アークスシップ。
アークス達の拠点である全長約70Kmの宇宙船。1隻に約100万もの人が生活している。内部には、上下二層で構成されるアークス・ロビーが存在しゲートエリアとショップエリアが展開されている。市民が生活する居住区、海洋地区、農業地区などが存在し都市が丸々中に納まっているようなモノである。
そして、惑星調査に向かう為の艦――キャンプシップ多数格納していた。
「これが、ロビーか。結構広いな」
アークスで溢れるゲートエリアで隻腕の青年が、椅子に座って物珍しそうにロビー内の風景を眺めていた。その視線には様々なアークスの姿を捉えて行く。
中でも、露出の高い服装をしている女性の姿をまじまじと眺め、考える様に顎に手を当てる。
「ほほう。中々の良景ですなぁ」
患者用の服に、まだ歩くのが不確かなため松葉杖を使って移動していた。
意識を取り戻して2日。リハビリと最低限の常識確認をフィリアと行っていたが、病室では暇になったので、こっそり抜け出してきたのだ。
「とは言っても、やっぱり見覚えは……ねーな」
身体機能は、ある程度は回復してきた。フィリアさんによると、フォトンによる治療で治癒力を上げているとの事。
おかげで、2日でベッドから起き上がり、自力で脱走できる様になっていた。だが、相変わらず記憶は戻らない。
「ロビーに出れば、知り合いにでも会えると思ったけど……そう簡単には行かないか」
活動していたのは、この第二シップ。アークスが多いロビーで、妙に目立つ患者服を着て座り込むことで多少の注目を集めたのだが、知り合いと思しき者は現れなかった。
「にしても、きわどい服装のアークスが多いな。戦ったら脱げるだろ」
評論家の様に、眼前を通り過ぎて行くきわどい服装をした女性アークスをまじまじと眺めていると、
「君、ちょっと話を良いか!」
目の前に青色の髪に目元にペイントをしている男が腕を組んで佇んでいた。
あ、やばい。その程度の常識は知識として持っているんだ。だから、目の前に現れた男が、明らかに悪い奴を検挙する雰囲気を漂い出している所を見ると、
「通報されたか……」
「元気か! 陽気か! 困ってないか!?」
単語を叫ぶ度にポーズを変える、ある意味、シガ以上の変質者と見ても間違いではない。だが、目の前の彼は、このテンションが標準であるとアークス全体に知れ渡っているのだから、変質者ではないのだ。
「オレことヒューイ、参上! ふははははははっ!」
「あっはははははは。それじゃ」
シガは適当に調子を合わせて笑うと、松葉杖を突いて立ち上がる。そして、そそくさとその場から逃げる様に移動を始めた。
「ちょっと。ちょっと待てぇい!」
ガシッ、とヒューイは松葉杖を掴む。思わずこけそうになった。
「っととと」
「おお!? すまない。転ばせるつもりは無かった」
「まぁ、転んでないから良いっスよ。それじゃ」
「ああ。じゃあな……ってちがーう!!」
なんとなく、アホっぽそうなアークスだったので逃げ切れそうな雰囲気だったが、無理だったようだ。
「見たところ、なにやらお困りの様子だな! だが安心するといい! オレが来たからにはもう解決だ! さあ、何でも言ってみたまえ!!」
「んー、特にない」
素気なくそう答える。すると意外にも、
「ん? ……え、本当にないのか? うーん、まいったなぁ」
聞き分けが良かった。
ヒューイは、さっきの炎上していた熱血ぶりが、急にしぼんだようにローテンションになっている。
「何をしている?」
そこへ、シガの病室へ向かっていたオーラルが、騒ぎを聞きつけて何事かとその場へ参戦した。
「おう! オーラル!」
「あ、ども」
それぞれ、適正温度でオーラルの出現に反応した。
「ヒューイ。クラリスクレイスの件で、レギアスが捜していたぞ? 殺される前に行け」
「ぬお!? まさか、最近の報告を怠ったからか!? いや、ちゃんと報告書は書いたハズ……」
「字が汚くて読めないそうだ。得意の人助けをしてやれ」
“人助け”。その言葉に強く反応したヒューイは、自分の存在意義はこの場では無く、レギアスの元にあると判断した。
「レギアスがオレの助けを求めるなど、異常事態に違いない!! それでは失礼する!!」
脇目も振らずに走り出す。火事みたいな奴だったな。とシガが思っていると、数メートル進んでから、急に引き返してくる。
「おっと、すっかり忘れていた。これは、オレのアークスカードだ。何かあれば、気軽に呼んでくれ! じゃな!!」
と、後塵に煙を巻き上げながらヒューイはレギアスに怒られに行った。
「……歩けるようになったのか?」
