ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

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25.Worries お悩み相談アークス、シガ

 「――――」

 

 ショップエリアのステージ前広場に設けられたベンチにて、シガは魂を抜かれた様に、口を開けて眼を点にして座っていた。

 フィリアとの件は、オーラルやマトイの静止もあり、なんとか許してもらったが、次はありませんよ? と笑顔で言われて、番人の存在を再確認する事となった。

 

 マトイはまだ検査や治療中の身であり、早期に健康体であると判断され自力でアークスとして活動できるようになったシガとは違う。倒れた件と言い、まだ体調は万全とは言い難い。だから、もし彼女に好意を持っていても、その辺りの容体がしっかりしてからだと、面と向かって正論を言われた。

 

 「――――頭を撫でた事は黙っとこう」

 

 なんとか、男をやめずに済んだ。今はソレだけでかなり安堵している。

 

 「おっ、こんにちは!」

 

 と、気分が乗らず、意気消沈しているシガに陽気に話しかける声が聞こえた。

 

 「ん? ウルクさん」

 

 目の前には、手を上げながら気さくなに歩み寄ってくるニューマンの少女――ウルクの姿があった。

 

 

 

 

 

 「元気そうで何よりだね」

 

 相変わらずの明るいテンションは、どんよりしたシガの雰囲気をたった二言で吹き飛ばしてしまう。

 

 「まぁ、肉体面では元気だけどね。精神的にはローテーション気味」

 

 今は、正規の任務で、ナベリウスでは凍土地区へ進入を許されているので、しばらくはナベリウスを中心に活動しようかと思っていた。

 なので、今日は何かナベリウスで受けられる、個人的な依頼でもやろうと思ったが、気分が乗らないので帰ろうかと考えている。基本的、ソロで任務をこなす関係上、モチベーションが保てないと危険であるとも理解している。

 それに、先ほどの番人(フィリアさん)に植え付けられた恐怖を早く遠いモノとしたい。一晩寝れば少しは今日のフィリアさんから与えられた恐怖は薄れるだろう。

 

 「そうなんだ? アークスって危険と隣り合わせなんでしょ? だったら、こうして五体満足で無事に話が出来るのは良い事じゃない」

 「そうだね」

 

 オレの左腕、義手なんですけどね。

 

 「まぁ、安全圏にいるわたしの言葉じゃ、説得力は無いかもだけど……」

 

 また、ウルクらしくない気弱な表情だ。無理に笑顔を作っているのが、さほど親密でないシガから見ても察せるモノだった。

 

 「いや、それで良いと思うよ」

 「そう?」

 

 オレ達(アークス)が戦って、一般役職(そっち)が生活圏の維持を行う。もし、全部が全部、アークスであり生活圏のレベルが落ちてしまえば、補給や休息もままならない。

 人類が文明人である限り、どうしても需要と供給は必要になって来るのだ。

 アークスの持ち帰った情報を元に、新たな武器や防具がつくられ、それは一般社会にも浸透する基礎技術となる。そして文明の発展につながり、アークスにも質の高い支援が行えるようになる。

 

 「心から安心できる場所へ帰る事が出来るから、アークスは前だけを向いて戦えるんじゃないかな? もし、一般市民とアークスの数が逆だったら、惑星調査なんてやってる場合じゃなかったかもね」

 

 シガも最近は、自室(マイルーム)で休む時は左腕(フォトンアーム)を外す事が多くなった。自分自身が実感できる程の、確かな実力と繋がりがあると知った事が大きな要因だ。

 

 「そういう役割分担だもんね。そっか……わたしは、何をしようかなぁ」

 

 悩める若人が多いな。オーラルやヒューイは例外として、その辺りの悩みは人類共通の意志なのかもしれない。かく言うオレも、数週間前は悩みまくっていた訳だが。

 

 「食物管理……は向いて無さそうだし。製品開発……もなんだか微妙だなぁ」

 

