最近は寒くなってきた。
この森にも雪が降ったりしてきたけど、僕は動物達が毛布の代わりになってくれるから寒くはない。サーゼクス達が来てからまた数ヶ月くらい経った。その数ヶ月は特に何もなかった。強いて言えばこの森が完全に僕と“同化”した。それくらいだ。
「……あ……」
「……キュ……?」
「……“何か”近づいてきてる…」
“何か”…森に入っているのなら僕がわからないはずがないし、この“何か”は恐らく森からかなり遠いのだろう。森の外側に何かが近づいて来ていることがわかる。
と言ってもここは僕が“同化”しているから攻撃されてもシールドがあるから並大抵のことじゃあ壊れないんだけどね。
ズキンッ!
「…うっ!」
「キュ!」
胸を押さえて蹲る僕に動物達が駆け寄る。
「森が…
「キュ!キュキュ!」
「…心配してくれるの?大丈夫だよ…この森は…僕が守るから…」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
サーゼクスside
「まずいっ!」
私は今焦っていた。
「サーゼクスちゃん!あっちの方向って!」
セラフォルーが言う通り、あちらの方角はあの少年のいる森なのだ。
もし“あの少年”が我々が森を攻撃したと勘違いしたら、確実に大変なことになる。
「全員!何が何でも!
二天龍を止めろぉおぉぉぉ!!!」
「「「「「おぉぉぉおぉおぉおぉおぉぉぉぉおおぉぉ!!!!」」」」」
私の叫びに共鳴する様に戦士達の叫び声が木霊する。二天龍、【赤龍】ドライグと、【白龍】アルビオンのことだ。
彼らは長きに渡り覇を競い合っている。だが、その規模はあまりに大きく、我々の手に負えるものではなかった。
その力で四大魔王も全員が倒れてしまった。故にその場で最も力を持っていた私が指揮を取っている。
「おい!サーゼクスの小僧!あの方角には何があるんだ!?とんでもねぇ気配を感じるぞ!」
堕天使の総督アザゼルがこちらに飛んでくる。
「あの森は!あの森だけは絶対に巻き込んではいけない!あの森には私達の想像を超えた存在が住んでいるんだ!」
「な!やばいぞ!さっき二天龍が砲撃をあの森の一部に放って森を削り取っちまった!」
「そんな!!!!」
私達は急いで森へと飛び出した。
『あ…な…た…は…そ…こ…い…ま…す…か…?』
ドクンッ!
空を駆けていた私達を止めたのは、二天龍の咆哮でもなく、仲間の張った魔力の結界でもなく、
声だった。
心に響き渡る美しい声、いつまでもその声を聞いていたい衝動に駆られる、それと同時に圧倒的な恐怖が心を支配する。今はそんなことを考えている場合ではない…ないのに!
『あ…な…た…は…そ…こ…い…ま…す…か…?』
間違いない、あの少年だ!ポラリスだ!周りを見れば全員が森の方角を見て絶句している。
「…おいおい…なんだよ…あれ…」
アザゼルが呟くが、それに答える者は一人としていない。全員が全員、それにーーーー
ーーーー目を奪われていたーーーー
それは、黄金だった。
たとえ最高級の宝石や装飾品を並べたとしても、その体躯の前では霞んで見えるほどだ。
それは怒りだった。
二天龍と対峙した時にも感じた。絶対的な、
怒り
だがそれは二天龍と比べるとあまりに強大で、二天龍がとても小さく見えるほどであった。
私達は悟った。
決して触れてはならない禁忌に触れてしまったのだと。
絶望が声を上げだのだと。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
僕の今の姿は
アザゼル型〈アビエイター〉
人類と敵対した〈ポラリス〉の欠片が、『真壁 一騎』と『遠見 真矢』に砕かれたミールの欠片が自己で進化した存在だ。
僕には分かる。僕の体だった他の欠片がどの様に進化したのか。
その姿は胸部が大きな球体で、その球体の上に目があり、長い尻尾を持ち、大きな背負い物をしている。
恐らくは目の前の赤と白のドラゴンが先程森を破壊した犯人で間違いないだろう。何やら羽の生えた集団が遠くに見えるが、悪魔やら天使やら堕天やらだろう。あれはサーゼクスに任せよう。サーゼクスも敵なら後で消せば良いだけ。
今は目の前の羽虫共だ。
僕は人間に対して覚えている【憎しみ】をあらん限りに解放した。
憎い。
その感情が自分を支配する。
雲が集まり天空を覆い、渦を作り出す。
クイックイッ
僕は手を突き出して指を引いて挑発する。
「貴様っ!何者かは知らんが我々の邪魔をするならば!!!」
「消し去ってくれるぞ!」
ずいぶんと挑発に弱いなこの二体。
僕は頭上の空へと飛翔して雲の中へと入り込む。
二体も僕を追って空を駆けてくる。
怒っているのは僕なんだよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「アルビオン、こいつを倒すまではひとまず休戦しておこうじゃないか…不服だがな」
「ふっ、それはこっちのセリフだ。だが、こいつは一人ではキツそうだ。手伝ってやろう」
「はっ!言ってろ!!!」
ごちゃごちゃと五月蝿い。
雲から雷撃を二体にぶち当てる。
「くっ!『Divite』!!!!!!」
白い方が何かしたのか幾つかの雷撃が小さくなった。だがそれでは足りない。
「「ぐぉぉぉおぉおおぉおお!!!!」」
四方八方から飛んでくる雷撃をモロにくらってしまった二体は苦痛の叫び声をあげる。
「ぐっ!おぉぉぉぉおぉぉぉ!!」
今度は赤い方が僕に向かって何かをするようだ。
赤い龍が口を開き、口の手前に大きな魔力の塊が出来上がる。その大きさから推測するに、ここら一帯を吹き飛ばす威力を持っていそうだ。
「くらえっ!!!!」
だから?
