Double-Action's Blazer   作:ネイキッド無駄八

1 / 1

○剣城 桃衣(つるぎ ももえ)
・属:破軍学園
・伐刀者ランク:C
・特記事項:乱暴者



俺、参上!

 

 

――――……たろう……!? 遼太郎……!? おい、しっかりやがれ遼太郎!! ちくしょお、目ェ開けろよ……! 遼太郎!!――――

 

 ――――落ち着いて先輩! まだ、辛うじてだけど息はある! 救命措置が間に合えば、きっと遼太郎は助けられる!―――― 

 

 ――――そやけども、状況は最悪やで。認めるのは癪やがな、このまんまじゃあ遼太郎どころか俺ら全員まとめてお陀仏や。悔しいが、今の俺らじゃあアイツには手も足も出ぇへん……!――――

 

 ――――ヤダヤダ! ボク、絶対イヤだ! こんなところで、あんなワケのわかんないヤツに負けたくない、死にたくないよ!!――――

 

 ――――うるせぇ! やかましいんだよ小僧! 俺だってこんなとこでくたばんのはゴメンだ! ちくしょお、ちくしょお……! いったいどうすりゃあ……!――――

 

 ――――…………8分だ。――――

 

 ――――あぁ!? なんだよカメ! なんか言ったか!?――――

 

 ――――……そう、8分なんだ。それだけあれば、きっとここに警察の魔導騎士部隊が駆けつけられる。あと8分を凌ぎ切れれば、きっと、遼太郎は助けられるよ。――――

 

 ――――ムチャ言わないでよ!! あんなの相手に、そんなに保たせられるワケないじゃん!!――――

 

 ――――おうおうそうだぜバカガメ! あの化け物相手じゃ、もってひとり2分しか…… カメ、テメェまさか……!?――――

 

 ――――……なるほどなぁ。そういうことか、亀の字。ひとり頭2分で、8分保たせる…… 勘定は、たしかにぴったしやな。――――

 

 ――――……もちろん、僕だって分かってる。こんな方法じゃ、誰も幸せになんかなれない。間違いなく、遼太郎は怒るだろうね。それも、これ以上ないくらいに。――――

 

 ――――……ボクは、やっても良いと思う。ううん、やるしかないと思う。――――

 

 ――――……リュウタ。僕が言いたいこと、分かるよね? もし、僕の考え通りに動けば、僕らはみんなで、遼太郎の気持ちを裏切ることになるってことも。――――

 

 ――――でも、それしか方法がないんでしょ? ウラちゃんの頭でもそれしか思いつかないんだったら、たぶん他のやり方なんてないんだ。違う?――――

 

 ――――俺も、肚ァ括ったで。みんな死んでまうくらいなら、生き残れるひとりのために命張った方がずっとマシや。それに、漢を見せるなら、これ以上に泣ける舞台はそうそうあらへん! 残念なのは、この大一番、もっとも見せたい奴の前ではお披露目できんかったってことやけどな!――――

 

 ――――おい、カメ公。ひとつだけ…… ひとつだけ、答えろ。それを聞かないことには、俺はテメェの釣りには乗れねぇ。――――

 

 ――――信じろ、っては言わないよ。だけど、これからやろうとしてるのは、考えられる限りで最高の餌を使っての、特上の獲物を狙った一世一代のジャイアントフィッシングだ。釣り師の名誉にかけて、なりふり構わずなにがなんでも釣り上げてみせるさ。――――

 

 ――――……へっ。テメェがそこまで言うんなら、間違いないか。いいさ、俺が守りたいのはつまるところ、何時だってたったひとつだけ、たったひとりだけだ。それさえ確かなら、もうゴチャゴチャ余計なこと言やしねぇよ……! そら、やっこさんのお出ましだ! 最ッッ高にクライマックスだぜ、野郎ども……!!――――

 

 

 

 

 ――――じゃあな! 死ぬんじゃねぇぞ、遼太郎……!――――

 

 

 

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 夜の裏路地に、やかましく哄笑が反響する。

 翻る深紅のコート、けぶるヤニの雲。ジャラジャラと不協和音をかき鳴らす金属のアクセサリー。

 全体に退廃的で反体制的な雰囲気の、分かりやすくチンピラな風体の若者たちが、街の喧騒から少しだけ離れた薄暗がりの中にたむろっていた。

 

