聖闘士星矢~ANOTHER DIMENSION 海龍戦記~改訂版   作:水晶◆

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 お久しぶりです。
 7年ぶりの投稿です。
 御大並みの更新速度になるかもしれませんがボチボチと。


間章2話 CHAPTER1.5~エリスの影~パイロット版

 聖闘士候補生の少年――(メイ)

 彼はアジア最大規模の大財閥であるグラード財団を一代で築いた男、城戸光政の手によって聖闘士となるべく世界中から集められた百人の孤児たちの一人である。

 繰り返される修練の日々。死と隣り合わせの日常。一人、また一人と姿を消していく候補生たち。

 盟は抗い続けた。己を襲う理不尽に、迫りくる死に。

 季節が廻り、四年が過ぎ、そうして五年目を迎えようとする頃、盟は己の内に確かに存在する小宇宙(コスモ)を感じ取れるまでに成長していた。

 

 イタリア半島の南西、地中海に位置するシチリア島にて黄金聖闘士の一人、蟹座(キャンサー)デスマスクの指導を受けていた彼のもとに聖域(サンクチュアリ)から一通の手紙が届けられた。

 半ば強制的に外界からの接触を断ち、修行に専念させられていた盟には手紙を送り送られるような相手はいない。

 あるとすれば、彼を送り出したグラード財団か、もしくは目の前に立つデスマスクぐらいであったが、この手紙を聖域から持って来たのはデスマスクである。

 ならばグラード財団かと差出人を見れば、そこにはこう書かれていた――Equuleus(エクレウス)海斗と。

 海斗は盟と同じ百人の孤児の一人。

 数少ない年長同士、それなりにウマが合ったのかよくつるんでいたことを思い出す。

 聖闘士としての修行に足を踏み入れた者の運命は大きく三つに分かれる。

 聖闘士として認められて名を残すか。志半ばで命を落とすか。名もなき雑兵の一人と して生きながらえるか。

 聖闘士候補生として集められた孤児たちの多くがその消息を絶っていると聞いていた盟は、その懐かしい名前を見て思わず安堵の息を吐いていた。

 

「エクレウス……そうか、お前は聖闘士として認められたのか。まあ、今はいいか。それにしても……なんだこりゃ? 暗号か?」

 

 手紙に書かれた内容はただ一言――女神を探せ。

 

「……コレ、あぶり出しとか、透かしとか――ねえわな。封筒の裏とかも……何もねえ」

 

 ならばと、盟はデスマスクを見る。

 

「お前だけじゃない。他にも似たような指示を受けた奴らはいるのは知っている。だが、どうしてそれが殻も取れていないヒヨコのお前なのか、そこまでは知らん。ヤツの意思では……無いな。おそらくは星観の小娘から祭壇星座(アルター)の小僧へと話が流れて、だろうが……」

 

 僅かに考えるそぶりを見せると、デスマスクは盟に暫く好きにしていろ、と言った。そして――

 

「丁度良い、卒業試験だ」

 

 追って指示を出す。そう言い残してデスマスクは聖域(サンクチュアリ)へと向かった。

 デスマスクにはあの一文で理解できる何かがあったのだろう。ただ、それを盟に対して説明する気が全く無い。それだけの事だ。

 放任主義はいつもの事かと、盟は日課となった鍛錬を開始した。

 

 そうして一週間が経ち、盟のもとに聖域(サンクチュアリ)から二通の手紙が届く。

 一通は師であるデスマスクから。

 

『日本へ行け。結果を出せばお前の欲しがっていた聖衣(ご褒美)をくれてやる』

 

 もう一通の差出人の名は海斗。

 

『追伸――ついでに俺の用事も手伝え』

 

 盟は無言で手紙を握りつぶした。

 

 

 

 日本にいる女神とは?

 なぜ自分が選ばれたのか?

 海斗が自分に手伝わせようとする用事とは?

