「オーラル」
オラクル船団、旗艦――マザーシップの研究部の通路を資料片手に歩いていたオーラルは、居合わせた白いキャスト――レギアスに呼び止められた。
「なんだ? 『世果』の修繕は後回しの予定だ。今は別件で忙しい」
今は、
ルーサーの指示で無茶をした『造龍計画』。最近になって取り返しのつかない不具合が出て来たのだ。何とか解決策を見つけなければと、他の研究員も奮闘してくれている。
「その件ではない。設立する新たなクラス――ブレイバーの件だ。お主が関わっていると聞いてな」
新クラス、ブレイバー。アザナミというアークスが今後の戦術展開として、攻撃力に特化し、遠距離と近距離の両方で瞬間火力を生み出す、クラスが必要と提唱していた。そして、彼女は今日までに少しずつ、その必要性を証明している。
「お前に技術指導を求めたと聞いているぞ」
「ああ。『世果』に合った動きとなると、ハンターでは速度が追いつかない。
その後、アザナミは何度もレギアスの元に通い、彼を師として技の教示を願い出たのである。最初はレギアスも断っていたが、アザナミの真摯な態度についに折れ、自らも用いる技を全て彼女に伝えた。
「三英雄であり、『六芒均衡』の“一”、お墨付きの“
レギアスは現在のクラスはハンターである。しかし、それでは自らの主武器『世果』を操るには万全とは言い難いのだ。あの武器は、それだけ規格外の扱いをしなければ本当の力を発揮ではないのである。
「いつか、必要になると思っていた。この身に刻まれているとは言え、使わなれば“伎”も錆びる」
アークス全体の模範となる為、今は、現存するクラス――ハンターとして活動しているが、本気を出さなければならない有事の時に、一歩出遅れてしまう懸念があった。
故にアザナミの話は転機だと思ったのである。
「設立には賛成なんだな?」
「うむ。そこに異論はない。だが、他のクラス管理者を黙らせるには、確かな実績が無くては全てが破綻する。かつて、ガンナーとファイターの職が消えてしいたようにな」
他、全てのクラスには無い特性と、その必要性を何よりも証明できなければ、新クラス設立の件は流れてしまう可能性は高い。だからこそ、現在はアザナミ一人で動いているのが心配なのだ。
「オーラル。お主は、私よりも顔が広い。他にブレイバーの設立に興味のある者は居ないか?」
「心当たりはいくつかある。デューマンは、従来のヒューマンに比べて自らのフォトンを攻撃作用に変換しやすい。そちらでも、最近伸び悩んでいる研修生が居ると聞いたのでアザナミに接触させよう」
「ふむ。やれやれ、師として弟子の意志を尊重するには、まだまだ力が足りんな」
不本意とは言え、アザナミには“伎”を伝えた以上、弟子として認めている節もある。だからこそ、出来るだけ新設の手伝いをしたかったのだが、どうしても『三英雄』と『六芒均衡』の称号が肩書きが邪魔をしていた。
「逆だ。お前は“力”がありすぎる。力だけはな」
「……仕方あるまい」
レギアスは、元は人間だった。しかし、己の中のフォトン特性が異常に高く、生身では耐えきれなかった事で、キャストの
「お前やマリアが居なければ40年前は勝てなかったし、『六芒均衡』も出来なかった。おかげで、ギリギリだけナイフ程度の戦力の確保は出来ているが」
「…………アトッサやヴォルフには悪い事をした」
レギアスはかつての『六芒均衡』メンバーの名前を呟く。二人とも現在は故人であった。
「罪悪感があるだけ、“奴”よりはマシだ。話はそれだけか?」
「ん、ああ。引き留めてすまない。私はしばらくマザーシップの警護に就く予定だ」
「なら、宇宙一安全な場所だ。よろしく頼む。それと、言い忘れていたが――」
と、
「既に一人推薦しておいた。アザナミの性格なら、問題なく活動させているだろう」
「誰だ?」
「お前と
それで全て伝わるとオーラルは判断すると、今度は止まらずにレギアスの元から去って行った。
パティエンティアと別れ、地質データの回収の為に奥地を目指していたシガは現生物の群と遭遇していた。
大した数ではないので、最初の内は二、三匹斬り倒せば勝手に逃げて行くと思っていたが、
「おいおい……」
少しずつ囲まれていた。敵は、ガルフと呼ばれる四足歩行の獣で、狼のような外見に仮面のような刺々しい角が顔のまわりの生えているのが特徴の原生生物である。
生態系も狼に酷似しており、群で狩りを行うスタイルを取る為、単身で出会う事は極力避けなければならないエネミーなのだ。
「お前がボスか?」
絶え間なく、時間差で襲ってくるガルフの群による
体格的にも少しだけ大きいそのガルフは、フォンガルフと呼ばれる群の統率者であった。
「――――」
「フッ……使うか。オレの奥の手を!」
カタナを抜き、囲いから時間差で襲ってくるガルフたちを牽制していたが、ここでこそ使うべきだと一度鞘に納める。
その様子に、ガルフたちは一瞬戸惑ったようだが、次にボスの咆哮で、一斉に襲い掛かる。
「フドウクチナシ」
向かって来るガルフたちに対する攻撃とは、まるで的外れな抜刀をシガは行った。悪あがきとも取れるその動作だったが、そう思っているのは
その衝撃は、使用者のフォトンによって増幅し、発動者の半径数メートルの物質に微細な振動をぶつける技だった。
「説明書では、フォトンを衝撃に変化して、弾き飛ばすって書いてたんだけどなぁ」
渡されたいくつかのフォトンアーツ。その内の一つを使ったのだが、説明と起こった効果がまるで違う。
シガに跳びかかったガルフ達は、まともにフォトンの衝撃を受けていた。生物としての決して逃れられない脳震盪を引き起こし、その場に卒倒している程度である。だが状況の打破は出来た。現在、囲いは機能を失っているのだ。
「アザナミさんへの報告項目に入れておこう」
カタナを納刀したシガは、さてボスを、と視線を戻す。すると眼前には、フォンガルフが喉を狙って至近距離まで肉薄していた。
「――――うぉ!?」
咄嗟に身体を捻って回避。少しだけ態勢を崩し、何とか倒れない様に踏み留まる。
「なるほど……時に身体を張るのも、ボスとしての威厳か!」
フォンガルフは、部下であるガルフ達がシガの手にかかる可能性から、自ら出陣してきたのだ。良い奴だな。自らで傷つく指揮官には部下も命を賭けるだろう。
「だが、悪いな。オレも命がけなんでね!!」
背後に着地したフォンガルフへ向き直りながらカタナを抜刀し――
少し生え伸びていた草に踏み込んでしまい、ズルッと、足を滑らせた。態勢を崩して抜刀の
「い゛!?」
その隙をフォンガルフは逃さない。再びシガを狙った牙が首元へ食い込む――
「!?」
瞬間だった。跳びかかるフォンガルフは何かに弾かれるように側面から攻撃を受けたのである。
「……いや、恐ろしいくらいドンピシャ。悠長なエコーを置いてきて正解だったぜ」
思わず、
「おーい、そこのお前、大丈夫か!?」
視線の先には、相当離れた距離からフォンガルフをガンスラッシュの射撃モードで狙い撃った赤髪のアークスが居る。
彼はガンスラッシュを肩に担ぎながら歩み寄って来た。
名前は伏せてますが、台詞と容姿の説明で誰だか解ると思います。次は現れた彼と共闘して奥地へ進みます。
次話タイトル『Zeno 先輩』