Side 辰巳
レイシスのパートナーになることを決め、本人にも伝えた後は大変だった。レイシスはまるで子供のようにはしゃぎながら俺に抱き付いてきた。その時の彼女は目に嬉し涙を浮かべており、いままでに相当の苦労をしたことが覗える。あまりにも嬉しそうなので引き剥がすのも少し戸惑ってしまった。だが、いつまでもこうしている訳にもいかないのでキリの良いところでレイシスを引き剥がした。それで正気に戻ったのか
「ご、ごめんなさい。あまりにも嬉しくて、つい・・・・」
最初の時に感じたクールな雰囲気から一変、顔を赤らめて俯きながら上目遣いで謝ってきた。あまりのギャップと可愛さにドキッとしてしまった。だがこう言ったことも年下の兄弟がいない俺にとってはすごく新鮮だった
だが、まだ一番の問題が残っている。魔物の戦いよりもある意味こっちの方が大変かもしれない
「しかし、レイシス。お前これからどうするんだ?」
「どうするって、何を?」
レイシスはコテンッと首を傾げながら聞き返す
「いや、おまえ住む所どうするんだ?」
そう、これからレイシスが住む拠点についてだ。そんなの俺の家に住まわせてやればいいだろと思うかもしれないが、あいにくと俺は1人暮らしではない
いきなり俺が家に女の子を連れて行ったら、家族はどんな反応をするだろうか?
最悪の場合、誘拐扱いされるかもしれない。そのことをレイシスに伝えると
「大丈夫。もしもの時は私がちゃんと説得するから!」
自信満々に説得すると宣言した。少し不安も残るが、ここにいても始まらないのでレイシスを連れて自宅へ向かった
家の前に着いた頃にはすっかり夕暮れで空がオレンジ色に染まっていた
「ここが辰巳の家なの?」
隣に立っているレイシスは首だけを動かして俺を見上げて聞いてきた。それに俺は
「ああ、そうだよ」
と答えた
『Cafe Cuore』目の前にある白い壁と様々な花が咲いたレンガの花壇が特徴の喫茶店、屋根に掲げられているアンティーク感漂う茶色い木の看板にはそう書かれている。ここが俺の実家である
ちなみにCuoreとはイタリア語で心・愛情と言う意味らしい。ちなみにこの店を開いたのは俺の祖父である。本人は俺が小学生の時に亡くなってしまったが、今は俺たち家族が店を引き継いでいる。俺はそこで思考を止めた
回想から戻ったところで、いつまでも家の前にいるのもあれなので俺は看板と同じようにアンティーク感漂う木の扉を押して開けた。レイシスも俺に続く
『カラン、コロン、カラン♪』
店中に入ると同時に客の来店を知らせるドアベルが鳴り響く。店内は外の壁と同じく壁は白色、それに対しカウンターや本棚、床板、柱などは茶色いアンティーク調、テーブルや椅子は木製で明るいの茶色の色使いとなっている
店内を照らす照明は温かみのある暖色で、天井にはシーリングファンが回っている
さらに店内の片隅の窓の側にはグランドピアノが、そしてそのすぐ側には暖炉が設置されている。とは言っても暖炉は冬しか使わないし、グランドピアノもほとんど弾くことは無いので飾りも同然になってしまっているが
そしてBGMとしてゆったりとしたピアノのクラシックが流れている
まあ、店内の紹介はこの辺にしておこう
とそこに1人の女性が現れた。髪型は長くて明るい茶髪を白のリボンで毛先から少し上辺りで結び、右肩から前に垂らしてサイドテールに纏めている。胸は服の上からでも分かるほど豊満だ。白いセーターに黒のロングスカート、その上から紺色のエプロンを付け、黒いショートブーツを履いている。目は茶色の優しそうな垂れ目で、にこやかな笑みを浮かべている
「お帰りなさい、辰巳」
「ただいま、母さん」
そう、この人は俺の実の母親である。名前は雨宮瑠璃(あまみや るり)
しかし、母さんを初めて見た人は確実に俺の姉と間違える。理由はとても高校生の息子がいるような年には見えないからだ。パッと見たところで20代前半と言ったところだろうか
俺が物心が付いた頃からほとんど見た目が変わっていないのだが、これはなぜなのだろう?
いくら考えても答えなど出るはずないので、考えるのをやめた
「今日は遅かったのね~。ん? 後ろにいる子は?」
母さんのお帰りに返事を返し、母さんはにこやかな笑みを浮かべるとすぐに俺の後ろに立っていたレイシスに気づいた。俺は少々言葉を詰まらせながらも口を開いた
「あ、うん。この子はレイシス、帰る途中で会ったんだけど・・・・・」
「え?まさか・・・辰巳・・・あなた・・・」
まずい、この流れは。誘拐扱い!?
「お客さんを連れてきてくれたのね?ありがとう」
「へ?」
だが帰ってきた答えは予想の斜め上を行き、ただ客を連れてきたになってしまった
母さんは見た目どうりにふんわりと言うか。かなりゆるい天然な性格なのだが、それでもしっかりとした人で、悪いことは決して許さないはずなのだが
「大丈夫よ、辰巳。あなたは女の子を誘拐なんてことは絶対しないって、信じてるからね」
母さんは見惚れてしまいそうなほどの笑顔を浮かべて言った。そこまで信じてくれているとは、少し目元が潤んできたが何とかそれを堪え。本題に移った
「いや、実はこの子のことについて頼みがあるんだ」
「頼み?この子の?」
「ああ。実はこの子、帰るところが無いらしくて・・・・」
俺は説明を始めた。さすがに魔界や魔物のことは話しても信じてもらえないから伏せておき。身寄りを無くしてさまよっていたところを俺に助けられて今に至ると言うことにして話した
「だから、この子を家に置いてあげてくれないかな?さすがに見過ごせないから、お願いします!」
俺は母さんに向かって頭を下げた
「お願いします!」
俺の隣にいるレイシスも母さんに頭を下げる
それを見た母さんは俺とレイシスの肩に手を置き
「2人共、頭を上げて」
母さんの言う通りに俺とレイシスは頭を上げた。頭を上げると同時に母さんは俺とレイシスを抱きしめた
「勿論よ。息子の頼みだもの、良いに決まってるじゃない。それとレイシスちゃん、辛かったわね。もう大丈夫よ」
俺たちを抱きしめたまま、言い聞かせるように優しい口調で喋っていた
「じゃあ!!」
「ええ、レイシスちゃん。貴方は今から私たちの家族よ」
「っ!・・・うぅ、ううぅ・・・ぐすっ」
レイシスは涙を流し始め、母さんの服を軽く握った。それと同時に俺は母さんの抱擁から離れた
この時のレイシスの目からはポロポロと涙が溢れていた。その涙に込められていたのは喜びだけではなく
今までに積りに積もった“孤独”と言う悲しみだと言うことが俺にも感じられた気がした
その後は母さんはレイシスの顔を自分の胸に埋めて優しい笑みを浮かべながら抱きしめ、レイシスの頭を撫でていた
こうして我が家に1人、新しい家族が増えたのであった
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