「いや~、さっきはホンットスカッとしたなぁ! さすがはクラウド! 圧倒的暴力! そこにシビレルアコガレルゥ、ってぇ感じ!? ギャッハハハ!」

「クラウドにビビっちまうのはまぁ仕方ないにしても、あそこまでやられてもヘラヘラしてるなんて、とんだタマ無しだよなぁアイツ! 破軍の男ってみんなあんななのかよ!?」

 

 なにやら盛り上がっている集団の中、話題の中心だと思われる「クラウド」と呼ばれたリーダー格の男はと言えば、取り巻きの話を聞いているのやらそうでないのやら、イマイチ判然としない表情で、どこか遠くに思いを馳せるような目をしていた。

 

「…………」

 

 体躯も纏う雰囲気も一目で別格と分かる不良軍団のヘッドは、興奮冷めやらぬ仲間たちのテンションにまるで取り合わず、茫洋と空に浮かぶ朧月を見上げる。

 つまらなそうに、不完全燃焼を燻らせるように、餓えた狼のように。

 がばとかっぴろげた顎の、伸ばしかけた牙の。

 爆発させかけた衝動の、収める先を見出せずに居た。

 

 

「――おう、ちょっと待てよテメェら。こっち見ろ、このロクデナシどもが」

 

 

 それまで不良たちの野卑た応酬しか飛び交っていなかった裏路地に、唐突に新たな声が生まれたことで、不良集団はぴたりと足を止めて振り返った。

 

「へっ、ロクデナシって言われて反応したってことは、ちっとは自覚あるみたいだな。なんだよ、まだまだお利口さんじゃねぇか、オイ?」

 

 特別大きな声量ではなかったものの不思議とよく通るその声は、あからさまな挑発の台詞を彼らに投げかけていた。

 

「んだと……?」

「テンメェ…… 出会い頭にずいぶんごあいさつじゃねぇのよ……? お兄さん、もしかして、ケンカ売ってるワケ?」

「はぁ? 逆に聞くけどよ、それ以外のなにに聞こえんだ? お利口さんだと言ったが、どうも訂正しなくちゃならねぇかもな。『バカなお利口さん』ってよぉ。モク吸いすぎて頭がすっからかんになっちまったのか?」

「んなっ……!?」

「コ、コイツ……!」

 

 先の不良たちのやり取りとて、けして品が良いとは言い難い類ではあったが、いま喋っている声の主もたいがい負けていない。

 こんな言い方をされても怒らない人間が居るとしたら、よほどの聖人君子か耳が遠いかのどちらかしかあるまい。

 不良集団は、自分たちに喧嘩を売ってきた身の程知らずの風体を睨めつけた。

 

「おいおい、見世物じゃねぇんだよ。そんなにジロジロ見んな、テメェらソッチの気でもあんのか?」

 

 声の主は、破軍学園の制服を着た若者だった。

 偶然にも不良らが直近で遭遇した『彼ら彼女ら』と同じ白黒の色調の制服の上に、これまた偶然にも彼ら不良グループが着ているのと同じ、赤色のジャケットを羽織っている。

 体つきは特に目立ったところのない中肉中背、彼らのヘッドである『クラウド』にくらぶれば、いっそ貧相なほどの平凡さだ。

 ただ、ぱっと見の印象それ自体は、貧弱さとはほど遠い。

 やや鬱陶しいくらいの長さに伸びた髪の毛が、怒髪天の勢いで逆立っているせいか。

 はたまた、ふてぶてしさのハイエンドを究めたようなその不敵が過ぎる佇まいのせいか。

 それとも、闇の中で爛爛と輝く、不自然に真っ赤な眼光のせいか。

 

「で、デケぇ口叩いてんなよゴラァ!」

「ここまでコケにしてくれやがって、いっぺん死んだくらいで収まると思うなよ!」

 

 吠え返す不良たちだが、物騒なセリフの内容に反して声のトーンはややひるみ気味に裏返ってしまっている。

 若者の身体から発せられる暴性の雰囲気は、彼らを竦ませるに足るほどに荒々しい代物だった。

 その空気は、半端なチンピラである彼らよりもむしろ、彼らのヘッドの『クラウド』にこそ近い。

 だが、彼らを辛うじて竦ませて踏みとどまらせていた理性は、次の瞬間に呆気なく霧散することになった。

 

