことは良いことだ。

 

「…………悪かったな。大変な時に側にいられなくて」

 

「何でキョーやんが謝るのさ。これは理子が弱かったから起きたこと。そりゃ、こんな時にいなくならなくても、とか思ったことは認めるけど、それでキョーやんを責められるわけないよ。それに、スカイツリーまで助けに来てくれた時は、そのね……泣きたいくらい嬉しかったし……口移しのキスはキョーやんの『生きろ』って気持ちが直接入ってくるみたいだったよ。キョーやんとの初めてはもっとロマンチックでソフトなのが良かったけど、凄くディープなのになっちゃったね……」

 

 だが、その笑顔を曇らせる原因を作ったのがオレでもあるので、その事で謝ったらそんな返しをされて互いに恥ずかしくなり沈黙。

 理子の顔が見れない……というかあれをキスとしてカウントされるのはどうなのか……

 そんな指摘もできないで2人してどぎまぎしていたら、個室の扉をノックしてから入ってくる人物がいて、入ってくるなり理子に近寄ってきたのはアリアとキンジ。

 2人は各々話すことがあったようで、ちょっとしたやり取りが始まったため、恥ずかしい空気から脱するようにオレは2人に席を譲り後ろへと下がって、一緒に入ってきたワトソンと羽鳥に並ぶ。

 

「で、何でお前がいる」

 

「失礼だな。私はエルの要請に応えて深夜にも関わらずやって来て、瀕死のヒルダを診てやったというのに」

 

「フローレンスは嫌いだが、その腕は認めているからね。しかし気安く触るなと何度も言っているはずだが……」

 

「はははっ、それは距離感の違いだよエル」

 

 そんなことを言いながら笑顔でさりげなくワトソンの肩を寄せようとする羽鳥だが、当然のごとく手を払われて拒否されていた。

 しかし男嫌いのこいつがこの反応ってことは、昨夜は格好から判断したが、ワトソンは男じゃないな。

 それに気付きつつも、どうにも男の振る舞いをしてみせるワトソンは、羽鳥とは違って女であることを隠してるのかと思い黙っておく。

 だが、嫌いだと言う羽鳥を呼んでまで治療するということは、ヒルダも相当な綱渡りをしたのか。

 ここに来たのもヒルダの状態を説明するためだろうしな。

 アリア達の会話がひと区切りとなるまで待っていたワトソンだが、そこまで時間的余裕もなかったのか 、ちょっと強引に会話に割り込んで予想通りヒルダの話を切り出した。

 

「まず宣言しておくが、ボクは武偵であり医者だ。敵でも、戦いが終わればノーサイド。過剰攻撃(オーバーアタック)はしない。いかなる人格、国籍、人種であっても関係ない。治す。だからさっき、ヒルダの体から散弾銃の弾を――107発、全て摘出した。魔臓機能が不全なのにもかかわらず、彼女は驚異的な生命力で手術を乗り切ったよ。身動きも取れず、意識も無く、人工呼吸器を必要としながらも……彼女の命は、生きようと願っている。ちなみに魔臓なるものを縫合したのは初めてだったので、ボクもフローレンスも完璧には手技が出来ず……その組織を若干、切除せざるを得なかった。だがボクは、転んでもただでは起きない。それを材料に、魔臓の働きを止める薬品――バンパイア・ジャマーの開発を約束しよう」

 

 割り込んだ割には長々と話すワトソン。

 アリアとキンジもここで初めて聞かされたことなのか黙っているが、回りくどい話に誰かツッコめと目で牽制し合っていた。

 

「だが……日の出の頃から、彼女の容態は悪化している。主な原因は血液不足だ。ボクはここに着くと同時に、ヒルダの血液型を調べた。結果は、B型のクラシーズ・リバー型。人間では170万人に1人しかいない、珍しいものだったよ。その血を保存しているのは世界中でシンガポールの血液センターだけで、取り寄せるのに2日はかかる。そして……ヒルダは、この昼を越せないだろう」

 

 そうして話してからワトソンは、チラリと理子に視線を向けたので、わざわざこの場所に来て話をしに来たのか、その意図を理解する。

 つまりここに、ヒルダを助ける手段があるのだ。

 

「それ、理子の血液型と同じだよ。自分達と同じ血液型って事もあったから、ブラドは理子を手放したがらなかったんだ」

 

