兎を助けるのは女神じゃなくても間違っていないのではないだろうか   作:わんこたろう

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迷子の迷子の兎さん

 不透明に混濁した意識の片隅で、自分の身体が異常に重く感じられる。

 思考に言葉を伴わせることすら億劫になる。上から押さえつけられていると言うより、自重が急激に増したかのような、全身の骨格が全て鉛に入れ替わったかのような、言葉にしがたい倦怠感がある。

 

 ややあって、自信が眠りに落ちていることを自覚するのとほぼ同時に、頬に冷風を感じ、意識が少しずつ持ち上がってくる。

 

 一緒に生活している祖父が、もう起きて仕事に出たのだろうか?それとも、昨夜寝る前に戸締りを忘れてしまっていたか?

 未だ思考の大半がぼやけている事実を、自覚するともなしに感じる。次いで、頬の産毛を軽く撫でる風の原因をぼんやりと思い浮かべて、ゆっくりと記憶をたどろうとしたところで、もう一段大きく覚醒に近付いた。

 

 

(そうだった……お爺ちゃんは、もう……)

 

 

 それまで共に暮らしていた祖父が亡くなって間もない現在。改めて思い至ったその事実に、ベルは思考を暗くさせていた。

 

 しかし、だとすると一体だれが……?

 

 

 

 まだ混乱できるほど目覚めきっていない頭を少しずつ回転させていって、ゆっくりと目を開けていくベル。覚醒を促したのは、どうやら夜風だったらしく、開かれている窓から陽光は差し込んでいないようだ。魔石灯のみの照明に、焦点の定まらない視界で、ベルが何とか認識できた周囲の状況は、どこかの建物の一室にいるらしいということと、すぐそばに誰かがいるらしいということだった。

 

 

「……お母……さん?」

 

 

 どうやら相手が落ち着いた大人の女性であるらしいということから、ポツリと落ちる呼びかけ。ベルにはわからなかったが、寝ていると思っていた少年から突然母親呼ばわりされた女性は、ハトが豆鉄砲を食らったように一瞬だけ固まる。直後、言葉の意味を捉えなおした彼女は、クスリと一つ笑みを零して、

 

 

「すまないが、私は君の母親ではないな」

 

 

付き添いつつ読んでいた小さめの本をぱたりと閉じて、かけていた眼鏡と共に脇に置いてから、そっと近寄ってきた。

 自分の言葉に反応があったことで、一気に思考と視界がクリアになり、ベルはその女性の姿を完全に認識できた。

 

 

 最初にどこに目が行くか、と問われれば、十人が十人「全部」と答える。そう断言できそうなほどの絶世の美女が、そこにはいた。

 背中まで伸びた長い翡翠色の髪に、柔らかな曲線を描く輪郭。見る者によっては、キツそうと感じられるかもしれない、細くはあるがはっきりと存在感を持つ目元は、優しく細められ、少年を少しでも安心させようとしているかのようだった。ただ一箇所(二箇所?)、その女性がエルフ族であることの証、頭から真横に飛び出した長い耳だけが、他のどの顔のパーツも振り切って圧倒的に自己主張をしていたが、そんなところも含めて完璧なバランスの美貌である。何より、発せられる声が、読みかけの本を閉じる手の動きが、眼鏡を外して置く仕草が、丸椅子から立ち上がる所作が、ベルの顔を(のぞ)くためにベッドに近付こうと踏み出した一、二歩さえも、極め付けにはその()()()()()が。どの側面にも、洗練された気品と風格が隠しようもなく溢れている。

 山村生まれの辺境育ち、純然たる田舎者であり、作法の「さ」の字も知らぬベルから見ても、やんごとなき位にいることがわかってしまう。目覚めたらそんな女性が目の前にいた、という事実に、眠りから完全覚醒したベルは、しかし、別の原因で混乱を継続させる。

 

「な……えっ? 僕…………ここ……?」

 

