ここは東京。無数のビルや建物に囲まれたいわゆるコンクリートジャングルである。そんな中、ぽつんと佇む一軒の白い壁と木造のアンティーク感漂う看板が目印の喫茶店がある。喫茶店の名は『Cafe Cuore』そこに少年はいた・・・・
『ジリジリジリジリジリ・・・・・・・!!』
僅かに開いたカーテンの間から窓越しに朝日が差し込む白い壁にフローリング張りの部屋に目覚ましのベルの音が鳴り渡る。そのすぐ近くにあるベッドには1人の少年が枕に顔を埋めたうつ伏せの状態で寝ていた
「んんっ・・・」
『ジリジリ・・・・カチッ』
少し呻きながら右手で手探りで目覚ましを止める
「ん・・。もう朝か」
ウェーブのかかったセミロングの赤に近い茶髪を右手でかき上げながらゆっくりと体を起し目を開く
僅かに開かれた目は透き通った海のように蒼い紺碧色である
そして、その少年の首には銀色の鳥の翼を模したペンダントが下がっていた
この少年の名は雨宮辰巳、何気ない日常と言う物語を紡ぎだすどこにでもいそうな普通の高校2年生である
辰巳 side
俺は雨宮辰巳(あまみや たつみ)、17歳のどこにでもいる高校2年生だ。そんな俺は歩きながら周りを見回す。この町の名はモチノキ町
土手には満開の桜の木が咲き乱れ、舞い散る花弁が幻想的な光景を作り上げている。また、視線を動かせば川がゆったりと流れている・・・・
はずなのだが
「え? え!?」
川は凍りつき、無数の氷柱が先端を上に向けて伸びていた
「どういうことなんだ、これは? 今は春なのに」
その場で考えてはみたが、結論など出る筈もなく。学校に行かなければならないので俺はその場を後にした
凍りついた川を後にした俺は学校の校門にたどり着いた。正門の銘板には『神楽坂学院高等学校』と書かれている。ここが俺の通っている学校だ
ちなみに10年ほど前までは女子高だったらしいのだが学校側の事情により共学となったそうだ。やはり女子高だったせいか今でも女子の方が数は多い男女比は4:6と言ったところだろうか
当たり前のことだが俺はもちろん制服を着ている。紺のブレザーとズボンそして白のワイシャツに青の生地に緑のラインが斜めに入ったネクタイ、これがこの学校の制服だ。ちなみに女子はズボンをスカートに変えただけである
まあ、ここまで聞けば普通の高校なのだがここには国民的レベルで有名な女生徒が通っている。その彼女の名前は・・・・・
なんて思考に浸っていると校門の前に1台の車が止まった
車のドアが開き1人の女生徒が出てきた
「じゃあ、お願いします」
運転手に声をかけてドアを閉めると車は再び動き出して校門から去って行った
「あ、おはよう。雨宮くん」
車から降りてきた女子生徒は俺に笑顔で挨拶をしてきた
「あぁ。おはよう、大海」
彼女がさきほど紹介しようとした女生徒。大海恵(おおうみ めぐみ)である。端正に整った顔立ち、長く伸びた茶髪のロングヘア、つぶらな瞳、女性にしてはそれなりに高い身長、スタイル抜群と高校生離れした外見をした少女である。さきほどの話から分かるようにこの子はこの学校の2年生、つまり俺の同級生。そしてクラスメイトである
そしてさらに驚くことに彼女、大海恵は現役の大人気アイドルなのだ。口で言うのは簡単だが彼女はまだ16歳、その歳でここまで上り詰めたのは見上げたものである。そこは俺も尊敬している
「どうしたの?雨宮くん、急に黙っちゃって?」
大海は俺の顔を見上げながら首をかしげる。そんなちょっとした動作でも異常な魅力を醸し出していた
「なんでもない。ただ、やっぱ大海はすごいなって思ってさ」
「い、いきなりなんで褒めるの!?」
俺は微笑を浮かべ、彼女を褒めた。大海は顔を赤くしながら狼狽えた
それが面白くて俺は、笑いをこらえながら肩を震わせる
「もー!!笑わないでよ!!」
大海はさらに顔を赤くして目に少し涙を浮かべながら叫んだ。でも、その表情は若干だが楽しそうだ
やはりアイドルとは言え仕事を離れれば。普通の16歳の女の子なのである
「悪い、悪い。でも、俺は大海のこと尊敬してるんだぜ。俺と同い年なのにアイドルと高校生両立してるんだからな。そこは誇っていいと俺は思ってるよ」
「えへへ。ありがとう」
大海は顔を赤くしたままだが、今度はとても嬉しそうにしている
そんな同級生の会話をしていると
『パシャ』
『パシャパシャ』
シャッターを切る音とフラッシュが会話を切り裂いた
「恵ちゃ~ん。こっち向いて~」
5、6人のパパラッチが校門前でカメラを構えシャッターを切って大海の写真を撮っていた
「止めて下さい。みんなに迷惑だから!!」
大海は手を大きく広げてパパラッチに撮影をするのをやめるように訴える。大海が来た時点で校門の付近には俺以外にも生徒が7、8人いたのだ、だから大海は怒鳴り散らすほど必死だ。だが・・・・・・
「怒った顔もサイコ―!」
「もう1枚、アップでお願いしまーす!」
大海の抵抗も結局は奴らを喜ばせるだけ。周りの他の生徒もホント迷惑などと大海を庇うようなことはしない
今回のようなことがあったのは初めてでは無い。実は1ヶ月ほど前にも同様のことがあったのだ。その時、俺は大海を守ろうとしてパパラッチ達に殴り掛かろうとしたが大海がそれを必死に止めた。そのおかげで大事にはならなかったが、大海はこうなることも覚悟してアイドルになったのだと泣きながら俺に話してくれた。どんな形であれ俺は大海を泣かせてしまった。それは反省するべきことだ。だから俺は大海に土下座で謝った。大海はそこまですることは無いと言っていたが、こうでもしないと俺の気は収まらなかった。それだけ俺は大海を1人の人間として尊敬しているのだ
だがこのまま引き下がるわけにもいかず。俺は歩みを進め大海に背中を向けて立ち、手を大きく広げた。これに大海はまた俺を止めようとしたがそれよりも早く俺は膝を付き、両手と頭を地面に擦り付けた。そう、俺は校門の目の前でパパラッチに向かって土下座をしたのだ
「俺からもお願いします。これ以上彼女に不快な思いをさせないであげて下さい。お願いします!!」
これには大海や周りにいた生徒も驚いた。パパラッチ達もシャッターを切るのを止めた。この状況を第3者から見れば年端もいかない高校生が大人に土下座をして懇願をしているのだ、これを承諾しないものならこのパパラッチ達は周囲からどう思われるだろうか。そんなの言うまでもない、確実にこの状況を見た人間から軽蔑されるだろう。最悪、大人としての尊厳を失うかもしれない
流石にこの状況はパパラッチ達も耐えられなかったのか悔しそうな表情を浮かべながら立ち去った。それを確認した俺は服や髪に付いた砂などの汚れを払い大海の側を通り校舎に向かった。大海が俺を引き止めようとしたが、それを無視して自分の教室に向かった
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