「工藤乱歩です。えっと、よろしく」
教師の拍手を合図にパチパチと拍手が送られる。その光景を見て、乱歩は苦笑いしかできなかった。
そもそも、高校生にもなってみんなの前で自己紹介など、恥ずかしくて仕方がない。いくら姿が小学生だからとわかっていても、そこまで割り切ることはできなかった。もしこの場にコナンがいなければ教室を飛び出し叫び回っていただろう。
「乱歩くんはコナンくんの後ろの席でいいかしら?」
「はい、ありがとうございます」
小学生の、特に一年生に向けられる教師の暖かい目に乱歩は耐えることができない。すぐ目を逸らし、指定された席へと向かう。
「もう引き算まで進んでいるんだけど、乱歩くん、平気?」
「えっと、はい。もう勉強しているので」
とっくの昔に。と心の中で付け足す。どうやら病弱だったという話は事前に聞かされているようだ。
「それじゃあ少し難しい問題からいきましょうか。25−12は?」
教師から出された質問に周りの子供たちは指を駆使し、考え始める。コナンには快斗と二人で筆算のやり方まで教えてあるのだが、指を使っているあたり、どうやらまだ難しかったようだ。
もちろん、乱歩にはどうってことない計算だ。暗算でもできる。しかし、小学校独特の授業風景にすでにうんざりしていた。
「はぁ、やっと帰れる」
地獄のような授業を終え、懐かしい給食を食べ、やっと放課後。乱歩は自分の席で大きく伸びをした。終わった後で考えれば、高校よりも授業が短いという点では得をしたようにも感じられた。
「ごめん。まだ僕はお疲れ様とは言えない」
「あ?なんでだよ」
「だってあいつらが」
「おい、乱歩」
コナンの言葉に被せるように名前を呼ばれる。声のする方向には三人の子供が立っていた。どこかで見たような気のする顔をよく眺める。そういえばコナンが一度家に連れて来たかもしれないと思い出した。
「えっと、どうしたの?」
「乱歩。お前を少年探偵団に誘いにきた!」
「本当は選ばれた人しか入れないんですけどね」
「コナンくんの家族なら、大歓迎だよ!」
「少年、探偵団?」
乱歩は思わずコナンを見る。そんな団に入っていることは初耳だ。
「コナンくんと乱歩くんのお兄さんってあの工藤新一さんでしょ?だから私達も少年探偵団を目指しているの」
小学生の理屈はよくわからないと、乱歩は首をかしげる。確かに乱歩は名探偵ともてはやされていた。無論、今は満足に推理することすらできないが。
言動から、新一に憧れを持っていることはわかる。だが、それと少年探偵団を創るということを考えるのは別問題だ。
「とりあえず入ってあげてよ。僕だけじゃこいつら抑え切れないんだ」
弟の頼みごとを無視できるほど、乱歩は薄情な兄ではない。仕方なくその少年探偵団とやらに入ることにした。
「よっしゃ!それじゃあまた博士にバッヂ作ってもらわなきゃな!」
「バッヂ?」
「これですよこれ」
光彦が見せたのは小さなバッヂ。博士が作ったにしてはだいぶ凝っている。
「これ、トランシーバー機能もついてるんだよ」
「トランシーバー!?」
博士が遊び心溢れる人物だということは乱歩もわかっていた。しかし、トランシーバー機能までつけるとは思ってもみなかった。
「俺、団長の小嶋元太!」
「私、吉田歩美!」
「僕は円谷光彦です」
「く、工藤乱歩。よ、よろしく」
子供たちの勢いに圧倒されながらも自己紹介をする。乱歩がちらりと横目でコナンを見ると、あからさまにすまなそうな顔をしていた。乱歩に嫌な予感がよぎる。
「それじゃあ早速、博士の家に行こうぜ!」
「「「おー!」」」
三人に連れられて、コナンと乱歩は博士の家に向かった。