「……あのな、テメェら。さっきからピーピー喚いてばっかで、ちっとも来ないのはなんでなんだ? やっぱあれか? テメェらもしかして、『タマ無し』かよ? えぇ?」

 

 瞬間、空気が凍った。

 痛いほどの沈黙が裏路地を包む中。

 あまりの怒りに紅潮を通り越して赤黒く変色した顔の不良たちは顔面を盛大に引き攣らせ。

 少しだけ歯を見せて楽しそうな表情を『クラウド』は浮かべ。

 決定打を放った若者はと言えば、大きく両腕を広げ、『来いよ』とでも言いたげな顔つきで最後の煽りを加えていた。

 

「……があああああああらあああああ!!!」

 

 言語野が焼き切れたのかと思われるほどに知性の欠片も感じられない咆哮を上げながら、不良グループの中でも切り込み隊長を務める荒くれが、ジャックナイフ型の『固有霊装』を振りかざして突貫を仕掛けた。

 凶暴な第一陣に続き、後ろの不良たちも各々の固有霊装を手に殺到せんとした。

 

 ――したのだが、

 

「うぎゃあああああああああ!! い、いてぇえええ……!! があああ……!」

 

 妙に乾いた破裂音が響き、切り込み隊長は路地の横の壁に手酷く叩きつけられていた。

 痛々しい悲鳴を上げて蹲る彼の姿に、不良集団の中の女子たちが小さく「ヒッ」と声を漏らす。

 殺到する足を停止させた不良たちの前で、その一撃を放った張本人は携えた凶器をこれみよがしに見せつける。

 

「どうだ? 存外、()()()()もイケるだろ? ただ、テメェはちいっと骨がねぇな。本当に危ねぇのは、こうやって割れて、先がギザギザにトンガってからだろうよ。けどまぁ、ハリセンみたいに考えなしに振り回して良いモンじゃねぇってのは分かったろ? さっきのファミレスでテメェらのリーダーがやったのはこういうことなんだぜ?」

 

 そう言って、若者は割れたビール瓶を後ろへと放り投げた。

 地面に落ちた瓶の欠片が砕けて、パリンと小さく鳴った音が、やけに寒々しく路地裏に響いた。

 

「さて、これでカメの言ったとおりになったな。ホント、釣りに関しては一流だよ。アイツは……」

 

 続けて若者は足元に転がっていたジャックナイフを拾い上げ、手の中で軽く宙に放ってから、向かい合っている不良たちの方へと投げ返して寄越した。

 さながら爆弾でも放られたかのようなリアクションで、不良たちは地面に突き立ったジャックナイフから一歩を後じさる。

 

「狙い通り、『固有霊装』、使ってくれたなぁ? つーことは、いちおう後から抜く俺の方は、正当防衛ってことになるよなぁ……?」

 

 そう言う若者の腰には、いつの間にやら、銀色のベルトが現出していた。

 バックルにあたる位置には読み取り機(リーダー)のような装置と、赤、青、黄、紫の四色のスイッチが付いた、奇っ怪な形のベルトだった。

 不良たちの誰ひとり動けないでいる渦中で、若者はポケットから取り出した黒いパスケースのような物体を、これまた見せつけるようにヒラヒラと振って見せた。

 若者が赤色のスイッチを押すと、勇ましい音色のミュージックホーンがベルトから流れ始める。

 

「さぁて、待たせたなテメェら。今から俺の『カッコイイ』変身見せてやるから、目ェかっぽじってよぉく見とけよ……!」

「…………わ、ああああああああ!!」

「らああああ……!!」

 

 口端をニィと吊り上げて、やおらにパスを持つ右手を大きく後ろへと引き絞った若者の姿に、半ば恐慌状態に陥った不良たちは、こぞって若者の動作を阻止しようとがむしゃらに突っ走っていった。

 まるで、それを許したら最後、とんでもない災害が己に降りかかるとでも言わんばかりに。

 ただひとり、余裕を崩さず、むしろこれから起こることを期待しているような面構えの『クラウド』を除いて。

 無我夢中で、不良たちは突貫していった。

 

 

 

