聖闘士星矢~ANOTHER DIMENSION 海龍戦記~改訂版   作:水晶◆

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第9話 狙われたセラフィナ!の巻

 履き慣れない靴の感触に戸惑いながら、一歩一歩を確かめる様に階段を下りる。

 身体の節々に筋肉痛の様な痛みはあったが、五日も寝ていたと言われた割には、思った程身体がなまっている様には感じられない。

 

「血液の流れをどうこうってレベルじゃない。癒しの力か。単純に、凄いな。小宇宙の譲渡か? 相手の小宇宙に同調させて? ……それはそうとして」

 

 頭を掻きながら溜息交じりに呟かれる海斗の言葉に返事を返す者はいない。

 

「傷の手当てや看病をしてくれた事、それ自体には感謝しているが……」

 

 タイミングと言うのは重要なもので、先程の馬鹿騒ぎのせいでセラフィナに礼を言う機会を逃してしまっていた。

 今更面と向かって礼を言うのも気恥ずかしく思う。

 

「それでも……どこかで言っておかないとな」

 

 海斗はそう独りごちながら目の前に見えた扉の前に立つと、古びた木製の扉に手を掛けた。

 ギイと軋んだ音を立てて扉がゆっくりと開く。

 

「こいつは――」

 

 しんと静まりかえった無人の室内に、海斗の呟きが波紋の様に広がる。

 一歩を踏み出し、広間へと足を踏み入れた海斗が見た物は、部屋中に散らばった大小様々な無数の欠片だ。

 海斗は室内を見渡すと、足下に転がるそれを一つ拾い上げる。

 

「これは……ヘッドギアか? そうだ、あそこに見えるのは手甲、あそこにあるのは肩当ての部分か。あれも、あれも、ここにある物は全て――聖衣か」

 

 一つや二つでは済まない。

 形が残されたパーツの数から推測しても、恐らく十や二十では収まらないだろう。それが分る。

 

「……まるで聖衣の墓場だな」

 

「同時に、再生の場でもあります」

 

「――ッ!?」

 

 背後からの声に海斗が振り向けば、そこには先程と変わらず、落ち着き払った様子で佇むムウの姿があった。

 

(今の今まで人の気配は感じなかった)

 

 内に湧く驚愕を押さえつつ、海斗は緩み過ぎたかと気を引き締める。

 

「いつからですか? あまり趣味が良いとは言えませんね、牡羊座(アリエス)のムウ」

 

「アリエスの、ですか。フッ、どうやらアルデバランから多少は私の事を聞いていたようですね。しかし、そう呼ばれるのも実に久しぶりです」

 

 ついて来なさい、そう言ってムウは広間を奥へと進む。

 手にした聖衣の欠片を足下に置き、海斗は無言のままその後に続いた。

 

 

 

 広間を抜けて館の外へ。

 まるで石で出来た五重の塔だなと、背後の館を一瞥する。

 

「こちらです」

 

 ムウの指示に従い先に進むにつれて、辺りに立ち込める霧がその濃さを増す。

 霞がかった視界は方向だけではなく、時間の感覚すら狂わそうとしている様だと海斗は感じていた。

 聖域とチベットの時差は五時間程だったかと、おぼろげな記憶を頼りに思いだそうとするが、どうでもいい事かと、先を進むムウの背中を追う。

 

 それからどれ程進んだのか。

 二人の間には会話らしい会話もなく、あるのは精々があちらに、こちらへと言った指示程度。

 その事自体は海斗にとっても特に気にする事ではなかったのだが、聞きたい事があると言ったのはムウである。

 まさか、あの場から離れるための方便であったわけでもあるまいに、と。ならば、と海斗は自分から話を振る事に決めた。

 

「そこで止まりなさい」

 

 しかし、話とは、と口を開こうとした海斗よりも先に言葉を発したのはムウ。

 

「ここより先に、あなたの聖衣があります。新生したエクレウスの聖衣が」

 

 ムウが指し示した方向をじっと見たが、深い霧の為か、うっすらと道がある様にも見えるがその先がどうなっているのかまでは分らない。

 

