自由探索許可申請。
各惑星の特定の環境毎に存在するその申請は、特に目的も無く、その地域を自由に探索することが認められた証である。
全アークスのIDには、誰が、どこの惑星まで行けるかを詳細に記録してあるのだ。そのため、まずアークス達が目指すのは、今手の届く全惑星と、全ての地域の自由探索許可であった。
例外として、チームを組んだ際に、そのリーダーが行ける惑星と地域なら、チームメンバーは基準に達していなくても行くことが出来る。だが、結局は個人的にも、自由な行き来は必要になって来るので、全てのアークスは、最低限は全ての惑星と地域には足を踏み入れる事になるのだ。
「よっと」
無論、シガも例に漏れず、自由探索許可申請の為に三度目のナベリウスへ足を踏み入れていた。
相変わらず原生生物の数は多いが、心なしか地形にも慣れている事もあり、不利有利を上手く使って立ち回る。この辺りは、あの時の先輩アークスであるゼノの立ち回りを参考にしていた。
「それにしても、アザナミさん……本気なのかなぁ」
多くの原生生物に囲まれていても、シガの考えている事は目の前の戦いでは無く、別の事だった。
今から三日前。ゼノと共にロックベアと対峙した日の夕刻にアザナミに連絡を取ってカタナの基本モーションを提供した時の話。
常に納刀し、攻撃時のみ刃を走らせる構えを、アザナミはえらく気に入ってくれたのだ。
攻撃の幅も狭まる。毎回納刀しなければならない。など、欠点を上げた。しかし、彼女は、そんな事は問題ではないと言ってくれた。
基本的に大切なのは、初めてカタナを触るアークスでも容易に威力を出せるかどうかによるらしい。
通常の剣術の構えは、人によって個人差もあり、使えるようになるまでは本当に長い時間を要する。それこそ、達人、と呼ばれる領域までたどり着かなくては、絶えず武器が破損してしまう。
だが、居合の構えは、その段階で攻撃の予備動作に入っている。エネミーを確実に捉える速度と攻撃力を初心者でも簡単に引き出せるモノとなっているのだ。
常に納刀する事でフォトンの刃の維持にもつながり、絶えず最高の切れ味を保持し続ける事もできる。鞘を無意味なモノとせずに、受け流しや、防御にも使える。
距離の問題はフォトンアーツや、装備者のステップでもカバーできるとの事で、現段階では最も機能的であると評価してくれた。
そして、引き続き動作パターンの検証と、新しいフォトンアーツの試験も頼まれたのである。
敵は
ウーダンは慣れた相手で親しみさえ感じる事が出来るエネミーだ。逆にアギニスは、遠距離手段に乏しいシガではかなり手に余る敵である。
向かって来るウーダン達の攻撃を、ステップで躱しつつフォトンアーツ『フドウクチナシ』の衝撃波で動きを止めた。そして流れる様に、接近し抜刀。緑色のフォトン刃の軌跡は、ウーダン達を一刀のもとに斬り捨てて行く。
上空から、ウーダン達をしとめるシガの背を、隙であると見たアギニスが滑空攻撃を仕掛けてきた。
「っと――」
なんとなく、このタイミングで来ると思っていたシガは、滑空に合わせて身体を反るように躱しつつ、カタナでアギニスを縦に両断する。
「だいぶ、フォトンの集束タイミングが解ってきたな」
武器毎にある、フォトンが最も集束し、高い攻撃力を生み出すタイミングをシガはカタナで少しずつ確信を得ていた。戦えば戦う程強くなる。ある意味、どの惑星の生物にも無い、アークスならではの強さであると実感していく。
「よし、これで終わりっと」
シガは自由探索許可申請で回収するように言われた『ナベリウス観測素子a』を必要数手に入れた。これは、アークスが惑星の生態系を図る為に特定の原生生物に埋め込んだ代物であり、これの埋め込みと回収を定期的に行っているらしい。
