「凍土っすか?」
「はい。あれから、詳しくシガさんに集めてもらったデータを調べたんですが、比較する為にも、凍土のデータも必要そうでして……」
シガは、近日の情報を集める為に適当にロビーとショップエリアをうろうろしていた。情報といえば自称情報屋の双子姉妹アークス『パティエンティア』なのだが、悲しい事に彼女たちの連絡先は知らない。
仕方なく、足と耳と端末で、最近のアークス内の情勢や、どの惑星で何が起こっているかなどの情報を集めていた。そこに、前に依頼を貰ったロジオと再び顔を合わせたのである。
「シガさんは、こちらの事情も知っていますし、余計な説明は省けるかと思いまして」
ロジオの依頼は惑星ナベリウスの地質調査である。前に依頼を引き受けた関係から、今回も声をかけられたのだ。シガも、前の依頼を受けていた事もあって、出来るなら納得いくところまで協力したいとも思っている。
そこそこ、オレもプロ意識が出て来たか……
と、自分で自分を褒めると言う、気持ち悪い構図が出来ている事にシガは気づいていなかった。
「いいっすよ。凍土への進入許可は下りてますし、前のロジオさんの依頼は、なんだかスッキリしない形で終わっちゃいましたから。最後まで付き合いましょう」
そう言いつつも、それは単なる個人的な心得のようなもの。けれど、シガとしても、ロジオの依頼は気になっているのだ。
「そもそも、あの温暖な森林を抜けると、いきなり凍土が生まれていること自体がおかしいんです。現に目の前に存在するので認めなければなりませんが……それでも納得するには理屈さえ思いつかない。この疑惑に気づいた者は必ず居たハズなのに、誰も名乗りを上げた事が無いのもおかしい――」
自覚しない内に学者特有の考察モードに入っていたロジオは、ハッ、と我に返る。
「すみません。つい考え込んじゃいました」
「とにかく、凍土を調べれば良いんですよね? 方法は前と同じで?」
「はい。お手数をおかけしますが、よろしくお願いします」
これだから、アークスは人気の職業なのかもしれない。
気落ちしていても、頼ってくれる人たちがいる。だから、自分の悩みなんて些細な事だと感じて、常に前を向いて歩ける。他の人の為になることを自ら進んで行えるから、何よりもそこに嬉しさを感じるのだ。
「まぁ、オレの場合は……他人に話せないような事だけど……」
本日の気落ちした理由が、マトイにスキンシップしようとして
『シガさん。聞こえていますか?』
「っと、はいはい。聞こえてますよ」
今回は、ロジオ自身も直接映像を見たいとの事で、シガは耳に特殊な映像装置を装着して、ソレを右眼の前に展開していた。当然、通信機込みの機器である。
『改めて、依頼を受けていただいてありがとうございます。データはこちらでモニターしているので、とりあえず奥地まで進んでください』
「了解っす」
『知っていると思いますが、森林を抜けると凍土です。過酷な環境で自ずと原生生物を強靭な進化をしていると思います。くれぐれも気を付けて』
「
4度目のナベリウス。だが、最初の頃とは経験も装備も違う。シガは凍土へ向かう最短距離を選択すると思わず駆け出していた。
凍土。森林を抜けると、不自然に広がっている温暖で過ごしやすい環境とは正反対のフィールドだ。
その名の通り、極寒の環境が特定の地区に集中して創られた、白銀の世界。フィールドは見渡す限り白一色であり、降り積もった雪は慣れていなくては進行に弊害をもたらす。更には戦闘でも優位性を左右する程の積雪と極寒に適応した、この地に存在する原生生物は、ロジオの言う通り高い体力と保温性を重視した体皮や毛皮を保持している。それらは自ずと強靭な防御手段として確立され、森林のエネミーとは別種として考えられるなど、一線を画する存在だ。
そして、この辺り一帯のボスとも言える原生生物は、熟練アークスでも進んで遭遇したくないと言わしめるほどの強者でもある。
「はーい! アークスいちの情報屋! パティちゃんですよー! 本日も絶賛営業中!」
しかし今回、凍土に入ったシガが最初に足止めを食らったのは、環境でもエネミーでもなく、双子の姉妹アークス、パティとティアだった。
「お、久しぶり」
分かれ道を通った際に、丁度、視界に映ったシガへ、喋りたがりのパティが再び声をかけたことで邂逅となったのだ。ちなみにロジオは、少し調べものがあると言って席を外している。
「こんにちは、シガさん。急に声をかけてすみません」
「名前を覚えててくれたの? なんだか嬉しいね」
妹のティアが、申し訳なさそうにお詫びを入れてくる。シガの眼に装着された機器を見て依頼の最中だと思ったようだ。
「久しぶりだねー! あたしも覚えていたよー!」
「いえーい!」
