聖闘士星矢~ANOTHER DIMENSION 海龍戦記~改訂版   作:水晶◆

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第13話 外伝~幕間劇(インタールード)~

 ギガスと対峙するあの二人には油断も隙も無かった。

 襲い掛かる敵を倒したとはいえ、未だ歪められたジャミールの結界はそこにいる者の感覚を狂わせようとしている。

 現状では、あらゆる攻撃が不意打ちとなるのだ。

 とは言え、あの二人にとってそれは左程脅威にはならないだろう事は、これまでの戦いを見て十分に理解できた。

 問題とするならば、それはあの少女の事であろう。

 守らねばならない存在、それがエクレウスとカプリコーンの枷となる。

 それを二人が理解しているからこそ油断は無いのだ。

 

「ふぅん」

 

 さてどうするかと思案する。

 見れば、あの二人は次の行動に移ろうとしている。

 

『一刻も早くこの地を離れる』

 

 そう言う事であろう。

 エクレウスが少女の手を取る。カプリコーンが僅かではあるが先行する。

 

「うん、いいねぇ」

 

 笑みが浮かぶ。

 僅かでいい。

 その距離が欲しかった。

 

 カプリコーンがエクレウスを認めたからこそ生まれた距離。

 エクレウスがカプリコーンを信頼したからこそ生まれた距離。

 

「さぁて、と」

 

 ここに来るまでに少し乱れてしまった黒のタキシード。

 埃をはたき落とし、皺を伸ばし、お気に入りのシルクハットをかぶり直す。この白いラインがオシャレポインだ。

 これを悪趣味だと断じたアリエス。彼の美的感覚こそがおかしいと言わざるをえない。

 

「第一印象は大事だからねぇ」

 

 ま、エクレウスとはあの世で一度は会っちゃあいるが、と含んで笑う。

 一瞬、その姿を白い老人と化して、また今の姿へと。

 さあ行くかと身を乗り出せば、どうやら場に変化があった模様。

 

「おほっ」

 

 ガラスが割れたような甲高い音が響き空間が割れた。

 そこから現れたのは新たなギガス。

 黒き仮面の竜女デルピュネ、白き仮面の竜女エキドナ。そして十将エンケラドゥス。

 

「おやおや、彼女等も必死と言うか何と言うか。ふむ、まあこれぐらいのアクシデントがあった方が面白いわな」

 

 どうやらこの場での演目はまだ続くらしい。

 

「でも……ありゃあ駄目だな。あのままじゃあ直ぐに終わる」

 

 何せ、お姫様を守る騎士が強過ぎる。

 せっかくの舞台の延長が、このままあっさり終わってはツマラナイ。

 主演は彼らであり今の自分は観客だ。

 だが、この脚本の無い舞台の演出家になってみるのもそれはそれで面白そうだ。

 三途の川から仕込んでいた演出――愉快な挨拶の機会は失われそうだが、この際我慢しよう。

 それに役者が演目を続けようとしている。それを止める事は出来ない。

 

「う~ん、でもなぁ……。このままエンディングじゃあヒネリが無いからさァ」

 

 この地の結界を再び弄り場を少々乱す事にする。

 カプリコーンとエンケラドゥスを離し、エクレウスとあの少女の前にデルピュネとエキドナを向かわせる。

 

「後は――そうだな、いっその事挨拶も済ましちゃおうかね」

 

 裏方が出張るのは宜しくないし、観客が舞台に上がるなど以ての外。

 だが、演出的にはとても良い。時にはこういった突発的なアクシデントがスパイスとなるのだ。

 彼もきっと気に入ってくれるはずだ。

 

「聖戦までの暇潰しと思っていたが……これはこれで楽しくなってきたなァ」

 

 

 

 

 

「――下がっていろセラフィナ」

 

「あ、はい」

 

 そう短く放たれた海斗の言葉は、これまでセラフィナが聞いた事の無い程に緊迫した物を含んでいた。

 拙いと海斗は感じていた。

 一体何が起きたのか、気が付いた時にはシュラと分断されていた。

 お互いに不意打ちは警戒していたはずであったのだ。

 明らかに――異常。今の海斗に細かな口調等を気にしていられる程の余裕は無い。

 

