執政官アンナの溜め息   作:やーなん

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今回のお話は密かに人気のあるあの人です。






魔術師少女の溜め息

 それはある日の昼下がりのことであった。

 アンナはいつものように昼食を終え、自分の執務室へと戻ろうとしていた時だった。

 

 

「は~あ~ぁ……」

 そんな特大の溜め息に誘われるようにアンナは中庭へと視線を向けた。

 そこには中庭に設置されているテーブルに突っ伏している少女の姿があった。

 

「メーリスさん、具合でも悪いのですか?」

 アンナは心配になって声を掛けた。

 

「あ……アンナさん……」

 垂れ下がっていたツインテールを揺らしながら、彼女は顔を上げた。

 その表情からは疲労の色が見て取れた。

 

「医務室へお連れしましょうか?」

「ううん、大丈夫。最近、ちょっと勉強が身に入らないだけだから」

 そう言って、彼女は力なく首を振った。

 

「……私でよければ相談に乗りましょうか?」

 魔法使いにはスランプは付き物で、アンナも彼女にそれが来たのかと思ってそう提案したのだが。

 

「あ、違うのよ。仕事が忙しくてあまり勉強する時間が取れないだけだから」

 アンナの表情を察して、メーリスは慌てて手を振った。

 

「そうなんですか。よかった。何か有れば遠慮なく私に言ってください」

 安堵したアンナがそこから立ち去ろうとすると。

 

 

「あ、あの!!」

「えッ?」

 突然、メーリスが音を立てて立ち上がった。

 

「アンナさん、お願いがあるんだけれど……」

「はい……?」

 真剣な表情のメーリスにアンナはとりあえず話を聞いてみることにした。

 

 

 

 

 

 

「もっと前線で魔物と戦いたい、ですか」

「うん、そうなの」

 アンナは即答できたが、敢えて目を閉じて少し考えた素振りを見せ。

 

「残念ですが、私の一存では決めかねます」

 若干の曖昧さの含んだ返事をした。

 

「……そうなんだ」

「もしかして、今のお仕事に不満があるのですか?」

「だって……!!」

 アンナが尋ねると、メーリスは激昂しかけたが、すぐにそれを押さえ込んだ。

 

「私、早く師匠やバルバストラフ様みたいな立派な魔術師として認めてもらいたいんです。

だけど、最近私の仕事と言えば魔物と戦うことじゃなくて、あの変なひとの供回りをして王都中を歩き回って雑用ばかり!!

いざ戦いの場に連れて行ってもらっても私達メイジは後詰めで、雑用や瓦礫の撤去とか死体の焼却ばかりじゃないですか!!」

 それは、若さゆえの功名心の発露からなる焦りだった。

 重要な仕事を任せてもらえない。だから自分は必要とされてない、と思い込んでいるのだ。

 

「最前線で戦うことばかりが戦いではありませんよ」

 彼女の言うことは、確かに真実である。

 最近、魔物との戦いは激化する一方で、最前線で投入される魔法使いは破壊力に特化したメイジより回復魔法も習得したビショップたちの方が優先されている。

 

 メーリスは若いが優秀なメイジで、王国軍で誰よりも遠くに魔法の火炎弾を飛ばすことが出来る。

 そんな彼女でさえも控えになってしまうこの状況のほうが異常なのだろう。

 とは言え、彼女に任された仕事が全く重要ではないかと言えばそんなことはなく……。

 

 

「たしか、今はロイさんの元で修行をしているんでしたね」

「はい。師匠たちにもっと戦いで活躍したいって言ったら、あの変なひとの元で暫く修行するようにって……」

 その物言いから、メーリスは不満たらたらなのが見て取れた。

 

「変なひと、ですか」

 アンナも思わず苦笑してしまう。

 確かに彼は魔法使いから見れば、変なひとだろう。

 

「魔法兵の訓練とかならまだいいんです。

だけどあの人、それが終わったら城中を歩き回って暖炉の様子とか見て回ったり、何十人分のバケツ暖めたり……」

 彼女の愚痴を聞きながら、アンナはもうそんな時期かと思った。

 

 その後も彼女の愚痴は続き、アンナはそんな彼女に付き合い続けたのだった。

 

