先日に誕生日を迎え、また1つ歳を重ねることができました
Side レイシス
まさか、ここまであっさり行くなんて思いもしなかった。普通なら見ず知らずの相手を家に置くなんてありえない筈だ。だからこそ色々と噓を交えた説明を考えてきたのだが、それらは全部無駄になってしまった。まあ、それはそれで別に構わないのだが
『ええ、レイシスちゃん。貴方は今から私たちの家族よ』
その言葉を聞いたとき、私の体に電撃のような衝撃が走った気がした。『家族』その言葉を言われたのはいつ振りだろうか
魔界にいたころの私は幼いころに両親を亡くした。兄弟も、親戚もいなかった私はあっという間に孤独の身となってしまった。それからと言うもの、私は新しい居場所を求め
ていくつもの場所を転々とした
でもなぜかは分からないが私を受け入れてくれる場所は見つからなかった。みんな私を見ると怖い顔をして私を追い払おうとする。私が何をしたというのだ?
その訳を知りたくて私を追い払った魔物たちに聞いた『私が一体何をしたの?』と、そしたらみんなは私にこう言うんだ
『近寄るな、化け物!!』
私は意味が分からなかった。私が化け物?
そんなことある筈が無い。私は普通の女の子の筈だ・・・
・・・その・・・筈・・だ
私はだんだん怖くなっていった。誰も私を受け入れてくれない
だから私は決めた。なら1人で生きていくしかないと
だから私は、強くなろうとした
だから私は、利口になろうとした
だから私は、必死に足掻いた
生き残るために。そして、自分が自分でいるために
その思いを胸に秘め、ここまで生きてきた。いつか私だけの幸せを掴むために
でも、心の奥底ではずっと家族に憧れを持っていたことも事実だ
だからこそ、さっきの辰巳のお母さんの言葉で今まで張りつめていた糸が切れてしまったのかも知れない。その証拠なのか目から涙が溢れて止まらない
そして辰巳のお母さんは私を優しく抱きしめて頭を撫でてくれた。暖かくて、柔らか
い。それでいて何より心が落ち着いて安心する
それは私の中に微かに残っている今は亡き本当の母親の温もりと何も変わらなかった。彼女は私の本当の母親ではないけど。久しぶりに本当の優しさに触れることができた。
なにより
この人達なら信じられる、そう思えた
Side out
Side 辰巳
レイシスはしばらくの間、母さんに抱きしめられたまま胸に顔を埋めて涙を流していた。その間、母さんは優しい笑みを浮かべてレイシスの頭を撫で続けていた
俺はその光景を近くで見守りながらレイシスが泣き止むのを待った
やっと涙が止まったのかレイシスは母さんから離れた。レイシスの目は涙の跡で赤くなっていた。母さんの服はレイシスが流した涙で濡れていた
「ぐすっ。ごめんなさい、服、ずっ、汚しちゃって」
レイシスはまだ少し涙が出るのか、目元を擦りながら母さんに服を汚してしまったことを謝罪していた。それに対して母さんは変わらず笑みを浮かべて
「気にしなくていいのよ」
怒ることなどすることもなく、許してくれていた
何はともあれこれで住む所の問題は解決した
俺は今、二階にある自分の部屋にいる。ちなみにこの店は1階が店舗兼キッチン、2階が生活スペースとなっている
俺は自分の部屋の机の上にレイシスの魔本を広げて椅子に座りながらパラパラとページを捲っている
ちなみにレイシスは今お風呂に入っている。レイシスは正直言うととても清潔とは言えないような状況だった、服はボロボロ。さらに汗の臭いもしていたので何日かお風呂に入っていなかったのだろう。それを察してか、母さんはレイシスを風呂場に連行していった
レイシスの話はこれくらいにして、本の話に戻ろう。やはり、色が変わっている部分以外は全く読むことができない。レイシスから聞いた話によるとこれは魔界の文字らしいが、魔物のレイシスも読むことができない。たとえ読むことができても俺が何を書いてあるのかを理解できていなければ呪文を唱えても術は発動しない。なんでもいつかは別の呪文も出るらしいのだがどうやれば出すことができるのかはレイシスも良くは知らないらしい。だが、これから魔物と戦っていくことを考えると『ガルス』だけでは厳しくなるのは目に見えている
さらに術を発動させるためには本の使い手の心の力と言う物を消費しなければならない。心の力とは感情によって生み出される心のエネルギーのこと、心の力は込めれば込めるほど術の威力が上がる。しかし、無限にある訳ではなく限りがある。だから、術を無暗に使うこともできない
そして心の力を使い果たせば意識を失うこともあるらしい
俺がこれからのことについて考えていた時
コンコン
「辰巳―! そろそろ夕飯よー」
扉がノックされたかと思うと母さんが俺を呼んだ。時計を見るとあと10分ほどで午後8時を指そうとしていた。どうやら思っていたより時間が経っていたようだ
「分かった。今行く」
俺は母さんの声に続き、部屋を出て1階に降りた
1階に降りると店内にはお客さんはおらず、店内の一番大きいテーブルにはカレーライスが4人分置いてあった。この時間は滅多に来ないので、今のうちに夕飯を食べることになっている
「ただいま、辰巳」
「お帰りなさい。姉さん」