「え?」

 

 何かが起きている事は分っても、それが何かが分らない。

 状況を把握できぬままであったセラフィナの肩がトンと押された。

 何を――と、海斗へ問う間も無かった。

 その瞬間、全身を舐め回す様な不快な視線を感じ、その嫌悪感に眉をしかめたのと同時に柔らかな衝撃がセラフィナの身体を包み込み、その場から弾き飛ばす。

 

「海斗さん!」

 

 勢いこそあったものの、セラフィナの身にダメージは無い。

 右手を地に着け、そこを軸として回転。宙に浮かぶ身体を翻して体制を整えたセラフィナが顔を上げる。その視線の先では、仮面を着けた女達の攻撃を両手で受け止めている海斗の姿。

 

「……ッ!」

 

 加勢すべきだ。

 海斗は下がれと言った。

 大人しく下がるべきだ。

 海斗だけを戦わせて?

 

 これがシュラであったのならば、セラフィナは迷わず下がっただろう。

 一月にも満たない短い期間ではあったが、共に過ごした時間が情となりセラフィナの判断を鈍らせた。

 

 僅かな逡巡。

 しかし、その僅かな逡巡こそが致命となる。

 迷うセラフィナの思考の隙を狙い、漆黒の仮面の女――デルピュネが動いた。

 空中で器用に反転し、海斗の身体を蹴りつけてセラフィナへと跳ぶ。

 

「俺を踏み台に!? させるかっ!」

 

「それは――貴方も同じ」

 

 デルピュネを追撃しようとする海斗。その動きを、白い仮面の女――エキドナが阻む。

 

 黒い艶やかな髪に表情の無い白い仮面が際立つ。

 蠱惑的な肢体を強調するデルピュネに対し、エキドナは纏う金剛衣こそ似ていたがその体格は少女のもの。

 見た目通りであるならば、自分と同年代か。

 女性を殴る事に抵抗が無いわけでもないが、海斗にとって優先順位は明らか。

 正体、素顔がどうであれ、自分の行く手を遮ろうとするならば倒すのみ。

 

「貴方に……用は無い。大人しくして」

 

 同じような仮面を着けながらも、どこかくぐもった様な感じのするデルピュネの声とは明らかに違う。

 纏わり付く様な炎を連想させるデルピュネとは違い、エキドナの抑揚の無い声はまるで人形。

 

「もう一度言う。大人しくして」

 

「大人しくして欲しいなら俺の邪魔をするな!」

 

「ならんぞエキドナ。つまらぬ禍根は消さねばならぬ。そ奴は殺せ!!」

 

 耳障りな声に海斗が視線を動かせば、そこには苦悶の表情を浮かべるセラフィナが見えた。

 デルピュネに片手で首を掴まれて吊り上げられた姿が。

 

「どけっ!! エンドセンテンス!」

 

 エキドナ目掛けて放たれる青い閃光。

 無数の光弾は、しかし、その全てが空を切る。

 

「避けられた? いや、これは……くッ!? セラフィナ!」

 

「私は避けてはいない」

 

 そう言って左手を掲げるエキドナ。

 その手首には、真紅に輝くルビーが填められた腕輪があった。

 エキドナがそのルビーに触れると、まるで心臓の鼓動を思わせる様に妖しく明滅を繰り返す。

 

「貴方が外した」

 

「……エキドナ……神話上では魔物の母、だったか」

 

 海斗が体勢を崩し、攻撃を外した原因となったモノ。

 唸りを上げて海斗の足に食らいつくモノ。

 

「グゥルゥウウウウッ」

 

 喰らいついた海斗の脚を噛み砕かんとする頭と、胴体目掛けて喰らいつこうとする頭。

 二つの頭を持つ神話の魔獣。

 そこにいたのは二メートルはあろうかと言う巨大な魔獣――オルトロス。

 新生聖衣のおかげか、噛みつかれた脚にダメージは無いがこのまま無事でいられる保証も無い。

 

