兎を助けるのは女神じゃなくても間違っていないのではないだろうか   作:わんこたろう

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今回の教訓

『できもしないこと(一週間で更新とか)を宣言するのは止めましょう』


助けた兎を連れてって、ダンジョンへ行ってみれば

 雲一つない快晴の空に、今日も白亜の大神殿は、初めて見る者に息を飲ませた。

 ごくゆるい傾斜のついた屋根に、陽光を照り返して眩しく輝く白い柱。それら、機能性を追求した力強さに隠れて、凝った作りの紋章(レリーフ)や細かな意匠を施した明り取りの窓などが、前庭の記念碑(モニュメント)から手前に四、五歩の、理想の位置(ゴールデン・ポイント)からの外観を完璧に計算し尽くされて、全てがバランス良く配置されている。その、建築技術と芸術的美しさの粋を結集させた建物の石段から、(あゆみ)に合わせて頭をひょこひょこと前後させていたハトが二羽、何の前触れもなく揃って飛び立っていった。

 かくも荘厳な佇まいを見せる、都市最大の敷地面積を誇る万神殿(パンテオン)

 だが、この建物について何も知らずに訪れた者は、すぐに戸惑いの表情を浮かべる。

 “神殿”と名の付くそこには、しかしながら、『神官』と呼ばれる者が存在しない。

 神妙な面持ちで両手を組み、(ひざまず)いて祈りを捧げる修道女は見当たらず、むっつりと表情を引き締めて、制服姿でブーツの踵をコツコツと響かせる護衛の騎士もおらず、数々の神話や奇跡を記した、立派な革の装丁の分厚い本を抱えている老人もいない。何よりも、神仏の偶像や、それに類する信仰の対象となるようなもの、あるいは何かしらの宗教的な意味合いを持ちそうなシンボルマークの範疇に入りそうなものも、ほとんど見られない。

 

 

 “万神殿(パンテオン)”は神殿ではない。

 

 

 大いなる矛盾を孕んだ言葉ではあるが、初めてこの扉をくぐった者のほとんどが、すぐさま気付かされる事実の一つである。

 

 大きな樫の扉を潜り、真っ先に目に入るのは、視界いっぱいに広がる大きなロビー。

 紫檀(したん)でできた長大なカウンターデスクに、等間隔に並ぶ(視界は遮るが、音はだだ漏れな)衝立。その奥に座って、何やら書類仕事をしているような人々を見るに、どこか大型の銀行を思わせるような光景だが、後方に所狭しと、合わせ鏡でも見ているかのように書架の並ぶ様は、まるでどこかの国の図書館のよう。

 

 カウンターに沿ってずっと視線を左に走らせていけば、突き当たりの壁には、更に奥へと続く小さな扉が並び、振り返って右側では、丸テーブルと低めのスツールが四つ、よく訓練された儀仗兵よろしく整然と壁に沿って並べられている。

 そこの席に座る、いかにも冒険者然とした人々の姿。

 それら全てによって、この神殿の役割は全て体現せしめられている。

 

 

 この万神殿(パンテオン)こそ、迷宮都市オラリオの管理と、冒険者のサポートを一手に引き受けている大組織の拠点である、と。

 

 

 そんな、迷宮都市の中枢機関とも言える施設のカウンターで、先程から一人の女性が周囲(主に男性、及びごく一部の特殊なご趣味をお持ちの女性)からの視線を集めている。

 

 セミロングで、少し頭を動かすたびにサラサラと流れていくブラウンの髪に、抜群に透明度の高いエメラルドをそのまま嵌め込んだかのような透き通った瞳。ふっくらとした、それでいて、ふくよかという印象からは程遠いミルク色の頬は、今はキュッと引き締められており、それでも、日頃対面で笑顔になる際には、優しく微笑の形をとる。

 フレームの細い眼鏡をかけ、細身の身体を黒のパンツスーツに包み込んでいるところなど、バリバリの、とまではいかずとも、如何にも仕事ができそうな、キャリアウーマンの見本のような風貌の彼女―――エイナ・チュール―――だが、実はまだ、漸く“少女”と呼ばれる時代を抜けたような、妙齢の女性である。長い、というより先が少しだけツンと尖った耳が、彼女がハーフエルフであることを周囲にひっそりと伝えているが、長命で見た目と年齢が一致しない、というエルフの性質の恩恵に(あずか)る必要は、彼女の場合、まだなさそうである。

 

 サラサラと手元でペンを走らせていたエイナが、「ふうっ」と一つ息をついて、手を止める。

 ダンジョン探索のアドバイザーとしてギルドに所属する彼女だが、他の受付嬢同様、実はその業務の大半が書類仕事である。とりわけ、午前も遅いこの時間帯であれば、真面目な冒険者は地下深く潜って奮闘しているだろうし、不真面目な冒険者は、そもそもギルドに顔を出す頻度が低い。元来真面目で、仕事を溜めこむ方ではない彼女は、ざっと頭の中のTodoリストを確認して、このまま何もなければ、今日は早く帰れそうだとアタリをつけて、右手に持った鵞鳥(がちょう)の羽根ペンを、インク壺の脇のペン立てに戻した。

 

 その、ペン先と金属の擦れる微かな音が合図になっていたかのようなタイミングで、万神殿(パンテオン)の扉が開く音が、エイナの耳朶(じだ)に触れる。

 来訪者の気配と音に、反射的に対外用の表情を取り繕ったエイナが音の発生源に目を向けると、よく知った風貌の少女が入ってくるところだった。直接の知り合いというわけではなく、面識らしい面識もないが、何せ相手が有名人である。

 

 巨人殺しのファミリア。

 その幹部団員にして、第一級冒険者【大切断(アマゾン)】。

 

(ヒリュテ姉妹の妹の方……?)

 

 こんな時間にギルドで見かけることが「珍しいな」と思わせるほどの人物の登場に、しかしながらエイナは、その彼女のすぐ後から続けて入ってきた白髪の小柄な少年を視界に入れて、

 

 

(あ、何だっけ? えーっと……)

 

 

「うわぁ~……すごいですね~」

「アルミラージくん、こっちこっち」

 

「そうそう、アルミラージ…………ッ!」

 

初対面の少年相手に、大概失礼なことを考えていた。

 

 思わず声に出して呟いてしまい、らしくもなく慌てて口を押えたが、当の本人たちの耳には入っていなかったらしく、「……ぶふっ!」という奇妙な破裂音が、隣の窓口のいた同僚のミィシャから聞こえてきただけに止まった。

 スッ、と表情を戻し、それでもヒクヒクと痙攣(けいれん)する口角を隠しきれていない友人に、ジロリと非難するように一瞥をくれる。

 

 

 後で、【デメテル・ファミリア】の年間収支報告書(めんどうくさいしょるい)の束を押し付けてやる……。

 

 

 同僚兼友人に対して黒い決意を固めながら視線を前に戻すエイナ。すると、何の因果か、当の二人はまっすぐに自分のブースを目指して歩いてきているではないか。

 確かに自分は今ちょうど手隙なのだし、窓口には端から順番に使うだの面倒くさいルールは存在していないのだから、どこの窓口を使おうが自由なのだが、選りにも選って今このタイミングで来られると(相手方にそんな気はなくとも)なんだか自分が責められているような気がしてきて、少しだけ気まずい。

