ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

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20.Fear 抱えるモノ

 「こ、ここは!?」

 

 シガは気がつくと仮想ルームにいた。何の変哲もない、機械的で平坦な正方形の広いフィールドは実戦を想定した仮想訓練の場。しかし、シガが感じた驚きはそこでは無い。

 

 「あらあらあら。シガさん、ようやくお目覚めですかあ」

 「リ、リサさん……一応、言わせてください」

 

 シガは両手を上げて、目の前のキャストの女性――リサに言う。彼女は武器のライフルを手に持ち、引き金に指をかけて、興奮しながら銃口をこちらに向けていた。

 

 「なんでしょうかあ? 早くしてください。リサはこれ以上我慢できませんよお?」

 

 この状況で彼女と、まともに意思疎通が取れるとは思えないが、それでも最低限の理性を残している可能性に賭けた。

 

 「撃たないでください!」

 「ちゃんと逃げ回ってくださいねえ!!」

 

 歓喜の声と共に引き金にかかる指に力が入った。

 

 

 

 

 

 「――ハァァァァ!!!!!?」

 

 絶叫と共に悪夢から目覚めたシガはそんな声を上げて弾けるように身体を起こした。そして、怯える様に当り見回す。

 場所は、キャンプシップ内の簡易休息室だった。窓から、格納庫内に固定される音と、衝撃が響き、アークスシップに帰って来たことを放送で告げてくる。

 

 「い、居ない。夢か……」

 

 安堵の息を吐きながら、凄い汗を掻いていた。何度か見る悪夢の一つなのだが、本当にあの人は冗談じゃすまないのだ。

 

 「――いててっ」

 

 身体を動かすと、胴体に筋肉痛のような痛みが走った。気を失う直前の記憶を思い返すと――

 

 「……グダグダだったなぁ。あー、くそっ! ボロ負けだ……」

 

 最後まで自分の足で立っていてこそ、勝利したと言える。いくら敵を倒したとはいえ、それは勝利ではない。フィールドからキャンプシップに戻って来て初めて、無事に任務を達成できたと言えるだろう。

 

 「お、丁度眼を覚ましたな」

 

 と、シガを起こしにゼノが扉を開けて声をかけてきた。

 

 「あ……」

 

 初対面で啖呵を切っておいて、最後まで彼に頼り切った事はとても申し訳なかった。彼の半分の働きも出来なかったのだ。新人(ルーキー)と言われてもしょうがないだろう。

 

 「お、ははん。なる程な、俺は何もできなかった~、とか考えてるんだろ?」

 「うぐ……」

 「はは。解りやすいな、お前」

 

 とりあえず降りようぜ。と、整備員と清掃員との入れ違いに二人はタラップを降りる。シガは痛む身体で起き上がりながらゼノの後に続いた。

 

 「左腕、義手だろ? それにその武器も、資料以外では見た事の無い武器だ」

 

 前を歩くゼノは気を失ったシガに肩を貸してキャンプシップに運ぶ際に、彼もつ装備の違和感に気がついていた。

 

 「い、色々と試験運用を任されてまして……」

 

 こうも鋭いと、正直に喋って良いモノか解らなくなる。

 

 「色々事情があるのは解るさ。だが、感心しない事が一つだけある」

 

 ゼノは決して振り向かなかったが、真面目な口調でシガに問う。

 

 「その左腕、攻撃も出来る装備なんだろ? なんでロックベアに追いつめられた時に使わなかったんだ?」

 

 彼は全てを把握して戦っていた。シガがロックベアと交戦している際も、危険になればいつでも割って入れるように、立ち回っていたのである。

 

 「どこで……左腕(これ)の事を――」

 「登録を確認した。とは言っても、義手って事しか変わらなかったから、担当したアークスに聞いたんだよ」

 

 ゼノは、キャンプシップの帰路の間に、シガの事をオーラルに確認していた。オーラルはゼノに裏が無いと信用し、他言を無用と言う条件で、情報を提供したのである。

 

 「それ、使えば大型原生生物なんて一撃で倒せる代物だろ? もう一度聞く。何で使わなかったんだ?」

 「……先輩には、解らないですよ」

 