「……聖衣がここに? かなり手酷くやられていたが……そうか、あなたが修復してくれたのか」

 

「修復ではありません。新生と言いました。そう、エクレウスの聖衣は新たに生まれ変わったのです」

 

「――生まれ変わった」

 

「そうです」

 

 感慨深く呟いた海斗とは異なり、ムウの言葉にはどこか鋭いものが含まれていた。

 ゆっくりと海斗へと振り返るムウ。

 その醸し出される雰囲気こそ『静』であったが、その奥底から感じる気配は激しいまでに『動』。まるで一回りも二回りも大きくなった様な、それ程までの、圧倒的な存在感を放っていた。

 

 ジャミールのムウ。聖域との関わりを断ち、だた黙々と人里離れた奥地にて聖衣の修復を手掛け続ける世捨て人の様な男。

 かつて、アルデバランは海斗にそう話した事もあった。

 

「さて海斗、あなたには色々と尋ねたい事はありますが」

 

 だが、と海斗は目の前に立つムウの小宇宙を感じて思う。

 一見すると物静かで優雅ささえ感じさせるこの男。

 その本質はやはり聖闘士――戦う者なのだと。

 

 スニオン岬でカノンと対峙した時点で、こうなる事は覚悟していた。

 だからこそ、海斗に動揺はない。

 来るべき時が来た、その程度の事。

 

「軽度の破損であればともかく、命を失った聖衣を蘇らせるには命を必要とします。命、つまりは生きた聖闘士の大量の血です。当然、エクレウスの聖衣を新生させる為にも必要とされました。それを提供したのは――教皇だと聞いています」

 

「待ってくれ。エクレウスの聖衣を修復するために血が必要となるのは分った。だが……教皇だって?」

 

「あなたをこの地へと連れて来たシャカの言葉です。彼が言うのであれば真実なのでしょう。しかし、だとすれば腑に落ちない点が一つ。故あって、私は教皇の事であれば誰よりも知っていると言う自負があります。ですが、エクレウスの聖衣に与えられた大量の血から感じられた小宇宙は私の知る教皇のものとは違うのです。ならば、今聖域にいる教皇は――」

 

 しかし、ムウの口から出た言葉は、その海斗をして驚きを隠せないものだった。

 

「――一体誰なのでしょうか?」

 

 

 

 

 

 第9話

 

 

 

 

 

 海斗がジャミールの地で目覚めてから更に一週間が経っていた。

 

 最初の数日こそ物珍しさも手伝って、海斗は周囲の散策などを行う事で退屈を紛らわせていたのだが、それも今では過去の事。

 ならば本でも読むかと、ムウの蔵書から何冊か借りはしたものの、難解過ぎて三十分もしない内に返却していた。内容が、ではなく、書かれた文字が理解出来なかった為だ。

 

「あれは文字じゃない」

 

 こうなってしまっては、途端にする事がなくなってしまう。それを自覚してしまうと、途端に暇であるという事が苦痛に思えてしまう。

 いわゆる居候の身である以上、何もしていないというのはどうにも居心地が悪かった。この辺りで自分が日本人なんだなと意識する。

 聖域からの迎えが来るまでゆっくりすると良いでしょう。ムウはそう言っていたが、生憎とジャミールは海斗にとっては聖域以上に娯楽のない退屈な場所である。

 長く居れば、それなりに楽しみも見い出せるのかもしれないが、そこまで厄介になるつもりもなかった。

 

 

 

 館から少しばかり離れたところにある広場。

 広場と表現したが、むき出しの岩肌に囲まれた少しばかり開けた場所でしかない。が、この地に住むジャミールの民からすれば十分に広場である、とは貴鬼の弁であった。

 

「――暇だ。しかし、もう二週間近くか。迎えってのはいつ来るのやら」

 

 手頃な岩を見つけて腰掛けていた海斗が、霞がかった空を眺めながら呟く。

 その横にはエクレウスの聖衣箱が置かれていた。

 

『私と貴鬼は今日から数日程ここを離れる事になります。その間は工房を閉めますので、聖衣はあなたが持っていなさい』

 