 しかし……

 

 

「こんにちは、ギルドへようこそ!」

 

 

 表情はもちろんのこと、声音から何まで、次の瞬間には完全に切り替えを完了させているハーフエルフが、そこにはいた。

 日々ダンジョンに命を睹している、強かな冒険者を相手にするギルドの受付嬢は、伊達や酔狂で勤まるほど甘くない。新人のころならいざ知らず、それなりに経験もあり、場数も踏んでいるエイナに染み付いた対応力は、この程度の内心の小波(さざなみ)でどうこうなる代物ではなかった。

 

「あの……冒険者登録をお願いしたいんですけど……」

 

 アマゾネスの少女に連れられて来た少年が、ギリギリ声変わりしているかどうか、という細い声で告げてくる。

 分かり易過ぎる程に緊張している少年。そんな彼の不安をふんわりと溶かしていくように、エイナが声音をいっそう優しくさせて言う。

 

「では、こちらの書類に必要事項を記入して下さい。念のために確認しますが、所属は【ロキ・ファミリア】でよろしいですか?」

 

 ホンの僅かだけ緊張を緩めた様子の少年に大きめの羊皮紙を差し出し、後ろ半分を同行してきたティオナに向けて、エイナが質問する。

 そのエイナに「もちろんっ」と元気よく返答したティオナは、ふと目の前のハーフエルフの女性の左胸に目を留め、一拍だけ間を空けてから、何かを思い出したように「あっ」と声を上げる。すると、目の前で必要以上に慎重に自分の名前を書いていたベルの肩を、ちょいちょいと突いてベルの目を同じ所に促した。

 

「アルミラージくん、この人だよ。アレ渡さないと」

「? ……あ!」

 

 突如ティオナから言われたことの意味が理解できず、きょとんと目を丸くしてみせたベル。その表情のまま再びエイナの顔を見、次いでその視線を、ティオナと同じく胸元のネームプレートに移して、声を出した。

 どうやら、ちょうど自分に別件の用事があるらしい。

 目の前の二人のやり取りから、何とかそれだけを読み取ったエイナだったが、今日が完全に初対面の少年はもちろん、一対一ではほぼ初対面に等しいティオナにも、特に自分に向けた用件とやらに心当たりが浮かんでこない。片や冒険者として、片やダンジョン探索アドバイザーとして、それなりに携わってきた年数も長いのだが、少なくともエイナにとって目の前のアマゾネスの少女は、大勢いる“担当外の有名冒険者の一人”という以上の認識がないのだ。

 

 いまいち状況を飲み込めていない様子のエイナの目の前で、ならば白髪の少年はというと、左肩に担いでいた鞄を降ろして、何やらゴソゴソと中を漁りはじめている。すぐに引き抜かれた彼の右手には、真っ白な封筒が一つ摘まれていた。

 

「えっと……これをあなたに渡すようにって……」

「? ……私に、ですか?」

 

 差し出された封筒を、そっと受け取りつつ、疑問符を浮かべるエイナ。

 ティオナにこそまともな面識はなかったものの、【ロキ・ファミリア】内にも、担当した経験のある者、現在形で担当している冒険者はいるし、そうでなくても直接の知り合いは何人か存在する。その中の誰かが、ギルドに行くついでのお遣いとして持たせたのだろうと、エイナは予想をたてた。

 

「………………………………えっ!?」

 

 受けとったそれを何気なく裏返したときに、思わず声を上げるほど驚いたのは、そんな風に油断していたからだろう。

 宛名のないそれは、深紅の(ろう)で封をされており、丁寧に折りたたまれて、きっちりと蓋をされていた。蝋の部分に(かたど)られているのは、両手を広げて、両脚を交差させた恰好の道化師。オラリオに住む者、とりわけギルド職員ならば誰でも見たことのあるマークにして、その封筒の中身が間違いなく【ロキ・ファミリア】の団員から出されたものだということの証明たる、ファミリアのエンブレムである。

 だが、実際にエイナの視線を惹きつけるものは、それよりももっと下側。

 左下の隅に、流麗な筆跡で綴られた、その名前だった。

 

(リ、リヴェリア様!?)

 

 最も想定から遠かった人物からの突然の封書に、目の前の二人がポカンとこちらを見ていることも気付かないほどに驚く。思ってもみなかった、エルフの王族からの手紙に、今度は内心の動揺を隠すことに失敗してしまった。

 そんな自分を自覚したことが却って良かったのか、ハッと我に返ったエイナは、若干わざとらしく咳払いを一つ挟むと、改めて目の前の二人に向き直るのだった。

 

「失礼しました」

 

 声に出すことで冷静さを取り戻したエイナは、ベルには書類の続きを書くよう促し、ティオナに断ってから、目の前で手紙を開封する。

 中身を傷つけないように気を付けながら、ペーパーナイフを封の隙間に差し込み、スッと引く。中から現れた三枚の便箋に同じ筆跡の文字を認め、それが間違いなくリヴェリア・リヨス・アールヴ本人のものであると、改めて認識するエイナだった。

 そのまま、手に持った便箋に目線を落とし、ゆっくりと読み進めていく。王族のハイ・エルフらしく、持って回った言い方や凝った表現に、さすがのエイナも、全体を読み切るのに時間をかける。ややあって、何とか目を通し終えて、エイナはそっと顔を上げた。

(要約するなら、リヴェリア様も含め、ファミリア全体で注目している新人だから、私の方で手厚く面倒見てあげてほしい、ってところかな……)

 再度ざっと流し読みして、自分の考えが大よそ外れていないことを確認し、目の前の少年に目をやる。

 才能の多寡に関わらず、これまでに数多くの冒険者を直接目にしてきたエイナから見て、こう言ってはなんだが、かの大ファミリアが期待を寄せるほどの冒険者に、この少年はカテゴライズされないのではないか、と思える。

 未だに、Lv.4以上の冒険者を自分が直接担当したことこそないものの、それでも所謂(いわゆる)コンスタントに結果を出し続けられる者は、総じて「これは」と思うような“何か”を感じることが多い。

 それではと、今一度この少年を見てみれば、彼は難しい顔をしながら、今まさに書類の紙束と格闘している最中だった。

(えっと……)

 何となく視線の置き場がなくて、チラリと隣のティオナに目を向ける。

 当の少女は、ベルがうんうん言いながら記入をしている書類に「あ~、あたしもそれ書くの大変だったなぁ」と、声にこそ出さないもののそれ以上に雄弁に表情で語りながら、少年の後姿を見つめていた。

 

 最早、頼りないを通り越して、微笑ましさすら感じてくる。

 エイナが不覚にもほっこりとしていたそのタイミングで、漸くベルが書類の紙束からペンを上げた。

 ベルから差し出されたそれらに、記入漏れが無いかの確認をきっちり二周済ませ、エイナは再度営業スマイルで彼に向き直る。

 

「では、初回講習に移ります。推薦も頂いているので、アドバイザーは引き続き私―――エイナ・チュール―――が担当します」

 