 ベル本人も状況が分かっていないのだろうが、口をついて出たセリフも意味不明である。それでも、状況把握ができていない、という一点のみは正確に汲み取ってくれた目の前のエルフ様が「心配する必要はない」と声をかけてきた。

 

 

「ここは、我々のファミリアの本拠地(ホーム)だ。一先(ひとま)ず、ここにいる間に、君自身に危険の及ぶことがないことは保障しよう」

 

「ファミリア……?」

 

「ダンジョンで気を失った君を、うちの団員が保護して運び込んだのだが……」

 

「………………ッ!?」

 

 

 続く言葉に含まれる「ダンジョン」というキーワードに、僅かに空白を挟みつつ、ベルの脳裏に記憶がフラッシュバックする。一番最後の記憶は、自分に絶望を突き付けてくるダンジョンの行き止まりの壁と、猛然と襲い掛かってくる牛人。

 

 

 そして、その後……。

 

「混乱しているところを申し訳ないが」

 

 

 記憶の淵に埋没しかけていたベルに、エルフの女性が言う。

 

「今回の事情の説明も含めて、私たちの団長が君に会いたがっている。何なら私は席を外すが、呼んできても構わないだろうか?」

 

 

 ベルの感じたとおりであるなら、相当に高貴な身分に違いないであろう。そんな人が、自分に対して非常に丁寧に接している、というシチュエーションに大いに戸惑いながら、

 

「いえ、大丈夫です……お願いします」

 

漸くそれだけ返事を絞り出すと、エルフの女性は、やはり威厳溢れる動作で部屋を横切り、戸を開けるのだった。

 

「あ、リヴェリア! あの子は?」

 

 

 扉のすぐ外にいたらしい誰かの話し声に、ベルも思わず視線を向ける。ちょうど扉に阻まれ見えないが、これまた、どうやら女性のようである声に

 

「ティオナ、声を落とせ。彼ならちょうど今、目覚めたところだ。フィンを呼んできてくれ」

 

リヴェリア、と呼ばれた先程のエルフの女性の声がその少女を叱り、遣いに出すのが、扉が閉まりきるまでに聞こえてきた全てだった。

 

 

 

 

 

 保護した少年が意識を取り戻したらしい。

 

 部屋まで呼びに来たティオナの報告を受けて、フィンは不運な少年「ベル・クラネル」の元を訪ねていた。

 

 

「まずは、君に謝らせてほしい」

 

 未だベッドに腰掛けたままのベルと、簡単な自己紹介を済ませた直後に彼がとった行動は、謝罪。極東式の最終奥義(ドゲザ)でこそないものの、きっちりと腰から体を曲げての、誠心誠意全力の()()()であった。

 

「今回、君が命の危険に晒された原因の発端は、僕たちファミリアの行動にある。【ロキ・ファミリア】団長として、正式に謝罪する」

 

 

「誠に申し訳なかった」と、懇切丁寧に頭を下げてくる小人族(パルゥム)に、それを受けたベルは全開で取り乱していた。

 

 

「そ、そんな……頭を上げてください! 結局、僕は無事だったんですし……。それに、助けてくれたのもそちらの方みたいですし……」

 

 

 突然のことに、ベッドの上でアタフタしていたベルが、フィンの横にチラリと視線を向ける。その先に立つアマゾネスの少女は、急に話題に引き出されたことに、一瞬きょとんとして目をぱちくりさせたが、すぐに何とも言えない顔で頬を掻いて言った。

 

 

「あー……でも、あたしたちがどんどんやらかしちゃったような感じだからねー……」

 

 たはは、と微妙な笑みを浮かべて視線をそらすティオナ。少なくとも彼女に関して言えば、少年が気絶してしまったことの直接の原因となっていることにほぼ間違いはないようなので、尚更気まずい思いを隠しきれないのだった。

 