 いつの間に、どうやって。

 疑問はあったが、今優先すべきはセラフィナを救う事。

 

「グゥアアァアアアアアッ!!」

 

「この!」

 

 胴体に食らいつこうとするオルトロスの頭を抑えたものの、海斗の動きはこれで完全に止められてしまう。

 

「フフフッ、よく堪えるのう。そのまま喰らわせい。続けよエキドナ」

 

 デルピュネの声に従い、エキドナが再び左手を掲げる。

 本来ならば美しさを感じさせる筈の宝石の輝き。

 明滅を繰り返すそれは、まるで脈打つ心臓。

 視界に入っただけで倦怠感を、直視すれば嘔吐感が襲い掛かる。

 それが一体何であるのか、海斗には分からない。

 ただ、おぞましい物である事は分かる。

 ルビーが明滅し、そこから巨大な影が生み出される。

 影は徐々に形を変えると、獅子と山羊の頭、蛇の尾を持った巨大な魔獣の姿を形作る。

 

「キマイラ……だと……!?」

 

 広げられた巨大な顎。

 唾液を撒き散らし向かって来る。

 

「ケダモノ風情が……調子に――乗るなああああッ!!」

 

 咆哮と共に解き放たれる海斗の小宇宙。

 大地が鳴動し、立ち昇る小宇宙が螺旋の渦を描き天を突く。

 吹き荒れる小宇宙は物理的な衝撃を伴い、海斗に身に触れようとする魔獣達の尽くを粉砕した。

 

「今のは……確かに……」

 

 エキドナは見た。

 小宇宙の高まりに呼応するかの様に、エクレウスの聖衣が黄金の輝きを放った事を。

 

「……聖闘士……」

 

 人形であったエキドナの感情がブレた。

 そこに現れたのは戸惑いという感情であった。

 

「セラフィナ!」

 

 動きを止めたエキドナを無視し、四散する魔獣の血潮に構わず駆け抜ける海斗。

 

 異変に気が付いたデルピュネが振り返ろうとするが、遅い。

 

 伸ばされるセラフィナの手。

 

「海――」

 

 伸ばされる海斗の手。

 

「セラ――」

 

 指先が触れ合う。

 

 互いの手が――

 

 

 

『      』

 

 

 

 届く事は無かった。

 

「――な、に?」

 

 海斗の伸ばした手の先には何も無かった。

 目の前にいた筈のセラフィナがいない。

 セラフィナに手を掛けていたデルピュネも。

 

 次いで衝撃。

 それが背後からの攻撃だと気が付くのに海斗は数瞬を要した。

 幻術はあり得ない。 

 確かにお互いの指先が触れ合った感触があった。

 自分の知覚を超える超スピード。

 そんな事が出来るなら、今頃自分は死んでいる。

 

 

 

 何が起こったのか分らない。

 

 

 

「――それがどうした!」

 

 意識はある。身体も動く。

 今考える事はセラフィナを助ける事。

 それだけでいい。

 

 頭を振って立ち上がった海斗が見た物は、エキドナの手に抱えられた意識の無いセラフィナの姿。

 現れた時と同じ様に、空間を割ってその姿を消そうとしている。

 このまま転移されては――拙い。

 全力で駆け全力で跳ぶ。

 

「その娘を連れて先に行けエキドナ。この小僧はこの場で燃やし尽くすでな!」

 

 そうはさせじと、行く手を遮る様にデルピュネが立ち塞がる。

 掲げられた右手に燃え盛る炎が現れると、まるで矢の如く姿を変えて海斗へと向かい放たれた。

 しかし――

 

「その程度の火で俺を焼けるか!」

 

「馬鹿な!? 水の壁が我の炎を喰らうなどと!!」

 

 海斗の小宇宙によって生じさせた水が壁となり、次々と放たれる炎の矢を呑み込んでいく。

 それは海将軍シードラゴンとしての力。

 海闘士の特殊能力は鱗衣を纏う事で発揮される物が殆どであるが、この力は海斗の持つ資質による能力であり、鱗衣に依存する能力では無い。

 だからこそ聖衣を纏っていても使う事が出来る。

 余計な詮索を受けぬ様、聖域では隠してきたこの能力であったが、この期に及んで形振り構うつもりは今の海斗には無い。

 

