雷が提督に着任したわ! これより艦隊の全ては、ガンプラバトルで決定するわねっ!   作:亀川ダイブ

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第弐話『気合、入れて、シャイニングフィンガー!』

「雷提督! 比叡、カレー、作ります!」

「却下」

 

 比叡が満面の笑みで提出してきた厨房の利用申請書に、「不認可」のハンコを叩き付ける。

 

「な、なんでですかぁーっ! 納得できませーんっ!」

 

 涙目でじたばたする比叡だが、雷はまったく取り合わない。不知火が次々と執務机に乗せてくる書類の山に、げっそりとした表情で目を通しては署名と押印を繰り返している。

 

「こんなにいい天気なんですよ! 提督がもし今日帰ってきたら、きっとカレー食べたいって思うはずですよ! お姉さまとのティータイムのあとには、比叡のカレーと相場が決まっています!」

生物兵器(コンゴウブレンド)の後に化学兵器(ヒエイカレー)を食べさせるなんて、どんな拷問よ……」

「ひ、ひどーい! 比叡だけならまだしも、お姉さまの紅茶を馬鹿にするだなんてっ。いくら雷提督でも! 比叡、絶対、許せませんっ!」

「では、ガンプラバトルをしましょう」

 

 ぽちっ。不知火は一切表情を変えないまま、唐突に例のボタンを押した。

 ヴィィィィィーーン……ッ! 執務室が模様替えをはじめ、バトルシステムが床下からせり上がってくる。

 

「ちょ、ちょっと不知火! 私まだ仕事が残って……」

「雷。あなた今、ひどい顔をしてるわ。ちょっとは息抜きをしなさい」

 

 不知火は書類の山を執務机の端っこに押しやって、雷にGPベースを手渡した。いつも通りの鋭い目つきだが、不自然に目を合わせない。古参同士で付き合いの長い雷には、不知火のその仕草の意味は、よくわかっていた。

 

「次々と書類を運んでくる私が、言えた義理ではありませんが……」

「不知火……ありがとっ」

 

 雷はにっこりとほほ笑み、執務椅子からぴょんと飛び降りた。愛機・ガンダムバルバトスを取り出し、GPベースと共にバトルシステムにセットする。

 

『Beginning Plavsky particle dispersal』

 

 ぶぉん……バトルシステムが作動し、プラフスキー粒子が仮想空間を構築する。

 

『GANPRA BATTLE.Combat Mode. Damage Level,Set to A.』

「これがこの鎮守府のルールだもんね……やります! 比叡が勝ったら、お姉さまの紅茶を馬鹿にしたことを謝ってもらって、比叡のカレー作りも認めてもらいます!」

 

 比叡は巫女風の衣装の袖からGPベースとガンプラを取り出し、バトルシステムにセットした。

 腰には二本のビームソード、前腕には大きなアームカバー。サムライのような雰囲気を持つガンダムタイプ――機動武闘伝Gガンダム前半の主人公機・シャイニングガンダムだ。

 

『Field1,Navy base.』

 

 古ぼけた赤煉瓦倉庫に、クレーンの立ち並ぶ港湾施設。プラフスキー粒子製の鎮守府の景色が組み上がる。

 

「雷、ガンダムバルバトス。出撃しちゃうねっ」

「比叡! シャイニングガンダム! 気合、入れて、行きまーーすっ!」

『BATTLE START!!』

 

 出撃宣告と共に、二機のガンプラが仮想の鎮守府へと飛び出した。

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

『……さて、始まりました雷提督プレゼンツ、第二回鎮守府内ガンプラバトル。戦いますのは鎮守府最古参の一人、ダメ提督製造機こと、提督代行駆逐艦・雷。対するは、高速戦艦四姉妹イチの元気っ娘、姉LOVE勢代表にして香辛料兵器製造工場(ターメリック・ウェポン・インダストリー)、戦艦・比叡です』