「よろしくお願いしますね」と、見目麗しいハーフエルフに笑顔でお辞儀をされ、瞬間的に舞い上がってしまったベルは「よ、よろしく……お、お願いしますっ!」とつっかえつっかえ言葉を絞り出し、やっとこさっとこお辞儀を返す。

 そんなところをティオナにケラケラ笑われながら突かれているベルを見て、改めて不思議な気持ちになりながら、エイナは長いカウンターを回り込んで、奥の小部屋へとベルを(いざな)った。

 

 テテテ、と小走りについてくる少年と、そんな彼を「あたしはここで待ってるねー」と手を振り見送るティオナに「20分ほどで終了しますので」と伝えてから、普段は冒険者と対面での込み入った相談事を受けるときに使用する部屋を講義スタイルに机を並べ替えて、移動させてきた黒板の前に立った。

 

「では、初心者講習を始めます。まず最初ですが……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 エントランスホールの丸テーブルの一つを占拠して、ティオナは、何をするでもなくベルを待っていた。

 

 

 

 

 

5分後

 数年前、自分が同じく駆け出し冒険者だったときに登録に来たときのことを思い出して、懐かしい気持ちになりながら、何のかんので初めてちゃんと見るギルドの中を、じっくりと観察してみた。

 

 

 

 

 

10分後

 万能薬(エリクサー)の大口注文の商談とのことでギルドに訪れた、【ディアンケヒト・ファミリア】の知り合いの団員に会い、少しだけ会話をした。

 

 

 

 

 

15分後

 入り口から入ってきた男に、突然「げぇっ!?【大切断(アマゾン)】!!」と言われ、カチンときた。よくよく見てみれば、自身も大双刃(ウルガ)で世話になっている【ゴブニュ・ファミリア】の鍛冶師の親方衆の一人だった。

 

 

 

 

 

20分後

(そろそろ、アルミラージくんが戻ってくるかな……?)

 

 

 

 

 

25分後

 昨日までのダンジョン遠征を思い返して「次はアイズたちと一緒に強竜(カドモス)と戦おう」「お肉美味しかったから、ノワールボアはまた狩りまくろう」と、楽しそうに夢想に浸っていた。

 

 

 

 

 

30分後

35分後

40分後

 

50分後

 

60分後………………

 

 

 

 …………いくら何でも遅すぎやしないだろうか?

 

 

 告げられた予定時間を大幅に超過しても戻る気配のないベルに、ティオナは怪訝そうな顔で、ベルとエイナが潜っていった扉に目を向けた。

 自分はずっとここを動いていなかったので、二人はまだあの部屋にいるはずなのだが、未だ部屋から出てこないにしては、随分な時間が経過している。

 まさか、何かの拍子に出てきたところを見過ごした?

 いよいよ、手の空いてそうな職員でも捉まえて部屋の様子を見てきてもらおうかと、ティオナが周囲をキョロキョロと見回した、まさにそのとき……。

 

 

ガチャ

 

 

(あ、出てきた!)

 

 

 タイミングよく扉が開き、中から細身のハーフエルフの女性が出てくる。次いで、その後ろから姿を現したのは……

 

「遅かったね~、アルミラージくん…………どしたの?」

 

何故か半ベソで、どんよりと落ち込んでいるベルだった。

 

 

 

 

 ダンジョンは冒険者の戦場。

 それは裏を返せば、一般人には普段全く馴染のない場所、ということになる。故に、初めて冒険者になる者たちというのは、ほとんどの場合、ダンジョンに関しての知識など、良くても噂話に毛が生えた程度のものしか持ち合わせていない。

 それは仕方のないことであり、悪いことではない。また、だからこそこのように、ギルドに登録した時点で全員に必ず初心者講習が行われている。

 

 が、何事にも限度と言うものはある。

 

 ベルの講習を開始してすぐ、エイナは愕然とさせられることになる。

 ベルは冒険者を志す者として、あまりにズレている。

 ギルドの利用方法や、探索についての知識がないのは仕方がない。回復薬などの冒険者ならではの道具やモンスターについての理解が乏しいのも、まぁいいだろう。【ファミリア】についてよく知らなかったのも、都市外の田舎でずっと暮らしていたということなら、ギリギリ許せる範囲だ。

 

 

 ただ、ベルには圧倒的に“危機感”が無かった。

 

 

 危ないという状況は知っていても、それがどういうことなのかを、理解していない。

 モンスターを怖いと思いつつも、それと戦うということの危険さを、分かっていない。

 必死と言う言葉を知っていても、命を懸けるということの重大さに、全く実感が伴っていない。

 “未知”というものが、その恐ろしさが、自分自身に降りかかってくる危険性があることを、はっきりと念頭においていない。

 “冒険者”という存在への憧れと熱意は人一倍強いようだが、その熱源が何なのかを本人がはっきりと語ろうとしないところなど、却って不安を煽るばかりで、悪い見方をすれば「夢見がち」とも言える。

 

 

 総じてベルには、冒険者としての“心構え”のようなものが、影も形も見られない。

 

 

「ベル君は、冒険者を甘く見過ぎてるよ!」

 

 ものの五分程で、ベルのそんな甘い考えを見抜いたエイナ。彼女の堪忍袋の緒が悲鳴をあげて引き裂け、直後、ベルの頭に叩き落される特大の雷が一つ。

 そこから、ベルの意識改革を目的とした講釈と指導―――平たく言えばお説教―――が始まり、本来の講習で扱うはずだった内容もギッチリと詰めて伝えられ、終わってみれば通常の三倍の時間をかけて、しかもその内の実に七割弱がお説教と言う運びと相成ったわけであった。

 ちなみに、後日エイナが上司に聞いたところによると、初回講習にかけた時間としては、それまでの最長記録に二倍近い差をつけての、ギルド始まって以来ぶっちぎりの一位だったそうである。

 

 綺麗で優しそうなお姉さん、という最初のイメージから一転、綺麗()()()(怒らせると)怖いお姉さんにジョブチェンジ(?)を果たし、気付けば呼称もいつの間にやら「クラネルさん」から「ベル君」変わっているエイナに、ベルは早くも

 

(僕、たとえどんなに立派な冒険者になっても、一生この人に頭が上がらないんだろうな……)

 

と、脳の片隅を変に冷静にさせて考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

拝啓 天国のおじいちゃんへ

 

 お元気ですか?

 おじいちゃんがそちらへいってからというもの、おじいちゃんのいない暮らしに僕はまだ慣れることができなそうです。

 ですが、今日僕は、とうとう念願だった冒険者になることができました。

 

「男なら、ハーレムを目指さなきゃな」

 

 おじいちゃんに教わった『男の浪漫(ろまん)』の実現のために、今日も頑張っています。

 残念ながら、肝心のダンジョンでは大変な目に遭って、女の子を助けるどころではなかったのですが、そのおかげでいろんな人たちに出会うことができました。

 

 中でも、そのとき助けてくれたティオナさんと言う人には、それからもとてもお世話になっていて、僕が入ったファミリアの中でも、人一倍僕のことを気にかけてくれているようです。

 

 ただ、一つだけ困ったことがあるとすれば、ときどき、ティオナさんについていくのがとっても大変だということです。

 

 差し当たって……………………

 

 

 

 

 

「それじゃ、アルミラージくんっ! 早速始めるよっ!」

 

 

どうして僕は、ついさっき渡されたナイフを握って、ダンジョン(こんなところ)にいるんでしょう?