 シガは自然と前を歩くゼノの背中から視線を逸らしていた。左腕(フォトンアーム)が使えなくなれば、本当の意味で何もできない無能者となってしまう。それだけは、絶対に避けたかったのだ。

 

 「ああ、解らんね。お前が、左腕(それ)を使わない理由がな」

 

 基本性能として、通常状態中でもアークスに必要なフォトン変換は行えている。しかし、戦闘状態として使用制限を超えてしまうと、基本性能も全て停止(ダウン)してしまう。

 もう、怯えるだけの一週間は嫌だったのだ。だから、今回は――

 

 「左腕(フォトンアーム)を使わなくても、戦えるようにならないと……オレ自身が……納得でないんです」

 

 今は左腕がある。だから、アークスとして活動できるのだ。力を持っているから、戦えるから、安心できるのである。

 

 「オレってとてつもなく臆病なんです。だから、万が一でも、左腕(フォトンアーム)を失う訳には――」

 「て、事は、お前は結局、その“力の源”も信用しきれていないわけだ」

 「え?」

 「だってそうだろ? 一回や二回、使ったくらいで壊れるのを恐れてるって事は、左腕(ソレ)を作った奴の事が信用で来てないってことじゃねーか」

 

 ゼノの発言は、シガにとって……どう返していいか、自分の考えが解らなくなった。

 オーラルさんの事は信用している。この左腕(フォトンアーム)だって、少しでも使える様に尽力してくれている。でも……オレは、本当はどうしたかったんだ?

 力が欲しかっただけなのか。それとも、怯える毎日に耐えられなかったのか……

 

 「力ってのは、持ってるだけじゃ意味がない。大事に宝箱にしまうものでもない。確かに必要な瞬間は必ず来る。だが、その瞬間に使い慣れない力じゃ、何も護れないかもしれないぜ」

 

 必要な瞬間……先ほどナベリウスで交戦した大型原生生物(ロックベア)。あの戦いで、本来なら使うべきだったのかもしれない。何よりも、オレ自身が誰よりも左腕を信用しなければいけなかったと言うのに……

 

 「馬鹿だ……オレ――」

 

 くだらない意地から、全てを台無しにしてしまう所だった。

 

 「その悔しさを忘れるな。どんな時でも諦めるな。忘れず、諦めずにいれば、いつかきっと、前に進める」

 「はい――」

 

 

 

 

 

 「あ、戻ってきた! ゼノ!」

 

 ゲートを通り、アークスロビーに戻ってきたゼノとシガは、そこで二人の人物に出迎えられた。

 一人はオーラル。シガは知る由もないが、隣に立つニューマンの女性がゼノに言い聞かせる為に援軍として呼んでいたのである。

 

 「声が大きいぞ、エコー。ほら、注目されてるじゃねぇか」

 

 24時間、人通りが途絶える事の無いアークスロビーでゼノはニューマンの女性へ、周囲から注目されている事を指摘した。

 

 「あなたも大丈夫? 通信では怪我をしてたって聞いたけど――」

 

 と、次にニューマンの女性はシガに視線を向けた。ゼノがアークスシップに帰路する間に、キャンプシップからシガの事を把握していたのである。怪我をして気を失っていると聞いていた。

 

 「おいおい、俺がついてたんだぜ? 骨が折れたくらいだよ」

 「ちょっと。それって、最悪じゃない!」

 「心配ねぇって。気を失ってる間に、キャンプシップの簡易メディカルセンターで治療してもらったし。な!」

 

 どうりで、まだ身体が痛いわけだ。確かに、骨折する度にアークスシップのメディカルセンターにお世話になるのは、アークス個人の評判としてあまり良くないのだろう。

 

 「この程度は、余裕ですよ!」

 

 まだ痛むが、やせ我慢してここは先輩を立てていく事にしよう。

 

 「ごめんね。無茶ばっかりさせられたと思うけど、もう大丈夫だから」

 「……お前な」

 

 と、二人の一連の流れから、よほど仲の良いペアであるとシガは察する。こっちのニューマンのお姉さん。確かに美しいし、素晴らしいモノをお持ちだが、フラグは立ちそうにないなぁ。