 

 鎮守府上空に四角い画面を開いて現れるのは、インカム着用、ラジオDJのように解説ブースに着席した不知火だ。駆逐艦とは思えない圧倒的な貫禄は、DJというより大物司会者といった方がしっくりくるかもしれない。

 

『本日も、実況解説はこの私。落ち度のない解説でお馴染み、駆逐艦・不知火が務めさせていただきます。どうぞよろしく』

 

 ぺこり。頭を下げてもまた上げても、石像のように表情は変わらない。

 

『今回のバトルの見どころは、破壊力の高い一撃を持つ機体同士のぶつかり合いにあるでしょう。バルバトスが振るう超重量のメイスが、シャイニングを叩き潰すか。はたまた、必殺のシャイニングフィンガーがバルバトスをヒートエンドしてしまうのか。当たれば砕く一撃必殺の応酬から、目が離せない一戦となりそうです。それでは。ガンプラバトル――』

 

 イ級ぐらいなら射殺せる眼光で、ウィンクからの横ピース。

 

『レディー、ゴー』

 

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「バァァルカンっ!」

 

 シャイニングの頭部バルカン砲が火を噴くが、バルバトスのナノラミネート装甲の前にはその威力は豆鉄砲も同然。装甲表面でわずかに火花を散らして、弾かれるばかりであった。

 

「牽制にもならないわよっ!」

 

 バーニア全開、一気に距離を詰めたバルバトスが、メイスを思いっきり振り下ろした。シャイニングは右腕のアームカバーでメイスの横っ面を叩き、軌道を逸らす。狙いを逸らされたメイスは石畳を砕いて地面にめり込んだ。その隙を逃さず、シャイニングは拳と蹴りを次々と打ち込む。

 

「えぇぇいっ!」

「へえ、やるじゃないっ!」

 

 バルバトスは身をかわしながらメイスを引き抜き、左右に振り回して牽制。距離を稼いで反撃のチャンスを伺う。

 

「雷提督! まずはお姉さまに謝ってもらいます!」

「万が一、比叡ちゃんが私に勝てたらねっ」

 

 バルバトスはメイスの先端を浅く地面に突き込んで、石畳ごとめくりあげながら振り上げた。砕けた石畳と大量の土砂が巻き上げられ、比叡の視界を一瞬、奪う。

 

「てやあぁぁっ!」

「甘いです!」

 

 ガキィィン……! 土煙を巻き込むようにして横薙ぎに振り抜いたメイスを、シャイニングはアームカバーで受け止めていた。

 

『MSを一撃で叩き潰すメイスを、右腕一本でガード。さすがはモビルファイター、常識はずれのパワーと頑丈さです。感情エネルギーシステムが、比叡の金剛への愛をパワーに変えているとでも言うのでしょうか』

「そのとおりです! えぇぇいっ!」

 

 比叡は力任せにメイスを振り払い、よろめいたバルバトスの顔面に、右の正拳を叩き込んだ。ナノラミネート装甲が火花を散らしてひしゃげ、バルバトスは吹っ飛び、赤煉瓦倉庫に背中から突っ込んだ。

 

「きゃあぁぁんっ!?」

『強烈なカラテ・パンチが直撃! さすがのナノラミネート装甲にもこれは痛打か。バルバトス、吹っ飛びました。さすがはシャイニングガンダム、流派東方不敗は伊達ではありません。しかし――』

「や、やったわね~っ! 司令官にもぶたれたことないのにっ!」

『バルバトスもまたガンダム。ガンダムの名は、伊達ではないようです』

 

 がらがらがら……。赤煉瓦の瓦礫を払いのけながら、バルバトスは立ち上がる。特徴的なガンダム顔の右頬部分に、拳型にひしゃげた跡が残っている。しかし、フレームまでは損傷していない。見た目のわりにダメージは大したことはないが……雷はモニターの端に目を走らせる。吹き飛ばされたときに手放してしまったメイスが、2ブロックほど先の赤煉瓦倉庫の屋根に突き刺さっている。取りに行けるような隙を、比叡が見せてくれるとは思えない。