 

 

 

 

 

 現実逃避気味に天国の祖父と交信をしていたベル(危)の目の前で、ティオナが満ち溢れるやる気を体現するように、腰に両拳を当てて仁王立ちしている。

 

 

 

 

 

 

 

 北西エリアのメインストリートを、半ば引きずられるようにして連れていかれたその先にそびえ立つのは、天を突くほどに巨大な塔。この迷宮都市の内側にいれば、ほぼどこからあってもその姿が見えるランドマークであり、その下に広がるダンジョンを覆う蓋としての役割も持つ、名実共にオラリオを象徴する建物である。

 エイナの長説教の後、初心者用にとギルドから貸し出されている武器と防具を受け取ったベルは、ティオナに手を引かれ、バベルへと。より正確には、その地下の方。則ち、ダンジョンへと連れていかれていた。

 バベルの大穴から伸びる螺旋階段を、グルグルと下り続けること暫し。

 ベルにとっては人生二度目の、それも二日連続での挑戦となるダンジョン。入り口の大穴を越え、通称『始まりの道』と呼ばれる幅広の通路を抜けたその先に、再度足を踏み入れた。ほんのりと薄暗く、人工的な気配を一切感じさせない石壁、石床、石天井の通路。耳を澄ませば、微かに鼓膜に触れる「キシャァァァ!」という、明らかに人外のものが発する鳴き声。目には見えずとも、息を潜めた何者かが、物陰からこちらを窺っている気配。

 一度この場で命を落としかけているベルにとって、それら一つ一つがジリジリと肌に焼き付き、五感に突き刺さり、恐怖が心臓を冷やしてくる。

 目の前のティオナがいなければ、今すぐにでも地上を目指して、文字通り脱兎のごとく逃げ出しているに違いない。

 

「アルミラージくん、大丈夫?」

「は、はいっ!!」

 

 あまりにもガチガチに固まっているベルを見て、ティオナがそっと声をかける。若干喰い気味に、即答で返ってきた“Yes”は、むしろそれ自体が全力の“No”と同義であるのだが、ベルの方は何とか笑顔で答えるのだった。

 余所から持ってきて切り貼りしたような、引きつった笑みだった。

 

「……………………アルミラージくん」

 

 そんな緊張を全身で外に宣伝しまくっているベルに対し、本人に気付かれないほど一瞬だけ思案顔をしたティオナは、にっこりと微笑んで、ベルの後ろを指さしながら言った。

 

「ちょっとだけ、後ろ向いててもらっていい?」

「え? どうして……」

 

 怪訝そうに問い返すベルに、指さしていた右手をヒラヒラと振りながら「いいから、いいから」と、笑顔を崩さないまま促すティオナ。

 今一つ理解できていないながらも、くるりと体ごと後ろを振り返るベル。もちろんそこには、今しがた通ってきた『始まりの道』が続いており、微かにだが、バベルの地下一階から伸びる螺旋階段も、その輪郭が確認できた。

 ダンジョンの中で、仲間がいるとはいえ、進行方向に対して目をそむけ、背を向ける恐怖。

 そこを全力で気付かないようにしながら待っていたベルは、ティオナにトントンと左肩を叩かれて、小さくビクッと身体を震わせた。

 

「ねぇねぇ、アルミラージくん……」

「はい?」

 

 

 

ぷにゅぅっ

 

 

 

 蝶番(ちょうつがい)の錆びついた扉よろしく、ギギギとぎこちなく振り返るベルの頬に、痛みとも呼べぬ程の、ごく弱い刺突。

 振り返ったベルの深紅(ルベライト)の瞳に飛び込んできたのは、自分に向けて真っ直ぐに右手を伸ばすティオナと、その右手からさらに真っ直ぐ伸びて、自分の白い頬を(つつ)いている、人差し指だった。

 

「おぉ~っ! やっぱ思った通り、アルミラージくんのほっぺた、めちゃくちゃ柔らかいね~♪」

 

 言うが早いか、残る左手も伸ばしてきて、同じように人差し指で頬を突いてくる。ちょうど挟みこむように二本の指を頬に当てて、そこから指先を沈めるように内側に力を入れ、すぐに緩めて、また押して……を、変にリズミカルな調子で繰り返してくる。

 

 

 

 

ぷにぷにぷにっ

 

ぷにぷにぷにっ

 

ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにっ

 

みょーーーん

 

 

 

引っ張られた……。

 

「って……! なななな、何してるんですか、ティオナさんっ……!?」

 

 数秒だけ呆けたベルが意識を取り戻すと同時、真っ赤に染めた顔をブンブンとすごい勢いで振って、今度は違う拍子で突いてきていたティオナの両指を追い払った。

 

「ん? ちゃんと朝ごはんの後、手洗ったから大丈夫だよ?」

「そういうことじゃないです!!」

「ゴメン、ゴメン。じゃあ、次からは引っ張らないようにするからさ」

「突くのも止めてもらえますっ!?」

 

 のらりくらりとかわし、にゃははと楽しそうにのんびり笑うティオナに、連続で突っ込みまくるベル。そんな様子を見たティオナが、再びケラケラと笑い出す……かと思いきや、

 

「ん! そんだけ、おっきい声が出れば大丈夫だね」

 

突然、満足したような表情になり、大きく一度だけ頷いてみせた。

 

「え? あっ……」

 

 ほんの少し恨みがましい眼差しで目の前のアマゾネスに視線を飛ばしていたベルは、ふと、指摘された自分を顧みる。

 ついさっきまで、激しく拍動していた心臓が、平常運転に戻っている。真っ暗に狭まっていた視界が一気に開けて、耳にはしっかりと周囲の音が入ってきている。(おこり)のように震えていた手や足が、今は嘘みたいにピタリと止まり、平静を取り戻していた。

 そんな自分にびっくりしてるベルに対し、視線を合わせるためにホンの少しだけ身を屈めたティオナが、優しく語りかける。

 

「ダンジョンでそーなっちゃうのは一番ダメね。諦めたり、自棄(やけ)になったりするんじゃなくて、一回落ち着いてみると、結構どうにかなっちゃうからさ」

 

 ニッ、と天真爛漫そのものの笑顔を見せるティオナに、僅かにホッと頬を緩めたベルは、

 

「はいっ!!」

 

と、一階層中に響き渡るような大きな声で、元気よく返事をするのだった。

 

 これなら、もう大丈夫。

 

 改めてそれを心の中で確認すると、ティオナは「よぉーしっ!」と一つ掛け声をかけて、自分諸共気合を入れ直した。

 

「それじゃあ! アルミラージくんの特別訓練、始めようかっ!」

「はい!」

 

 最早何の迷いもなく返事をするベルに、しかしティオナは、心の中だけでニヤリと悪戯っ子の笑みを見せて、ビシリとベルに指を突き付け、

 