「――――変身!!」 

 

『Sword form』

 

 

 

 メカニカルな音声がそう告げると共に、若者に向かって殺到していった不良らは、残らず横殴りの衝撃によって木っ端のように吹き飛ばされていた。

 

「ほぉ……?」

 

 上質な獲物を見つけた大蛇のように、『クラウド』は目を細めて『ソレ』を見遣る。

 彼の視線の先、数秒前まで闖入者である若者が立っていた場所。

 そこにいま立っている赤色の『ソレ』は、両の腕を大きく広げ、見得を切るようなポージングを取った。 

 

 

 

「――――俺、参上!!」

 

 

 

 『ソレ』は、全体に機械的な――もっと言えば、奇妙なことにどうも『電車』のようなモチーフをあしらった――全身装備の鎧のようなスーツを装着していた。

 首を捻りながら、興味深そうに不良軍団のヘッドは問いを発する。

 

「そりゃ、鎧型の固有霊装か? 名乗りも見かけも、なかなかどうしてカッコイイじゃねえか」

「嬉しいこと言ってくれるじゃねぇか。こちとらカッコイイってことに全霊懸けてるんでね」

「あぁ、かなりカッコイイぜ。まるでガキのゴッコ遊びだよ」

 

 クツクツと嗤いながらサングラスを指で押し上げ、『クラウド』は右掌をゴキリと鳴らした。

 渦を巻いた魔力がポッカリと虚を開け、彼の傍らの中空から蛇の形をして現れる。

 己の固有霊装『大蛇丸』を掴み取りながら、ふと思い出したように彼は言う。

 

「そういや、どうでもいい事だがひとつ訊かせろ。テメェ、さっきのファミレスに居たってことだよな?」

「あぁ、それがなんだよ?」

「だったら、なんでここまで後を尾けるような真似をした? 正義の味方を気取るつもりなら、こんな路地裏よりも、あの場で颯爽と割って入った方がらしんじゃあねぇのか?」

 

 馬鹿にしくさった言い様で、くだらなそうに彼は問うた。

 どう見ても目立ちたがりなこいつの性格からして、誰もオーディエンスの居ないこの薄暗い裏路地まで追いかけて来るという行動は、むしろ不自然だ。

 なにか裏があるのかもしれないと用心深く訊ねた彼に、赤いアーマーは「あー、それなぁ」と肩に担いだ妙なフォルムの剣でトントンとリズムを刻みながら、面倒そうに答えた。

 

「遼太郎が…… いや、俺のツレがうるさくてな。『あそこで我慢した彼の頑張りをふいになんて出来ない』、ってな。テメェ、どうせあの優男が固有霊装抜いてたら、一息にぶっ殺すつもりだったんだろ?」

 

 いけ好かねぇ野郎だと面白くなさそうに言った赤い鎧に、今度は『クラウド』の方が嗤って言った。

 

「別に? 抜けばたしかに面白かったが、それをしなかった以上、アイツはただのヘタレだ。舐められてヘラヘラしてるような腰抜けは、男じゃねぇよ」

「あぁ、そいつは俺も同感だ。……と、言いてぇが、テメェにひとつ、良い事教えてやんよ」

 

 興味なさそうに「言ってみろ」と促した『クラウド』に、赤い鎧が得意気に言い放つ。

 

「本当にカッコイイ男ってのは、舐められることを怖がらねぇ奴のことを言うんだぜ」

 

 それを聞いて、ほんの数瞬押し黙った後、 くだらねぇと『クラウド』は吐き捨てた。

 空気を裂く音も重く『大蛇丸』を一閃し、赤いアーマーに向けて剣先を翳す。

 応じるように、赤鎧の方もまた、細身の鉄骨を組み合わせたような奇妙な形状の剣を構えた。

 

「来いよ、『剣士殺し(ソードイーター)』・倉敷蔵人。その名前がコケ威しじゃねぇってこと、この俺に見せてみろよ」

「そっくりそのまんま、テメェに返すぜ。まぁ、俺は別にお前の名前なんざ知るワケねぇし、興味もねぇがな」

「なにぃ!? テメェ、まさかこの俺のことを知らないとでも言うつもりか!? ふざけんな、そーいうのは最初に言いやがれバカヤロウが!」

「喧しいんだよ。どのみちお前は殺すんだ、聞いたところで明日まで覚えてらんねぇよ」

「いーや、ダメだ! 是が非でも名乗るぜ、聞きたくなくても聞け! 忘れられねぇ名前になんだからよ!!」

 

