恵 side
久々に朝から学校にマネージャーさんに送ってもらって登校すると雨宮くんと出くわした。雨宮くんは私のクラスメイトで、数少ない男の子の知り合いである。同級生には他にも男子はいるけど、彼らは私のことを大海恵としてではなくアイドルの恵として見てくるからあまり話したりはしない
「あぁ、おはよう。大海」
雨宮くんは少しだけ微笑を浮かべながら優しい表情で私に挨拶を返してくれた。もともと雨宮くんの顔は端正に整っており、イケメンと言っていい顔をしている。おまけに背も高くてスタイルもいいのでモデルさんかとも思えるほどだ。だから一瞬ドキッとしてしまった。それから多少話をして、雨宮くんに私のことを真剣な顔で尊敬していると言われた時は素直に嬉しかった
でも、その後すぐにパパラッチが校門前で私の写真を撮り始めた、このままじゃ周りのみんなにも迷惑がかかってしまう。だから私は写真を撮るのをやめるようにお願いしたけどやめてもらえず。なんとかやめてもらおうと大声を出そうとしたら雨宮くんが私の前に立って手を広げた。この前、雨宮くんはパパラッチに殴り掛かろうとした。私のためにやってくれたんだろうけど。これは私が選んだ道、これも覚悟のうえでアイドルになったんだから。彼にもそれを話して納得してもらったはずなのに。だから私は雨宮くんを止めようとしたんだけど
「俺からもお願いします。これ以上彼女に不快な思いをさせないであげて下さい。お願いします!!」
雨宮くんはいきなり土下座して撮影をやめてくれるようにパパラッチの人達に頼み込んだ。私はいきなりのことに驚いて声が出せなかった、周りにいた他の生徒たちも同様に驚いている。パパラッチの人たちは撮影をやめて校門から立ち去ってくれた
それと同時に雨宮くんは私の傍を通って校舎に向かって行った。私は呼び止めようとしたけど雨宮くんはそのまま行ってしまった
「・・・・雨宮くん」
私は右手を胸元に持って行って軽く握った
その後は、雨宮くんのことが気がかりでいまいち授業にも集中できなかった。休み時間に話そうとしたけど雨宮くんは私から逃げるように教室から出ていってしまう
そしてあっという間に次の仕事の為にマネージャーさんが向かいに来る時間になってしまった。マネージャーさんの車に乗り込み次の仕事場に移動する間、私は雨宮くんのことを考えていた。マネージャーさんに何かあったのか聞かれたけど心配をかけるわけにもいかないのでなんでもないと愛想笑いを浮かべて答えた。マネージャーさんはそれ以
上聞いてくることは無かった
ある程度行くと信号待ちなのか車は止まった。私は何となく視線を窓に向けて外を見ている。すると、向こう側の歩道に黒いロングコートを羽織ったライトグリーンの長い髪をポニーテールにした女の子が歩いていた。珍しい髪色をしていたからか私はその子のことを眺める
最初は何となく眺めていたけど。次の瞬間、私はその子から目が離せなくなった
「!!!」
その子のロングコートが風になびき、左腰に長方形のバッグみたいなものを下げていたんだけど、そのバッグのふたが開いた時に少しだけど見えた
色は濃い目の蒼で見たことのない文字と砂時計のような模様が描かれた本
間違いなく魔物の本だ。じゃああの子は魔物かそのパートナー!?
まだ決まったわけではないけど、いつかはあの子とも戦うことになるのかな?