「訓練中は、あたしのことを“ティオナ先生”と呼ぶよーにっ!」

 

と宣言した。

 これに対し、ベル。

 

「はいっ! ティオナ先生っ!」

 

 まさかの即答である。

 

(やばっ……ちょっと、楽しくなってきた……♪)

 

 これに味を占めたティオナは、もう一度、今度はさらに強くビシリと指を突き付け直して、

 

「そんなんじゃダメだよ、アルミラージくんっ!! 罰として、やっぱり“ティオナ師匠”って呼びなさいっ!!」

 

「はいっ!! ティオナ師匠っ!!」

 

 ノリにノったベルが、瞳をキラキラさせて叫び返す。

 

(…………………………………………)

 

 正体不明のハイテンションに酩酊していたティオナだが、あまりに素直に追従してくるベルに、一瞬で正気を取り戻した。

 ベルの純粋な反応に()てられていた。

 

「……まぁ、冗談は置いといて……ティオナでも、ティオナさんでも好きなように呼んでいいよ」

「はいっ!! ティオナ師匠っ!!」

 

 

……ブレない。

 

 

「……………………ティオナでも、()()()()()()でも好きなように呼んでいいよ…………」

「…………はい、ティオナさん……………………」

 

 

あ、拗ねた。

 

 

 なおも不満げな色を浮かべてくる少年に、つい“ほっこり”と表情を緩めてしまいそうになるティオナだったが、そこはそれ。サッと頭を切り替えると、ベルが担いでいたバッグを受け取り、中から自分のナイフを取り出した。

 

「アルミラージくんは、ナイフをメインで使っていくつもりなんだよね?」

「はい」

「大きい武器とかは、興味ない?」

「えっと、強そうだとは思うんですけど……例えば、ティオナさんが持ってた……えっと……」

 

 自分の中にある映像を伝えようとして、直接自分の頭の中を覗き込むように目線を上に向けるベル。ティオナが「大双刃(ウルガ)だね」と助け船を出すと、「それです」と言葉を続けた。

 

「あぁいうのだと、振り回せない……っていうか、持てないと思うので」

「アルミラージくん、小さいもんね~」

 

 言いつつティオナが少年のクセのついた白髪を撫でまわすと、撫でられた方はほんの少しだけ居心地悪そうに身体をモジモジと動かして、赤面していた。

 実際には、ティオナも体格的には決して大きいとは言えず、むしろオラリオの全冒険者の中でもどちらかと言わずとも軽量級の部類に属する。

 だが、そこはさすがのLv.5。彼女の場合は、恩恵によって強化された筋力と、重心を捉え操る技術によって、身の丈の一・五倍、重量に至っては二倍を超える巨剣を、実用できているのである。

 当然、ベルには、文字通り手に余る代物ということになる。

 ちなみに、後日やってみて分かったことだが、Lv.1の現時点でのベルは、当の大剣を持ち上げるどころか、片方の刃を地面に突き刺した状態でも、支えていることすらできなかった。

 

(あれ? でも、ティオナさん確か……)

 

 ふと、引っ掛かりを覚えて、ベルは記憶を辿り出す。自身が気絶してしまってよく覚えていないのだが、確か自分を助けたとき、ミノタウロスの腹を突き破るかの大剣を、ティオナは()()()()()()()ような気がしたが……。

 

(気にしないようにしよう……)

 

神々の恩恵(ファルナ)ってすごいなぁ」という感想を抱くに留めておいたベルは、「これ使うのも懐かしいなぁ」と呟きながら、鞘から引き抜いたナイフをまじまじと見つめているティオナに向き直った。

 

 

「まずはあたしが使ってみせるから、よく見ててね」

 

 そういって、切っ先を奥の通路に向けるティオナに、ベルは「はい」と一つ頷いてみせた。

 見てみれば、奥の方から小さな人影らしきものが、ヒタヒタと微かに裸足の足音を響かせてこちらに近付いてきていた。

 1(メルド)にも満たない低い背丈に、不恰好に湾曲した猫背。丸く骨ばって突き出た肘や膝に、小さいながらも薄っすらと線を描いて筋肉が浮き上がる肩や脚。目も、耳も、鼻も、ヒトのそれと比べて遥かに鋭角的に尖り、眼窩(がんか)()まる目玉は血走って赤く、表に出ている皮膚は、一部の隙もなく染めたように、毒々しく濁った緑色。駆け出し冒険者にとっての、最初の敵兼練習台。ダンジョン最弱のモンスター、ゴブリンである。

 個体差なのか、大、中、小とわずかに大きさの違う三匹が、両手をダラリとぶら下げたまま、暗闇から姿を現し、醜悪な音を立てて呼吸していた。

 

「んじゃ、いっくよ~……」

 

 ナイフを順手に構えて、腰を落とすティオナ。両脚を(たわ)めてバネを溜め……

 

 

シュッ

 

 

「へっ?」

 

ティオナがベルの視界から消えた。

 

 

 急にいなくなった彼女に「あれ?」と思う間もなく、

 

「「「ギギャァッ!?」」」

 

ほんの僅か、ティオナの方を向いている間に視界から外れていたゴブリンたちのいた辺りから聞こえる、悲鳴と思われる甲高い音。

 パッと見てみれば、眉間、胸、喉のそれぞれから血を吹き出して今まさに倒れていく三匹のゴブリン。そして、そのすぐ脇に立つ、血飛沫すら届かぬ位置でナイフを振り抜いた姿勢から、ぴょんとこちらを振り返るアマゾネスの少女。

 

「こんな感じかな」

「……何ガデスカ?」

 

 お手本として、理想的な体捌(たいさば)きとナイフ捌きでゴブリンを殲滅してみせたティオナに、平坦なカタコトの共通語(コイネー)を返すベル。

 見えてもいないものの何をどう理解しろというのか……。

 

「ん~……じゃあ、今度は一体ずついくよ?」

 

 言うが早いか、新たに近づいてきた二体と、ちょうどその二体のすぐ傍の壁から産まれてきた一体に目標を定め、再びティオナが飛び掛かっていった。

 

 

ドスッ

「ギィェッ!?」

「こうやって……」

 

 

ザシュッ

「ガギッ!?」

「こうやって……」

 

 

スパッ

「ピガァッ!?」

「こんな感じ」

 

 

 ベルの立っている位置に最も近かった最後の一体を水平切りで絶命させ、改めてベルの前で「どう?」と両手を広げてみるティオナ。

 今度はベルにもギリギリ視認できるぐらいの速度で、一匹ごとに止まり、ナイフを振る位置もベルの死角に入らないようちゃんと立ち位置を調整して、ゴブリンを屠っていたティオナ。

 

「どう? 今度は見えた?」

「はい。だけど……」

「じゃあ、次はアルミラージくんがやってみよっか?」

「……何ヲデスカ?」

 

 一マスだけ進んだ駒が振り出しに戻った。

 確かに今回は、ベルからもティオナがどのタイミングで何をしたのかは見えていた。が、だからと言ってそれをすぐに自分が再現できるかと言われれば、そんなものは全くの別問題である。超一流の鍛冶師の作業を一通り見たからと言って、誰にでも業物を打つことはできないし、世界一の画家のすぐ横で一緒に描いたとしても、今日初めて筆を握ったばかりの者が名画を生み出せるわけではない。最高の大道芸人の技を目の前で独り占めし、まじまじと観察したところで、素人が同時に投げられる玉の数は、せいぜい四個が関の山だろう。

