なので、この前編と後編で一先ず完結する感じで行こうかと思います。
無論、誰か焦点を当てて欲しいキャラが居ればリクエストにはお答えしたいと思います。
創作意欲が湧けばの話ですが。
暖冬の昼の最中、二人の男が相対していた。
真冬であることを忘れさせる昼間の日差しは王城内の訓練施設にも降り注いでいる。
そこに集まり訓練を行っている兵士達は足を止め、その二人を注視していた。
それを咎める筈の上官たちも言葉も出ない様子であった。
「本当に、やるんですね。王子」
立会いをすることになったアンナは、不安げに王子を気遣う。
だが彼はアンナに視線を向けることなく、相対する男に相対するままだ。
「…………」
王子がそうであるように、彼と相対する男もまた無言だった。
男はかつて暗黒騎士団を率いた元団長であった。
しかしその所作からはどこと無くやる気の無さや呆れが見て取れた。
それはそのはずで、この決闘じみた対峙は彼が望んだ物であるものの実現するとは微塵も思っていなかったのだ。
……事の次第は数日前へと遡る。
「団長さん、見てください。
これで失った貴方の力を取り戻せますよ!」
アンナは荷台にうず高く積まれた七色に光を反射する結晶を指差した。
「……」
「よくこれだけ集められたもんだねぇ」
団長は無言でそれを見下ろし、彼に付き添うエルヴァは関心したように頷いた。
「これで本当に団長の力が元に戻るのかい?」
「実際に試して見ましょう」
二人があれよあれよと段取りを進める最中も、団長は無言だった。
そして死霊魔術師メメントや数名のウィッチの協力を経て儀式が終了した。
あれほどあった虹水晶は溶けるように消え去り、団長の中へと入って行った。
「多分成功したと思うけど、どんな感じかな?」
「……我は夢でも見ているのか……」
確認するように問うメメントに、団長は唖然と呟く。
彼は確信が合った、鈍ってはいるがかつての力の凡そを取り戻したのだと。
「よかったじゃないか団長。
こうしてまたあんたと戦える日が来るなんてね」
がんがん、とエルヴァは嬉しそうに団長の肩を叩いたが。
「まだだ……」
「え、もしかしてまだ足りなかった?」
メメントはウィッチたちと顔を見合わせた。
彼女らは確実に成功したと確信していたのだろう。
「違う。我を従わせたいというのならば、その武威によって我を認めさせるのみだ。
強き者に従う。それこそ、暗黒騎士団の掟」
「え、ですが、私達は何度も団長さんたちに勝っていますよ」
だと言うのに今更何を、とアンナは思ったが、彼は首を振った。
「将として、指揮官として、確かに我は敗北した。
だが騎士として、戦士として、断じてあ奴に負けたわけではない!!」
「……団長」
その言い分に、エルヴァですら呆れてしまった。
つまり彼は戦略では負けたが個人の武勇では王子に負けてはいないと言い張っているのである。
「我は断じて、貴様らの軍門で戦うつもりはない!!
どうしても我をこき使いたいというのならば、王子に伝えよ。この我を己の武勇を持って打ち倒せ、とな!!」
「団長さん……」
アンナは何か言おうとして、止めた。
元々彼の協力を得たことすら、妥協に妥協を重ねた末のことだった。
今の言葉が全く全て嘘ではないとはアンナは思っている。
元々気位が高く、往生際の悪くて諦めが悪いことはよく知っている。
だが彼は恥じていた。
自らが主人と仰いだ輩の下で玩具にされていることを知らず、騙されるまま悪事を働いたことをだ。
一体どの面下げて同じ旗本で戦えと言うのだろうか。
王国軍には彼が迷惑をかけた者たちも何人も居るし、戦い傷つけあった。
そして彼らは、王子たちを誘き寄せるために村々を襲った事すらある。
そんな彼を、どうして許せるだろうか。
どうして彼を、それをした者たちと志同じく戦えというのか。
彼にそれをさせるのはこの上ない恥辱だろう。
彼をそうさせるのは彼にとって厚顔無恥にも程があるだろう。
彼を仲間に加えたからと言って、誰が彼を信用するというのだ。
彼が傷つけた者たちの前で、いったい誰が彼を赦せといえるというのだ。
だから彼は無理難題を申し付ける。
我が力を取り戻せるならやってみろ。
我と立会い勝利して見せろ。
我に生き地獄と恥辱の責め苦を与え続けるというのならば、それぐらいやって見せろ、と。
「分かりました」
アンナは頷いた。
「王子にはそのように伝えておきますね。
ですが、約束は守ってください」
「騎士に二言はない」
首肯し、団長は笑った……気がした。
彼は高をくくっているのだ。王子がそれを受けるわけがないと。
それもそうだろう。彼は一国の王子。それも代えの利かない英雄で、万が一のことが有ったら大事なので決闘などできはしない。
そもそも、実力的に不可能であるという点が大きかった。
王子は一対一に特化した剣術を習得しているが、王国軍全体での実力は中の上程度に過ぎない。
彼は確かに戦場で味方の希望となる英雄ではあるが、彼自身の武勇は自衛の域を出ない。
彼は兵に常に背中を見せ、自ら戦陣を切り開く武将ではないのだ。
単純な力の強さではなく、タイプが違うのである。
とは言え、とアンナは思う。
彼は忘れているのだ。
己の思惑をいつも打ち破ってきたのは誰なのかを。
やはり、と言うべきか王子にそのことを伝えたアンナはその日のうちにある物の手配をした。
それの準備に数日の時間を有し、冒頭の対峙が実現した。
白銀の鎧を身に纏った王子。
彼が身に纏うのは女神アイギスの神器。
ジャングルに魔界からの侵攻を防ぐため安置されていたそれを、わざわざこの為にのみに取り寄せたのだ。
それだけで、王子がどれだけの覚悟があるのか団長にも伝わっただろう。
「それほどまでに、我を恥辱を味わわせたいか、我が……宿敵!!」
「当然だ。我が宿敵。
俺の民を蹂躙し、俺の仲間を傷つけたお前をどうして憎まずに居られるか。
地獄からも嫌われる己が身を呪うといい!!」
暗黒のオーラと、神聖なる神器の力がぶつかり合う!!