 盟の脳裏に次々と浮かぶ疑問。しかし、それに答えを返してくれる者はいない。

 盟はイタリアを離れ日本へと渡る。

 

「日本――か。こんな形で戻ることになるとはな」

 

 その胸中に複雑な思いを抱いたまま。

 

 

 

 

 

 聖闘士星矢~ANOTHER DIMENSION海龍戦記~

 

 

 

 

 

 2学期も残すところあと2週間となったその日、東京の郊外にある秋田集英高校に一人の転校生の姿があった。

 学年は1年、クラスはB組。紫がかった銀色の髪、学校指定の詰襟の学生服は胸元を開く様にして着崩され、シルバーのネックレスやチェーンを身に着けたその姿は明らかに浮いている。

 担任である初老の男性教師からクラスメイトへの自己紹介を進められた彼は、鼻歌交じりに黒板へと向かう。

 

木戸盟(きどめい)だ。気軽に盟って呼んでくれ。ま、短い間になるとは思うが――ヨロシクな」

 

 

 

 三日も過ぎたころには盟の周りには多くのクラスメイトが集まる様になっていた。

 季節外れの転校生自体が珍しかった事もあるが、一見すると粗暴な印象を与える盟の、その実気さくな性格や人当たりの良さが知れた結果だ。昔から自然とこうして人が集まる。

 そんな中、その輪に加わろうとしない生徒の姿もあった。火場瑠衣と月代明菜である。

 

「えらい人気ね~。ねえ瑠衣、こりゃ、もう少し時間を置いたほうが良くない?」

 

「……うん。本当は早くお礼を言いたいんだけど……さすがにあの人垣には入れないかな?」

 

 集団から少し離れたところで瑠衣は肩を落とし、それを見て明菜はやれやれと首を振る。

 

「それにしたって……マンガじゃあるまいし。何? ピンチのところを助けてくれた気になる彼は転校生? しかも同じクラスって……」

 

「アハハ……。こんな偶然ってあるんだねぇ。わたしもビックリだよ?」

 

「あの格好で学校に通い続けているのもビックリよ? 内申点いらないのかしら?」

 

 そうこう話をしているうちにチャイムが鳴った。

 話をするのは次の休憩の時間にしよう。そう結論を出した二人は、この後の授業に備えるために自分たちの机に戻ろうとして――

 

 ――人影が二人の行く手を遮った。

 瑠衣たちの前に立ち塞がったのは、先日二人に絡んできた男子生徒たちである。

 周囲を威嚇し、睨み付けながら瑠衣のもとへと詰め寄る彼らには、皆どこか切羽詰まった焦りと怯えがあった。

 瑠衣の手を掴み、強引に外へと連れ出そうとする彼らに対し、その様子を怪訝に思いながらも仕置きが足りなかったかと立ち上がる盟。

 だが、それよりも早く明菜が動いた。

 打ち、捻り、投げる。盟をして見事と思わせる動きで明菜が彼らを叩き伏せ瑠衣を救い出す。

 その光景にわっと歓声が上がる教室。

 

 しかし、異変はその直後に起きた。

 

 苦痛に呻き蹲った彼らの口から人とは思えぬ、まるで獣のような叫びが発せられたのだ。

 声だけではない。その姿も、まるでホラー映画の狼男のように異形のものへと変化する。

 その光景を目の当たりにした明菜の口から零れ出たのは獣鎧士(ビースト)という言葉。

 異形の鎧を身に纏い変貌した男子生徒たち。彼らは人を超えた、聖闘士に匹敵する力を見せて瑠衣と明菜に襲い掛かる。

 二人を守るために立ち向かう盟。

 どうにか彼らを校庭へと叩き出す事に成功したが、生身の、今の盟には決定打に足るものが無い。

 誰かを守りながら戦う。

 盟が初めて体験する実戦。

 ダメージは無い。しかし、打ち倒す事も出来ない。その精神的な疲労が、積み重なる不安と焦りが徐々に盟を窮地へと追いやっていく。

 そんな盟の窮地を救ったのは、銀色の輝きであった。校舎の屋上から放たれた一本の矢だ。

 銀色に輝く聖衣にも似た鎧を身に纏った少女――明菜の放った矢であった。

 盟は、自らを月衛士(サテライト)と称した明菜と力を合わせ、獣鎧士(ビースト)と化した彼らを撃退する事に成功する。

 

 

 

 獣鎧士とは何か、一般人であったはずの彼らの身に何が起こったのか。

 なぜ瑠衣が狙われたのか、明菜の口から語られる瑠衣の秘密とは。

 

 邪神復活を目論む悪しき者たちに、新たなる若き聖闘士――盟が立ち向かう。


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