 

 未だに上手く伝わっていない様子のベルを見たティオナが、「う~ん」と唸りながら腕組みをする。

 

「んじゃあ、今度は一個目の動きだけをもう一回…………あれ?」

 

 さらに動作を分解したものを改めて見せようと、次の獲物を探し出したティオナが、あることに気付く。

 二人が立つ一階層の入り口付近の通路からは、ゴブリンどころか、他のモンスターの姿までも、一切消えているのだった。

 

 

 

 

 ダンジョンで特定のモンスターを狩り尽くす、ということは、モンスター発生の仕組み上まず起こらない……はずなのだが、モンスターとて生き物である。先程斃した六体を、あまりに圧倒しすぎたのだろう。知覚する間もなく一瞬で片付けられた同胞を目の当たりにしたゴブリンたちは、どうやら一階層の奥の方まで逃げて行ってしまったようだ。

 少なくとも異種の魔物同士でコミュニケーションをとるような例はほとんど確認されていないが、それでも何かしら感じるところはあるのだろうか、ゴブリンと共に一階層をうろつくコボルトや、二階層から時折上がってくるダンジョン・リザード、プチ・バットといった他種のモンスターも、その後、姿を見せていない。

 

 仕方なく、ティオナが動くときにはベルがモンスター役を、逆のときには役を入れ替えて、また、動きを俯瞰したい際には、岩や持ってきたバッグをモンスターに見立てて、ベルとティオナの戦術指導は再開されていた。

 

 しかし……、

 

 

 

 

「相手の間合いの外からは、一歩で目の前まで踏み込めば、相手も反撃できないから……」

「……一歩で踏み込むなんて、できるんですか?」

「できるよー」

「えっと、どうやって……?」

「えっとね~……」

 

 

 

ザッ

ビュンッ

 

 

 

「こんな風に……」

「どんな風に!?」

 

指導の成果は、お世辞にも芳しいとは言えない。

 

 真面目な気質のベルは、ティオナの見せる模範の型をじっと目に焼き付けようとするのだが、そもそもの戦いのセンスが欠落しているベルは、“今教わろうとしていることは何で、どこがポイントなのか”をあまり把握できておらず、それ故にどこを注視すれば良いかもわかっていないので、当然理解が及ばない。

 ティオナはティオナで、「自分もできているんだから相手もできるだろう」という前提で教える内容を決めて、説明し、やって見せているため、本来踏むべき段階を踏まずに訓練をしていたり、そもそも現時点でのベルの身体能力的に再現不可能な動きが含まれていることを、多々盛り込んでしまっていた。

 

 ティオナがコツを伝えて、目の前でやってみせ、ベルがやってみて、修正しようとするも思うようにいかず、二人揃ってしゃがみ込む。額を突き合わせて相談した結果、それをやるならこちらを先に練習した方が良いのでは、という結論に至る。

 

 

 また、何とかそこまで漕ぎ着けて、やるべきことが見えてきたとしても、今度はそれが思い描いた通りにできるとは、もちろん限らない。

 

 

 

 モンスターからの攻撃をいなしつつ即座に横のなぎ払いを返す足捌きを練習すれば、

 

「えっと……っと、と……うわぁっ!?」

 

ドテッ

 

 

足を(もつ)れさせて転び、

 

 

 

 攻撃を放った後の、隙を潰す動きを教わり、質問をしてみれば、

「腕を振ったときに、こう……パッ、って持ち替えると上手くいくよ!」

 

「えっと…………あぁっ!?」

 

カランカラン

 

 

ナイフを滑らせて取り落とし、

 

 

 

 両足を肩幅よりやや広く開き、両腕を、【タケミカヅチ・ファミリア】のホームの入口に置いてある「幸福を招き寄せる猫の像」(共同出資:ガネーシャ)の手と同じ形にして、上半身を右に向けた状態で右手を胸の前、左手を腰元に添えたら、すぐに上体を左右逆にして、手の上下も入れ替える。

 

 

 

 

 

「デンデン、デデンデンッ♪」

「……何やらせるんですかぁ!?」

 

「てゆうか、これ何の動きなんですか!?」と真っ赤になって叫ぶベルに、ティオナが、たはーと笑いながら「こないだロキが酔っ払ってやってた」と白状した。

 昨日今日ダンジョンに潜っただけのベルに、武勇伝もあるまいに。

 

 

 紆余曲折を経て、寄り道を挟んで、のろのろと時間が過ぎていく。

 戦闘に関してド素人の教え子(ベル)と、教えることに関してド素人の教師(ティオナ)の二人は、少し早めに特訓を切り上げて、一路地上を目指すのだった。

 

 

 

 

 

「僕、本当に大丈夫なんでしょうか……?」

 大穴の螺旋階段を一段一段トボトボと上がりながら、弱々しく呟いたベルが、がっくりと項垂れる。

 ベルは、誰の目にも明らかに落ち込んでいた。

 そんな少年のすぐ横で肩を並べて、ティオナが笑いながら声をかけ、元気づけるように、少年の小さな背中をポンポンと叩く。

 

「大丈夫、大丈夫。これから強くなれば良いんだからさ!」

 

 ティオナの手からもたらされる、単調だが優しいリズム。背中で感じるそんな温かさが、今は傷口にかけた湯の如く、弱いながらもジンジンと、ベルの心を(さいな)んでいく。

 

 本当に自分は、冒険者としてやっていけるのだろうか。

 

 昨日に続きダンジョンに潜ったものの、この二日間、特に何の成果も得られていない。今日の訓練ではモンスターを倒すどころか交戦すらせず、挙句の果てには戦い方の習得も、満足いく結果は得られていない。極めつけに、昨日などただ逃げ回っていたに過ぎないのだ。

 道中何度目になるかわからないため息が、ベルの口から漏れ出てきた。

 

(あ~、結構落ち込んじゃってるなぁ……)

 

 『大穴』からバベルの地下一階大広間を抜け、地上階に足を踏み入れたティオナは、二、三歩後ろをずるずるとついてくるベルのことを考えながら、先程までの訓練を振り返っていた。

 

(あんまり気にしすぎない方がいいと思うけどなぁ……)

 

 自分でこれと決めたノルマや一定の金額、ないしは目当てのアイテムや素材など、何かしらの目標を達成できないままダンジョンを辞した経験は、もちろんティオナにもある。だが、常日頃、基本的に前向きにものごとを考えて行動しているティオナからしてみれば、今のベルの落ち込み方は少々過剰に思えるのだった。

 

(……よしっ! ちょっと元気付けてあげないとっ!)

 

 何はともあれ、本人が落ち込んでいるのは事実。ならば、自分にできるのは相手がそれを気にしなくても済むように振舞ってあげることだと考えているティオナが、ぐっと決意を固めたところで……

 

 

ぽんぽんっ

 

 

(ん?)