 

 

 

 散々彼女の愚痴に付き合った後、仕事を終えて夕食に向かおうとした頃に件の人物と廊下で遭遇した。

 

「ロイさん、こんばんわ」

「おや、アンナ殿ではないですか」

 宮廷魔術師の赤いローブを纏ったその男は優雅に一礼した。

 

「どうですか、メーリスさんは」

「いやはや、若い女性が近くに居られるといささか緊張してしまいますよ」

 ぽりぽりと頬を掻いて彼は応じた。

 

「彼女は資質は十分でしょう。才能も私などよりも遥かに上です。

あとは知識を生かせる経験が備われば、王国でも五指に入る魔法使いへとなりうるでしょうな」

「それほどですか」

「ええ、あの方々からもお墨付きですよ」

 ロイの意見は彼女の師匠たちと共通であると示した。

 

「まあ、お二方はもっと苦労するべきだと仰っていましたが」

「ふふ、お手柔らかにお願いします」

「いえいえ、私などの手伝いなど彼女には退屈でぬるいくらいでしょう。

 人手が増えて私のほうが助かっているくらいです」

 そう言って、ロイは朗らかに笑った。

 

「そこの君」

 すると、ちょうど若いメイドがバケツを抱えて二人を横切ろうとしたのを、彼は呼び止めた。

 

「そのバケツの水を温めてあげよう、貸してみなさい」

「あ、ありがとうございます。宮廷魔術師さま」

「気にすることはないよ。この時期は寒いからね、水仕事は大変だろう?」

 ロイは魔法を唱えると、見る見るうちにバケツの水から湯気が出てきた。

 

「いつもごくろうさまです」

 アンナはその光景を見てそう言った。

 いつからだろうか、ロイがこのように城内や王都の人々に魔法で湯を沸かすようになったのは。

 少なくともアンナが王子の遊び相手をしていた幼い頃から彼はこうしたことに魔法を使っていた。

 

「私が出来るのはこのくらいですから」

 と、彼は謙遜してそう言ったが、アンナは彼が城内や城下の人々から慕われているのを知っていた。

 彼に倣うように多くの魔法兵たちが町でも魔法でお湯を沸かしたりする光景が見て取れる。

 

 戦場でも彼らの魔法は燃料を削減したり、行軍の最中に生水を飲む心配を失くす大きなメリットがあった。

 

 魔法使いの多くは人々から迫害されたり奇異の目で見られたりするという。

 だがアンナは少なくともそれを、王国を出るまで実感することは無かった。

 

 だからだろうか、王国軍に所属する魔法使いたちは皆が魔法が身近にあり驚くという。

 彼より優れた魔法使いは何人もいるだろうが、彼の代わりになる人物は未だに見つからない。

 

 

「アンナ殿、次の戦いからは私ではなく彼女を魔法兵のまとめ役として連れて行ってはもらえないでしょうか」

「……良いんですか」

「ええ、王子もそろそろ私が口を出すことなど無くなっているでしょうから」

 ロイはどことなく寂しそうに首を振った。

 彼はその宮廷魔術師という立場から王子から意見を求められることもあるのだが、その必要も彼は無くなるという。

 

「それになにより、私の力ではこの先王子たちに迷惑をかけてしまう」

 魔物との戦い方にはセオリーという物があった。

 

 兵士で前線を支え、援軍要請に応じて重装歩兵で魔物の群れを抑え、魔法兵で一網打尽にする。

 空の敵は弓兵の掃射で打ち払い、それでもダメなら魔女の魔法で打ち落とす。

 強敵や魔法を使う敵には騎兵が強襲し、傷ついた者はヒーラーが癒す。

 

 それを守れば、余程のことがない限り魔物相手には負けなかった。

 しかし、それが段々と通用しなくなってきている。

 

 

「私の力不足で戦線を離脱するのは、幼少の頃から見守ってきた立場からして情けない気持ちでいっぱいなのですが、足手まといはこの先不要でしょう」

「ロイさん……」

 ほんの少し前まで、魔法の耐性を持つ魔物は限られていた。

 だが今では魔法に対する耐性を持った魔物ばかり見受けられるようになってきた。

 