「王子……」
アンナは初めて彼の本心を聞いた。
彼は言ったのだ。団長を重用するのはひとえに憎しみからであると。
その事実が、アンナは悲しかった。
「ぬかせ、女子供に守られなければ何もできぬくせに!!」
漆黒と白銀がぶつかり合う。
大剣による一撃を、王子は盾を上手く使って受け流す。
「鈍っているな!! 政務ばかりで鍛錬を怠ったか!!」
戦いは、団長が優勢で始まった。
しかしこれは当然であった。
数多の外法で異能を得た団長と、ただの人間に過ぎない王子では地力が違った。
その差を埋めるのがアイギスの神器であるが、生憎王子はそれを得て日が浅く、使いこなしているとは言いがたい。
それに対し、団長は大剣をまるでただの長剣のように振り回す。
単純に、武人としての年季が違うのだ。
それでも王子は歴戦の武人相手に慣れない武具で食い下がっていた。
このままではそう簡単に決着は付かないだろうことは明白だった。
これだけの力と力の応酬である。
当然そのやり取りはすさまじいものであった。
そんな地揺れのような轟音を聞き付け、野次馬が増えていく。
そうして集まった誰もが、二人の戦いを固唾を呑んで見守っている。
そして、着々と決着への時間が迫ってきた。
「お前を慕う者たちの前で、無様を晒すがいい!!」
その瞬間は訪れた。
王子の使用するアイギスの神器は強大な力を持ち主に与えるが、その反動で効力が切れた際に身動きが取れなくなってしまうデメリットが存在するのだ。
その隙を彼は逃すはずも無く、高密度のオーラを纏った一撃で決着を求めた。
野次馬たちから悲鳴が上がる。
ほぼ無防備な姿で王子がそれを受ければ無事ですむはずも無いからだ。
アンナはその瞬間、身動きが取れなかった。
二人の闘気に圧倒され、立ち尽くすしかできなかった。
あわや絶体絶命かと思われた王子だったが。
その直後、聖なる力が周囲を満たしたのだ。
それに驚いたのは他でもない王子自身だったと思う。
彼は殆ど条件反射じみて大振りの一撃をいなし、団長の喉下に剣を突きつけた。
「……見事だ」
団長は、潔く己の敗北を認めた。
例えそれが、横槍で勝利を棒に振っていたとしてもだ。
王子は彼に言葉を掛けることなく、野次馬に向かって歩き出した。
「王子、私……」
あの瞬間、神器の反動で一時的に麻痺していた彼を治癒できたのは王国軍で、いや大陸でも無二のヒーラーである彼女しかいない。
即ち、癒しの至宝と称される秘宝の使い手であるリアナに他ならない。
「申し訳ありません、私は貴方が傷つく所を見たくありませんでした……」
目を伏せ、うな垂れながら彼女はヒーラーとして見過ごせなかったのだろう。
王子はそんな彼女を許した。
実際の所、あの場で硬直が解けて逆襲が成功した確率はどんなに高く見積もっても三割を超えないはずだ。
果たしてそれは彼の実力なのか、幸運なのか、女神アイギスの采配なのか。
だが少なくとも、人徳では有ったのだろう。
望外の横槍だったとしても、団長の敗因はそれだった。
「約束は守ろう。捨て駒にでも使うといい」
団長はそう言って、片膝をついて鞘を収めた大剣を地面に置いた。
王子はそれに答えるように、神器の剣を彼の肩に置いた。
それは略式の叙任の儀式だった。
ぱちぱち、と誰かが拍手をした。
釣られる様に、多くの野次馬達が拍手をし、彼は仲間入りは祝福されたのだ。
後日、城内の掲示板の前には多くの人だかりが出来ていた。
主に注意事項の通告や人事の辞令などを知らせる掲示板に、彼の今後の仕事が記されていた。
即ち、王国軍副指令及び新設される聖魔騎士団の団長の任である。
王城内に激震が走るにふさわしい内容だった。
最近アイギスに入れるのが運ゲー過ぎて辛い。
何なんですかね、アレ。運営さん、仙人の覚醒なんてやってないでこっちの対応してくれませんかねぇ・・