 

 突如、右肩に掌の感触。

 ベルが、自分の中で早くも折り合いをつけて、立ち直ったのだろうか?

 

 

「どうしたの、アルミラージくん?」

 

「え?」

 

 

 だが、ティオナのそんな考えは、直後に否定された。

 ベルに声を掛けてはみたものの、ベルの方もティオナの言葉の内容をイマイチ把握できていないというような反応を返したのみ。何より、声を掛けてみて初めて気がついたのだが、先ほどまで後ろにいたベルは、どこかのタイミングで自分の()()()()まで移動してきているようだった。

 

 

(えっ、じゃあ……これ、誰?)

 

 

「ティオナ」

 

「!?」

 

 

 ティオナが直接誰何(すいか)するより早く、後ろに立つ人物に名前を呼ばれる。

 ギクリと全身を緊張させて、ダラダラと嫌な汗を流し出すアマゾネスの少女。かけられた声から、後ろに見える光景を殆ど正確に予想しながら、ゆっくりと、フクロウよろしく首だけをぐりんと回したティオナの目に入ってきたのは……

 

 

「…………」

 

 にっこり、という音が聞こえてきそうな程の笑顔……の、仮面をつけたような表情のリヴェリアだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正座」

 

 

 

 これ以上なく端的に出された指示に、文句の一つも挟まずに従うティオナとベル。

『黄昏の館』の中に三基存在する男子団員塔の一つ、北の尖塔。その中でも、とりわけ大きく、上層の奥まったところにある一室―――団長、フィン・ディムナの執務室にて、二人は広い部屋の中央部分に、行儀よく座らされていた。

 バベルの一階にてリヴェリアに捕獲された後、全く立ち止まらず、もちろん寄り道などもせずに、真っ直ぐにこの部屋まで連行されてきた二人を待ちかまえていたのは、三幹部の残り二人―――ガレスとフィンであった。

 

 昨日までの遠征で持ち帰った大量の魔石。

 それらの換金のために、フィン、リヴェリア、ガレスの三人は、ギルド本部へと赴いていた。

 ガレスが背負った籠いっぱいの量の魔石を鑑定するには、当然時間がかかるようで、それならばと、リヴェリアは待ち時間を使って、旧交を温めがてらベルの様子を聞いてこようと、一階受付のエイナを訪ねていた。

 突然訪れたハイ・エルフの王族に対し、手紙でその名を目にしたとき以上に驚愕を露わにしたエイナによれば、リヴェリアの手紙を携えてきた少年と、その付き添いの少女は、少し前にギルドを出ているとのこと。ならば、来る途中でお互い気付かずにすれ違っていたかと、換金を済ませて『黄昏の館』に帰ってみれば、二人の姿は敷地内のどこにも見られず、戻ってきたところを目撃した団員もいない。

 これはいよいよおかしいとなり、「もしや……」と考えたリヴェリアがバベルに向かうと、何やら難しい顔をして歩みを進めている褐色肌の少女と、その隣をがっくりと項垂れて歩いている白兎を発見した、ということであった。

 

 

「なぜここに呼ばれたか分かっているかい、ティオナ?」

「まぁ、一応……」

 

 

 落ち着いた声で質問してくるフィンに、珍しく歯切れの悪い返事をするティオナ。

 【ロキ・ファミリア】では、特別な事情がある場合を除いて、団員がダンジョンに行くことを禁じてはおらず、また、何らかの許可や申請の類も不要で、実力から(上にも下にも)大きく外れた階層でなければ、むしろ探索を推奨している側面さえある。

 もっとも、他の団員の誰にも、本当に一言も告げずに(もぐ)られてはメンバーに少なからず迷惑をかけることになるし、ファミリアの中核を担うティオナ達幹部団員に関しては、規則として明文化こそされてはいないものの、フィンからは極力控えるように言われている。(例外として、フラストレーションが溜まると勝手に自分から発散に行くベートや、こちらが気が付いたときには、もうそこそこの深さまで既に潜ってしまっているアイズに対しては、半ば諦めている)

 

 だが、今回問題になっているものは、その『特別な事情』の方。しかも、厳密には、ティオナがダンジョンに入ったことが問題とされているわけではない。

 ティオナが追及を受けているのは、「ベルをダンジョンに連れて行ったこと」に関してである。

 

 

「今日僕は、君がベルの冒険者登録の付き添いに行く、とは聞いていたし、その許可も確かに今朝の段階で与えた」

 

「だけど、」と、フィンの言葉が続く。

 

「その後の、ダンジョンで訓練を行う、という行動については一切報告を受けていないし、少なくとも僕は許可を出した覚えはない。確認するけど、それは僕以外の二人から指示か許可を得ての行動だったのかい?」

「うぅん……あたしの判断」

「あちゃぁ……」という表情で首を横に振るティオナを見詰めながら、フィンが鼻から小さく息を吐き出す。

「……まぁ、お前さんの気持ちもわからんではないがのう」

 ごつごつとした右手で顎髭を撫でつけながらフィンの後を請け負ったガレスが、チラリとベルに目を向ける。当の少年は、三人の首脳陣とティオナの間に、視線を何度も往復させて、カチコチになりながら、ティオナと同じく正座をして、縮こまっていた。

 ガレスの言う通り、心情的には、ティオナに同調できる部分も無いではない。

 オラリオの中でも、その外にまで名前を知られている程の一大組織である彼らのファミリアには、入団を希望して門をたたく者がとても多いのだが、当然ながら、その全てを懐に招き入れる訳にはいかない。そのために入団希望の冒険者は、本来は試験によって(ふるい)にかけられるのだが、このせいで【ロキ・ファミリア】は、ここしばらく新団員を迎え入れたことがなかったのだった。

 そこへ来ての、ベルの((いささ)か衝撃的な)入団である。

 良くも悪くも、ファミリア全体で大きな話題性を持って迎え入れられたベルに、ティオナのテンションが上がっているのも、言うなれば、新しい後輩ができることに対しての喜びと捉えれば、一応は納得できる。

 

「だが、新入団員の教育に関してのルールや手順を、お前が知らないということはないはずだ」

「そして、君にその大事さが理解できていない、なんてこともないはずだね?」

「うぅ~……」

 

 リヴェリアとフィンに諭され、納得こそしているものの言いたいことがあり、それでも反論の余地がないことも理解できてしまうという、雁字搦めの金縛り状態に陥ったティオナは、そんな気持ちを溢れさせないようにタガを締めるが如く身体を揺らした。

 

「あ、あの……」

 

 すると、それまで沈黙を保っていた(意図的に、というよりそうせざるを得なかった)ベルが、おずおずと右手を挙げ、言葉を挟んだ。計四対の瞳から送られてきた疑問符を浴びて、僅かにたじろいだベルだったが、注目されたのを幸いにと、そのまま言葉を繋げていった。

 

「ティ、ティオナさんは……その、僕に色々と教えてくれるために、ダンジョンへ連れて行ってくれただけで……それは、僕のためだった、っていうか……えっと……罰が必要なら、僕は何でもしますから……」

 

 