 特に、これから予想されるであろう魔界では、魔法の殆どを無力化する悪魔との戦いが予想される。

 彼の懸念は至極当たり前のことであった。

 

 とは言え、魔法兵部隊の運用が彼ほど熟達した者は居ない。

 魔法力の強い弱いに関わらず、魔法兵部隊自体に価値があるのだ。

 

「ロイさんはこれからどうするのですか?」

「実は先日、魔法都市で見た光景に我ながら少年心をくすぐられましてな。

我が王国にも何か取り入れられるものが無いかと考えた次第でして」

 まだ草案段階でしかないが、とロイを前置きしてそう言った。

 

「街灯……ですか?」

「ええ、街中でも夜道は危険ですからな。

魔法の力で闇夜を多少でも晴らせれば、人々も安心して道を歩けると思いまして」

 そうやって魔法使いへの平時の需要を増やしていく。

 そうしていけば、いずれ魔法使いへの偏見や奇異の目が減っていくだろうと彼は考えていた。

 

「わかりました。内政担当の政務官に話を通す際は私にも声をお掛けください。

多少なりともお力に慣れればと思います」

「ありがとうございます、アンナ殿」

 ロイはそう言ってアンナに一礼した。

 彼女のような若輩にも敬意を払ってくれる彼を、アンナは嫌いではなかった。

 

 それに、彼の計画が実現すれば一目を忍んで良からぬことを考える輩も経るだろうという打算もあった。

 人には向き不向きがある。彼は戦いよりこういった分野にこそ力を発揮するのだと彼女は思った。

 そう例えば、あの温厚だった王子が英雄への道を邁進しているように。

 

 

「アンナ殿。幼馴染であるあなたほどではありませんが、私も王子のことは幼少の頃から見知っております。

私の眼には、あの御方はどこか無理をなさっているように見えるのです。

アンナ殿、いざという時は王子をお頼み申し上げますぞ」

「はい、勿論です」

 この時彼女は、彼の真意には気づけなかった。

 

 彼には分かっていたのだ。

 本当の意味で、彼を止める事ができることが出来るのは彼女しか居ないのだと。

 

 

 

 

 

 それから少しして、メーリスは魔法兵部隊の指揮官として大抜擢されたのだが、意外にも彼女はこれを辞退した。

 

「メーリスさん、聞きましたよ。

前回の話、辞退したとか」

 偶々廊下で遭遇した時、アンナは彼女に真意を聞いてみた。

 

「ああ、あれね……」

 すると彼女は若干照れくさそうに目を逸らした。

 

「実は私、魔法の腕を褒められたことはあっても、誰かに感謝されたことはなかったの」

 魔法使いは誰しも、大なり小なり偏見、畏怖、恐怖や奇異の目に晒されて苦い思いをした経験があるというが、彼女も例外ではなかったようだ。

 

「だから、ほんの少しだけ、このままでもいいかなって」

 彼女の受けた感謝は本当に些細な物だろう。

 だけどそれが積み重なれば、それは彼女を変える一因にもなったのだ。

 

 

「そう言えば、王子はバルバストラフ様を勧誘した際にこう言われたそうです」

 

 ―――欲しいのはわしの力か、それともこの杖だけか?

 

 

「……王子はなんと答えたんですか?」

 その言葉の解釈は、幾つかあるのだろう。

 

「さあ、私には教えてくれませんでした」

 彼女がどういう解釈に行き当たるかはこれから分かるだろう、とアンナは思った。

 

 

 

 

 




個人的に、手から炎を出すだけでも使い方は幾らでもあるな、と思って思いついた話です。
その中心人物となりうるキャラとして、好感度イベントすらない彼が抜擢されました。
キャラプロではそう言う方面で活躍してるとのことなので、こんな感じのお話になりました。

今回のお話は現在のゲームシステムにおいてメイジの不遇をネタにしていました。
私は覚醒メーリスを持っていますが、今では彼女がメンバー候補に入ることすら滅多にありません。
それもこれもノエルが便利すぎるのがいけないのです。
最近運営はビショップを優遇しすぎです。メイジも基本職なのにスキル覚醒もまだだし・・・運営さん、お願いしますよ!!
と、二次創作界隈の片隅から祈ってみる。

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