 ベルにしても、自分が気を失う直前のことを、何となくではあっても思い出しているらしく、嫌悪感や拒絶反応とまではいかないまでも、ティオナに対しての反応が、どうしてもどこかビクビクとしたものになってしまっているのは自覚しているようだ。

 ただ、根っからのお人好しで小心者のこの少年のこと。相手にそこまで畏まられると、自分の中に芽生える罪悪感にも似た感情を持て余すようで、たどたどしくも言葉を続ける。

 

 

「で、でも……僕の方こそ……ほとんど何の準備もしないで、ダンジョンに行っちゃったわけですから……」

 

「「「……」」」

 

 

 ベルが俯きながらこぼすセリフに、気付かれないようにそっと目を合わせるフィンとティオナ、そしてさきほどから二人の後ろに控えているリヴェリアの三人。

 

 

「……まぁ、僕たちがそれを指摘して理由とすることはできないからね。せめてものお詫びと言ってはなんだが、今晩はこの部屋を好きに使ってくれて構わない。それと、もし戻らないことで君の主神に対して何かしらの説明が必要なようなら、明日、こちらの幹部の誰か一人を同行させよう」

 

 少年の発言に対しては、少々気になるところもあるフィンではあったものの、他の冒険者、特に他派閥の者に対してあまりに突っ込んだ話をしすぎるのも、それはそれで上手くない。

 幸いにも、目の前にいる人の好さそうな少年は、今回のことでこちらを糾弾するつもりもないようなので、丁寧な対応をこちらから切り出すことで、今回の件を収めるのが最善手だろうと、着地点を定めた。

 

 

 

 そんな風に、思考を半ば打算的に働かせながら話したからだろうか……。

 

 

 少年が首を傾げつつ返してきた質問の意味が、ほとんど理解できなかったのは。

 

 

 

 

 

「えっと……ごめんなさい、“シュシン”っていうのは……?」

 

「ん? ……えっと、君のファミリアはその辺りのルールは、特に定められてないのかな?」

 

「? えっと…………僕は少し前まで、おじ……祖父と二人で暮らしてて、この間その祖父が亡くなったので、家族とかは、特に……」

 

 

 

 

 

 

 何だろう?

 

 この会話は、致命的に何かが噛み合っていない気がする……。

 

 

「…………ちなみに、差し支えなければ、一つ質問して良いかな? 君は()()()()()()()()んだい?」

 

 

 ここまでの会話の流れで、フィンの中に生まれた一つの予想。

 頭に浮かんだその瞬間には、何をバカな、とこそ思ったが、考えてみればみるほど、あり得そうな状況に、それを確認するための質問を少年に投げかける。

 

 

 

「所属、っていうのは……グループ……みたいなものですか? ぼ、僕は、そういうのには……」

 

 

 

 果たして、返ってきた答えは、フィンの予想通りのものであった。

 予想通り、衝撃的なものであった。

 

「えっ? もしかしてキミ、どこのファミリアにも所属してないの!?」

 

 思わず身を乗り出して驚愕の声を上げるティオナに、ベルはビクリと一つ体を震わせて「ご、ごめんなさい」と反射的に謝ってから、ポツリと語りだした。

 

 

 

 曰く、自分は今まで遠い田舎で祖父と二人で暮らしていた、と。

 その祖父が、つい最近、山でモンスターに襲われて鬼籍に入り、天涯孤独の身となった、と。

 それから冒険者を志すようになり、そのためにオラリオへ移ってきて、到着したのが、今日だということ。

 そして、いざオラリオに到着したまではよいものの、漠然と「冒険者になる」とだけしか考えていなかったため、そもそもどうすれば冒険者になれるのかも、よく分かっていなかったのだ、ということ。

