兎を助けるのは女神じゃなくても間違っていないのではないだろうか   作:わんこたろう

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※以下、読み飛ばし可


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ベルの強化に本格始動した【ロキ・ファミリア】

伝えられる知識を、技術を、必死に自分のものにしようと足掻き続けるベル少年

しかし、熱く高まる想いとは裏腹に空回りする現実

そんな中、フィンを始めとするファミリア幹部が、ある一つの決断を下す

果たして、【勇者】フィン・ディムナの思い描く計画とは?

そして、激昂するティオナが思わず見せた涙の意味とは?

さぁ~て、この次も、サービスサービスぅ♪
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※本文にかすりもしてない次回予告風の前書きに、作者がびっくりしてます(←)
BGMは、皆さんの脳内で「新世紀」的なものを流しておいて下さい。


間劇 1

 開け放たれた窓から吹き込む風で、遮光用に取り付けられた木の窓が外壁に当たり、カタンと一つ音を立てた。まだ午後も早い良く晴れた昼下がり、表の雑踏から聞こえてくる喧騒と、雨樋(あまどい)に止まる(つがい)の雀の途切れないお喋りが、清涼な空気と共に入り込み、がらんどうの部屋に溶けていく。

 その部屋には、何も無かった。

 文字通りの意味で“何も無い”ということではもちろんなく、小振りのベッドや古びた(けやき)材の衣装箪笥など、本当に基本的な家財道具は据えられているし、黒檀(こくたん)でできた立派な本棚の前には、ほとんど脚立と思われるような、子どもの背丈ほどもある踏み台が置いてある。それでも何も無いと形容できるのは、それら一つ一つに、使用する予定が見られないからだろう。

 右隅の角に寄せられたベッドの上にはマットレスのみが置かれ、シーツはおろか枕さえも見当たらず、どっしりと大きい本棚には、肝心の棚部分に一冊も本が立てられておらず、きちんと掃き清められて(ほこり)の一つも落ちていない。箪笥の中も、今は室内と同じ空気が占めるのみだ。

 それらこの部屋の主の持ち物は、前日の夜半に鞄に詰められたか、部屋の中央に敷かれた大きな布で、持ち主の小人族(パルゥム)の女性によって包まれるのを待つばかりだった。

 解けば腰まで流れる、白く長い紐でポニーテールにまとめた濡羽色の髪。板の間に正座する下半身を覆うのは、よくよく目を凝らしてみればプリーツのロングスカートではなく濃紺の袴。腕の邪魔にならぬようにか、くるくると丸めて肩まで捲られた若草色の長袖の胴着や、小さく控えめに梅の花の刺繍が施された白い手甲など、彼女の装いは、おおよそオラリオでは見られない、極東のスタイルのそれだった。

 

(ひさぎ)よ」

 

 ノックも無しに開かれた扉から顔を覗かせた人物に名を呼ばれ、一時荷造りの手を止めて顔を上げる。振り向く先に見えたのは、鍛冶職人である親友の顔と、その左目を覆う革製の黒い眼帯だ。

 

「おぉ、椿(ツバキ)殿!」

 

 呼ばれた彼女―――カラスマ・(ひさぎ)―――は、友人の顔を見るや、パッと表情を明るくして立ち上がった。目の前の親友の30(セルチ)も高い位置にある顔に話しかけようと、きっちりと目測をつけて近付き(これ以上はさらしの下のたっぷりと豊満な部位に邪魔されて顔が見えなくなる)、子どものような柔らかな声を紡ぐ。

 

「昨夜はどちらにおった? 昨夜の内に挨拶に参ろうかと思い部屋まで参じたが……」

「ん? 手前(てまえ)ならば、ずっと部屋にいたぞ? 新作の図面を引いていたからな」

「……うむ、相変わらず職人としてさすがだとは思うが、仕事に集中しすぎると自分の世界に入りすぎる癖は、直した方が良いぞ?」

「はは、気を付けよう」

 どうせ聞かぬと思って為された忠告を、本当に右から左というように聞き流した椿が「ところで」と、話を切り替える。

「うちの主神様に呼んでくるよう言われたが、準備は整ったか?」

「あぁ、暫し待たれよ」

 本題を告げられたことで、こちらも思考を切り替えた楸は、くるりと振り返ると部屋の中央まで戻り、再度両脚をたたんで正座をすると、目の前に広がる浅葱色の布の四隅の内の二つに手を伸ばす。両端を摘んだ手を淀みない手付きでひらめかせ、結わえたところで今度は残る二つの角を持ち、同じように宙で両手を躍らせる。目の前で見ている椿が、感心して「ほぉ」と息を漏らすころには、いつの間にやら大きな藍色の包みが一つ姿を見せているのだった。

