高スペック八幡の青春ラブコメ   作:双葉雷華

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こうして比企谷八幡は奉仕部へと足を踏み入れる

職員室、それは教師たちの執務場所であり、教師の憩いの場でもある。さらに生徒への授業の用意等を行う場所である。

そんな職員室に呼び出された俺は国語教師であり、生活指導担当でもある平塚静によって俺のレポートを大声で読み上げられた。

 

こうして自分の耳で聞いてみて、この作文は自分でもどうかと思ってしまった。

読み終えた平塚先生は俺の作文を自分のスースのデスクに置く。

「なあ、比企谷。私が授業内に出した課題のテーマはなんだったかな?」

心の中で作文のことで悶えていると先生は髪を掻き上げる。

「はあ…《高校生活を振り返って》というテーマの課題ですが?」

「そうだな。それで君は何故こんな作文を書いた?なんだこれ、訳がわからん」

そう言いながらデスクの上にある俺の課題の作文をパンパンと叩く。

 

どうでもいいが女教師という漢字をワードで打ち込む際、ルビはジョキョウシよりもオンナキョウシの方が見栄えがあってエロいと思うのは俺だけだろうか?

そんな事を考えていたら紙束で頭をはたかれる。

「真面目に聞け」

「すいません」

「ーー君の目はあれだな、いつも気だるげにしているな」

「そんなに疲れてるように見えますか?大変っすね俺」

俺の言葉に平塚先生の目が凄みを増す。

「で、なんでこんな作文を書いた。言ってみろ」

出たよ。怒らないか言ってごらん。そう言って怒らなかった大人はいないし、大抵は文句も決まっている。つか、先生目が怖いよ。ていうか怖い。

「ほ、ほら、今時の高校生は皆こんなもんじゃないじゃないですか?俺はそのことを述べただけなんですよ!」

「こういうのは普通自分について省みて書くと思うだがな?」

勢いよくまくしたてるが、バッサリ切り捨てられる。八幡帰りたい。小町に会いたい。

「ならそう前置きしてくださいよ。そしたらその通り書きますよ。つまりこれは、先生の出題ミスであってですねーー」

「小僧、屁理屈を言うな」

「小僧って、確かに先生の年齢から俺は小僧ですけどーー」

 

ビュン‼︎

 

風が吹いた。それも鋭い風が。

目線を動かせば拳が近くにあった。

グーだ。先生は一瞬で立ち上がり、ノーモーションで繰り出されたグーパンが俺の頬スレスレを通り過ぎていた。その時の先生の目はまるで獲物を狩る獣のようであった。

「女性に年齢の話をするなと教わらなかったのか?」

「すいません書き直します」

「平塚先生よろしいでしょうか?」

そんな平塚先生に話しかけるクールな印象を受けるイケメン男子生徒。誰コイツ?

「ようやく来たか荻野。君は重役出勤のつもりかね?」

「俺は掃除当番なんですよ。仕方ないはずですが?」

先生の睨みを軽く流してまっすぐ先生の目を見る荻野という生徒。ヤダ格好良い。

「どうかしたのか比企谷?」

「ーなんでもねえよ」

これで良い。コイツとはそんなに関わるわけないからな。

「そうか?まあいいや。で、先生目的をお話ください」

「ああ、君を呼んだのはこないだの件についてだ」

 

こないだの件ってなんだ?

俺の知らないところで何かあったらしい。

あっ知らなくて当然だわ。俺ボッチだし。言ってて悲しいけど………まあ、アイツが居るから俺は平気だけどさ。

世にいるたくさんのボッチ共、俺には幼馴染がいるぞ!もちろん脳内設定じゃないんだからね!

 

「サッカー部親睦会のメインイベント“校内缶蹴り大会”ですか?確かに俺に責任がありますよ。発案者ですしね」

「それで君が蹴った缶が私の後頭部に当たったのも知っていたかね?」

そんなことしてたのかよ?つかサッカー部相手に何やってんだ?

「その事なら謝罪はしますよ?罰則を与えるならご自由にどうぞ」

平塚先生はこめかみに指を当て疲れた顔をする。歳なのなら、早めに仕事終わらせばいいのに、と思う俺は普通なはずだ。

「比企谷、今、とても馬鹿にされた感がしたのだが?」

「先生の気のせいっすよ」

先生何⁉︎エスパーか何かなの?エスパー平塚?

「そうか?そういえば君ら2人は部活に入っていなかったな?」

「ええまあ」

「入りたいとも思いませんしね」

俺たちの答えに今度は顎に手を当て思案顔になる。美人というのは何をしても絵になるものである。

「少しついてきたまえ」

俺たちは、平塚先生に連れられ、職員室を後にした。

 

 

 

 

 

千葉市立総武高校、俺が通っているこの学校の校舎は少し特徴的な形をしている。

上空から見るとカタカナの『ロ』、漢字の『口』に似ている。そこにAV(視聴覚)棟をちょろりくっつけるとこの学校の校舎の全体像が完成する。

道路側に面した校舎を教室棟、その向かい側を特別棟と呼ぶ。この2つの校舎は2階にある2つの渡り廊下で結ばれている。中庭はその4つに囲まれた場所を指し、昼休みにはリア充共が胸焼けするようなピンク色の空間を醸し出している。

(渡り廊下を通るってことは特別棟に用があるってことか?)