 ワトソンにチラ見されてしばらく黙っていた理子は、言うかどうか迷ったのだろうが、結局それを話してしまう。

 それで納得。ブラドはそれがあって優秀な遺伝子を持つ人間の中で、理子にこだわっていたのだ。

 自分達にもしもの事があった時のパーツ埋めとして利用するために。

 それを知っていたワトソンが、理子の意思を尊重したいがために自分から言うのを促したようだが、ヒルダを助けたいという言葉は嘘じゃない。

 

「理子、キミの献血を強制はしない。『戦役』に参加して敗北した者は、死ぬか……敵の配下になるのが暗黙のルールだが、ヒルダはそれに従わないかもしれないからね。ちなみにヒルダは一時期、イ・ウーに留学していた。交渉次第では、神崎かなえさんの裁判に出廷させる事もできるだろう」

 

 しかし、理子に強制しないと言いつつ、言葉の中に助けた恩は返せと主張する部分があってズルいと思う。

 それは思ったのだが、それよりもこの話に平然と混ざってる羽鳥は、いったいどこまで理解して聞いているのかが気になり小声で尋ねてみれば、

 

「私が知らないことは、彼女達のスリーサイズくらいさ」

 

 などと返してはぐらかされる。

 つまり今の話に一応の理解はあるんだな。どこまでってのを濁す辺りはこいつらしいが。

 

「――いいよ。採れば?」

 

 そんなことを話していたら、理子もツンツンしながら恩返しじゃないからなと念を押しながらに献血を受け入れる。

 素直な優しさを見せないのは実に理子らしい。

 理子の合意を得たことで、ワトソンと羽鳥は献血のための機器を運びに一旦退室し、アリアとキンジも心配事が消えたからと揃って帰宅していき、個室にはまたオレと理子だけとなると、さっきの恥ずかしい空気はなくなったので、普通に話をする。

 

「ワトソンの言い方もあれだったけどよ、やっぱ優しいよな、お前は」

 

「別に優しいとかじゃないよ。キョーやんが理子に罪を被るなって言ってくれたから、そうしたいと思っただけ。それからさ、助けてもらったお礼したいから、1回だけ何でも言うこと聞いてあげる」

 

「ほう。理子にしては太っ腹な報酬だな。今までオレもずいぶん振り回されたからな。ここらで発散しとくかね」

 

「あ! でもでも、おっぱい揉ませてとかそういうのはダメだ……みょっ!?」

 

 妙にしおらしいと思っていたら、やっぱりいつもの理子だったので言い切る前にチョップで止めておく。

 

「そうだな……じゃあ、今日1日はゆっくり休め。ここ数日くらいまともに寝られなかっただろうし、良い機会だろ」

 

「えー! つまんなーい! つまんないつまんないつまんなーい! だったらキョーやんも今日はこの部屋から出ちゃダメでーす」

 

 うるせー。オレがどんなこと言おうと従うんじゃねーのかよ。

 しかもちゃっかり監禁宣言してるし。バカなのか? バカなんだな?

 

「いいから寝てろバカ。明日から元通りの生活になって寝不足だなんだ言いやがったら殴り飛ばすからな」

 

「…………キョーやんって、生きてきた中で勿体ないこと絶対何回もしてるよね」

 

「そうかもな。でも後悔はしてないつもりだ。オレに後悔させたくないと思ってくれるなら、大人しくしてろ」

 

 これ以上なにか言われても、オレにとって理子が元気になることが今の一番の願いなので、これを押し通す。

 そんな気持ちが伝わったかはわからないが、理子は小さく頷いて小声で「ありがとう」と言ってきて、オレもそれで少し笑みがこぼれる。

 

「ああそうだ。これは聞いとこうと思ってたんだ。お前さ、ヒルダとの会話で『まだ見つけられないものがある』とか言ってたろ。あれって何だよ」

 

「………………教えない。キョーやんには絶対に教えないもん」

 

 それで帰るかと思って椅子から立ち上がったところで、昨夜の理子とヒルダの会話で気になったことを軽い気持ちで問いかけてみると、理子は何故か布団に顔を隠してそれを拒否。

 何だその反応は……

 

「知られると困ることか? まぁ教えたくないものを無理に聞きはしないけどな」

 

 あの理子が隠したがることなら気にならないわけではないが、是が非でも聞き出したいことでもないのであっさり退けば、布団から覗く理子が「あれ? 聞かないの?」みたいな目をするので、もうどっちなんだよお前……