 しっかりしてそうな様子だが、意外にも彼女はまだ自分の進みたい道が定まっていなかったらしい。前に会話した時の事と考えてみると、アークスを目指していたらしいのだが、それが絶対に叶わなかった。それでも、“アークスになりたい”という未練を断ち切ることが出来ない様だ。

 

 「アークス関連の職員は?」

 「ん?」

 

 シガは、ふと、よくフィールドで物資を運んでくる輸送機や、正規依頼を発行するアークスカウンターの人たちを思い出し提案する。

 

 「いいね! うん! それって凄く名案!!」

 

 今まで思いつきもしなかったのか、目から鱗! と言いたげにウルクのテンションが一気に上がった。シガとしては、何気なく思いついた事だったのだが、結果としては良い方に事が運んだようだ。

 

 「まぁ、知ってる人からは未練がましいって思われるかもしれないけど……ずっと憧れてたからね! 少しでも関わりたいと思うのは、当たり前の事だよね!」

 

 素質が無い。だから、ずっと目指していたモノを諦める。それが生きていく上で妥協や挫折(ざせつ)は必ず味わう洗礼だ。それを乗り越えられるかどうかは本人の資質による。一旦、見えていた道を断ち切って新しい道へ足を進む事はとても勇気のいる行為だ。

 

 しかしウルクは、そんな挫折(こと)は無かった! と言わん限りの前向きさで、先に進もうとしている。なんというか、オレが知っている人たちとは、まったく違う特性(タイプ)の人間だ。

 

 「たぶん、君みたいな人が『オラクル』には必要なんだと思うよ」

 

 彼女なら、どんな仕事でも妥協する事は無いだろう。そう言った意味では、優秀な人材としてアークスに近い仕事が出来る可能性は必然と高くなってくる。

 

 「もちろん! 絶対に、君が居てよかった、って働き先でも言わせてみせるよ!」

 

 良く見る彼女の笑顔を見て、こちらも少しだけ元気をもらった気がする。今日は、自室に引っ込むつもりだったが、やっぱり身体を動かして充実したと思える一日にしよう。

 

 「まぁ、アークスは困った人を助けるのも仕事の内だからさ。便利屋みたいに見られてもしょうがないって思ってるし……」

 

 少しでもウルクが、そちらへ関心を持てるようにアークスの不恰好さを口にした。

 ほとんどのアークスは個人営業の傭兵みたいなものだ。軍隊でも無いし、統率も部署も存在しない。中では、アークス同士が集まって“チーム”なる組織がいくつか存在するが、それも殆どが個人経営のモノばかり。規律を持って活動するのとでは訳が違う。

 

 例外として、アークス本部の正式の緊急依頼では、多くのアークスによる作戦行動の展開が義務付けられている。しかし、それも任務が始まれば殆ど個人戦のようなモノだ。

 

 「ふーん。あ、そう言えば困ってる人いたよ? なんかずっとため息ついててさ」

 「へー、誰?」

 「ほら、あそこ」

 

 と、ウルクの指差す先に、一人のキャストがベンチに腰を下ろしていた。

 

 

 

 

 

 「……なんじゃ、お主は」

 

 ウルクの言う、困っている人というキャストへシガは声をかけた。一人で、ため息を突いていても問題は解決しない。そう言う意味でも、声をかけたのだが、当然の様に歓迎されていない口調だった。

 

 「どうも。アークスのシガと言います」

 

 それでも、誰かに話す事で楽になることもある。声質的にそこそこ年配の方のようなので、数時間の愚痴でも付き合うつもりで会話を始めた。

 

 「ふん、好きに笑え。この刀匠ジグ、齢75にして既に枯れた様だ」

 

 初見の相手に、好きに笑え、とは……このご老人、心の闇はかなり深そうだ。

 

 「えーっと。刀匠、という事は武器製造の方ですか?」

 「正式では無い。ソレに、最近は燃えんのだ……」

 

 なかなか話が進まない。シガは、少ない会話から少しでも彼の生い立ちを推測する。

 

 刀匠。ということは、鍛冶職人。つまり武器の開発を行っているのだろう。

 正式じゃない。個人経営している鍛冶職人と予想。

 

 二つの単語を繋げて結論を出すと……特注(オーダーメイド)専用の武器職人と言った所かな?