 状況を確かめた雷は、ほんの一瞬だけ思案顔をしていたが、すぐに何かに納得したかのように頷き、機体を操作した。バルバトスは片膝をついてしゃがみ、背部アームを展開、滑空砲を構えた。両手で滑空砲を保持して、しっかりと狙いを定める。

 

『雷提督、完全に足を止めて砲撃の態勢です。確かに、シャイニングには長射程の武装はありませんが……この程度の距離では、有効な作戦とは言えないでしょう。これには比叡も戸惑いを隠せません』

「砲撃戦ですか? 付き合いませんよ!」

 

 比叡は慎重に拳法の構えを取り、じりじりと距離を詰める。バルバトスとの距離は、すでにシャイニングの一足一刀に少し遠い程度。ここからシャイニングの拳が届くまでに、滑空砲の一、二発は撃てるかもしれないが……比叡には、そして不知火にも、雷の考えは読めなかった。

 

「ふふん、好きにしなさい。でも……」

 

 雷は、にやりと意味深な笑みを浮かべた。

 

「来るなら必殺技で来なさい、比叡ちゃん。じゃなきゃ、大好きな金剛お姉ちゃんに泣きつくことになるわよ。必殺技も出せずに負けちゃった……てねっ?」

『挑発……! 雷提督、挑発です。メイスを失い、近接戦闘において絶対的不利な状況で、徒手空拳の使い手、流派東方不敗を挑発しました!』

「……ふふふ。いいですよ、乗ってあげます! 比叡、本気で、参りますっ!」

 

 ぶわっ……! 比叡の髪が逆立ち、眦がきゅうっとつり上がる。比叡の感情の昂ぶりに応えるかのように、シャイニングが姿を変えた。ショルダーカバー、脚部ブースターを展開、そして顔面部排気口解放(フェイスオープン)。猛烈な熱気が、嵐のごとく吹き荒れる。

 スーパーモードへと変身したシャイニングは、地を蹴り、バルバトスへ猛然と突っ込んでいった。突撃しながら右手を脇に構え、気力(オーラ)を解放。エメラルドグリーンに光り輝くプラフスキー粒子が右掌を覆いつくし、灼熱の掌撃を作り出す!

 

「気合! 入れて! シャアアイニングゥゥ……フィンガアアアアアアアア!!」

「……っ!」

 

 その瞬間、雷はすっと目を細め、照準を微調整。シャイニングフィンガーに向けて、滑空砲を撃ち放った。

 

「無駄です!」

 

 ガァンッ! 比叡はシャイニングフィンガーで大口径徹甲榴弾を真正面から受け止め、弾き飛ばした。しかし雷は一切動じず、続けて第二射。それも比叡はシャイニングフィンガーで受け、握り潰す。三発目を撃つ時間はない。すでに灼熱のシャイニングフィンガーは、バルバトスの目の前に迫っていた。

 

「お姉さまの紅茶を、私のカレーを! 馬鹿にするからああああ!」

 

 光り輝く右掌が、バルバトスの顔面に掴みかかる。同時、雷は下っ腹に力を込めて、バルバトスの額を、自分からシャイニングフィンガーに叩き付けた!

 

「ふんりゃっ!」

 

 バッキャアアアアンッ! 大音響とともに、砕けたプラスチック片が宙を舞う。粉々に砕け散ったのは――

 

『――意外! 砕けたのは、シャイニングの右腕です!』

「な、なんでえぇぇっ!?」

「ふふん、読み通りねっ」

 

 予想外の出来事にうろたえる比叡とは対照的に、雷は会心の笑みを浮かべる。シャイニングの腹に前蹴りを叩き込んで蹴り倒し、滑空砲の砲身で殴打した。

 ガスン、ゴスン、ズガンッ! 原始的な打撃音が、赤煉瓦倉庫の並ぶ港に響き渡る。

 

「ひ、ひえぇーっ!?」

 

 残った左腕で何とか防御しながらも、比叡はすでに逃げ腰になっていた。頭の中には、疑問ばかりがぐるぐると回っている。なぜ、なんで、自分のシャイニングフィンガーの方が砕けたのか……!?