 それがわかるように理子をジト目で見てやると、布団から顔を出した理子は、顔を真っ赤にしてひと息で言い切った。

 

「…………キョーやんの気持ちが今どこにあるのかいくら探しても見つからないの」

 

「……オレの、気持ち?」

 

「ゆきゆきのことはもう片がついたから、きっとキョーやんもどこか別のところに気持ちがいってるって思ったけど、キョーやん、前と変わんないんだもん。ゆきゆきって想い人がいなくなってから、それをまだ見つけられてないの」

 

 そんなもの、見つけられなくてもいいだろうに、と思ったのだが、理子にとっては重要なことらしく、顔を赤くしながらも表情は真剣だった。

 

「キョーやんはきっと、自分に自信がないんだと思う。だから自分に好意を持つ子がいても『自分を好きになるわけがない』って言い聞かせてる。自分に自信がないから『誰かを好きになっても仕方ない』って思ってる。でもね、キョーやんは自分が思ってるよりずっとずっと素敵な人だから、『気付かないフリ』はもうしちゃダメだよ。理子も普段は冗談みたいに言ってるけど、キョーやんのこと、本気で好きだから。だからキョーやんにも本気で向き合ってほしいの」

 

 図星を突かれた、ような気がした。

 オレ自身、幸姉との関係に整理がついて新たな1歩を踏み出したが、理子の言うようにそれより前から未熟な自分に自信がなくて、他人の好意に鈍感になろうとしていた気がする。

 だがそれは、真剣な気持ちを踏みにじるような行為。たとえ意識してやっていなかったにしても、オレはそれを反省すべき。

 

「……とりあえず、お前は今日1日休むこと。オレも明日には少し変わってると思うけど、笑うなよ」

 

「理子のこと好きになっても全然オッケーだよ?」

 

「それはわかんねーよバカ」

 

 とにかく、気持ちを整理するために一旦帰宅することを決めて、そんなやり取りを最後に個室を出たオレは、そのすぐ外の廊下で1度立ち止まり自分の愚かさを噛み締めていた。

 

「何をしているのだお前は」

 

 いきなり誰が話しかけてきたかと顔を上げれば、そこにはずいぶん久しぶりに顔を見たジャンヌがいて、廊下で立ち止まっているオレを不思議そうに見ていた。

 

「何って言われてもな……これから帰るところなんだが」

 

「そうか。理子が運ばれたと聞いて来てはみたが、大事には至っていないようだな」

 

「明日には退院して登校してくるだろうよ。今日1日はここで寝とけって命令しといたから、もう暇そうにしてるかもな」

 

「ふむ、すると理子は今日ここからは出てこないのだな。だとしたらこれは……」

 

 どうやら理子の見舞いに来たらしいジャンヌだが、オレの話を聞いて顎に手を当て何かを考え始めたかと思うと、すぐに顔を上げてオレを見る。何でしょうか。

 

「猿飛。お前が引いた変装食堂の私の衣装、覚えているか?」

 

「はっ? あー、何だったか……ウェイトレスとか書いてたような……」

 

「そうだ。お前に任せて引かせた以上、衣装に文句はない。むしろ着たい……ではなく、その衣装をよりパーフェクトにするために買い物に付き合え。行くところが地理のない秋葉原だから、コスプレ趣味の理子とよく出入りしているお前なら、その辺も詳しいだろ」

 

「……っていうのは口実で、本当はアキバに行ってみたいのが正解か? アキバで衣装を見て回るところを理子に見つかる可能性がない今日を逃したくないと?」

 

「ち、違う! 断じて違う! お前は変なところで頭を回すな! お前が決めた衣装なんだから、その責任は取れ」

 

 たまにだが、ジャンヌは凄く分かりやすいんだよな。

 女の子らしい趣味を隠してるジャンヌさんは、どうやら理子のホームグラウンドに足を踏み込めなかったのだろう。

 そのチャンスが巡ってきて喜びが顔に出てしまってる。オレがまだ返事してないのにな。

 しかしまぁ、断る理由もないからいいか。

 それでオレが了承すれば、ジャンヌは理子の見舞いはどこへやら。

 その身を翻して病院を出ていくようで、それを追う形でオレも病院を出て、とりあえず待ち合わせ時間を決めて現地集合にしてからジャンヌとは一旦別れて帰宅した。

 その別れ際のジャンヌが小さくスキップしてたのが妙に可愛かったが、なんか嫌な予感がする。

 そうして昼の10時少し前に秋葉原駅の電気街口まで来たオレは、ここを訪れる度に理子から「待ち合わせは男が先に来るものだ」と注意されていたので、それを踏まえて10分前行動でジャンヌを待っていると、駅からそのジャンヌさんが優雅に登場。