「相変わらず器用なものだな」

「いやいや、職人の椿殿にお褒め頂くほどのものではござらん」

「それでも、それは手前のものとは違う“技"であることに違いはなかろう。見事なものだ」

 謙遜する親友を笑顔でさらに褒めちぎった椿は、白い手甲から覗く指にチラリと目をやった。体格に合わせたように小さく細い指は、確かに自分のような鍛冶仕事には向かないのであろう。純粋な血統の小人族(パルゥム)から、名を上げた鍛冶師がでていないというのも頷ける。

 しかし、先ほど椿自身が口にしていた通り、目の前の彼女はその小さな身体の中に、自分が持っていない技術や知識を山と抱えている。むしろ、その幼い外見をこれでもかとばかり裏切る側面を持っていることも、長い付き合いの上で知っている。

 自分にも、彼女と同じ民族の血が半分だけ流れていることは分かってはいるが、経験や環境による差というものは、ここまで興味深いものかと、今更ながらに少年のようなわくわくが自然と湧き上がってくるのを止められないのだった。

 そんな感情を心の中で一旦脇に除けて、椿が改めて楸を見ると、自身よりも重いのではないかというぐらいに巨大なリュックを背負い、これまた限界まで丸まれば自分が入れるのではないかという程大きな風呂敷包みを左手に提げて、ちょうど立ち上がったところであった。

「では、行こうか」

「うむ」

 塞がっている片手の代わりに扉を開いたままにしてやり、先に椿が廊下に出て、楸がそれに続く。彼女が完全に通り抜けたのを認めた椿は、ドアノブを持った手を離そうとした。が、何故かその動作は、軽く持ち上げられた何も持っていない楸の右手によって止められた。

「?」

 右の眉だけをピクリと上げて訳を問うと、楸は何も言わずにその場で180度回転。そのまま、体側(たいそく)に両腕をきっちりとつけて、背負ったリュックが大きく(かし)ぐのも構わず、誰もいない部屋に向かってペコリと深くお辞儀をした。

 ぴょこりと頭を起こして、満足したようにこちらに一つ頷いて見せる楸に、椿はふっと小さく笑みを漏らしてから、今度こそパタンと扉を閉め、友人を先導して歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 燃えるような赤髪と、すぐ傍に控える親友とは逆に右眼を覆う黒い眼帯に、見る度のことながら、強く目を引きつけられる。黒い屋内用の手袋を填め直す右手につながる腕と、低めの椅子に腰かけて組まれた脚のすらりと長い女性の姿が、そこにはあった。

 【神・ヘファイストス】

 都市随一の鍛冶系ファミリアの主神兼CEO(経営最高責任者)。天界にいたころは『神匠』とまで謳われた名匠にして、彼女の執務室に呼ばれた楸の主神―――()()()。少なくとも前日までは。

 

「では、ヘファイストス殿。御身のお世話を賜り、大変(かたじけな)く存じますれば、これにて失礼致し申す」

「あなたも相変わらずね……。えぇ、こちらこそこの一年、本当にお世話になったわ。あっちに戻っても、元気で頑張ってちょうだい」

 古風で、いっそ却って不自然なほどに格式ばった固い言葉遣いに苦笑を浮かべたヘファイストスが、それでも楸に倣い、感謝の言葉を述べる。

 目の前の彼女が、他所のファミリアから自分の眷属に移ってきて一年。

 “出向”という形で行われたその『改宗(コンバージョン)』は、ファミリアの規則にある、新たな『改宗』を行うのに必要な“一年”という期限付き。その点については、双方のファミリアの主神と団長が同意をし、正式に契約をしたものであるし、もちろんそれについて、今になって異を唱えたり不満を訴える様なヘファイストスではない。だが、それでも一年間、他派閥からの出向とは言え自分の下にいた団員を「はい、さよなら」と無味乾燥に送り出せるほど、彼女の眷属(こども)への情愛は浅くない。湿っぽい空気は嫌いだし、元よりそんな雰囲気にするつもりも更々ない彼女だったが、楸を見詰める微笑みの視線には、最も長く主神といることの多い団長の椿が見なければわからないほど僅かに寂しげな色を含ませていた。

「……でもまぁ、お互い同じオラリオにいるんだから、その内に会えるでしょ」

 あなたの主神によろしくね、と振り払うように表情と声を変えたヘファイストスに「うむ!」と、楸が笑顔で頷き返した。

 

 

 ヘファイストスの部屋を辞し、そのまま大荷物を抱えて本拠地(ホーム)の玄関口までやって来た楸と椿。途中、去りゆく仲間を見送ろうと顔を出した団員たちを連れた二人は、気が付けば中々の大所帯となってしまっていた。

「では、また会おうぞ、椿殿」

「おう。楽しみにしているぞ」

「マジで、お世話になりやした」

「楸ちゃ~ん、うちが恋しくなったら、いつでも戻ってきて良いんだぜ~」

「楸ーっ! 俺だー、結婚してくれーっ!」

「諦めろって、他所の派閥なんだから……」

 

