聖なる夜の戦火
The mist 2
「いや、アサシンの方は良かったんじゃない?"俺だと令呪使えない"し」
自分のことが話に出た所為かアサシンは一瞬こっちを見るがまたハムに頬張りついていた。
「ああ、そういえば名前を忘れてたんだったわね」
「そうそう、その為に戦ってるんだし」
そう、フィスは自分の名前を断片的に忘れていた。
ファーストネームがフィストということ、その他のことは覚えているのに何故かミドルネームとサードネームだけ、いつから忘れていたのかどんな由来なのかすらもわからなかった。
何かを思い出せない時、モヤモヤしたり苛々したりする人は多いのだろうか。
そんな悩みを消す為だけにフィスは聖杯戦争に参加していた。
魔術の根源や世界征服等の願いを持っている者から嘲笑や罵倒を受けるのは必然物だがフィスからすると充分な理由だった。
「ファーストネームだけで使えたら便利なんだけど」
フィスはアサシンによって自分の手から移された玲霞の手にある令呪を見ながら呟く。
そう、本来令呪は詠唱のようなことは必要無いはずなのだがフィスは自分のことで記憶が曖昧な為か令呪が発動することがなかった。
そのためフィスは令呪を玲霞へ移すことを決めたのだ(それでも魔力供給はフィス一人で行わなくてはいけないが)。
そんな今、フィスと玲霞の陣営が抱える問題は拠点だった。
「それより...そろそろジャックが見つけてくれたかな」
窓にはりついたフィスが身につけているコートの一部を見てフィスが立ち上がる。
そしてその一部を破れていた部分に付けるとそのコートが念話のようなものをしてくる。
「やれやれ、幾らサーヴァントだからって体の一部を切るのは痛いんだよ?』
そのいきなりの発言にフィスは「その痛いことをしていたのは誰だ」と言いかけたがこれは今の本人の傷を抉ってしまうのでやめにする。
そのジャックの呟きを無視しフィスは会話を進める。
「それより見つかった?」
「見つかったよ、丁度良いところをね。僕に感謝するんだな』
質問に答えるジャックのどこか自慢気な口調はフィスに期待を持たせた。
「ご希望通り周りが暗く、頻繁に霧がでる。いやあ、僕の才能が怖いよ』
ハッハッハと演技臭く笑い始めるジャックにフィスは満足気に頷く。
「よし、じゃあ行こうか!俺らの拠点だにーーー
ーーー洞窟だったら笑えないけどねー」
突然、ジャックの笑い声が消えた。
そしてさっき付けたばかりのコートの一部が切り離れ外に出る。
「頼む!あと少し待っていてくれ!』
どことなく慌てているような口調でコートの一部になったジャックは再び拠点を探し求め消えていった。
「ごちそうさまでしたー」
ハムを食べ終え手を合わせる呑気なアサシン、それを見てフィスと玲霞は珈琲を飲み干して支払いを終わらせる。
その様子は、さながら子供を連れてきた若い夫婦のようでその場にいた客の心を和ませ顔を緩ませた。
普通、魔導師は自分の拠点『工房』を戦いの前に用意するものなのだがフィスの魔術は便利なもので『霧』を家の周りなどに少し発動させておくことで普通の工房と同等、またはそれ以上の工房を作ることができる。
その影響で戦いの準備を怠けていたフィスだったが聖杯戦争内で焦りだしたことが一つだけあった。
ある一つの用件でバーサークジャックを除いた三人で教会の前に来ていた。
その用件とは、この聖杯戦争に参加するという意思表明である。
「サーヴァントは立ち入り禁止だから...アサシンはここで待機」
それを聞いてアサシンは一度だけ玲霞を寂しそうに見たがそこは意地でいい子であろうとしたのか頷きでフィスの
二人が教会の扉を開ける、すると奥の大きな十字架の前に神父のような人物が二人立っていた。
一人は常に顔がニヤけていて平均的な身長の男、もう一人は隣の神父に反して堅い表情、堅い姿勢、そして眼鏡をした超が付きそうなほど真面目そうな男だった。
「君達は聖杯戦争の参加者だね、さて、さっさと済ましてくれたまえ」
真面目そうな神父の挨拶も愛想も無い最初の言葉に玲霞は眉をピクリと動かすが何も言わない、フィスも不快感を覚え皮肉を言おうかと考えたが玲霞を倣い口を塞いだ。
「俺たち、フィスト・S・ホームズと六導玲霞はこの聖杯戦争に参加します」
フィスの誓いの言葉に真面目そうな神父が眉間にしわを寄せた。
そう、フィスの言葉には誇りがすっぽ抜けていたのだ。
「はーい、頑張ってね〜」
ニヤけた神父が真面目そうな神父の立場を取るような形で真面目そうな神父の顔を続けて歪ませていく。
そんな神父の様子を見てフィスはニヤけた神父に一礼し、笑いを堪えながら玲霞の手を引いて教会を出た。
教会を出ると教会の前に人集りができているのに気づく。
「ん?今日って何かのイベントだっけか」
そう霊体化しているアサシンに聞くと今日はクリスマスだということを教えられる。
『うん、みんなそう言ってたもん』
玲霞は最近までこの世にはいなかったので今が何日かなんて知る由もなかった。
フィスは単純に覚えていなかっただけだった。
「よし、じゃあ何か食べにーーー」
フィスの緩い目つきが一瞬にして鋭くなる。
何が起こったかは玲霞にも肌から伝わる。
「こんな聖なる夜に血生臭いなあ」
そう、もう始まっているのだ。
戦いはいつ起こるかはわからない。
例えそれが戦いとは無縁のクリスマスの日だとしても。
どうも、四話となりましたthemist
次回は戦いが始まります。
どのサーヴァントを出そうかと迷っているところです。
これに出したいオリジナルサーヴァントが一人だけいるんですが登場はまだ先となります。
それでは次回お会いしましょう