 以前、未婚の乙女は無闇に素足を、などと言っていたから、それを隠すように紺のデニムを履いていたが、くっきりとボディラインを出すタイプなのでそのラインの細さが妙に色っぽくて綺麗だ。

 上は白のシャツに薄茶色のセーターを着重ねて、全体的に女の子らしい可愛さはなかったが、それでも元が美人で長い銀髪とあって周囲からは浮いていた。

 

「待たせたか?」

 

 そんなジャンヌはオレを見つけて近寄ってから呑気に口を開いたので、そこでやっぱりなと悪い予感が当たったことに大きな溜め息を吐いた。

 

「何だその反応は。私が何かしたというのか?」

 

「……お前さ、お忍びで買い物するんだよな? だったら自分がここでどのくらい目立つかわからなかったのか?」

 

 と、オレが言ってみてもジャンヌははて? と首を傾げたので、引っ張るつもりもないオレは事前に用意してきた底の深い帽子をジャンヌの頭に被せてやる。

 

「お前の髪は目立ちすぎるんだよ。理子と会わないからって、他の武偵高生と会わないとも限らないし、理子の息がかかった店に入ったらそこから情報が漏れるだろ」

 

「……すまない、猿飛」

 

 そうやってオレが注意してやると、珍しく素直なジャンヌはオレに謝りつつ渡した帽子に垂れ下げた分の髪を入れて被り直し、パッと見で銀髪が見えないようになった。

 本当にそこまで考えが及んでなかったのか。浮かれるにもほどがあるだろうが、それもそれでジャンヌらしいとか言ったら怒られるな。

 

「それでお前はどうして制服を着ているのだ?」

 

「逆に私服を着る理由があるのか? オレは別に隠し事があるわけでもないし、こういう組み合わせの方が周りからは依頼か何かだと思わせられるだろ」

 

 準備も整ったところで、早速並んで歩き出して中央通りを北に進んでいると、唐突にジャンヌがそんなことを聞いてきたので即答してやる。

 

「そう、か。ん、いや、お前なりに色々と考えているのだな。少し見直したよ」

 

「そりゃどうも。それでまずは何を見るんだ? それによって行く店も変わってくるんだが」

 

「それなのだが、やはりこう、華やかなフリフリ衣装などを扱う店に行きたいんだ」

 

 こいつ、やっぱり変装食堂の衣装とか関係ないな。

 衣装をパーフェクトにするためにとか言っていたくせに、いきなりフリフリ衣装などを見たいと言うので、それに気付きつつも楽しそうに話すジャンヌを見ると指摘するのも野暮だと思い、要望通りにそれらしいのを扱う店に案内していく。

 とはいえ、理子と来る以外でアキバなど来ないため、知ってる店も全部理子の息がかかっていて、どこに行っても店員とマブみたいに話す理子のせいで、オレも店によっては顔を覚えられていたりする。

 そのオレが理子以外の女を連れてやって来たとあって、女性店員さんに妙にソワソワされてしまうが、そんなのお構いなしに店に入るなり展示される洋服などを目をキラキラさせて見始めたジャンヌ。

 それを我関せずで見ていたら、案の定理子とよく話している店員さんが代表として近寄ってきて「デートですか?」などと実に女子らしいことを尋ねてきた。あなた方も営業中でしょうに。

 

「仕事で同行してるだけですので。あんまり他人に話すことではないので、胸の内に秘めてくださると助かります。もちろん理子にも」

 

 理子とは違って冗談を言うタイプではないオレの言葉に、店員さんも聞いちゃいけなかったのかと謝罪してからいつも通り仕事に戻っていき、とりあえずこの店は乗り切ったオレも小さく息を吐く。

 そんなオレのちょっとした苦労も知らずに、あれもこれもと手に取って洋服を見るジャンヌ姫は、もう完全に自分の世界に入られてしまっていた。

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