ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

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19.ARKS 第一歩

 油断した……

 大型原生生物と戦うのは初めてとは言え、敵も生物。当然、怒るし、怯えたりするだろう。それは、弱点でもあり、同時に最大の優位性でもある。

 

 「……ッ……」

 

 額から流れる血で、左側の視界が塞がっている。

 咄嗟に通常形態のフォトンアームと、カタナの鞘で攻撃を受けたのだが、突き抜ける衝撃だけは無力化できなかった。激痛から怪我の度合いを予測……身体の中――肋骨にひびが入っているだろう。

 回復薬(モノメイト)で、体内フォトンの循環を高め、一時的に怪我を回復させるが、完治とは行かず痛みが少しだけ良くなった程度だった。

 

 「まだ……まだだ!」

 

 四肢は動く……なら、戦える!

 怒り状態のロックベアが、シガに近づいていく。弱々しくも立ち上がった彼に今度こそ止めを刺すような迂闊な動きだった。

 

 (ソレ)を逃さず、逆に踏込み一閃。岩に斬りつけたような音が響く。

 頼るな。考えるな。この左腕は……こんなところで、自分が進むのを諦める為に託された物じゃない――

 

 自分の力で……戦いを――

 アークスとして、戦えることを――

 自分自身に証明しろ!

 

 シガは、振り向いて来るロックベアの拳に合わせて、自分も振り向きながらカタナを抜刀する。狙うのはダメージを蓄積していた腕。この一刀で、致命傷を与えるつもりで――

 

 「……が!?」

 

 斬りつけたカタナごと、ロックベアはシガを正面から殴りつけた。未だ拳は十全に稼働しており、その一撃でシガは宙を舞い、少し離れた位置にドサッと落ちる。

 

 「…………」

 

 倒れたまま動かなくなったシガを見て、ロックベアは今度こそ倒したと、再びゼノへ視線を向けた。瞬間――

 

 「!?」

 

 ガンスラッシュの毛ほどにも効かない射撃がロックベアの背に当てられたのだ。まさか、と思いつつロックベアは振り向きながらシガへ視線を向ける。

 

 「……げフっ! かっ! はっ……はっ……」

 

 まるで這いずる様に、取りだしたガンスラッシュをロックベアに向けて、何とか気を引こうとしているシガが居た。

 立ち上がる様子も弱々しく、死んでいてもおかしくないダメージは原生生物(ロックベア)から見ても既に事切れていてもおかしくない。

 この時点でシガのダメージは、肋骨が折れ、意識も途絶え途絶えだった。

 

 “もう少し……もう少しなんだよ!!”

 

 「……そうだ」

 

 絶望的な状況で、とても強い感情が身体の中心を走った。

 誰にも理解されなくても、誰も見ていなくても、それでも……自分が立ち上がった事だけは……この瞬間だけは、絶対に膝を折る訳にはいかない!!

 

 この感覚は……記憶を失う前にも経験したのか、強く心に残っている感情のようだった。そして、自らが死を覚悟して真っ先に映った人は――

 

 「フ……デレデレだな……オレ――」

 

 振り下ろされてくるロックベアの死を告げる拳。轟音と共に、大地に打ちつけられた剛腕(ハンマー)は確実にシガの息の根を止めていた。

 

 「――――」

 

 その内側にシガは立っている。最後の見切り。ギリギリの刹那を踏込み、ロックベアの間合いの更に内側に入っていた。

 

 「ふー」

 

 軽く脱力するように息を吐く。ガンスラッシュを捨て、新しい可能性(カタナ)を手に持つ。

 

 ずっと……刃筋とフォトンの集束が合わなかった。最初は適性が無いのだと思っていたけれど……ただ落ち着きが足りなかっただけだ。

 

 ロックベアが掴みかかる様に、シガへ抱き着く様に掌を向けてくる。

 良く視える。まるで、世界の時間が止まったように、落ちる葉や空を流れる雲がスローモーションで動いていた。

 不規則なフォトンの流れ。だが、オレの意志に呼応して彼ら(フォトン)は力を貸してくれるのだ。

 

 ロックベアの掌が触れる程に接近した刹那、シガのカタナが鯉口を切る――

 

 「サクラエンド」

 

 アザナミから託されたフォトンアーツの一つの名前を呟く。

 高速の抜刀から生み出される最速の二連返しの刃。腕だけでは無く、全身のフォトンをこの動作に収束し、断てぬモノの無い二刃を生み出した。

 掴みかかるロックベアの腕が弾き開くほどの衝撃。同時に、岩と同等の強度を持つ身体へ、緑色のフォトンの刃が滑り込む。

 

 全身のバネから生み出される一閃。そして、返しに繰り出されるもう一閃。この二撃はロックベアの身体に×字の深い傷と、緑色のフォトン刃の軌跡を残していた。

 

 「ようやく、フォトンのタイミングが合った――」

 