 互いにゆっくりと歩を進めながら、ふたりの剣士は間合いを計り合う。

 やがて、どちらからともなく歩みを止めた彼らは、共に力を溜めるように身を撓めた。

 

 

「いいか。俺は…… いや、()()()は……」

 

 暴力が、蓄積される。

 暴性の嵐が、衝突の瞬間を待つ。

 

 

「――――『電王』、ってんだよ!!」

 

 

 その名乗りを合図に、薄暗い裏路地には大嵐が吹き荒れた。

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――

 

 

「いくぜいくぜいくぜえええっ!!」

 

 派手な名乗りもそこそこに、雄叫びを上げながら電王は猛チャージを仕掛けた。

 徹頭徹尾の猪突猛進。防御も様子見も度外視した、開幕速攻の突撃だ。

 

「オラアアアッ!!」

 

 対する蔵人も、同じく突撃の構えを取っていた。

 攻と攻、両者共に守備などかなぐり捨てた潔いまでの突撃の交錯が、薄暗がりの中に鮮やかな火花を生み出し散らす。

 

「ぜえぇい! おぉりゃあ!!」

「フンッ! ドラアッ!!」

 

 縦横無尽にひたすらに、剣戟の応酬が交わされまくる。

 電王の袈裟斬りと、蔵人の袈裟斬りが真っ向からぶつかり合う。

 返す刀で互いに秒間数発の勢いで斬撃をぶつけ合い、目まぐるしくスパークを散らし合う。

 しまいには、斬撃だけでは飽き足らずに蹴りや拳、肘や膝などまでもが激しく打ち出され始めた。

 

「オラ! オラ! テメェ、コラ! このっ、くたばりやがれっ!!」

「ハッハー! いいねぇこういうの! 最近の相手はどいつもこいつも上品ぶった戦い方しかしやがらなかったからなあ! やっぱり殺し合いってのはこうでなくっちゃなあ!!」

 

 逆手に握った大蛇丸で、大きく「X」の字を描く軌道の変則斬撃を繰り出しながら、蔵人が滾って仕方がないといったテンションで吼え猛る。

 

「へへっ、分かってるじゃねぇか! 戦いの基本ってのは、1に派手、2に派手、3を飛ばしてその後もずっと派手って相場は決まってやがる! そらそら、まだまだへばんじゃねぇぞ!」

 

 クロスの斬撃を飛び退いてやり過ごした後、即座にフロントステップを刻みながら、電王は己の獲物『デンガッシャー』をしっちゃかめっちゃかに右へ左へと間断なく、ショートフックの如く連撃した。

 蔵人はショートフックの釣瓶打ちを回避するために後退の動作を取ったが、電王の勢いと速射のすべてを凌ぐには至らずに、併せて大蛇丸の刀身を立てての鍔迫り合いを余儀なくされた。

 

(こいつ、滅茶苦茶に速えな……!)

 

 蔵人と電王、どちらも防御は二の次の攻撃偏重型の剣術使いの両者の打ち合いは、ほんの僅かにではあったが電王側がやや優勢の流れになりつつあった。

 フィジカルにおけるパワーもスピードも、「何が何でも相手をぶちのめす」というメンタル面での前のめりぶりも、両者共にほぼほぼ互角。

 その上で、しかし電王の方が先んじるに足る要因は実に単純明快。

 

「オラ、オラ! こんちくしょうめ!!」

 

 それは偏に、獲物の重量から生じる手数の差にあった。

 蔵人側の攻めの手が僅かに緩んだのを見逃さず、ここぞとばかりに電王はデンガッシャーを今度は縦の連撃に切り替えた。ガードの上からもお構いなしに、ひたすらに闇雲に手数を叩き込み続ける。

 怒涛の勢いで打ち込まれる斬撃の一発毎に、防御のために翳した腕へと痺れが伝導し、蔵人は忌々しく舌を打った。 

 

