ーー町のあちこちから、火の手が上がっていた。 けれど、消防車やパトカーのサイレンの音が鳴り響いているのに、悲鳴が聞こえてくる事はなかった。
「……ん」
そんな町中の一角で、女の子が倒れている。
「……むにゅう?」
眠い目をこすり、ゆっくり起き上がった。
少女の全身は汚れているのだが、それに気付く事はなかった。 背中に背負っているランドセル共々、少女のツインテールの髪も砂ぼこりを被ってしまっていた。
「えっ!?」
徐々に頭がはっきりとしてきた時、少女はーー驚愕した。
「な……に……これ?」
あちこちでサイレンの音が鳴り響き、煙すら上がっていたからだ。
「どうなってるの!?何で!?……はっ!!小鳥ちゃんと、虎ちゃんは!?」
慌てて周囲に目を配らせる。
すると、近くにあったジャングルジムの側に少女2人が倒れていた。それを見つけた少女は、急いで駆け寄った。
「小鳥ちゃん!」
ツインテールの少女は、小鳥と呼んでいる少女を激しく揺らす。
眼鏡をかけていてるのだが、レンズにヒビが入ってしまっていた。そしてツインテールの少女と同じく、全身が汚れてしまっていた。
「虎ちゃん!」
その眼鏡の少女の隣で、同じく気を失っている少女に声をかける。
虎ちゃんと呼ばれた少女もあちこち汚れてしまっている。
「ん」
2人から聞こえる声を確認したツインテールの少女は、ほっとした。
(どうしよう……。誰か呼ばなきゃ)
心の中で、必死に冷静になろうとしているのだがーー無理だった。
ツインテールの少女の瞳から、大粒の涙がボロボロ溢れて来た。
「ふ……ふええぇーん」
まだ子供にすぎない少女に冷静になれと言うのは、無理がある。仕方のない事だった。
少女の泣き声と、けたましく鳴り響き続けるサイレンの音だけが、公園に聞こえていたのだった。
【4月中旬午前7時】
「いってきまーす!」
水色に薄紅色花びらのアクセントが可愛いらしいランドセルを背負いながら、家の玄関を開けた。
走り出した道は、中世ヨーロッパ風の街並みだ。真新しい煉瓦造りの家々と石畳の道路、日本とは思えない程に不思議な街並みだった。 街灯は日本の街灯でなく、外国で使用されている足が長いランプのついた物だ。
そんな街並みを横切る様に走るのはーー桜が咲いたかの様に艶(あで)やかな薄紅色の髪をツインテールにした、少女だった。 大きな瞳はりんごの様に赤い。
薄紅色の服の上に白いカーディガンを着て、短めの赤いスカートをヒラヒラさせながらピンクの髪を揺らし走らせる姿は、可愛いウサギの様に見える。
ふわふわした笑顔のまま息を切らし、目前に見えてきた人物達に手を振った。
「あっ。 風華(ふうか)ちゃん」
ミルクチョコの様な髪色と瞳で少し分厚い眼鏡をかけている少女は少し垂れ目がちな瞳で、左目の下には泣き黒子がある。 肩までかかる髪は左側だけ少し結んでいる。 上下共に白い服なのだがスカートは膝丈にまで及び、長い靴下と一緒に肌を隠してしまっていた。そして真っ赤なランドセルを背負っている。
「遅いで。 いつまで待たせるんや?」
関西弁を披露しているのは海の様な青い髪をショートカットにし、緑のジャージを着てズボンを履いているボーイッシュな女の子だった。 ランドセルも自身の性格を表している様な黒色だった。 そんな少女の髪と同じ深い青の瞳は、ピンクの髪の少女を映し出していた。
「ごめんね」
苦笑いで誤魔化そうとしているのでボーイッシュな女の子は、薄紅色の髪の少女のスカートを捲ってしまう。
「きゃー!」
「風華が遅刻するからやで?お?白か……清楚やな」
ニカニカと笑う蒼い髪の少女は、風華と呼ばれた少女のスカートを捲って満足する。
風華はタコの様に顔を赤くし頬を膨らませ、青い髪の少女をポカボカと叩く。 それを見ていた眼鏡の少女は、クスクスと微笑んでいた。
通勤や通学の時間帯という事もあり、そんな風華達の姿は大勢の人の目に止まった。 けれど眼鏡の少女が止めに入らないのを見るとじゃれているだけだと気付き、素通りしていった。
「もう、いつもそれ止めてって言ってるじゃない!虎子ちゃん!」
仕返しと言わんばかりに虎子と呼ばれた少女の後ろに回り、ランドセルに顎を乗せる。
「ちょっ……おも……!」
「虎子ちゃん!?」
虎子はバランスを崩し倒れそうになるも、眼鏡の少女が支えてくれた。
「もう、風華ちゃん!」
「ごめんごめん。怒らないでよ、小鳥ちゃん」
小鳥と呼ばれた少女はこの騒動の原因が虎子のイタズラによる物だと知っているので、これ以上は咎めなかった。
3人で笑いながら登校する。 それがいつもの当たり前の日常だった。
ーーけれどその日常が間もなく死(じこく)という恐怖へ変わるなど、誰が想像しただろうか。