 ムウからそう告げられたのが、今から約二時間前。

 そこで、留守番を任さたセラフィナに捕まり、ずるずると表へと連れ出されて今に至る。

 

「だったら一緒に修行しましょう!」

 

 海斗の呟きが聞こえたのだろう。

 瞑想を終えて、四肢の柔軟を始めていたセラフィナが、名案だとばかりに申し出た。

 

 暇を持て余していた海斗にとって、ムウとセラフィナたちの修行を見学する事だけが唯一の日課とも言えたのだが、これまでその中に加わる事はなかった。

 傷も癒え、身体を動かすには何の支障もないはずであるのに。

 その事がセラフィナや貴鬼にとって疑問であったのだが、ムウはそれについて特に何も言う事は無なかったので深く追求はしていない。

 

「ね?」

 

 そう言って、セラフィナが空を見上げていた海斗の後ろから覗きこむ様に身を乗り出す。

 大きな瞳を輝かせ、何かを期待する様に海斗を見る。

 

「ふわぁあ……あふっ」

 

 それに対しての返答は欠伸を一つ。

 

「いや、止めとくわ」

 

 そう言って身体を起こし、立ち上がる海斗。

 

「もうっ、またですか?」

 

 セラフィナにとって、この海斗の答えは予想通り。

 今迄であれば、ここで引き下がる所ではあったが、今日は違った。

 一人で修業を行う事は珍しくはなかったが、それでも一人より二人で行う方が良い。

 目の前に普段目にする相手とは異なる存在がいるのだ。傷の癒えた海斗がいつここから去るか分らない現状で、これを逃す機会はない。

 

 よしっ、と気合いを入れ、もう一度海斗に言ってみようと顔を上げたセラフィナ。

 すると、先に立ち上がっていた海斗がじっと自分を見ている事に気が付いた。

 そして、何かを確かめる様に自分の拳を握り、開きを繰り返す。

 

「海斗さん?」

 

 どうも様子がおかしい。

 何かを言いたそうで、しかしそれが言葉にならない、纏まらない。

 そんなもどかしさ、とでも言うのか。何かを迷っている、そう感じられる。

 

「あ、まさか!?」

 

 慌ててセラフィナは自分の身なりを確認する。

 何かおかしなところでもあったのかと。

 

「……何をやっている?」

 

「え? あれ?」

 

 違うのか、なら何なのだろうと考える。

 そう言えば、貴鬼が出掛ける前に何か言っていたはずだと思い出す。

 確か二人きりだのなんだのと。

 

「ハッ!? 駄目ですよ海斗さん!?」

 

 両手で身体を抱きしめる様にして後ずさる。

 さすがにそれは早過ぎる、と。

 顔を真っ赤にし、涙目で睨み付けるセラフィナであったが、海斗はまるで気にした様子もなく淡々とした口調で話し掛けた。

 

「なあ。お前は、どうして聖闘士になろうとしたんだ?」

 

 

 

 あの日、城戸光政に集められた孤児たちは、半ば強制にも近い形で聖闘士となる事を命じられた。拒否権などあろうはずもない。

 その中には星矢の様に交換条件を提示した者もいれば、海斗の様に力を得る事に目的を見出した者もいるだろう。だが、それはあくまでも稀だ。

 ふと、海斗はこの争いとは無縁としか思えない少女が何故、と聞いてみたくなったのだ。

 

 セラフィナはぽかんとした様子で海斗を見ている。

 理由や目的は人それぞれ。その様子に、あえて聞く様な事でもなかったかと、海斗は苦笑する。

 

「悪い。忘れてくれ」

 

「……陽光(ひかり)です」

 

 しかし、セラフィナは一言一言を自分の中で確かめる様にして答え始めた。

 

「ムウ様が仰られました。やがて、この地上を闇に包み込もうとする存在が現れると。私達聖闘士はアテナの下でその闇と戦う事になるのだと」

 

 その言葉に、闇とは海皇の事かと海斗は考えたが、何かが違う様にも感じる。

 

(闇、ね。あえてそう表現したのなら、冥王の事だけじゃあなさそうだな)

 

「この地上に生きる全てにとって陽光は必要なものでしょう? それが無くなるのはとても悲しい事」

 