 そう、本来ならば。

 平常運転の、本来の倉敷蔵人から鑑みれば。

 彼がこうして受けに回っているという、この状況そのものが極めて異常なのだ。

 倉敷蔵人を『剣士殺し』たらしめる、その名を欲しいままにするに至るふたつの大きなファクター。

 今こうして行われている打ち合いにおいて、その大きな力のふたつともが大きく制限されているというのが、蔵人にとっての足枷となっていたのである。

 

 伐刀者(ブレイザー)としての切り札である『伐刀絶技(ノウブルアーツ)』の他に、彼はもうひとつ、強大無比な天性のスキルを備えている。

 その名は『神速反射(マージナルカウンター)』。超反射速度という天賦の才である。

 彼は、凡百の戦士が一撃を繰り出す間に、優に数発を越える攻撃を放つことが出来る。

 常人ならば知覚は出来ても追従することなど叶わない人間の反射速度に、彼は肉体を限りなく連動させることが出来るのだ。

 ゆえに、彼にとっての剣戟は常に後出しジャンケンのようなもの。

 相手の攻撃は、見てからでも十二分に躱すことが可能。

 こちらの攻撃は、相手の防御の隙を攻撃のモーションの途中に見出すことで、()()()()()()()軌道修正を掛けることが可能。

 剣士の間合いにおいて、彼は誰にも侵すことが敵わない絶対的なアドバンテージを有していた。

 そんな彼がこうして押し切られつつある現状とは、本来ならば起こりえないケースなのだ。

 

「そら! そらそらそらそら! コ、ノ、ヤ、ロ、ウ、があああ!!」

 

 鍔迫り合いの格好からさらに雨あられと無茶苦茶に斬撃をショートラッシュした電王は、トドメとばかりに蔵人の土手っ腹目掛けて、凄まじい速度のケンカキックをぶちかました。

 

「ハッ、もらったぜ……!」

 

 突如として見出された好奇に、蔵人は顔中に獰猛な笑みを浮かべて応じた。

 窮屈な体勢から、しかし器用に身をよじって蹴りをすかし、その勢いに身を任せて今度はガラ空きになった電王の脇腹へと蔵人がスピンキックを放ったのだ。

 

「オラァ!」

「ぐえっ!?」

 

 たまらずに身をくの字に折り曲げた電王の姿に、してやったりと手応えを感じたのもつかの間。

 

「……いっ、てぇなあコノヤロウがぁあああ!!」

「ぬおあっ!?」

 

 脇腹に蹴りが吸い込まれたのと、ほぼ同時。

 タイムラグもほぼ生じないほどのタイミングで、今度は蔵人の方が電王の左ストレートによって吹き飛ばされていた。

 地面にしたたかに背中を打ち付けられ、覚えず咳き込みながらも蔵人は身を起こす。

 

(まさか、コイツも()()()やがるのか……!? いや、おそらく違う……!)

 

 見えていても、間に合わない。

 後出しをしても、その行動が成立する前に相手の攻撃の密度に邪魔をされてしまう。

 『神速反射』の速度が、電王のラッシュに対応しきれていない。

 『剣士殺し』が今こうして後れを取っているのは、そんな単純な理由からだったのだ。

 

(ついでに、このフィールドがどうしようもなくウゼェ……!)

 

 無論のこと、クロスレンジで捌ききれない程度の相手にみすみす負けを許すような『剣士殺し』などではない。

 彼が本来得意とするのはゼロ距離の打ち合いではなく、近~中距離の絶妙な間合いなのだ。

 蔵人の固有霊装である『大蛇丸』は、伐刀絶技『蛇骨刃』によってその刀身を正しく大蛇のようにしならせ、伸縮させて獲物を狩る刀である。

 その軌道は変幻自在。伸長の勢いでの突き、相手の背後からのブーメラン地味た強襲、全方位囲っての圧殺攻撃、なんでもござれ。

 剣士の得意間合いの外側から相手の行動を制限し侵食し、辛うじて『蛇骨刃』の内側へと潜り込むことが出来た場合には『神速反射』による理不尽な後出しを仕掛ける。

 それが『剣士殺し』の常套手段だったのだ。

 しかし、現在の戦場である裏路地、このロケーションが今の蔵人にとっては鬼門に他ならなかった。

 一言で言って、そこは微妙も微妙な幅の路地であった。

 電王の携えるデンガッシャーが景気良くチャンバラを振るうにはもちろん不自由はないし、獲物としての大きさは長剣の部類に入る蔵人の大蛇丸とて、クロスレンジでの剣戟に関しては十分に対応可能な幅。