「不自由だよなぁ。ある意味管理されてるって事か」
逃げて行くアギニス達を見ながら、本人たちは籠の中の鳥である事を自覚しているのか、少しだけ空しくなった。
「まぁ、ダーカーに浸蝕されて、生態系が滅ぶよりはマシか」
ダーカーを全て倒す事が出来れば、こんな装置は二度と必要ないのだろう。もしかすれば、アークスも必要なくなるのかもしれない。
「…………」
考えるとキリがないので、今は目的を達成したことを素直に喜び、帰るとしよう。
「わぁぁ! た、助けてー!」
そんな声が聞こえた。聞こえてしまったので、テレパイプを取り出した所で動きを停止する。
「……男……だな。まぁ、頑張れ」
と、起動スイッチを押そうとした瞬間だった。回転したガロンゴが側面に直撃する。
「ごはぁ!?」
完全に隙を突かれて轢かれる形になったシガ。ガロンゴが転がってきた方から、逃げる様にアークスの青年が走って来た。
精一杯逃げてきた彼だったが、追い越されたガロンゴに進行方向を塞がれ、追われた後続に挟まれるような形となる。
「か、囲まれた……もうだめだぁ……」
ヘタッと、その場で座り込んでしまい、己の死を覚悟した。
「痛てぇな! この野郎どもがぁ!!」
その言葉と共に、瞬時に戦闘状態に移行した
青年の縦長の帽子を両断する程の切れ味を持つ一撃は、範囲に入っていた原生生物たちを瞬く間に両断。そして、怒りの感情に任せて立ち上がったシガに、その場の全ての生物(アークスの青年も含む)が怯えた視線を向ける。
「はわわわ」
その凄みに気落された原生生物たちは、蜘蛛の子を散らす様に逃げて行き、その場に残ったのは怯える一人の青年だけだった。
「ふしゅぅぅぅぅ」
怒りに任せた一撃は、瞬く間に敵を霧散させた。久しぶりに瞬間的に発動したフォトンアームは問題なく機能した。
「ふぅ……オーラルさん、いい仕事してるぜ」
敵が消えて、怒りの矛先が居なくなったところで冷静になった。と、視界の端にこちらを見て小鹿の様に震えるニューマンの青年が居た。なぜか、頭の上には半分に両断された背高帽が乗っている。
「あ、悪い悪い。帽子、壊しちゃったなぁ」
腰を抜かしている青年へシガは右腕を差し出して、謝罪を入れた。
「あ、いえ……ぼくも、考え無しに逃げて回っていたので……」
話が分かる人間だと思ったのか、青年はシガの手を取って起き上がる。
「あんた、フォースだろ? 男のフォースは始めて見たよ」
「え、はぁ……」
「逃げてたみたいだけど、なんか訳ありか?」
と、シガは彼が逃げてた様子から自分と相性の悪い敵と遭遇したのではと推測した。それに、前衛職と組んでおらず、
「いや……ぼく、あんまり戦うのは好きじゃなくて、ですね……出来るなら戦わずに済ませたいなぁ……と」
「え? じゃあ、なんでアークスに?」
確かに、性格的にも気弱な雰囲気が感じ取れる。数匹の原生生物に追われて逃げていた状況から、擬態(理由があって本来の実力を隠す行為)でもないのだろう。
「たまたま適性があったのと……人気があったからそうしただけで……」
アフィンといい……なんだが、一般的な理由を持たない珍しいアークスと良く遭遇する気がする。
「だけど、なっちまった以上、戦うのは最低限の義務だぜ? 逃げでもなんでも良いから、自分の身くらいは護れないと」
先ほどの逃走状況から、ニューマンの彼は身体能力でも普通のアークスとは大きく差がある。まぁ、適性が法術主体のフォースであるのなら仕方がないと言えるが。
「…………」
ニューマンの青年は周囲に死体となって転がる、シガの一撃で絶命した原生生物を見やる。
「弱肉強食だから、仕方ないけど。部外者とは言え、オレたちもその連鎖に割り込んでるんだからさ」