 その二刃で、急所を斬り裂かれたロックベアは、全身の力を失い土煙を上げながら、ズゥゥンと仰向けに倒れて絶命する。

 

 「オレの勝ち……だ」

 

 カタナを鞘に納め、シガは倒れるロックベアに、そう告げると、シガも前のめりに倒れた。

 

 

 

 

 

 アークスは、フォトンに対して自力で適性を持つ関係上、オラクルの中でも特に重要視されている人材だった。そして、アークスは大きく三つの世代に分かれている。

 

 第一世代。40年前の巨躯戦争以前に現れたアークスの事を差している。当時の観点では、今では考えられない程の高いフォトン適性を持つアークスが多いとされており、三英雄と称されるレギアスも、この世代である。

 

 第二世代。特定の能力に特化したアークスであり、現段階で最も多いとされている世代。特定の能力に特化したことで第一世代よりも安定した能力を持つ。しかし、適性外の能力では並み程度しか実力を発揮できない。

 

 第三世代。あらゆる才覚が高域で安定し、どのクラスにも適性のある汎用性の高い世代。第二世代の突然変異とも言える存在で、20年前から少しずつ出現し始めた。

 

 シガは、適性上は第三世代だが、近接と法術に若干の偏りがある。

 そして、ゼノは第二世代のアークスであり、適性はレンジャーだった。ハンターとしての立ち回りは並ほどしか持ち合わせていない。

 

 「…………くっ――」

 

 シガは、まだ戦っているゼノの援護をするべく、何とか腕で身体を起き上がらせながら、視線を正面に向けた。

 

 途端、ロックベアの攻撃に、吹き飛ばれたゼノが近くの崖に叩きつけられる。その手から離れたソードが回転しながら地面に突き刺さった。

 

 「先輩……」

 

 ロックベアは未だ立っている。そして、ゼノは――

 

 「っと。やれやれ。ミスっちまったか」

 

 崖に叩きつけられたと思ったが、足の裏で衝撃を吸収していた。そして、何事も無かったように壁から地面へと着地すると、突き立ったソードの元に歩き地面から引き抜く。

 

 「ん? おお、シガ。よくやったな!」

 

 ゼノはシガの倒したロックベアを見ながら、褒める様に笑う。

 

 「せ、先輩! ロックベアが――」

 「こっちは、もう終わってるよ」

 

 その言葉がトドメになったように、ゼノが相手をしていたロックベアは、膝を着きそのまま前のめりに倒れて絶命していた。

 

 「最後の悪あがきを食らっちまってなぁ。だが、ダメージはゼロだから心配すんな」

 「……流石ですね。第三世代アークスとして、ハンターとしての適性を持つと言った所でしょうか」

 「いや、適性はレンジャーだよ。ちなみに間違いを指摘するなら、俺は第二世代のアークスだ」

 「え?」

 

 その言葉にシガは驚きを隠せなかった。第二世代のアークスは、自らの適性に特化した世代であり、それ以外のクラスでは並み以下の実力しか発揮できないからだ。

 にもかかわらず、レンジャーとしての適性を持つゼノは、シガよりも遥かに近接戦を熟知していた。

 

 「なんで、レンジャーではなく……ハンターを?」

 「まぁ、色々あってな。今は、お互いに生き残った事を良しとしようじゃねぇか」

 

 過去に何かあったのだろう。自分が追及されたくない事を探られるのは確かに良くはない。まぁ、オレの場合は追及する過去自体が不明なのだが……

 

 「お、来た来た」

 

 すると、外部からの通信を伝える音を聞き、ゼノは耳の通信機に手を当てて内容に集中する。

 

 『ゼノ、勝手に行かないでよ! オーラルさんから、二人一組で任務に就く様に言われてたでしょ!』

 「おせえのが悪いんだよ、エコー」

 

 ゼノは通信相手との会話を始めた。シガとは別の回線であり会話の内容的は解らないが、その口ぶりからして、相手は親しい相手の様だ。後、名前的に女性(おんなのひと)

 

 「それより、一人拾った。一度連れて、アークスシップに戻るつもりだ。お前は今どこだ?」

 『まだアークスシップ! もう……勝手に行って。早く戻ってきなさいよね! 後、遺体はちゃんと冷凍保存しておくこと!』

 「あ、そうだったな。いや、すっかり忘れてたわ」

 

 本来の任務である遺体の回収の事をゼノはすっかり忘れていた。とは言え、凶暴な大型原生生物を倒したので、間接的に惑星調査への貢献は出来ただろう。

 

 『顔か、IDが解るならこっちに送ってよ。帰って来るまでに検索しておくから』

 「エコー、言っとくが俺が拾ったのは死体じゃない。これから戻るから――」

 

 と、ゼノはシガを見る。彼は精根尽きたよう俯せで気を失っていた。




次はゼノ先輩のありがたい言葉。そろそろEP1-2も終わりです。

次話タイトル『Fear 抱えるモノ』
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