 そんな風にして、街中で途方にくれていたところ、二人の冒険者に声をかけられた、ということ。

 その二人に「冒険者のレクチャーをしてやる」と言われ、昼過ぎから三人でダンジョンに潜っていった、ということ。

 6階層まで進んだところで、例のミノタウロスの襲撃を受けた、ということ。

 三人共無我夢中で逃げているうちに、運悪く他の二人が転倒した隙に目の前でミノタウロスにやられるわ、使いかけの魔石の携帯ランタンは落とすわ、必死に逃げ回っていたせいで、もう自分がどこにいるのか、どっちが地上への道なのかもわからず、逃げ惑っていた、ということ。

 

「あとは、知ってるとおり……です」

 

 

  長い語りを終えたベルの顔を見つめながら、三人は揃って納得すると同時に、目の前の少年について同じ思考に至る。

 

 

(((あぁ……騙されたんだな……)))

 

 

 街中で声をかけてきた、という冒険者の二人組。

 一見して、おのぼりさん全開の冒険者志望の少年の世話を焼く親切な冒険者がいた、という風に見えなくもない。

 

 しかし、実際にダンジョンから本拠地(ホーム)まで彼を運んできたティオナと、そこからもたらされた報告によってファミリア幹部に共有された情報によると、

 

 

・サバイバル用のナイフ:1本

 

・携帯用非常食:1人分

 

・照明、及び発火用の魔石:各3個ずつ

 

・水筒(空):1本

 

・刀剣類等、武器:()()

 

・鎧、プロテクター等、防具:()()

 

 

 以上が、ベルの所持品だったという。

 

 当たり前だが、不十分極まりない。

 魑魅魍魎が跋扈する魔獣・怪物の巣窟において、武器や防具はおろか、回復薬(ポーション)の一つも持っていない。

 はっきり言って、子供の探検ごっこである。むしろ、無謀な駆け出しの冒険者が、酔った勢いでそういうギャンブルに興じている、と言われた方がまだ納得できるレベルだ。

 

 

 その『冒険者未満』である少年に、何の装備もさせず、最低限用意すべきアイテムも持たせず、あまつさえ、ダンジョン挑戦初日からいきなり6階層に連れて行くなど、明らかに“ただの善意”以上の思惑がくっきりと見えている。

 おそらくは、ベルが冒険者としての知識を何も持っていないところに付け込んだ、悪質な詐欺行為だったのだろう。

 

 そうすると、先程の少年とのちぐはぐな会話の内容にも、合点がいく。

 

 まともな道具も揃えていない状態で潜ったということなら、ファミリアへの入団も、ギルドへの冒険者登録も、間違いなくしていないのだろう。

 

 

 つまり、今も自分たちの目の前で戸惑いの表情を浮かべているこの少年は、()()()()()()()ダンジョンに行っていたのだ。

 

 

(よく無事だったなぁ、この子……)

 

 飛び抜けた明るさでは人後に落ちないティオナも、さすがに笑顔を引きつらせる。そんな、シャツ一枚で雪山に挑むような真似をして、よくもまぁ自分が到着するまで()(おお)せたものだ、と。

 

「そう言うことなら、明日の朝一番でギルドに行ってくるといい」

 

 ティオナがあまりの衝撃にフリーズしていると、先に再起動を果たしたのか、リヴェリアが僅かな沈黙を破った。

 

「公式に冒険者を名乗るには、いずれにしてもギルドを通すことになる上、そこで色々と必要なことも教われるはずだ。 受付担当者によく知っている者もいるから、私から一筆書いてやろう」

 

 巻き込んでしまった身でもあるからな、と言って一つ息を吐くリヴェリア。

 

 かけだしの冒険者にとって、担当してくれるギルド職員の手腕と言うのは、大袈裟でなく命に係わる。しかし、冒険者の方から自らの担当官を指名するようなことは、基本的にできず、仮にそんな制度があったとしても、多数いるアドバイザーの人となりもロクに把握できていないのでは、まともに判断をくだすことなど、できようはずもない。それ故、どんな担当官がつくのかは、運によるところがかなり大きい(それでも、杜撰なアドバイザーに当たったという話は、ほとんどない)。