正直、性格的に気弱な印象を受ける彼はこういう荒事に向いていないのかもしれない。アークスとして、身体的に素質があっても、誰もが精神的な素質があるとは限らないのだ。
「あの……どうすればエネミーと戦わずに済むと思いますか?」
「お、お前なぁ……」
突拍子もない彼の発言にシガは呆れるしかなかった。今の発言を、ゼノ先輩が聞いたら、その場でぶん殴られていただろう。
「はぁ、そんなに戦うのが嫌なら、アークスを止めればいいだろ? 適性があっても、身の丈に合わないなら、いつか取り返しのつかない大怪我をするぞ?」
シガ自身もアークスとして活動を始めてひと月も満たない新人だが、それでも戦う意味と危険な事であるのは知っている。そして、今彼に言った自分の言葉は、ロックベアの戦いの後に、自分自身に言い聞かせている言葉でもあった。
「でも、ぼくにはこれしかなくて……他には何も出来なかったけど、なぜかアークスになれる適性だけはあったみたいで……」
曰く、アークスにしか成れなかったから、彼はこの道を選んだ。しかし、戦うのは怖いらしい。変な矛盾の狭間に板挟みにされた結果、現在のような形が出来上がってしまったと言う所だろう。
「まぁ、エネミーと戦わずに済むのは無理だろ。どうにかして、その辺りは気合で何とかするしかない……と思う」
最後の方はシガも自身が無かった。自分も結構な遠回りをして今の形に落ち着いたのだから、まだまだこれから強くなっていかなくてはならないと自覚している。
「まぁ、でも……あんたの気持ちも解るよ」
「え?」
考え方は違っても、シガ自身も今の結論に至るまではずっと怯えていた。力の無い自分が怖くて、
「名前、教えてもらっていい?」
「え、ぼくは……テオドールって言います」
急に名前を聞かれ、きょとんと、反射的にニューマンの青年――テオドールは答える。
「オレはシガだ。偉そうな事を言ったけどさ、オレもあんたと同じだったんだ。だから、その気持ちは、よ~くわかるよぉ!」
戦わずに済めばそれに越したことはない。しかし、そうはならない以上、やっぱり戦うしかない。
「実はさ、知り合いが定期的に訓練をやってくれることになってるんだよ。これ、日程と場所ね」
と、シガはテオドールの端末に情報をメールで送る。
「せっかくですけど……ぼくは……」
「ああいいよ、参加は自由だから。けど、計りなりにもアークスになったんだ。きっとテオドールとは正反対で、アークスに成りたくても成れない人だっている」
「…………」
「もし、アークスとしての責任みたいな事を感じ取れるなら、少しでも出来る事はやっておいて損はないと思うぜ」
そう言いながら、シガはテレパイプを展開した。彼自身の目的は達成していたので、もうナベリウスには用はない。
「男は強くなくちゃな!」
ニッとシガは親指を立てて笑う。その笑顔は、今までテオドールが向けられていた他者からの嘲笑といった下卑た笑顔ではなかった。本当に、一緒に強くなろう、という自分を対等として見てくれているモノである。
「あ、ありがとう。シガ!」
「おう。待ってるぜ、テオドール!」
そう言いながらシガは片手を振り上げながらテレパイプの中に消えた。その場には彼が展開した転移ポートが残っているが、しばらくすれば役目を終えて消えるだろう。
すると消える前に転移ポートが再び起動する。テオドールは頭に疑問詞を浮かべていると、シガが戻ってきた。
「あー、悪い。その帽子な、ちゃんと弁償するから」
と、律儀にそれを言いに戻ってきた彼に、テオドールは思わず笑みを浮かべた。
彼です。テオドールです。後にガッツリメインに関わって来るので、交流をば。
次はニューマンの彼女がでます。後、ついでに彼も出ます。
次話タイトル『Conclusion ナベリウスの地質』