 

 「燃えない?」

 

 そして、唯一解らない言葉の意図を何気なく尋ねる。

 

 「うむ。かつては泉の様に湧いてきた“創造心”というものが、奮い立たん」

 

 オーラルさんの勤務するマザーシップには、武器製造の機関も存在しているが、彼はソレとは別の仕事人。組織の中ではなく、個人で武器を一から創り上げる腕前を持っていると考えれば、今の言葉の意味はなんとなく理解できる。

 簡単に言うなら、彼は不調(スランプ)なのだ。

 

 「40年前の決戦時は心震えた……10年前の死闘もそうだ! 大規模な戦いは情熱をかき立てる!!」

 

 急に力強く拳を握り、力強く振り上げる。

 彼の年齢は75歳。定期的に整備と点検を行っているキャストに、老衰があるかは不明だが、生身ではそろそろ腰を落ち着かせて余生を考える年代で、まだまだ現役で行こうとしているらしい。

 

 「だが、戦線の鎮静化に伴って、わしの情熱も冷めて行った……」

 

 と、少しだけ加熱した様子から一気に鎮火していくように、しぼんでいく。

 弟子でも居れば、そうはならないのだろうが……自分の腕前一筋の職人は、中々新しいモノを取り入れるのは難しいと小耳にはさんだ事がある。そうなれば、彼の言う“創造心”も自ずと枯れてしまうだろう。

 

 「世間には色々ありますよ? 少し落ち着いて、最近の武器(モノ)を眺めて見たらどうです?」

 「……お前さんの持っとる武器。それは『サンゲキノキバ』か?」

 

 ジグは少しでもシガの言葉を実践しようと彼の武器を見て一言つぶやく様に尋ねた。

 

 「え?」

 

 対するシガは、アザナミに渡されたカタナを見る。試験武器であるため、現在はオラクルに数本しかない武器なのだ。だからこそ、この(フォルム)を見て“カタナ”以外の名前が出た事に驚いた。

 

 「『サンゲキノキバ』って……なんですか?」

 「なんじゃ違うのか? 一言で言うなら、“妖刀”だ。確か……見なくなったのは10年前からだったか。『世果』と双璧を成す武器であり、かの武器が悪用された際の抑止力として創られた。じゃが、高い能力と引き換えに、適合者でも装備者を数年以内に死なせると言う不具合があってのう。曰くつきの武器で、10年前のアークスシップ襲撃事件の際に紛失しておるらしい」

 「…………10年前」

 

 ジグの言う10年前に起こった事件は、シガも知っていた。

 あるアークスシップがダーカーに襲撃されて、多くの市民が犠牲になった。しかし、当時の【六芒均衡】の一人、二代目クラリスクレイスが命を犠牲にして、ダーカーを倒したおかげで、他のシップには影響が無かったと記録されている。

 

 「……シガと言ったな。悪いが、お前さんの言う事はわしにも解る。確かにこのままではいかんという事も。しかし、中途半端なものは作りたくないと言う意志の方が強い」

 「そうですか。うーむ。それなら今、オレに出来る事ってないですかね?」

 

 とりあえず、せっかく知り合いになれたのだ。今この場で依頼のような形で何かできないかを尋ねる。

 

 「ふむ……そうだな。もし、わしの情熱を滾らせるような“何か”を見つけたら持ってきてほしい。わしの“創造心(インスピレーション)”を刺激するような……武器とかな。なに、報酬はちゃんと払う」

 「了解です。それと、報酬はいいですよ。敬老精神溢れる青年からの、ちょっとした孝行だと思っていただければ」

 

 シガはなんとなく、ジグの事を初対面の他人の様には思えない。

 彼の声を聞けばどこか安心できる様な、なんとも言い表せない感情から無償で協力する事を告げた。




ジグさんは、意外と重要キャラです。次はナベリウスに降下して、彼女達と再会します。

次話タイトル『Second mission 不気味なナベリウスへ』
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