今、挨拶を返したのは俺の姉さん。名前は雨宮瞳(あまみや ひとみ)だ。年は俺の3つ上の19歳で現在は大学2年生だ
髪は肩辺りまで伸びた明るめの茶髪のロングカール。顔つきは端正に整っておりキリッとした雰囲気を醸し出し、目は紺碧の吊り目で気の強そうな印象を抱かせている。身長は高く、目線が俺の肩辺りまであるので170は確実にあるだろう。全体的にスレンダーな体系だが出るところはしっかりと出ており、ただ細いと言う訳では無く。モデル顔負けの美貌を誇っている
「今日は遅かったわね。友達と遊んでたの?」
「うん。久々にカラオケ行ってきたんだ。でも、途中でまたスカウトされちゃって」
「また?今月だけでもう6回目じゃない?」
母さんの質問に姉さんが返し、付け加えた言葉に俺が言葉を繋ぐ
実は姉さんは街を歩くと必ずと言っていいほどモデルにスカウトされる。確かに姉さんほどの美貌ならスカウトされても不思議では無い
「それだけスカウトされるなら、素質は十分あるんじゃない?少しだけやってみようと
か思ったことないの?」
「うーん。まあ興味が無いわけじゃないんだけど。今はやりたいことをやろうかなって気持ちが強いからね」
「ふーん。まあ、決めるのは姉さんだからね」
「そう言うことよ」
俺の言葉に姉さんはしっかりと言い切った
姉さんは自分の意見はどんなことを言われようと曲げない。ただ頑固と言う訳では無く。様々な意見や考えを取り込み、その上で最適な答えを導き出す
言ってしまうと。人を引っ張り、引き付けるカリスマ性を持っている
そんな姉さんの姿は今でも俺の憧れである
「それより、この子が母さんが言ってたレイシスちゃん?」
姉さんは俺の隣の席に座っていたレイシスに目を向けた。今のレイシスは母さんから借りたであろう白のパジャマを着ている
「ああ、そうだけど」
「何処にも行く当てが無いんだってね。いままでよく頑張ったね。これからは私があなたのお姉ちゃんよ」
姉さんはレイシスの頭を軽く撫でるとギュッと抱きしめた。レイシスも突然のことで驚いてはいたようだが嫌がっている様子はなさそうだ
「は、はい。よろしくお願いします。お、お姉・・・・ちゃん///」
レイシスは顔を赤らめながら座っているため、上目遣いで姉さんをお姉ちゃんと呼んだ
「!?!?!?!?可愛いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「ムギュッ!?」
姉さんはレイシスをさっきとは比べ物にならないぐらいの勢いで抱きしめた。しかも今度は頬擦りまでしている。今のレイシスの状態を例えるなら、ぬいぐるみと言ったところだろうか
しばらくして姉さんは満足したのかレイシスを放した
「じゃあ、そろそろ食べようか」
俺が手を合わせると同時に姉さん、母さん、レイシスも手を合わせた
「いただきます」
「「「いただきます」」」
――夕食後――
食事中のレイシスはニコニコしながらとても上品に食事をしていた。ここだけの話、さきほど食べたカレーは俺が作った物だ
そしてそんな俺は今、部屋のステレオで音楽を聴きながらコーヒーを飲んでいる。インスタントだが俺が独自に配合した物なのでそこそこ味は良いはずだ。ちなみに俺はブラック一択だ。やはりその方がコーヒー本来の味を楽しめる
そんなこだわりについて語っていると部屋のドアが開き、レイシスが入ってきた
「レイシス、どうかした?」
「ええ。改めてお礼を言おうと思ってね」
「お礼?」
「そうよ。本当にありがとう、私のパートナーになってくれて」
レイシスは顔を少し赤く染めながら笑顔でお礼を言ってくれた。改めて思う、レイシスは一見クールな印象を抱かせるが根はすごく純粋で優しい子なのだと
「それは俺が決めたことだから。お礼を言う必要はないと思うけど?」
「ううん。私はそれだけ辰巳に感謝してるのよ。本当にありがとう」
このままではお礼を延々と言われ続けるのではないかと言う気がしたのでここら辺で一度話を切ることにした
「分かった。レイシスの気持ちは良く分かったから」
俺はレイシスを手で制しつつ机の上に置いてあるレイシスのサファイアブルーの魔本を取り、ベッドに座る
「レイシスも座って」
「え、ええ」
レイシスに座るように施し、レイシスも隣に座った
俺は魔本をレイシスとの間に置き、表紙に手を乗せる
「俺たちはこれから何体もの魔物と戦わなきゃいけなくなるんだろうけど。レイシス、俺は君を絶対にこの戦いに勝ち残らせてみせる。でも、もしかしたら他人を信じられなくなる時が来るかもしれない。でも、どんなことがあろうとも俺はレイシスを信じる。だから、レイシスにはどんなことがあっても俺のことだけは信じて欲しい」
俺はレイシスの綺麗な緋色の目をまっすぐに見つめ、言った
その言葉にレイシスは
「勿論よ。なんたって私たちはパートナーなんだから」
目に少し嬉し涙を浮かべながら、宣言してくれた
「うん、それが聞けたらもう安心だ。だから、これからよろしくなレイシス」
俺はレイシスに右手を差出した
「ええ、こちらこそよろしく辰巳」
レイシスも俺の右手を握って握手してくれた
こうして俺とレイシスは正真正銘のパートナーになった
それに反応したのか魔本も微かに光を放っていた