「見た通り」
シガとオーラルは、ヒューイの事など居なかったように会話を始めた。
「にしても、アークスって結構多いんスね」
「ここは、アークス専門のロビーだ。一般人は殆ど居住区で暮らしている」
オーラルは、ロビーの二階から一回を見下ろす場所でシガと話していた。彼は、松葉杖を壁に立てかけて、下を通過する女性アークスを眺める。
「聞いてもいいスか?」
「なんだ?」
シガは視線を変えずに隣にいるオーラルに問う。
「アークスってのは、皆、ヒューイみたいな奴なんスか?」
先ほど彼から貰ったアークスカードを眺めながら尋ねた。人物紹介欄にはびっしりと自己紹介が書いてあるが、言いたい事が無茶苦茶だった。
「彼は一種の特異点だ。本来のアークスは、普通の人間と変わらない」
「ソレを聞いて安心した」
アークス全てが、あんなよく解らない熱血であるのなら、このロビーも相当うるさくなるだろう。
「ぷっ」
「どうした?」
ロビーにヒューイが溢れた様子を想像して笑ってしまった。
「順調に回復している様だな。その分だと、一週間後には退院できるか?」
「相変わらず、記憶は戻らないっスけど」
知り合いも解らない。アークスである事は確定のようだが、持っていたIDは壊れて使い物にならなかったらしい。解っているのは表示されていた情報だけ……すなわち名前とアークスであったと言う事。
片腕を失い、フォトンの適性も殆ど無いモノである。人としての生活に苦労する現状だと言うのに、今まで活動していたであろう、アークスとしての適性も完全に失っていた。
「必要なら力を貸してやろう。とは言っても、片腕で出来る職業は限られるが」
オーラルとしては、彼の同行は逐一確認しておきたかった。記憶を失っているだけなら、公共の警察機関に任せても良い。だが、彼は、ダークファルスの反応があった大雨の日にナベリウスで発見されたのだ。何があったのか、失われた記憶に間違いなく、その情報が存在しているだろう。
「あー、その事なんですけど、もう決めてます」
シガは、自分のやるべき事、出来る事、そして記憶の無い今の自分が、これからどう歩くのか……
ヒューイを見て、ロビーを歩き回るアークス達を見て、揺るがないと意識を固めている。
「まるで、大空を舞う鳥の様に、オレも彼らの自由を感じて見たいですよ」
その眼は既に、多くの惑星を渡り歩く、オラクルの最新鋭の調査員になる事を望んでいた。
「アークスに戻りたい。“力”を貸してくれるんですよね?」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「オーラルよ。彼に特例許可を出すだと?」
「二週間で必要な知識と戦闘性の調査を仮想で行ったが、どちらも標準以上だった。最低限の推薦としては
「ふむ……」
「無論、最終修了は受けさせる。何か不服か? レギアス」
「不服も何も……彼はアークスとして活動する事が困難なのではないのか? フォトンの特性を殆ど失っていたと聞いているが?」
「二週間前はそうだった。だが、試作段階の義手をつけてもらう事も条件に、アークスへ復帰する事を容認した」
「お主が開発していた“試作品”か? だが、アレは――」
「元々、戦闘によって四肢を失ったアークスの為に開発していたが……大概は欠落した時点で精神的にも立ち直るのが困難で、更に実を結ぶか分からない長期の試験を望む者はいなかった。だが、シガは了承したよ。その事も踏まえてな」
「ルーサーは、この事を何と言っていた?」
「特には。報告は規定通り行うつもりだ。『フォトンアーム』には、活動データの補完システムが着いている。
「そうか……」
「それに、シガの持っていた武器の件もある。調査は慎重にしていくべきだ」
「有望な人材が増えるのは願っても無い事だ。彼には我々と違い、普通のアークスとして揺るがなく活動してほしいものだな」
「そうだな……シガの件は、
「頼むぞ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
三週間後、シガは鏡の前に立っていた。
そこに立つのは、黒い髪に赤い眼を持ち、支給されたアークスの戦闘服に身を包み、黒い義手を左腕の代わりにした自分だった。
「…………よし! 行くか」
近くのハンガーに掛けられた上着を羽織ると、最初に支給される武器――ガンスラッシュを後ろ腰に装備する。
そして、マイルームから出ると、アークス・ロビーへ足を踏み出した。
少し駆け足になりましたが、次からストーリーの最初、ナベリウスの調査になります。