と、シガとパティは軽いテンションで、ハイタッチする。ウルクといい、胸の大きい子は元気が良いなぁ。
「情報屋と言っても、大した情報を掴んでこなかったんですけどね」
ティアは横目でパティを見る。だがパティは、そんな事は知らん! と言いたげに見つめ返した。
「過去は振り返らない!」
「あっそ」
相変わらずの二人の調子に、シガも再会できたことは嬉しい誤算である。今度こそ、連絡先を――
「ああ、でも、休憩スペースでのんびりしてるおじいさんと、仲良くなったりしたんだよ! 昔は武器とか作ってたりしたんだって!」
「おじいさん?」
パティの言う“おじいさん”は休憩スペースにほとんどいるらしい。あの辺りの高齢者と言えばシグしかいない。一度彼と話せば、武器を造ってた、というキーワードでだいたい察せるだろう。
「パティちゃん……情報屋名乗ってるくせに、なんで知らないの?」
「興味ないから!」
妹の疑問を、ズバッと一刀両断した姉にため息を吐きつつも、知る人なら当然と知っている情報をティアが補足する。
「“おじいさん”は、刀匠ジグ。40年前くらいから、武器一筋の頑固な堅物さんなの」
「最近は
ティアの補足に、更にシガが補足する。彼女たちがどのタイミングで
「その噂は前から色々な方面で愚痴ってるみたい。けど腕前は本物。彼が造った武器は、いずれ『創世器』にも至るだろうって言われていた」
『創世器』。確かジグとの会話にも少しだけ出て来た単語だ。
「『創世器』ってなんだっけ?」
「……『創世器』?」
パティとシガはそれぞれ頭に疑問詞を浮かべて顔を見合わせる。その様子に、ティアはシガに対してだけ、驚いたように見ていた。
「いやぁ、話の端には聞いた事があるけどね」
「あたしは知らない!」
てへ、と誤魔化す様に後頭部に手を当てて告げるシガと、当然! と言い切ったパティ。
「はぁ~。パティちゃんはともかく、シガさんまで知らないなんて……」
「はは。必要の無い知識は、少しずつ追いやられていくものだ」
「そうそう!」
二人にティアは嘆息をつきつつ、仕方なしと言いたげに簡単な説明を始めた。
『創世器』。現在、アークスが行使する武器の雛型となった武器である。
第一世代アークスが現れた当時、ダーカーと戦う上で最も有効となる武器の使用が検討され、確実に敵を葬るために、不恰好ながらも強大な出力を実現したのだ。
桁違いの性能を持ち、ソレを扱うアークスは単騎で多くのダーカーを殲滅するほどの戦力として確立される。しかし、その武器を扱える者はごくわずかだった。
それが唯一にして最大の欠点であり、最高峰の能力を持つ者にしか扱えなかった事が大きな問題となったのだ。
武器は作っても、それを扱う者が居ないのなら意味は無い。根本的に敵の殲滅を追求し続けた結果、最も必要な担い手の事は考えられていなかったのである。
「採算度外視の
「へー、そんな武器を作れちゃうんだ! すごいおじいさんだったんだね!」
そう言えば、ジグのじいさん、『創世器』の事を良く知っている様子だった。やっぱり、それなりの腕があると、結構な物に関わって来るのか?
「あのね、パティちゃん。あの人は作ってないからね」
「細かい事はいいの! シガさんも勉強になったでしょ? そっかー、そんなに凄い人なら、あたし用の武器とか作ってもらおうかな!」
「だから、今はやる気が無いって……」
シガも少しだけ、武器に関しては興味が出ていた。今自分の使っているカタナは、少数量産の武器であり、ブレイバーが確立されない以上、公式に支給される事はないのである。
武器の磨耗は、必然として今後の課題だ。色々とデータを集めているが、人もなかなか集まらないと言う事もあり、試験データの収拾は遅々として進んでいない。
その上、武器まで疲労で低下してしまえば、確かな性能をデータとして収集するのが困難になるだろう。その辺りでジグのじいさんに相談できないか考えてみよう。
とは言っても、ティアが言った通り、彼のやる気の無さが最大の障害になりそうだが。
「よーし! そうと決まれば、ティア! さっそく、おじいさんの所に行くよ!」
「え? ああ、ちょっと! 人の話を聞け! バカ姉!」
と、ほんの少し考え事をしている間に、『パティエンティア』は展開したテレパイプに吸い込まれるように去って行った。
「…………あれ? 連絡先……聞き忘れた」
取り残されたシガは最も重要な事を思い出し、次に会ったら最初に情報交換しよう、と頑なに誓った。
はい、またもらえませんでした。お約束です。
対して必要な交流も無かったので、ストレートに任務へ向かわせました。
次は、オーラルと六芒均衡の関わりです。
次話タイトル『Top agonizing 訓練・ザ・六芒均衡』