第一話。受け継がれたもの
『ところでお嬢様、時間の方はよろしいので?』
結局、部屋中に仕掛けられたカメラと盗聴器を銃で破壊して、他にも仕掛けられていないか確認する作業に夢中になっていると、繋がったままの電話から騎場の声が聞こえてきた。
時計を確認してみると、時刻はすでに8時。
……8時?
「ふふ、ふふふ……」
おかしいな、時計の針が狂ったのか?
起きたのは6時だぞ? あれから2時間も経ってるなんてそんな馬鹿なことあるわけ……
『お嬢様、現実逃避をしている中申し訳ありませんが、そろそろ部屋を出ませんと遅刻なされます』
「ええーい、解っておる。というか、誰のせいで遅刻しそうになってるのか解っておるのか!」
『……主の行動を盗み……記録するのも、家臣の役目故』
「そんな役目は必要なーい! というか、着替えるから見るなー!」
バスバスバスバスッ!
反省の様子が見られない騎場の行動に苛立ち、手に持ったままの銃を乱射してしまった。
壁や天井に銃弾がめり込むが、窓や家具、床は無傷だ。
それらは全て九鳳院が用意した防弾仕様の特注品だからだ。
その強度は防弾レベルNJJ
跳弾した弾は全て叩き落として防いだから、自分の体も無傷だ。
この程度の痛み、あの地獄のような修行の痛みと比べたらマッサージにもならない。
ブルリ。
師匠を思い出して震えが止まらなくなる。
あの人の修行は常軌を逸していたからな。
常軌を逸した肉体の改造。
何度も砕かれた骨、裂かれた肉。
あの地獄の肉体改造により位置が変わらなかった内蔵はない。
……駄洒落じゃないぞ。
そんな常軌を逸した修行を何年も費やしてようやく手に入れた”自分の力,,
大好きなあの人と同じ力。
その力を与えてくれたのは、
『恋人を作るなら、断然年下。年下の恋人は金の藁を履いてでも探しなさい』とはその師匠の弁。
一体師匠の恋愛観に何があったんだろう?
ちょっと変わってる人だけど。
まあ、あの地獄のような修行のおかげで強くなれたから感謝しか出てこないからいいのだが。
それに……
「はぁはぁ……スッキリしたー」
騎場のせいで朝から溜まったストレスを、運動で発散できたからまあいいか。
「さて、と着替えるか」
私は着ているネグジェを脱ぐと武偵高指定の防弾制服に身を包んだ。
「あー、やっぱりいっちゃったかぁ」
急いで制服を着て部屋を出てバス停まで走ってきたが武偵高行きのバスはすでに出た後だった。
春先とはいえ、少し肌寒いので制服の上に皮のジャンパーを羽織る。
このジャンパーは母様から譲られたもので、母様曰く『御守り』。
かなり着込まれたものだがこのジャンパーは特注品でナイフを刺されても銃弾を受けても傷つかないちょっと普通じゃないものだ。
九鳳院家の令嬢が持つには似つかわしくない薄汚れたものだが、母様はこれを大切にしていた。
母様曰く『いい香りがする』。
実際懐かしい香りがするのだが……。
そして母様から譲られたものはもう一つある。
今私が帯銃している拳銃。
ベレッタM93R。
使い込まれたそれは、母様曰く、父様が昔使っていたもので、かつての世界最高の揉め事処理屋が使用していたものを受け継いだものだという。
『桔梗様。お迎えにあがりましょうか?』
操作していない携帯電話から騎場の声が聞こえてくる。
遠隔操作で私が触れずとも会話が可能……なんて話今まで知らなかったぞ。
この男は本当に……どうしてくれようか?
「騎場。減俸だな」
「
ゾクリと、師匠とは別の意味で背筋が寒くなる。
だ、だめだ。コイツ……早くなんとかしないと。
なんてやり取りしていたその時だった。
私の目の前を一台の自転車がもの凄い勢いで通り過ぎた。
『桔梗様……今のは!』
「ああ、追われてたな」
全速力で自転車を漕ぐ少年の後ろ。
そのすぐ背後にはカカシのような乗り物……セグウェイだったか?
近未来の一人乗り用の乗り物が走っていた。その自転車を追い回すかのように。
ただ自転車を追いかけるだけならさほど気にはならなかった。
だがそのセグウェイには銃座のようなものが取り付けられていて、そこにUZI……サブマシンガンが搭載されているのが見えてしまった。
「騎場」
『……よろしいので?』
「ああ。今からの私は九鳳院ではない」
私は電話口から溜息を吐く騎場に向かって宣言をする。
「これから私は______
揉め事を処理してみせる!
行くぞ、騎場!」