魔力の塊をこちらに吐き出すが、僕はそれを同じ大きさのワーム・スフィアで消し去る。
「ぐっ?!おぉぉぉおおぉおぁぁぁぁあ!!」
「なっ?!ぐぁぁぁぁあぁぁああぁぁあ!!」
ワーム・スフィアで飛ばされた魔力の塊は、二体の目の前に現れ、魔力の塊を二体に送り返す。
「な、何故俺が自分の攻撃で…」
訳が分からないという表情をしているが、それでは足りない。僕の怒りを収めるには、まだ足りない!!
さらにワーム・スフィアを何個もぶち当てて大ダメージを与える。
「くっ、この俺たちが…ここまで…」
「貴様…一体…何者だ…」
なにやら言っているが興味はない。ここら辺でトドメにしておこう。
ズギャァァァンッ!!!!
最後に、二体に特大の雷撃を浴び、地に堕ちた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
二体は雷撃に耐え切れずに地上へと落下していく。
僕も雲を元に戻し、人の姿に戻って地上へと降り立つ。
「…ポラリス君…」
僕は結晶で作り出した剣を、サーゼクスの首元に当てる。
「……次…森に手を出したら…ああなるのは貴方達……」
僕は黒焦げになった二体の龍を指差し、この場にいる全員に警告する。
「わ、分かった。今回の件については君に迷惑をかけた事を謝罪すると同時に、あの二体を倒してくれた事を感謝する。ありがとう…」
僕は剣を下ろしてサーゼクスの言葉を信じることにした。
それならば良い。サーゼクス達のことは嫌いじゃないからできるだけ良好な関係でいたい。
「……それなら…良い。許す代わりに…条件がある……」
「な、なんだい?」
「たまに…森に遊びに来て欲しい…」
「え?」
「セラフォルーも……」
「わ、私も?!」
「……最近誰も来ないから寂しい…」しゅん…
「絶対いくね?!?!何が何でも、隕石が落ちても、世界が滅んでも行くから!!!!」
それなら良い。僕はこれから森の被害を確認しなきゃいけない。
「うっ…うぅ…」
そんな声が耳に入ってくる。
「…誰か…怪我してる…」
「あ、ああ。先ほどの戦いで負傷したものも多い。一刻も早く治療しなくてはならないんだが…」
「……任せて…」
「えっ?」
僕は結晶の剣を地面に突き刺しここら辺一帯と怪我してる人達を同化する。
パキィィンッ!
結晶が砕けると怪我をした人達はみんな怪我が治っている。
これは『真壁 一騎』がやっていたことの真似をしたのだ。どうやら上手くいった様だ。
「こ、これは…」
「す、すごい…」
「奇跡だ…」
僕は全員が治ったのを確認すると森の方へ戻る。
この時の僕は知らなかった。この日を境にこの森から一帯を立ち入り禁止に指定たこと。
僕が
【黄金の虚無】
【天からの来訪者】
だとか言われるようになったことを。
そしてこの日は
【黄金の祝祭】
として後世に語り継がれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
二体の龍と闘ってから何日か経過した。森に大した被害も殆ど無く、“同化”を使って元に戻せるレベルだったから問題はなかった。
木の幹に座り込んで足をパタパタさせていたら、後ろの空間がなんか割れ出した。
「ーーーー我、【
「………僕はポラリス……」
黒いゴスロリに身を包んだ幼女が出てきて自己紹介してきたので自己紹介をし返す。
「…ポラリス…みつけた、未知なるもの」
「…………未知なるもの……?」
「そう……グレートレッドや我と同等の力を持った存在。それにポラリスみたいな存在は見たことがない、だから未知なるもの」
グレートレッドって誰?というかこの子は何を言っているのだろう。ただこの子が果てしなく強いということは理解できる。
「我の故郷は次元の狭間、グレートレッドを倒して真の静寂を取り戻すのを…ポラリスに手伝って欲しい」
故郷を奪われてしまったからそこを取り戻すのを手伝って欲しいということだろう。だが、
「……静寂はそこにしかないの…?」
「……?」
「……ここもそれなりに静かなところ……?それに……いつも静かだったらつまらない……」
「………」
オーフィスは何も言わない。ただこちらを見つめるだけ、それだけ。
「……それだけじゃあ寂しい…もし良いなら…僕とここで暮らす…?……そっちの方がきっと楽しい……?」
「……楽しい?我、考えたことなかった」
「……どうする…?」
少しだけ考えたオーフィスはこちらを見て、訪ねてくる。
「…………我……居て、良い?」
「……良いよ……」
そう言ったらオーフィスはトテトテと歩いてきて僕の膝の上に座り込んで来た。
『皆城 総士』が『皆城 乙姫』に抱いていた感情も、きっとこんな感情だったのだろうか?
ご指摘で名前の間違いがありまして修正致しました。
これからも頑張ります!