「小癪な真似を! ならば、その全てをこの炎で呑み込んでくれる」

 

 両手を掲げ、これまで以上の炎を燃え上がらせるデルピュネ。

 しかし、海斗はそれに構わない。

 海闘士だの海龍だの聖闘士だのとゴチャゴチャ考えていた時とは異なる。この戦いの場で海斗の取るべき行動、やるべき事は明確でシンプルであった。

 セラフィナを救う。その事だけに集中する。

 仮面越しであろうと海斗には分った。エキドナが自分の動きを知覚している事が。知覚していても、自分のこの速度には追い付けない事も。

 

「セラフィナーーッ!」

 

 手を伸ばす。

 

 届く。

 

 

 

『             』

 

 

 

 伸ばされた海斗の手の先には――何も無かった。

 

 掴めた筈の手のぬくもりはそこには無かった。

 

「……そうか……そう言う事か……」

 

 セラフィナの姿はそこに無く、エキドナの姿も無かった。

 視線の先ではデルピュネがその身を空間に溶け込ませていた。

 周囲では紅蓮の炎が自分を取り囲むように渦を巻いていた。

 

 全てが過去完了形。

 

 周囲の全てが『留まった』中で「ああそうか」と、海斗はこの異常な状況を理解して納得をしていた。

 辻褄は合うな、と。

 

 いつの間にかシュラと分断されていた事。

 届いた筈の手が届かなかった事。

 

 カチリ、と小さな音がした。

 

「時間よ留まれお前は美しい。なあ少年、この言葉をどう思う?」

 

「……悪い冗談だ」

 

 若い様で年老いている様な、兎にも角にも軽薄で碌でも無い男には違いない声だ。この声には覚えがあった。

 そんな事を考えながら海斗が首を動かせば、そこには懐中時計を手にした黒づくめ。随分と場違いな男が、何が嬉しいのやら笑みを浮かべて立っていた。

 

 黒い髪に肌の色。そして雰囲気から東洋人だと言うのは分る。恐らくは日本人。

 無精ひげのせいで若干老けて見えるが、二十代後半から三十代半ばの様に見える。

 黒いシルクハットにタキシード、赤い蝶ネクタイを着けた一見紳士然とした男。

 

「初めまして少年。いや、エクレウスの聖闘士さん」

 

 懐中時計をポケットに押し込み、帽子を取って恭しく一礼する男。

 

「本当に、な。一応こう言っておこうか? 初めましてオッサン。いや、時の翁。そして、さようなら――“エンドセンテンス”!」

 

「うおっとォ!? いきなり御挨拶だねェ、エクレウス!」

 

 放たれた無数の光弾を器用に避けながら男は続ける。

 

「おいおい、まったく聖闘士ってのは気の短い奴らしか居ないのかァ? ここは何だとか、お前は誰だとか色々聞く事があるでしょうが!」

 

「この状況で理解できた。お前が俺の邪魔をしていた。少なくとも3回。テメェが誰かなんて――どうでもいい」

 

「うおッ、とっ、ハッ! キミ本当に青銅(ブロンズ)聖闘士? 嘘でしょ? あ~っと、訂正しとこうか。邪魔したのは色々合わせて6回ね」

 

 避ける、避ける、避ける。

 男はそう言って軽口を叩きながら、威力と速度を増し続ける海斗の攻撃を避け続ける。

 

「と言ってもさ、ここでやったのは3回だけだよ。カプリコーンと分断して、君の手から彼女を引き離――」

 

 パァンと乾いた音が鳴り響き、男の軽口が止まった。

 無数に放たれた海斗の拳。光弾が閃光と化し、その一つが避け続けていた男の動きを捉えたのだ。

 

「……良いね。うん、スゴク良い」

 

(想像以上。コイツぁ、ひょっとすればひょっとするんじゃねえのか?)