 

 「ゼノ。お前は最低限の自己紹介をしたのか?」

 

 ここに来て、一連の会話の流れと雰囲気を分析したオーラルは、感じた違和感の正体を確かめる為に尋ねてきた。

 

 「ちょっとゼノ。自己紹介もしてなかったの!?」

 

 ニューマンのお姉さんは、アークスどころか、人として最低限の礼儀を欠いていた事に呆れたように驚きの声を上げる。

 

 「ああ、そういや忘れてた。いやぁ、なに、ちょっと新人だった頃を思い出してな。すっかり後回しになっちまってた」

 

 と、ゼノはニューマンの女性側に寄って改めて自己紹介を行う。

 

 「俺はゼノっていうんだ。そんでもって、こっちのうるさいのがエコー」

 

 素気なく相方のニューマンの女性の事も紹介していく。

 

 「よろしくね。あと、うるさくないからね」

 「オレはシガって言います。よろしくお願いします、ゼノ先輩、エコー先輩」

 

 シガは、ゼノとエコーの両名と握手を交わす。

 

 「ゼノ、エコー。お前達は引き続き任務に向かえ。今度は途中経過の報告を忘れるな」

 「了解」

 「はい」

 

 二人はオーラルに言われて、軽く手を振りながらシガと別れる。そして、そのままキャンプシップの出港区画へ歩いて行った。

 

 

 

 

 

 「左腕(フォトンアーム)の調子はどうだ?」

 

 二人が去った後に、オーラルはマザーシップに戻る前に、シガの状況を把握するつもりで話しかけた。

 

 「まだ、使ってません」

 「そうか。今、戦闘機能が停止した場合でも、最低限のフォトン変換を行えるように、設定を考えている。今も物には実装していないが、それでも遠慮なく使って行け」

 「――はい」

 

 こんな自分の為に、オーラルさんは出来るだけ戦えるようにしようとしてくれている。先ほどまで、自分の事しか考えていなかった身としては恥ずかしくて穴に入りたい気分だった。

 

 「その設定が組み上がったら、すぐに実装する。それまでは、現状で我慢してくれ」

 

 それだけを告げて、オーラルは歩いて行く。通常の業務に戻るのだろう。

 

 「……オーラルさん」

 「なんだ?」

 「『フォトンアーム』を本格的に戦いに混ぜたいんですけど、相手をしてくれませんか?」

 

 シガは、持てる力を全て使って前に進むと決めた。その力には当然、左腕(フォトンアーム)も入っている。

 最初の訓練の時の様に基本的な使用方法と動作を学ぶ為では無く、本格的な戦いとしての左腕の運用を模索したいと思っているのだ。

 故に、事情を知っていて、実力もあるオーラルが最も適任なのである。しかし、彼も多忙だ。簡単に首を縦に振ってくれるとは思えない。ダメもとでの懇願だった。

 

 「個人的な訓練はできん」

 「……そうですか」

 

 こちらの都合でワザワザ時間を作る程、彼も日常に余裕があるわけでは無い。仕方ない、フィールドで人気のない場所を見つけて、とシガは結論を出す。

 

 「だが、集団訓練のタイミングなら問題ない。手の空いた時間に、希望する奴らを集めて戦い方を教示していてな。最近はヒューイかクラリスクレイスしか来ないが……」

 「! オレもよろしくお願いします!」

 「なら日程が決まったら、こちらから連絡を入れる。それでいいな?」

 「はい!」

 

 嬉しそうなシガの声を聞き、オーラルは今度こそ去って行った。

 やることは沢山ある。まずは今の自分の力で、どれくらいまで進むことが出来るのか、全てを出しきって計ってみよう。

 

 ここまで多くの背中(アークス)を見て来た。そして、弱いと自覚できた自分を克服する為に、シガは全てを賭して前に進むことを強く誓った。




 ちょっとだけ、あの人が登場しました。シガにとってすれば苦手な女性の一人です。
 次は、彼が出ます。ニューマンの彼です。

次話タイトル『Aptitude person それしかなかったから』
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