 セラフィナは真っ直ぐに海斗を見つめた。

 

「わたしは争いは望みません。戦う力も抗う力もあるとは思えない。でも、そうと分っていながら何もせずにただ見ている、そんな事は出来ないから」

 

「……」

 

「わたしにどれ程の事が出来るかは分りません。何の役にも立たないのかもしれない。それでも、こんなわたしでも出来る事があるのなら」

 

 それが理由です。

 そう言って、照れくさそうにセラフィナは微笑んだ。

 

「出来る事、か」

 

 

 

 ――役には立つ

 

 突如として周囲に響き渡る誰ともつかぬ声。

 一瞬、空耳かと、セラフィナが視線を動かし――

 

「え? わっ!?」

 

 視界がぶれた。

 セラフィナが腕を引かれたのだと気付いたのは海斗に抱き寄せられた後であった。

 自分の方が年上であったが、今更ながらに自分よりも海斗の方が背が高かった事を自覚する。

 

「苦情は後でな」

 

 そう言って海斗が拳を放った。

 衝撃がむき出しの岩肌を、大地を穿つ。

 

 ――フフフッ、どうやら威勢の良い者がいる様だが

 

「チッ、ここまで近付かれていながらな。鈍ったか? お前たち何者だ?」

 

 ――お前には用はない

 

「……どこだ?」

 

 海斗は瞳を閉じ、小宇宙を探る事だけに意識を、感覚を集中させる。

 周囲から炎の揺らぎの様に感じる攻撃的な小宇宙は一つではない。

 二つ、三つと複数の存在を感じ取れるがそこまでであった。

 

「チッ。感覚がおかしい。この歪む様な感じ、……これでは」

 

 詳しい気配を探ろうにも、この地に張られた結界の影響か上手く掴む事が出来ない。まるですりガラス越しに遠くを眺めている様な不確かさに海斗は眉を顰める。

 小宇宙の感覚だけに頼る事を諦めて、視覚も用いて相手の姿を探る。

 霧のせいで決して良好とは言えなかったが、それでもノイズ交じりの気配だけを頼りに探るよりはマシだと。

 

「こんな時に……」

 

 ムウが、いやせめて貴鬼がいれば。そう思う。

 超常の力により他者の転移を可能とする二人であれば、この場からセラフィナだけでも逃がす事は出来ただろうが、と。

 

「海斗さん!?」

 

 異様な小宇宙をセラフィナも感じ取ったのだろう。

 胸元から離れ、海斗に背中を預ける様にして周囲を窺う。

 

「いや、むしろ不在であるからこそ、か? だとすれば、随分と嘗められたな」

 

『甞めてなどいない』

 

 ――その価値すらない

 

 その言葉と共に、突如として海斗達の足下が激しく隆起した。

 

『そら、どこを見ている。足下が留守だぞ』

 

「え? きゃああああああぁっ!?」

 

 突然、二人の足下が爆ぜた。

 大地から巨大な影が飛び出したかと思うと、それは海斗とセラフィナの身体を宙へと吹き飛ばす。

 

「セラフィナ!?」

 

『他人の心配をしている余裕があるのか?』

 

 体勢を立て直そうとした海斗の背後から聞こえる声。

 振り向く間もなく、轟、という衝撃を受けて、海斗の身体が岩肌へと叩き付けられた。

 

「海斗さん!」

 

 着地して駆け出そうとしたセラフィナであったが、そうはさせぬと幾重にも重なった人影が立ち塞がる。

 

「そこをどきなさいっ!!」

 

 それは、二メートルはあろうかと言う大柄な男たちであった。

 全員がその身に、鈍い輝きを放つ聖衣の様な鎧を纏っている。多面体で構成された結晶のような外観である。

 

「構わんぞ? お前が大人しく我等に従うのであればな」

 

「我等はギカス。古の時代より蘇ったギガス(巨人族)

 

「我らの王の命により、女、貴様を連れて行く」

 

 ギガス、その言葉をセラフィナは知っていた。

 神話の時代、この地上を我がものにせんとしてオリンポスの神々と激しい争いを繰り広げたガイアの子ら。

 その身には、聖衣の素材として用いられる希少金属オリハルコンすら凌駕する高度を持つ金剛衣(アダマース)を纏っていたとされている。

 