 

 突き出される海斗の右拳。

 それを受け止める男の右手。

 

「あの子の事を言おうとしたらパワーアップ? まるっきり物語の勇者様だなァ。あの子は囚われのお姫様。キミはそれを助ける騎士様――」

 

 男はそれ以上を言えなかった。

 ゾクリ、と背筋に奔った悪寒に従いその場を飛び退く。

 再び黄金に輝くエクレウスの聖衣。

 刹那、男の立っていた場所に巨大な破壊の渦が立ち昇った。

 

 カノンを窮地に追い込んだ技“ホーリーピラー”。

 海将軍シードラゴン最大の拳。

 

「おいおい! なんてぇモンをぶっ放しやがる!! って、終わらねえ! 勢いが!! こンの、引きずり込もうってかァ!?」

 

 破壊の渦に引き込もうとする力の奔流は凄まじく、この場に留まる事は危険だと即座に男は判断する。

 

「だからって、コイツをこのままにしとくワケにもいかねえしなァ!」

 

 男は右手を突き出すと、掌をホーリーピラーへと向ける。

 

「わりいけど――消させて貰うぜ」

 

 男を中心として空間が歪んだ。

 歪みは陰陽を思わせる二色の光を放ちながら回り出し、男の背後に巨大な渦を描く。

 

「な、馬鹿な!? ホーリーピラーのエネルギーが――光の粒子になって消えていく!? それに――」

 

(身体が……動かんッ!)

 

「マーベラスルーム! ――この渦の生み出す先は時間も物質も無い世界。一度入れば量子レベルで分解されてその世界にバラ撒かれる、ってさァ!! 安心しな、消すのはその厄介なエネルギーだけだ」

 

 ズレた帽子を左手で抑えながら、ケラケラと笑い男は続ける。

 

「正直な、今度の聖戦にはあんまり期待してなかったのよ! いやいや、それがどうして分らんものだなァ、ええっオイ。触れ合ってみて初めて分る事、ってか」

 

「……誰だ、お前は」

 

 ホーリーピラーが消滅した事を確認すると、男はパチンと一つ指を鳴らした。

 陰陽の渦はその姿を消し、それと入れ替わる様に男の周囲に黒い霧の様な物が滲み出す。

 黒い霧は一つの塊となり、黒から白へ。やがてはその姿を翼を持つ白馬――天馬へと変えていた。

 

「観客さ。君達の繰り広げる物語を――特等席で眺める、ね」

 

 そう言って男が天馬に跨る。天馬はその翼を大きく広げて嘶いた。

 

「今日のところは挨拶だけ、な。お前さんが生きていれば、また顔を合わせる事もあるだろうさ」

 

 そう言い残し、男は天馬と共にこの場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 男が姿を消すと『留まって』いた時間が再び動き出し、動けない海斗へと燃え盛る炎が迫る。

 その窮地を救ったのは、異変を察知しジャミールへと戻ったムウであった。

 

 そして、戦いの舞台は聖域へと移る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アリエスは間にあったか。随分とタイミングのいい事で。これもお花ちゃんの――アテナの加護ってか?」

 

 こっちの神様にも見習って欲しいものだ。

 

「過保護と言うか、甘ちゃんらしいと言うべきか」

 

 お気に入りのシルクハットを指先で器用に回しながら男は呟いた。

 

「今回も主演は天馬座(ペガサス)とアテナだと思ってたんだが……エゲツないねぇ、あのお花ちゃん。意図したものとは思えないけど、いくら兄弟星だからって……」

 

 ――神殺しの業、ペガサスだけではなくエクレウスまで引っ張り出すか。

 

 男は笑う。

 両手を広げ、楽しそうに、可笑しそうに、まるで無垢な子供の様に。

 

天馬座(ペガサス)の兄弟星である子馬座(エクレウス)。俺の因果とするにはそれだけで十分な理由だ」

 

 男は嗤う。

 両手で自らの身体を抱きしめ、愉しそうに、堪らないと。

 

「舞台は俺が用意しよう。どんな演目であろうと素敵に演出してやるさ。踊れエクレウス、踊れ演者諸君! 神も、魔も、人も――」

 

 

 

「――この冥闘士(スペクター)天魁星メフィストフェレスの掌でさァ!」

 


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