 最後の最後に言葉を交わした椿に便乗するかのごとく、ぞろぞろとくっついてきた団員たちから種々様々声がかけられる。そんな風に(やかま)しく、騒がしく()()()()()彼らに向けて相好を崩し……

 

「皆の者、さらばじゃ!」

 

 一人の聞き漏らしもないように大声でそう告げ、呆気ないほどにあっさりと、小人族(パルゥム)の姿は扉の向こうへと見えなくなってしまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 玄関口を抜けた楸が、表門まで近付いてくる。小さく、ぽつぽつと(まばら)に雲が浮かぶ深い青空に、その背を押されたような気持ちを覚えながら振り向いた楸は、完全に建物の方を向き、両脚をぴっちりと揃えたまま、

 

 

「お世話になりました」

 

 

と声に出しながら、深く頭を下げているのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(こっちの皆に会うのも久しいのう……)

 

 ヘファイストスファミリアのホームを出立した楸は、大小の横道をいくつか抜けて、北の区画を目指していた。小さな身体に大きな荷物がよほど不釣合いに見えたのか、道中すれ違った者たちは、あからさまにギョッとした顔で二度見をし、二、三人連れだって遊んでいる子どもたちからは直球で「すげー!」という感嘆が飛んできた。

 

 だが、そこで一方の楸はというと、そんなことは一切気付かず、気にも留めずスタスタと歩を進めながら、一年ぶりに帰るファミリアの様子を思い出して、懐かしい気持ちになっていた。

 

 

と……、

 

 

「うわっ!?」

 

「おっと?」

 

 

 

 気が付けば、ちょうど北のメインストリートまで来ていたらしい。回想に浸りながら歩いていた楸は、路地を抜けて大通りに一歩を踏み出した瞬間に、誰かからの突撃を食らっていた。

 

「いてて……」

 

「あぁ、すまぬ。大事無いか、少年よ」

 

 ぶつかる、と思った瞬間に重心を下げた楸は、抱えていた荷物の重さも利用したのが功を奏したのか、加わった衝撃にビクともせずに立ち続けていた。反対に、その楸に突っ込んできた少年の方はそうもいかず、激突の直前に大きく見開いた深紅(ルベライト)の瞳をギュッと瞑って、そのまま尻餅をついていた。

 

「あ、ごご、ごめんなさい! 僕、急いでたから……」

「いやいや、こちらも不注意であった。まっこと申し訳しようもござらん」

 

 くしゃくしゃの白髪頭を何度も下げて詫びる少年に、むしろ自分の前方不注意が招いた事態だとして、謝罪を返す楸。初めて見てもわかる、少年の人の好さそうな風貌に、このまま謝らせておくと、何だか自分がひどくイヤな奴になってしまったような錯覚を覚えて、実に居心地が悪くなりそうだ。

 

「うむ、では互いに今後は気を付けるということで、手打ちとしよう。ところで、急いでいたのではないのか、少年?」

「あぁっ!? す、すみません……じゃあ僕、これでっ!」

 

「早く戻らないと怒られるー」と、悲鳴に近い声を上げて爆走していった少年。

 そんな彼の背中を見送った楸は、ふと途中からあることに意識が向き、視線をホンのわずか、下に滑らせた。

 

(ほう……あれは、なかなか……)

 

 

 ついつい、じぃっと観察するような目を向けてしまい、そして五秒後にはそんな自分に気付き、やれやれと自嘲気味に小さなため息を一つ。どうも“ああいうもの”を見せられてしまうと、自分は見境がなくなる(へき)があるようだ。

 

 

(よし、決めたぞ)

 

 

 自身の性癖を改めて確認できたところで、楸が一つの決意を固める。

 

(まず最初は、わしがいなかった間の状態の確認から入ろうぞ)

 

 

 そんな風に、心の中だけで自分に言い聞かせて、またもや頭の中で色々と今後の予定を立て始める。

 

 

 どこから手を付けてやろうか。

 さしあたっては、何をどう考えても、確実に悪化しているであろう……

 

 

 

 

 

 

 

「あの残念狼(バカいぬ)の再教育から始めるかのう」

 

 

 

 

 

 




というわけで、新キャラの顔見せ回でした。
“椿(つばき)”、“榎(えのき)”、“柊(ひいらぎ)”は知ってたので、「だったら“秋”もあるべ」と思い調べた結果誕生したのがこの子です(テケトーとか言ってはいけないの)。


前回のラストから次回までを繋ぐお話として、ごく短いですが紹介をさせて頂きました。



…………二月中に更新するための、苦肉の策じゃないか、って?

世の中には、言って良いことと、悪いことと、“言わなくていいこと”があるのです……。
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