先生はリノリウム製の床をカツンカツンと音を鳴らして歩く。

「着いたぞ」

先生の目的地を突き止め、そこで何をさせるのかを考えていたら目的地についていたらしく先生の立つ背には何の変哲も無い教室。プレートには何も書かれておらず、とても静かだった。

先生はノックもせずにガラリと音を立てて教室の扉を開けて中に入る。

俺はそんな先生の後ろからこっそりと中を見る。そこには壁際に机と椅子が無造作に積み上げられていることを除けば、教室と代わり映えのない一室。

なのに俺はそんな空間に違和感を覚えた。いや、その場所にいる少女に違和感を覚えたというべきだろう。1人椅子に座りただ手元にある本に目を落としている。たとへ世界が滅びようと本を読んでいるのではないかと思う美少女は部室という絵画の一部だと思ってしまった。少し開けられている窓から入ってくる桜の花びらがより一層その絵画の質を高める。

 

「平塚先生、入る際はノックをとお願いしているはずですが?」

少女は手にしていた文庫本に栞を挟み、立ち上がる。あどけなさを残しつつも端正な顔立ち、艶のある長い黒髪、関わりたいと思わないクラスの女子と同じこの学校の制服を着ているのに何故か違うもののように思える。

「ノックをしたとしても君は返事をしたためしがないじゃないか」

「先生が返事も待たずに開けて入るからです。それで比企谷君とそちらのぬぼーっとした彼は?」

俺は彼女のとは知り合いだ。2年J組 雪ノ下雪乃。9つある普通科より2、3ほど偏差値の上であるこの学校のブランド“国際教養科”。その名の通り留学希望者や帰国子女といった注目を浴びるクラス。彼女はその中で一際異彩を放つ存在だ。定期試験では常に学年一位に鎮座し容姿は先ほど述べた様に申し分のない完璧な美少女。

「彼は荻野。比企谷と一緒の入部希望者だ」

「2年F組の荻野祐一だ。よろしく頼む」

「同じく2年F組の比企谷八幡です……っておい入部ってなんだ?」

雪乃の奴いつの間に部活に……

「比企谷はのレポートに対し、荻野は今までの行動へのペナルティーとしてここでの部活動を命じる。異論反論抗議質問口答えは一切認めない。というわけで見ればわかると思うが、彼らはそれぞれ問題を抱えている。その更生をすることが私からの依頼だ」

「お断りします。そちらの彼は知りませんが、比企谷君は問題など抱えていません」

「君の口からどうしてそんな言葉が出たのかについては置いておくとして、安心したまえ。コイツ等のリスクリターンと自己保身に関して言えば中々のものだ。比企谷の小悪党ぶりと荻野の泰然自若さは信用できる」

「俺はそんなに酷い人間じゃないんですが?」

「俺だって、盛り上げるためにやったんですよ?」

意見を述べるが聞いてもらえない。もうやだ!ハチマンオウチカエル!

「ーーー小悪党ですか?比企谷君に関しましては大悪党でも良いと思いますが…」

そういう問題じゃねえよ。

「まあ、先生の依頼とあれば無碍にはできません……承りました」

しかも承ったよ。絶対打算あるでしょあの子………

「そうかでは後のことは頼んだぞ雪ノ下」

それだけ言うと平塚先生はさっさと帰ってしまった。

 

それにしても机や椅子が積み上げられてるだけの場所。さらにすぐに用意できる椅子、そして長机の一角に座る雪乃。近くには急須もある。文芸部なら活動用のスペースがあるはずだが、それがない。

雪乃がゆっくりするためだけに教室に居座るはずもない。ということは、活動自身が特定の条件下のみ行われる部活ということになる。

「ーーー八幡?」

「ん?な、なんだ雪乃?」

思考の海に浸っていた俺の意識は俺を呼ぶ雪乃の声によって引き戻される。見れば彼女は俺を心配そうに上目遣いで見ていた。

雪乃さん、わざとですか?あざといっすね。可愛いから許すけどね。

「いえ、仕事モードの顔になっていたものだから心配したのよ」

そう言ってふふっと笑う。その表情を見る度に心臓がドキリとし、心拍数が跳ね上がる。この動悸の正体には幼い頃から気づいていた。俺は雪乃が好きなのだと。

「なんでもねえよ」

俺は雪乃の頭を優しく撫でる。こうすると昔から雪乃は安心したものだ。

「お取込み中のところすまないんだが、ここって何部なんだ?」

「ではゲームをしましょう。ここは何部でしょう」

俺が椅子を用意して座るとその隣に椅子を寄せて座りながらそう質問する。

「ふむーー」

そう唸ると顎に手を当てて考え込む。その姿は様になっていてさながら俳優のようだった。

「ーーボランティア系の部活動ってところか?」

「その根拠は?」

雪乃の目は興味深そうに見ている。そんな2人を見守りながら、俺自身も思考を再開する。

(高校に入学するとき、雪乃は世界を変えてみせると言った。その志を守りたくて、支えたくて俺はこうして彼女の()に居続けた。)

そして今も脆くて儚い少女を見守り続けている。誰かに言われたからじゃない。俺がそうしたいからそうしている。

「ーーなるほどね。伊達に八幡の次に普通科で高成績なわけではないのね。荻野君女子と話すのは何年ぶりかしら?」

 

説明の終了したのを見計らい、会話に耳を傾ける。

えっ?そこ年単位前提なの?

「そうだな、0年1ヶ月ぶりってところか」

なんとも言わん。

「持つ者が持たざる者に慈悲の心を与える。人はそれをボランティアと呼ぶわ。途上国にはODAを、ホームレスには炊き出しを、会話に飢えた八幡には私との会話を。困っている人に手を差し伸べるのがこの部の活動よ」

おい、ピンポイントのがあったぞ。

そこで雪乃は一度言葉を切り、俺の前に立つ。

「ようこそ奉仕部へ、歓迎するわ。あなたたちの問題解決の手助けをしてあげるわ。感謝なさい」

そう言い切った。

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