 支離滅裂に、たどたどしく言葉を絞り出すベル。

 論理性の欠片(かけら)もなく、話す順序は滅茶苦茶、説得力もへったくれもない言葉だったが、その言わんとすることだけは正確に読み取った四人の先輩冒険者たちの顔が、隠しきれなかった温かい苦笑に歪んだ。

 

 

(優しい子だ……)

 

 

 当初彼に会ったときと同じ印象を、内心で再度確認をしてから、フィンは少し意識的に真剣な表情を作り、ベルに語りかけた。

 

「君の言いたいことはわかるつもりだよ、ベル。しかし、ファミリアの幹部である彼女が、その判断で団員としての行動をとって、下位団員の君がそれに従った。なら、(いや)(おう)でも監督責任はある」

 厳しい台詞に再度俯いてしまったベルに、「ただし……」と言葉をつなげるフィン。

「その一端を君が受けると言うなら、一考の余地はあるかな?」

 

 フィンの口から出てきた内容に、しかし意味を掴み損ねたベルは、見上げた顔をぽかんと脱力させている。そんなベルに、ニヤリと意味深な笑みを一つ送ってから、フィンはベルに尋ねた。

 

「さっき君は、「何でもする」と、そう言ったね? その言葉は、君の本気だと捉えても良いのかな?」

「ッ! は、はいっ!!」

「今から与えられることに対して、持てる力の全てで最善を尽くす。少なくとも、その努力をする、と思って構わないかい?」

 少しだけ回りくどい、且つどこか裏を感じさせるフィンの言い分に、一も二もなく頷き返したベルは、言い切ってしまってから不安を覗かせそうになる心を全力で叱り付けて、じっとフィンを見つめ返す。一方のフィンは、そのままじっとベルの瞳の奥を見据えていたかと思うと、にっこりと破顔一笑し、言った。

 

 

「ならば安心だ。それじゃあ、後は任せたよ、リヴェリア」

「……心得た」

 

 

 言葉少(ことばずく)なに伝えられた依頼に、止む無しとばかりに溜め息混じりの了承を見せたリヴェリアは、椅子の背に立てかけてあった杖を手に取ってスッと立ち上がった。そのままつかつかと真っ直ぐベルの方へ近付いてくると「では、行くぞ」と声をかけてきた。

 

「あの……どちらへ?」

「資料室だ。必要な物は置いてあるから、そのままついて来い」

 

 突然のことに少しだけ混乱を見せているベルが見回してみれば、どうやらわかっていないのは自分だけの様で、フィンとガレスはもちろんのこと、ティオナも「あ~ぁ……」と、(しき)りに頷いているのだった。未だ頭上に大量の疑問符を浮かべているベルを見て、ティオナが言う。

 

「今日ギルドで冒険者の初心者講習受けてきたでしょ? ウチに入ったばっかりの人って、必ずリヴェリアからあれの“すっごい版”を受けることになってるんだ」

「す、すっごい版って……」

 

 ティオナの口から語られた不吉な単語に戦慄し、怖れ戦くベル。現時点で、既にギルド史上最大の“すっごい版”を受けてきたからこそ、「あれよりもすっごいのかな……?」という想像に、ダラダラと吹き出す冷や汗が止まらない。

 

「安心しろ」

 

 と、そんなベルの肩にリヴェリアがそっと手を置き、聞く者をホッとさせるような声音で、

 

 

 

 

 

 

「明け方までかかった者はいない」

 

と、死刑宣告。

 

「ちょ!? 明け方、って……今まだ夕方にも……!! ティ、ティオナさん……!!」

 予め思い描いていた悪い方の想像を鼻で笑いながら置き去りにする宣言に、思わず助けを求めるようにティオナの名を呼んで目を向けるベル。

「アルミラージくん……」

 

 すると、未だに床に正座中のティオナは、SOSを飛ばしてくるベルに向かって右手を伸ばし、

 

 

グッ!

 

「頑張ってきてねっ」

 

良い笑顔でサムズアップ。

 

 

「ティオナさぁぁぁぁぁぁん!?」

 

 絵に描いたように梯子を外された白兎は、叫び声の残響だけを残して、副団長様に強制連行(ドナドナ)されていくのだった。

 

 

「アルミラージくん、大丈夫かなぁ……」

「その辺の加減がわからんリヴェリアではないじゃろう。お主よりもよっぽど上手くやるじゃろうて」

 苦笑いしながら少年の身を案じる様子を見せたティオナに、ガレスがニヤリと意地の悪い笑みを見せて言う。そのまま言葉を切らずに「しかし……」と、後半部分を隣に座る小人族(パルゥム)に向けた。

「お主も優しいもんじゃのう、フィンよ」

「ほぇ? 何で?」

「リヴェリアのルーキーへの指導は、ファミリアで定めている規則(ルール)だからね。今回のことがなくても、どの道ベルには受けさせるはずだったから」

 

「ホント、僕も甘いよなぁ……」と独り言のように呟いたフィンを見て、「あ~、なるほど」と手を打つティオナ。最初から受ける予定だったものならば、罰も何もあったものではない。「何でもする」という言葉を言質(げんち)に、焚きつけたように見せておきながら、その実、“お咎め無し”としたのと変わらないのだ。

 

「それじゃあ……」

 

 よっこらせ、と立ち上がったガレスを、さらには一緒に腰を上げたフィンを見て、ティオナも腰を浮かせ、正座を崩して立ち上がろうと、

 

「儂らも始めようかのう、()()()()

「へ?」

 

したところで、ピタリと静止。

 

 真ん丸に見開いた目を交互に自分たちに走らせる目の前の少女を見ながら、フィンがもう一度にっこり笑顔で告げてくる。

「ベルだけに限らず、教える側の人手も不足していることだしね。いい機会だから、君にも下の育て方を覚えてもらうことにするよ」

「えっ、今から!?」

 これで解放されると思っていたティオナが、驚きの声をあげる。どう考えても『ダンジョンでの立ち回り方』以上に難しく、それ故に教わる時間もかかるだろう内容を想像して、溢れ出す嫌な予感が止まらない。

 

「安心せい」

 

 と、そんなティオナの肩にガレスがそっと手を置き、聞く者をホッとさせるような声音で、

 

 

 

 

 

「飯の時間ぐらいは確保してやるわい」

 

と、死刑宣告。

 

 

 極東の人々は、これを“テンドン”と呼ぶらしい。

 

 

「嘘でしょぉっ!?」

 

 堪らず叫ぶティオナだが、フィンもガレスも、最早完全にティオナを逃がす気はない。

 以心伝心、二人して見事な連携を見せていることから、恐らくは、リヴェリアが自分たちを探しにダンジョンへ向かったときから、既にここまでの流れを折り込まれていたに違いないのだろう。

 

 

「頑張ろうねっ」

 

 衝撃を受け固まっていたティオナに、フィンからとても良い笑顔でサムズアップが送られた。

 

 

 

 

 

 

その日……

 

 

 夕食時に、幽鬼のように光を失った瞳で黙々と手と口を動かしているところを除いて、ベルとティオナの姿を見かけたものはおらず(それも最初の一瞬は本人たちだと認識されず)、黄昏の館の数ある部屋の二つからは、魔石灯の明かりが消えることはなかったという。

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