 

「比叡ちゃん、あなた、右利きよね」

「は、はい!? そ、そうですけど!」

「それが理由よっ! てりゃあっ!」

「ひえぇーっ!」

『……成程。比叡はこのバトル中、攻撃も防御もずっと右腕を中心に使っていました。いくらモビルファイターが頑丈といっても、モビルスーツをフレームごと叩き潰すメイスや、距離によってはナノラミネート装甲にすら有効打を与える滑空砲を、何度も受け止めて無事なわけがない。雷提督は、ガンプラに蓄積されたダメージまでも読み切った、ということなのでしょう』

 

 ゴッ、ガァァンッ! 何十回目かの殴打で、ついに滑空砲の砲身の方が折れてしまった。すでにシャイニングはぼっろぼろのべっこべこで、涙目になって小動物のように震える比叡には戦意の欠片もない。誰の目から見ても、もはや勝敗は明らかだった。

 

「……どう? そろそろ降参、しちゃったら?」

「は、はいぃ……比叡、降参、します……です……」

「ふふん、雷の勝利ねっ」

 

 軽く額に汗をかいて、ものすごくいい笑顔で喜ぶ雷。ほぼスクラップと化した敵機を踏みつけにし、オイルや冷却液をまるで返り血のように浴びて立つバルバトス。天使のように無邪気な笑顔と、悪魔のようなガンダムの姿。

 この戦いの後しばらくの間、比叡はガンガンと金属を叩く音がトラウマになって、工廠には近づけなくなった上、夜のトイレには霧島について来てもらっていたらしい。

 それはそれとして――夕焼けに照らされたその背後に、『YOU WIN』の文字がポップアップする。

 

『勝者、雷提督・ガンダムバルバトス。決まり手は、滑空砲による直接殴打です』

『BATTLE ENDED!!』

 

 

 

◆◆◆◇◆◆◆

 

 

 

「――んっ、はあぁーっ! すっきりしたぁーっ!」

 

 白い軍装に身を包んだ雷が、執務椅子の上で思いっきり伸びをした。

 

「お疲れ様です、雷。比叡カレーによる生物災害(バイオハザード)から、無事鎮守府を守り通しましたね」

 

 不知火はそんな雷を横目に見ながら、重ねた書類をとんとんと整えて胸に抱え、一礼して執務室を出ようとした。

 

「では、私はこれで。工廠の視察に行ってきます」

「あっ、待って不知火!」

 

 ドアノブに手をかけた不知火を、雷が呼び止めた。不知火は眉一つ動かさないまま、首だけで軽く振り返る。

 

「なんです、雷。不知火に何か落ち度でも?」

「ううん、違うわ……今日はホントに、ありがとねっ」

 

 にっこりと、ひまわりのような、心の底から暖かくなる笑顔。

 

「……礼には及びません。今の私は、あなたの秘書艦なのですから」

 

 ぺこりと頭を下げて部屋から出る不知火の表情は、いつも通りの鉄面皮だったが――声色は、少し、優しくなっていた。




……更新は不定期、ということは不定に早いということもありうるわけですよ。ふふん(ドヤ顔)
すみません。調子乗りました。亀川ダイブです。
書き始めてみると面白くなってきて、ついつい筆を進めてしまいます。ロリお艦とぬいぬいが書ければそれでいい。本作品はそんな感じで執筆しております。今後もお付き合いいただければ幸いです。
感想・批評もお待ちしております~!
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