工藤家の朝は普段、平日が騒がしく休日はおとなしい。しかし、今日だけは少し違っていた。
「新一兄ちゃん、蘭姉ちゃん待ってるんじゃない?」
「んにゃ? ......あああああああ!」
新一の大声に、隣の部屋で眠っていた快斗は何事かと目を覚ました。新一の部屋にはあきれ顔のコナン、そして冷や汗を浮かべたまま時計を見つめる新一の姿があった。
「やばい、遅刻だ。どうしよう」
「あー、そういえば新一、今日蘭ちゃんとデートだったっけ?」
「んなんじゃねえよ! あいつが都大会優勝のお祝いに連れてけって言うから......。あー、メシいらねえや!いってきます!」
急いで身支度を済ませ、新一は家から出て行った。
「洋服は脱ぎっ放し。快斗兄ちゃん。新一兄ちゃんは大丈夫だと思う?」
「さあな。俺が代わりに行ってやればよかったかなー。新一のフリして」
新一と快斗。二人は双子であり、顔がそっくりだ。それは身内以外、もちろん二人の幼馴染である毛利 蘭と中森 青子ですら、お互いの真似をされるとどっちがどっちか困惑することがある。
新一たちの両親は外国に旅行中のため、今完璧に二人を見分けられる人物は、お互いとそして末っ子のコナンしかいない。
両親がここまで放置できるのは、高校生探偵である新一と、マジシャンの卵である快斗を信頼しているからだ。
「コナン、朝飯食うか」
「うん。作るのは僕だけどね」
二人は少し遅い朝食を食べ始める。一番しっかりしていると言えるのが小学生のコナンということは、あまり言わないでおこう。
「ん......? 痛ぇ、どこだここ」
新一が目を覚ますと、周りはすっかり薄暗くなっていた。蘭との遊園地の帰り、不審な男の取引を盗み見ていた新一は、何者かに頭を殴られ意識を失った。その時はすでに周りは薄暗かったが、今はもうひと気もない。だいぶ時間がたっていることは明白だった。
「とにかく、帰ったほうがいいな」
蘭は先に帰らせている。心配性の蘭のことだ。いつまでも新一が帰ってこないとわかれば心配をかけるに違いない。ひとまず家に帰り、そこから蘭に連絡しようと新一は立ち上がる。
「あれ、こんなに高かったっけ?」
コンクリートでできた塀は、新一よりも少し高かった。しかし、今見える塀はどうもそれよりも高い気がする。新一は首を傾げ、歩き始める。すぐそばにトイレがあるのが見えた。新一が寝かされていたのは地面だ。おそらく泥まみれだろう。少し泥を払おうと、新一はトイレの鏡の前に立った。
「......コナン?」
鏡の前には紛れもなく自分の弟、コナンが立っていた。泥だらけの顔で目を丸くしている。
「なにやってんだよコナン」
コナンは、目を丸くしたまま返事をしない。いくら混乱した頭でも理解できた。そもそも新一は今鏡の前にいる。ということは目の前の人物はコナンではない。新一自身だ。
新一はふと思い出す。頭を殴られた後、男は妙な薬を飲ませた。体に異常がなかったため気にはしていなかったが、あの薬が原因なのだろう。
どこかに隠れようにもコナンに帰る場所は一つしかない。ひとまず家に帰ろうとトイレから出た。
「コナン?」
「え?」
突然呼び止められ振り向くと、そこには見覚えのある顔が立っていた。
「なにやってんだよコナン」
「か、快斗?」
「?」
快斗は首を傾げる。新一が着ている服は前のままなので今の新一のサイズにはあっていない。ダボダボの服を着た弟がトイレから出てきて、不思議に思わない兄はいないだろう。
「コナン、お前なんで新一の服なんて着てんだ?」
「快斗。あの、な。俺コナンじゃなくて......」
「コナンじゃなくて新一ってか? 確かにお前は俺らのガキの頃そっくりだけど」
快斗は腹をかかえて笑い出す。新一はそれを見てため息をついた。
「その通り」
「は?」
「だーかーら!俺は新一なの!コナンじゃなくて」
快斗の目が点になる。そして数分止まった後、携帯を取り出した。
「あー、コナン? いや、なんでもねえんだよ。いるか確かめたかっただけで。うん、もうすぐ帰るから。うん、じゃあな」
快斗は電話を切ると、また違うところに掛け直す。
「母さん。俺、快斗。あのさ、コナンに双子か歳の近い弟なんて......。いないよな。うん。ありがとう。なんでもねえから。うん。じゃあな」
通話を終え、快斗はじっと新一を見る。コナンが新一のフリをしている、という線はすでに消えていた。他人の空似でもここまで似るなんてことはないだろう。そもそも、快斗だと一発で当てることができるのは身内だけだ。新一の話を、快斗は信じるしかなかった。
「えっと、新一?」
「ああ」
「とりあえず、家帰るか」
「おう」
快斗は混乱した頭のまま、家向かって歩き出す。新一も急いでそれについていった。