思えば、すぐに引き返せばよかったのだと私は後悔した。
「捕まえたぞ、どうする?」
「ただの狩人か?」
「いや、兵士階級のようだ。
であれば王国軍に違いない。連れて帰るぞ」
私は屈強なオークさん達に拘束され、口には布を噛まされうめく事しかできないでいました。
事の発端は領内を警邏している最中だった。
森の中が静かだった。
住処としている動物が見当たらず、不思議に思い奥へ踏み入れると魔界に住んでいるはずのオークが数人で行動しているのを見つけたのだ。
その時点で引き返せばよかったのだが、私は彼らが何をしているのか探ろうとしてしまったのです。
私が発見したのはオークさん達は斥候部隊らしく、すぐに私の存在に気づいて逆に拘束されてしまったのです。
私も斥候としての訓練を受けていたのですが、専門の人たちには敵わないお粗末なものです。
最近私は訓練を重ね、他の弓の名手の人たちのようにはいきませんが、時々三連続で矢を撃てるようになったので、どこか大丈夫だろうという慢心があったのでしょう。
その結果がこれでした。
私はオークさん達に拘束され、森の奥に連れて行かれました。
そこでは私は目を見開いて驚きました。
オークさん達は森の中に軍陣を張っていたのです。
そこには数百人は下らないオークさん達が訓練、炊飯、建築など各々の役割を果たしている姿がありました。
私はゾッとしました。
私はオークさんと直接会いまみえたことはないのですが、とても強い人たちだと聞いています。
これはどこかに攻め込む準備をしているようにしか見えなかったのです。
私は陣内に連れて行かれると、拘束を解かれて檻の中へと放り込まれました。
檻の中は傷だらけで、隣の檻には三首の獣であるケルベロスが丸くなって眠っていました。
ああ、ここってケルベロス用の檻なんだ、と私は悟りました。
「ここで待っていろ、部族長にお前の処遇を伺う。
おい、お前、こいつを見張っていろ」
私を連れてきたオークさん達はそう言って背の低いオークさんに命令して去っていきました。
「わ、私はこれからどうなるんでしょう……」
魔物に捕まった人間は、大抵の場合利用価値が無ければ散々辱められた末に彼らの餌になると言われています。
特にオークさん達はよくお話では好色で絶倫で女騎士さんやエルフさん達が大好きだそうで、彼らに捕まればもう……。
「うう……こういうのってシェリーさんとかレアンさんとか、パテルさんとかスピカさんとかの役回りじゃないですかぁ。
なんで私が……ぐす……」
「おい、どうした?」
「いやぁ、近づかないでください!!
いやらしいことするつもりでしょう!!」
「はぁ?」
「私の貞操は王子だけのものなんです、辱められるくらいなら殺してください!!」
「何言ってんだこいつ……」
恐怖のあまり錯乱している私に、背の低いオークさんは変なものを見る目でこちらで見ていた。
「そこの見張り、何の騒ぎだ」
「あ、魔術師殿。何だか急に捕虜が騒ぎ出して」
「人間の捕虜だと?」
紫のローブを纏ったオークさんの魔術師は意外そうに私を見ました。
「人間は捕まえた捕虜を嬲り者にしたり、見せしめにして殺し恐怖を煽るという。
恐らく自分がそうなるのだと思って錯乱しているのだろう」
「はぁ、人間ってのは野蛮なんですね。
そんなこと俺たちがしたらたぶん純血種の方々にぶっ殺されるのに」
「戦いの後に敵を辱めるのは己の戦いを辱めるのと同じだからな。
故に我らが捕虜を取るのは珍しいのだが、斥候部隊にどのような指示が下っていたのだろうか」
オークさんの魔術師は種族特有の厚みのある顎に手を当ててそう言った。
「え……じゃあ、私にいやらしいことしたりしないんですか?」
「お前はゴブリンに欲情できるのか?
人間はエルフに欲情するらしいが、我らには理解できない話だ。
私はもっとこう牙が鋭く、毛が少ない方が好みだ」
「あ、そうなんですか……」
どうやら根本的に価値観が違うらしかった。
私は恥ずかしくなってこれ以上墓穴を掘る前に檻の隅で縮こまっていることにした。
「お前が王国軍の者か」
私は一番大きな天幕に連れてこられると、そこには一際大きなオークさんが待ち構えていました。
「…………」
「む、先にこちらに名乗るのが礼儀か」
人間の倍はあるだろう質量の巨体を見て唖然としていただけなのですが、彼は立ち上がり私の前まで歩み寄ってきました。
「我こそはオーク部族の一つを率いる勇者にして長なり!!