「そんな!? あなたたちギガスは神々の力によって冥府に封じられていたはず……」

 

「ほう、我等ギガスを知るか。フン、確かに我らの魂は封じられた。しかし――」

 

 セラフィナの呟きに、ギガス達は醜悪な笑みを浮かべて見せて答える。

 

「こうして我等は此処にいる」

 

 リーダーと思わしき男が手を上げると、その巨体からは信じられぬ速度で散開していたギガスたちがセラフィナを囲む。

 

「あの人間が心配か? ならばこう言おうか。お前が抵抗すれば――あの小僧を殺す」

 

 輪から外れた三人のギガスが、海斗が吹き飛ばされた岩肌へとその足を向けた。

 

「あなたたちは!!」

 

 セラフィナは小宇宙の大きさこそ白銀聖闘士の域に達していたが、聖闘士としての戦闘力と言う点では自身が言っていた通り今は下位である青銅級に等しい。

 ましてや、今は聖衣すらない生身。

 自分一人の事であれば、敵わぬとしても立ち向かおう。

 しかし、卑劣にも相手は海斗の身を人質としている。

 ギガスが自分を求める理由が何であるのかは分らないが、セラフィナに選べる選択肢等はなかった。

 

「分り――」

 

 

 

「――黙って聞いていれば、お前ら、何を好き勝手ぬかしていやがる」

 

 

 

 セラフィナの言葉を遮ったのは立ち昇る巨大な小宇宙であった。

 怒気すら孕んだそれは水面に広がる波紋の様に広がり、物理的な風となってギガスたちの動きを止める。

 海斗が吹き飛ばされた岩影から白と青の輝きが放たれると、ドンと、音を立てて“内側から”爆発した。

 

「ぐわぁあああ!?」

 

「おごぅ!!」

 

「げわばあぁ!?」

 

 海斗の元に向かっていた三人のギガスたちが同時に悲鳴を上げた。

 砕けた金剛衣と血反吐を撒き散らして巨体が宙を舞う。

 

「グラウリュス!? ソルトー!」

 

「何だと!?」

 

 巨体が地に落ち大地が揺れる。

 あり得ない光景にギガスたちに動揺が走る。

 

「俺はやられたらやり返す主義でな。忘れるなよ、仕掛けたのはそっちか先だって事をな」

 

「海斗さん!」

 

「まったく。不意打ちだからといって、あの程度で俺がどうこうなるとでも思ったのかセラフィナ」

 

 白く輝く新生したエクレウスの聖衣をその身に纏い、巻き上がる砂塵の中から海斗が姿を現した。

 

 膝と踝程度しか保護されていなかった脚部は、まるでブーツの様に膝から下を包み込んでいる。

 左胸を覆う程度であった胸部は、肩当てと一体となって胸部全体を覆い、ベルト状であった腰部には前垂が加えられ、側面にも追加されていた。

 手甲は肘から下を包み込み、サークレット状であった頭部はヘッドギアとも呼べる形へと変化していた。

 その外観はもはや身体の必要部分だけを覆う青銅聖衣のそれではない。

 上位聖衣である白銀聖衣と表現しても過言ではない姿となっていた。

 

 人を心配させておきながら、しかもギガスと未知の敵に囲まれたこの状況。

 緊張感もなく、何食わぬ顔で現れた海斗の様子に、セラフィナは思わず笑ってしまいそうになる。

 だったら、せめてこれぐらいは言ってやろうと思った。

 

「思いましたよ。わたしはボロボロの海斗さんしか見てませんから!」

 

「……そりゃそうか」

 

 カッコつかないなと肩を竦めると、海斗はさてと一息入れてギガスたちへと身構えた。

 

「お前たちが何者なのか、目的もどうでもいい。だがな、人質を使ってまで女一人を攫おうとするそのやり方が気に入らん。そのだしに俺を使った事も、だ」

 

 だから――

 

 

 

「テメエら全員叩きのめす。泣き言はその後に聞いてやる」


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