 しかし、蔵人の大蛇丸に限って言えば、そこに『伸縮を考慮に入れなければ』という枕を付けなければならない程度の、絶妙な幅。

 『蛇骨刃』が存分に振るえないこと。加えて、『神速反射』を駆使してようやく捌くことが出来るというレベルで降りかかる、電王の猛攻。

 

「……テメェに、ここでの戦闘を入れ知恵したヤツに言っておけ。なかなかに上出来だぜ、ってな」

「イチチ…… うるせぇなコラ。ヤロウの『釣り』になんざ乗らなくたって、俺はテメェに楽勝で圧勝してたろうよ。見くびってんじゃねぇぞ」

「ケッ、ふかしやがる……」

 

 気づけば、両者の間合いは戦闘が始まる前のやや離れた距離へと変じていた。

 電王と蔵人、どちらも直前に受けたダメージが堪えるのか、やや息が荒くなるのを相手に隠せずにいた。

 

「さて、と…… いい感じに派手なバトルになったところで、そろそろ誰かが騒ぎを聞きつける頃合かも知れねぇな」

 

 やがて、ゆっくりと身を起こした電王は、どこから取り出したのか、『変身』の時に用いた黒いパスを右手に高く掲げていた。

 訝しりながらも、蔵人の方も呼吸を整え直して、大蛇丸を構え直す。

 

「というわけで、ここはいっちょ、ひとまずクライマックスとしようじゃねぇか」

「なんだよ、もう終いか? 俺はまだまだやれるぜ?」

「テメェみたいなチンピラと違って、遼太郎は品行方正で人畜無害な模範生なんでな。ここでポリ公の世話になるわけにはいかねぇんだよ」

「……なに、リョウタロウ? テメェの連れの話が、なんでここで出てくる?」

「おっと、なんでもねぇよ。大したことじゃねぇさ、忘れてくれ」

 

 肩をすくめて笑った電王は、変身の時と同じようにパスをベルトのバックルへとかざす。

 

『Full Charge』

 

 なにかを読み取ったのか、リーダーからメカニカルな音声が流れると共に、バックルから赤色光の魔力のラインが形成された。

 赤のラインは、そのまま電王の持つデンガッシャーの柄頭へと収束した後、柄を渡って刀身の先端へと魔力を充填させ、放出寸前の赤雷の様相へと変じた。

 

「上等だぜ……! そんだけ大仰な前フリをしたんだ! 頼むから、ショボイ花火だけは勘弁してくれよ……!?」

 

 電王から発せられるただならぬプレッシャーを嗅ぎ取った蔵人もまた、ここが勝負の分水嶺だと判断した。

 己にとっての不利を余儀なくされたこの場で、出来る限りでの最大の攻撃を放つため。

 蔵人は大蛇丸の蛇腹刀身の隅々まで、黒色の魔力を行き渡らせた。

 

 赤と黒の魔力が、裏路地の暗闇を昼間のように明るく染め上げる。

 赤と黒の暴性の大嵐が、ついに全霊をかけてぶつかり合う。

 そして――――

 

 

「いくぜ……! 必殺、俺の必殺技……!!」

 

 

 先に仕掛けたのは、電王だった。

 構えたデンガッシャーを頭上高く大上段に振り上げた電王は、その場から動かずに渾身の力を込めて、唐竹割りに振り下ろした。

 魔力を帯びて赤く明滅する刀身が、電王の挙動に引っ張られるように剛速球で宙を飛来し、瞬く間に蔵人へと肉薄する。

 

(ほぉ、何を見せてくれるかと思えば、空を飛ぶ剣とはな……! 戦い方といい獲物といい、つくづく俺と似てやがる……!)