此度は王国軍を率いる王子と相対すべく魔界より罷り越した!!」
気迫だけでこちらの体が吹っ飛びそうなほどの勇ましさだった。
「…………どうした、其方も名乗れ」
「わ、私は王子の元で弓を取らせて頂いている、ソーマと言います」
「なるほど、やはり王国軍の者か。これなら話が早い」
オークの勇者さんはマントを翻すと、元の位置に座り込んだ。
「かの者の武名は魔界にまで轟き、我らは打倒すべくやってきた。
お前が全くの無関係ならば戦いが終わるまで拘束するつもりだったが、関係者となればすぐにでも話は通ろう」
「私に何をさせるつもりですか……」
とりあえず私に危害を加えるつもりはないのだろうことは理解できたので、私はそう尋ねてみました。
「我々オークは文字という文化が無い。
人間はこういう戦いの時に果たし状とやらを送るのだろう?
お前には我々の代わりにそれを書いてもらう。
それが済めば、それを持って速やかに王子の元へと解放しよう」
「え、それだけですか?」
「それだけだ」
部族長さんはゆっくりと断言した。
私はてっきり魔法か何かで操られたりしたりとか、人質として王国軍を呼び寄せるとか、するものだと思っていました。
「これから文面について協議する故、しばし待たれよ。
おい、此方の拘束を解いてやれ」
「はい」
私の両脇のうち一人のオークさんが、私の手を縛っていた布を外してくれました。
「丁重に持て成せ」
そして、私はオークさん達に連れられ、天幕を出ました。
「部族長は持て成せと言ったが、今夜は宴になりそうだ。
悪いが大したことはできない」
「あ、いえ、お構いなく」
私は監視付きとは言え、オークさんの軍陣の一角を自由にしていいと言われました。
ここからオークさん達の訓練風景も見えるのですが、こういうのって私に見せて大丈夫なんでしょうか。
「我らの精強さをどれだけ知ったところで対策などできないだろう。
むしろ我らの勇猛さを伝え知るのなら行幸よ」
「は、はぁ……」
やっぱりオークさん達と私たちでは価値観が違うようです。
「でも、なんでわざわざ魔界から王子と戦いに来たんですか?」
本格的に攻めてくるにしても、オークさん達だけなのです。
もしかしたらこれは独断専行に近い何かなのかもしれません。
「決まっている、部族長の試練の為だ」
「試練、ですか?」
「我らオーク族は長年、部族長を束ねる大部族長が不在なのだ。
我らが部族長は王子を打倒することにより、その道への大きな一歩とするつもりなのだ」
監視役のオークさんは腕を組み、感慨深そうにそう語った。
「えーと、話し合いとかで決まらなかったんですか」
私ははた迷惑なと思いながらそう言った。
「無論、各部族で大部族長の座を争ったこともあった。
その結果、我らオーク族は血みどろの戦いとなり、大きく数を減らし、魔界での勢力を大きく落としたと伝わっている。
それ以来、オーク部族内で争うことは禁じられた」
「そうなんですか……」
私はオークさん達は戦いになると他のことが見えなくなるって、前線で戦った人たちが言っていたのを思い出しました。
そのあと、私はオークさん達の言うとおりの果たし状を書きました。
しかし、もう空は薄暗くどうせだから、と宴に参加させられることになったのです。
「皆の者、よく聞け!!」
音頭を取るのはオークの勇者さんです。
大きな篝火を中心にして、大勢のオークさん達が自分たちの長を見ていました。
「我らがなぜ、魔界では悪魔どもに一つ下に見られているかわかるか!!」
彼は問う。
すぐに、大部族長が居ないからだという声がいくつも上がった。
「そうだ。我々には我々を束ねる王が居ない!!
それ故にあの傲慢で陰険な悪魔どもの下に付く部族までいる有様だ!!
では、我ら誇り高きオーク族は、連中の小賢しい策略の尖兵となることを良しとすべきか!!」
否、否、否、とオークたちの誰もが声を挙げる。
「そうだ!!
連中にも誇りある戦いに勝利してこそ真の勝者たりうるのだと教えてやるのだ。
俺が大部族長になったあかつきには魔界を統一する!!」
部族長さんがそう宣言すると、オークさん達はみな立ち上がり雄たけびを上げました。
「武名高い王子を打倒したとなれば、他の部族長も無視できまい。
我らの先祖もかの王子の先祖たる千年戦争の英雄と幾度となく戦ったという!!
この戦いは我ら祖霊をも見ているだろう。皆の者、心して挑むのだ!!」
より一層大きな雄叫びと共に、宴が始まった。
……
…………
…………
「という感じで朝まで騒いで、送ってきてもらいました。
あ、これお土産です。オークさんたちの地酒だそうで……じゃなかった、こちらがその果たし状です」
ソーマさんはそう言って、果たし状を王子に差し出しました。
彼女は少し酔っているのか、すこし酒臭いです。
「では、陣営を構えたオークの対策ですが……」
「アンナさんアンナさん」
「はい?」
ソーマさんが私の言葉を遮り、ぬっとこちらに顔を近づけてきました。
「オークさん、です。オークさん」
「は、はい、では、オークさんの対策会議を始めましょう」
対応はその日のうちに決まり、数日後はオークさんたちが待ち構える陣営に出陣することとなりました。
オークに捕まってなにもされないR18のゲームがあるらしい・・。
こんなん草生えるわwww
運営さん、絶好のネタありがとうございます。