 しかし、直接の知り合いや、何らかの伝手で担当官を選べるというのなら、それに越したことはない。

 ましてや、オラリオ一大派閥の、それもかの有名な副団長様直々の推薦となれば、かなりの敏腕アドバイザーだと期待して良いだろう。

 これから冒険者になる者にとっては、破格の対応と言える。

 しかし……。

 

 

「あの……」

 

 

 話を遮りはしていないものの、それでも遠慮がちに声を出すベル。

 

「冒険者になるには……その、『ファミリア』っていうのに入ることになる…………んですよね?」

 

「? ……んー、まぁ、ステイタスの強化無しでモンスターと戦うのは、ちょっと厳しいんじゃないかな~?」

 

 突如真剣な眼差しで問うてくるベルに、一瞬怪訝そうな表情を浮かべつつも、ティオナが答える。

 いかに戦闘民族のアマゾネスと言えど、それなりにダンジョンで成果を出すのなら、『神の恩恵(ファルナ)』無しでは話にならない。

 

 ティオナのそんな返答を聞き、再び考え込むベル。やがて……。

 

「あ、あのっ……!」

 

 急に顔を上げたかと思うと、今にも飛び降りる決心を固めたかのような顔つきで、一言。

 

 

 

 

 

 

「ぼ、僕を……皆さんのファミリアに……入れてくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ? あり得ねぇだろ」

 

 取りつく島もなくバッサリと切り捨てるようなセリフが、一瞬で部屋に響き渡る。

 所変わって、【ロキ・ファミリア】ホームの上層階の一室。先程ベルがいた部屋からは大分離れたそんな場所には、八名の姿があった。

 

 

【ロキ・ファミリア】幹部衆。

 

 

 フィン、リヴェリア、ティオナの三人がベルの部屋を辞した直後、急遽招集をかけられた彼らの議題。

 即ち、「ベル・クラネルの入団を許可するか」。

 

 

 ベルからの申し出の直後、今この場で結論を出すことはできないということ、決定のために幹部で相談をするので、返答は明日になるということを、とりあえずベルに伝えていたのだった。

 

 そして、集められた幹部に対して、フィンから事情の説明があった直後。

 間髪入れずに飛び出したのが、入り口にほど近いところで、壁に寄りかかっている青年の一言だった。

 

 すらりと伸びた長い脚。シルバーのジャケットから覗く胴も腕も、鍛えられていない箇所が見当たらない程に引き締められた頑健そうな身体。左頬全体に入れられた、稲妻の形を模した青い刺青も、切れ長の瞼の隙間から見える黄色い瞳も、口角から時折姿を現す尖った犬歯も、獰猛な野獣めいて、いかにも戦闘慣れしていそうな様子が見て取れる。

 反面、上衣とお揃いの色の銀髪からぴょこりと飛び出す三角耳や、腰から伸びる同じ色のふさふさとした尻尾などは、見ようによってはどこか愛嬌のある、狼人(ウェアウルフ)の若者。【凶狼(ヴァナルガンド)】ベート・ローガ。

 

「ほぅ、また思い切り言うたもんじゃのう……」

 

 そんなベートの隣に立つは、(いかめ)しい老兵。

 ドワーフ基準では高めの上背に、何基準であっても大きい横幅。たっぷり生い茂る口髭と顎髭を蓄えた彫りの深い顔をニヤリと歪ませるは、【ロキ・ファミリア】随一の剛力、【重傑(エルガルム)】ガレス・ランドロック。

 

「ったりめぇだ。ミノタウロスごときで気絶しちまうような雑魚が、戦力になんかなるかよ」

「う~ん……もちろん、そんなにすぐに最前線に投入できるとは、さすがに思ってないけどね……」

 

 左隣から聞こえてくる散々なベートの言い様に、苦笑しながらフィンが補足する。

 

「ですが団長。実際、いくら冒険者として素人だったとしても、ダンジョンで気絶までしてしまうようでは……」

 