 

 驚かせてくれる、と蔵人はシニカルな笑みを顔に浮かべた。

 電王の飛ぶ剣はたしかに驚異的なスピードと威力ではあったが、しかし『神速反射』で十分に対処可能なレベルの一撃だった。

 飛来する赤剣の軌道から半身をずらしながら、お返しとばかりに蔵人はカウンター気味の一撃を電王へと打ち放つ。

 

「シャアアアアアアッ!!」

 

 裂帛の気合で放たれた『蛇骨刃』は、やや斜め撃ちの軌道の垂直振り下ろし。

 左右の間隔が足りない以上、『蛇骨刃』が活かせるのは、そのリーチによるロングレンジスラッシュ以外に選択肢は無い。

 どこまでも似通った双方、決め技に至るまでもがぴったり合一した両者。

 しかし、『神速反射』を有する蔵人のカウンターアタックによって、勝負の天秤は傾き――

 

 

「…………!?」

 

 

 瞬間、蔵人は視界の端を横切ったその光景に、ぞわりと総毛立った。

 同時に、心の底から安堵した。

 

 

「――――応用編」

 

 

 もしも、このまま相手から視線を逸らさずにいたら。

 うっかり、よそ見をしていなければ。

 

 

「――――L字切りィィ!!」

 

 

 自分は、()()()()()()()()なっていただろうと。

 

「……う、おぉ……おおおお!!」

 

 寸でのところで、本当にギリギリの、紙一重以下の僅差で。

 渾身の力で回避行動を取った蔵人の鼻先を、赤熱した剣がかすめていった。

 飛来した剣は、勢いもそのままに路地の横の雑居ビルの壁をぶち抜き、さらに何枚かの壁を障子破りするかのような物騒な音を遠く響かせ、やがて持ち主の近くの壁を突き抜けることでようやくその矛先を収めた。

 

「……ふぅ、やれやれ。肝が冷えたぜ」

 

 デンガッシャーを肩に担ぎ、電王は剣先が返って来た側とは逆の壁を見遣って嘆息した。

 

「テメェがあのまんま避けてなかったら、俺もこの壁みたいにバッサリやられてたってわけだ。なんだっけ? マージ……? ダージ……? とにかく、テメェのダージリンなんとかって能力に助けられたってこったな。お互いによ」

 

 正しく、蔵人は『神速反射』のおかげで、辛くも命を拾うことが出来た。

 彼が助かったのは、見えてから避けられるという彼自身のスキルと、それ以上に彼自身の悪運の強さに他ならなかった。

 

「……ぬかせ。少なくともテメェの方は、俺の『蛇骨刃』が見えてたとしても躱せなかっただろうがよ。いや、違うな。仮に躱せたとしても、相討ち覚悟でテメェはそうしなかった。そうだろ?」

 

 イカれてやがると蔵人は吐き捨て、お互い様だろと電王は不敵に笑う。

 気づけば遠くの方からは、やかましいサイレンの音と、ドヤドヤと大勢の人間が近づいてくるような気配がし始めている。

 どちらからともなく固有霊装を収めながら、ふたりはすっかり戦いの緊張を解いてしまった。

 

「とりあえず、不本意だが今日のところは分けってことにしとこうぜ。『剣士殺し』さんよ」

「るせぇ。次に顔合わせた時には、きっちりぶっ殺してやる。せいぜい、フィールドに頼らないでも俺に勝てるくらいにまで成長してから来やがれ」

「はぁ、負け惜しみかよテメェ? カッコ悪いぜ、そういうの」

「……やっぱテメェ、ここで死んどくか? だいたいなんだテメェのその格好は、センスねぇんだよ」

「んなっ!? おい待てコラ! それだけは聞き捨てならねぇぞ! ……あぁ!? なんだよ遼太郎! ……げっ、ポリ公がすぐ近くまで来てるだと!? ヤ、ヤベェ! スグにずらかるぞ!!」

 

 一人芝居のようにかまびすしくワケの分からない台詞を吐き散らしながら、一目散に駆けてゆく電王。

 その後ろ姿を眺めながら、蔵人は眉根を寄せてしばし考え込んでいた。

 

(にしても、『電王』…… どっかで聞いた気がする名前だな。いったい、どこでだ?)

 

 彼の記憶の底で、なにかが引っ掛かりを訴えている。

 足元に横たわっている取り巻きたちを蹴り起こしながら、蔵人はその引っ掛かりについて思いを馳せていた。

 

 




書くまでもないことですが、もしフィールドが広い場所だった場合、修行後は言わずもがな二巻の段階での蔵人相手でも、ソードフォームは負けます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。