私はそんな考えを巡らせていたけど車は再び動きだし、その子の姿は見えなくなってしまった
『ティオ・・・・・・・・・・・・』
私は鞄の中の朱色のティオの本を見つめながら心の中で呟いた
Side out
Side 辰巳
朝の土下座から俺はなんだか気分が乗らなかった。大海のためにやったつもりだが本当にあれでよかったのかとあれから疑問に思い続けた。クラスの女子にもいろいろ聞かれたから適当に流すことしかできずあっという間に放課後
俺は帰り道をとぼとぼと歩いていた。こんなにも気分が重いのは久しぶりだ
そこで何となく空を見上げる。夕暮れになり始め、空がだんだんとオレンジ色に染まっていく。だが俺の気分は晴れることは無かった
「はぁ・・・・」
ため息を吐き、再び帰り道を歩き始めようとしたが
「ねえ、君かわいいねぇ。これからどっか遊びに行こうよ」
どっから聞いても悪質なナンパにしか聞こえない下心丸出しの声が聞こえてきた。別に俺には関係ないのかもしれないが見逃すのは俺の正義に反するから止めることにした
その声が聞こえた方へ向かうと、そこは小さな公園だった
そして、そこでは金髪にピアスやネックレスをジャラジャラと付けたチャラ男が黒いコートを纏った長いライトグリーンのポニーテールをした女の子をナンパしていた
チャラ男の方は見るからに鼻の下を伸ばしており、下心が見え見えである。女の子の方は全く興味が無いようで完全に無視している
だが、無視されてもしつこく諦めない。この後の展開は予想通りだとすれば
「いいから、来い!!」
やはり予想通り相手にされないと分かった途端強引に連れて行こうとした。まさかここまで予想通りの行動を取るとは。とにかくこうなってしまっては止めなければならない
俺は2人の元に走り出そうとしたのだが
『ドゴッッ!!』
女の子は男の腕をかわし左足で強烈な後ろ回し蹴りをチャラ男の左側頭部に食らわせた
「グァッ!!」
チャラ男は躱すことなどできず、吹っ飛んだ
「軽々しく触れるな」
女の子は目を細めてゴミを見るような目でチャラ男に言い放った
「どうやら大丈夫そうだな。帰ろう」
助ける必要はなさそうなので俺は踵を返して帰ろうとしたのだが、次の瞬間
「クソが、舐めた真似しやがって。てめえは俺に大人しく従ってりゃいいんだよ!」
チャラ男は起き上がると蹴られた場所をさすりながら懐から一冊のラベンダー色の本を取り出した
「それは!!」
女の子は本を見た途端、目を見開き驚いていた
あの本がどうかしたのだろうか? 女の子の反応から見て何かあるのは間違いないが
「出て来い、スレイム!!」
チャラ男は何かを呼んだ途端近くの草むらから何かが飛び出してきた
それは一言で言えばスライムだ。水のように形を変える半透明の体、それは形を成していき顔が無い人型に姿を変えた
『ムー、ムー』
スレイムと呼ばれている生物? は何かをしゃべるように唸っている
さすがにこれには驚いたあれは明らかに動物では無い。かと言ってあれがどこから来たのか等分かる訳もなく。俺はもうしばらく様子を見ることにした
「ひひひひ、いたぶった後で。じっくり楽しませてもらうぜ」
こいつ最低だ。よくもあんなことを言えるものだ
ビカァァァァ
次の瞬間チャラ男が持っている本が本と同じ色に光だした
「『アシッド』!!」
チャラ男がそう叫んだ瞬間、スライムが顔と思われるところに口を作り出し黄色い液体を女の子の足元に吹き出した
「くっ!!」
女の子がその場から後ろに飛び退き、液体をかわす。液体は地面をジュウ―と言う音と共にドロドロに溶かした
今、女の子が跳んだ距離は2mはある。だとすればあの子はとんでもない身体能力だ。でも今はそんなことより状況の分析だ
間違いなくあれは強力な酸の様な物だろう。あんなものを浴びてしまえば最悪の場合、骨まで溶かされてしまう
「へへ、おとなしくしねえと今度はマジで当てるぜ」
チャラ男はゲヒた笑みを浮かべながら女の子に詰め寄る。おそらく今までもこうやって無理やり従わせていたのだろう
「ふん、当てられるものなら当てて見なさい」
女の子は羽織っていた黒いコートを脱ぎながらチャラ男を挑発する。女の子はボロボロの半袖の黒いシャツと紺のスリムジーンズを穿き、黒い靴を履いていた。さらにいままではコートのおかげで分からなかったが、女の子は予想以上にスタイルが良かった。程よく鍛えられ無駄な肉が一切付いていない引き締まったウエスト。それとは真逆に胸は服がはち切れそうな程発達していた。彼女のキリッとした表情と合わさって何とも言えない色気を醸し出している。それを見たチャラ男はますます鼻の下を伸ばしている
「うへへへ、こいつは思った以上の上玉じゃねえか。今夜は楽しくなりそうだぜ」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが切れた
「これは無視して帰る訳には行かねえみたいだな」
ここであの子を見捨てて帰ったら、俺は自分を一生許せないだろう。そうと決まれば後は行動に移すのみである。俺はチャラ男に向かって走り出した
Side out