 フィンの右隣で、途中で言葉を切りつつも、ティオネが口を開く。言葉を選んでこそいるが、基本的に反対していることが表出していた。

 対して肯定的な意見を持っているのが、ティオナであった。

 

「あたしは、いいと思うけどなー。冒険者やってれば、自然と強くはなっていくし、あの子真面目みたいだから、成長するのも早そうだし……。アイズはどう思う?」

 

 腰かけたスツールをカタンカタン揺らしながら、金髪金眼の親友に話を振る。

 呼ばれた少女は、その白磁の肌の頬と目を、ほとんど動かさないまま、きょとんと首を傾げてみせる。

「私は、よく分からない……」

「儂も、その小僧を自分で見たわけではないからのう……」

 

 「一先ず保留、といったところじゃな」と続くガレス。

 

「入団試験を課してみて、その結果次第ということになるだろうな。本人にその気があるなら、受けること自体には何の問題もあるまい」

 

 リヴェリアも決して積極的に賛成ではないようである。賛同者が現れない状況に、ティオナが「え~……」とぶーたれていた。

 

 

「とまぁ、幹部としてはこんな意見があるわけだけど……」

 

 一通り全員の考えを吸い上げた時点で、フィンが区切るようにそう切り出し、部屋の一番奥に顔を向ける。

 

 

 

「主神として何か言うことはあるかい、ロキ?」

 

 

 

 フィンの呼びかけにつられるように、一同の視線がその先に集中する。

 そこに置いてあるのは、一基のベッド。その上に鎮座ましますは、この部屋の、ひいてはこの『黄昏(たそがれ)の館』とファミリアの主。

 

 館の名前通りの、夕焼けを髣髴(ほうふつ)させる朱色の髪。細く華奢な手足と、全体に小柄な体つき。鋭利な剃刀(かみそり)でいれた切れ目のように細い眼は、「次はどんな面白い(めいわくな)ことをしてやろうか」というように、歪められていることが多い。

 

 女神【ロキ】。

 人間とも、モンスターとも、それ以外の地上のどんな生物とも違う、まごうことなき超越存在(デウスデア)

 

 ロキは、一斉に見つめられてピクリと反応してから、胡座(あぐら)をかいたまま「そやな~……」と、おかしな(なまり)で話し始める。

 

「ウチとしては、自分らがちゃんと話し合って決めたんやったら、それでエエと思っとるよー」

 

 のんびりとそう答えた彼女は、その直後に「ただ……」と呟き、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()()()()()()と思てる子やったら……入れてあげた方がええんちゃうかと、ウチは思うけどなぁ~?」

 

 

 

 

 

 

 残りの全員が「えっ?」と視線を向ける。当のフィンは、ほんの数秒、きょとんと静止したかと思うと、参ったな、というように、隠しきれない笑みを漏らす。

 

「僕、そんなに顔に出てたかなぁ……?」

「アホ。ウチを誰やと思てんねん?」

 

 「バレバレやで、自分」とケラケラ笑い出すロキと、最早隠そうともせずクスクスと笑うフィン。

 

「おい。どういうことだ、フィン?」

「団長は、その人間(ヒューマン)を、入団させたい……んですか?」

 

 二人だけで笑い合う主神と団長を、ベートとティオネが引き戻す。二人とも、たった今聞いた内容が信じられないというように懐疑的な態度を露わにする。他の面々にしても、口にこそ出さないが、予想外であったことには違いないようで、同じく賛成派であるはずのティオナまで、説明を求める視線を飛ばしている。

 

「あぁ、そうだ。僕は彼―――ベル・クラネル―――を、他の神と契約してしまう前に、ファミリアに加えようと思っている。正直に言えば、()()()()()()()()()()()、だ」




かなりブッツンとした終わり方ですが、今回はここまで。
ベル君、なかなか冒険者になれませんね(・ω・)(←コイツの所為)


今月中には、次話を上げられるよう頑張ります!
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