ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

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27.Top agonizing 訓練・ザ・六芒均衡

 仮想ルーム。

 普段は、他のアークスに仮想訓練のデータとして常時開放されている場所だが、今は個人的な貸し切りとして、鉄と鉄を打ちつける様な音共に、激しく動き回る影が二つ存在した。

 

 「なるほど! エネミーと違い、一つの行動に多くの選択が求められると言うわけだな、オーラル!」

 

 その二つの影の内の一つが空間全体に響くほどの大声で、対峙しているもう一人の影に告げる。

 

 「本職はエネミーとの戦いだ。本来は、こんな事は必要ないのだがな、ヒューイ」

 

 二人とも、ファイターの武器ナックルを装備し、互いに拳を繰り出して攻撃していく。

 

 「そんな事ない! 時として、人型と戦う可能性も大いにある!」

 

 まるで弾丸の様な速度と鋭さで、迫ってくるヒューイの拳を、首や身体の最小限の動きでオーラルは躱す。ヒューイよりも体格が大きく、凹凸があるオーラルには何故かヒューイの拳は当らない。

 

 「まぁ、無いと思うが」

 

 オーラルは下段の蹴りをヒューイに叩き込む。足を破壊する蹴打ではなく、態勢を崩す為に重心を狙った一撃。案の定、ヒューイは、

 

 「おわぁ!?」

 

 踏み込む事ばかり考えていた為、不意の蹴りをまともにくらうと、簡単に重心を払われて思わず尻もちをついた。

 

 「いてて――おわぁ!?」

 

 そこへ、オーラルが追撃に拳を振り上げていた。ヒューイは咄嗟に彼の胴に抱き着く様にしがみ付く。

 

 「ちょ、ちょっと待――」

 

 オーラルは、しがみ付いてきたヒューイの頭を掴むと膝蹴りを胴体へ叩き込む。

 

 「ごふ!?」

 

 その一撃で肺の空気を強制的に吐き出され、ヒューイは思わず掴んでいた手を放してしまった。膝蹴りの衝撃は彼の身体を宙に浮かせるほどのモノであり、ダメージで動きの硬直している所へ、オーラルは右ストレートを叩き込む。

 

 「ぬぐぅ!」

 

 だが、流石とも言うべきか。ヒューイはギリギリで反応し、腕をクロスたせてその一撃を何とか防いだ。

 少しだけ吹き飛ばされ、ダメージから着地も出来ずに不恰好に背中から落ちる。

 

 「人と戦う場合はこうなる。特に“達人”と呼ばれるその道の熟練者から見れば、お前の動きには無駄が多すぎる」

 

 体格も大きく凹凸から引っかかりやすいオーラルがヒューイと互角以上どころか、一発も掠めることなく打ち合っている理由は無駄な動きを極端に減らしていると言う事にある。

 

 武術で言う所の、見切り、を反射レベルで常に維持することで回避に対する思考を大きく減らす。そして、敵の隙を見極めて打ち込むだけに思考を向ければ、自ずと“躱して打つ”の構図が完成するのである。オーラルはその、“武の極地”とも言える程の技量を既に持ち合わせていた。

 

 「心、技、体。戦いにおいて、この三つは必要なモノだ。お前は、心と体は高水準。アークスとしてはそれで十分だ。寧ろ、下手に技術を請うと、修得まで時間がかかりすぎるが?」

 「それは解っている。だから、こうして教授を願い出ているのだ!」

 「だが、この訓練はエネミーと戦う上ではほとんど役に立たないだろう。あくまで対人用。間合いも体格も違う、(エネミー)に対しては対人用に創られた“武”ではほんの一部しか役に立たない」

 

 例えは、ゼノが使う“見切り”。相手を広く熟知しなければならない上に、対人用である。故に、ほぼ同じサイズの人間同士では、有効に機能する“技”だが、ソレ以上の体格と挙動を持つ敵には、一から、間合いを研鑚し直さなければならないのだ。

 

 「レギアスも剣術は“達人”なのだろう? ならば俺も、この拳に関しては“達人”の域に手を伸ばす」

 「何の為にだ?」

 

 オーラルはこれほどに対人戦に固執するヒューイを前々から計りかねていた。どこか強い信念を持ってこの道を極めようとしている。その理由を聞いておきたい。

 

 「特に理由は無い!」

 「…………」

 

 そして、自分が少しでも(ヒューイ)に物事の真理を求めた事に頭を抱える。そう言えば、コイツは……“馬鹿”だった。

 

 「そこに、未だ至らぬ境地があるのなら、全力で突き進むのみ! その頂に達した時、俺自身の手で納得できる時が来る」

 「……お前は“天才”だよ」

 「よくわからんが、褒め言葉として受け取っておこう!」

 

 再びファイティングポーズを構え合う。圧倒的に技量に差がある両者だが、日を追うごとに少しずつオーラルの装甲にヒューイの拳が掠めているのも事実だった。

 その時、妙なフォトンの流れを感じとりオーラルは咄嗟に飛び離れた。

 

 「え?」

 

 目の前のオーラルの動きに対して極端に集中していたヒューイは、ソレに対する反応が送れた。

 爆発。と言うにはあまりにも巨大な爆炎が二人の間で起こる。系統的には最も威力の低いフォイエと呼ばれる炎系法術だ。

 

 わあー、と吹き飛ばされたヒューイは、少し離れた地点に放物線を描いて落下する。

 

 「ずるい! ずるいぞ、ヒューイ! わたしも訓練だ!」

 「ここに居ったか。オーラル」

 

 そこへ現れたのは杖を構えた一人のヒューマンの少女と、純白のキャスト――レギアスだった。

 

 「クラリスクレイスとレギアスか。お前達は揃って出る所を考えろ。“三英雄”が二人も移動したとなると、アークス全体が揺らぐ可能性がある」

 「ヒューイだ! 訓練してるなら、わたしも参加するぞ!」

 「聞いてないな。クラリッサは一部機能を制限するぞ」

 

 オーラルは仮想ルームにおけるマスターとしての権限を使い、クラリスクレイスの持つ杖の性能を一部制限する。本来なら、『創世器』を持ち歩くこと自体、かなりの有事なのだが。

 そんな事はつゆ知らず、クラリスクレイスはヒューイの元へ走っていく。

 

 「なる程……ここならば――」

 

 レギアスは空間の制限に感心しながら、オーラルの隣へ。

 

 「お前の考えている通りだ。“奴”にはこの場所の情報は見えていない」

 

 彼が知りたがっている事を肯定する。とは言っても、“奴”が本気になれば容易く開かれてしまうほど脆弱なプロテクトだ。

 しかし、こちらに関心が無い事と、いつでも簡単に覗ける程度のプロテクトが逆に注目されない要因ともなっている。

 

 「お前は、あまり長居するなよ」

 

 爆発に巻き込まれて身動きを取らなくなったヒューイを、つんつん、しているクラリスクレイスを見ながらコントロールにて違う設定を発動する。

 

 「ヒューイ、次は連携訓練だ。クラリスクレイスと二人で、そいつらを倒してみろ」

 

 頭を摩りながら身体を起こすヒューイと、現れたソレを見て、おー、と眼を輝かせるクラリスクレイス。

 

 「こんな事も出来るのか?」

 「とは言っても、実力は本人(オリジナル)の半分も無い」

 

 二人の目の前に現れたのは、レギアスとオーラルの二人だった。それぞれ、近接の武器を装備している。

 

 「質問だ、オーラル!」

 

 ヒューイの声か響く。彼はレギアスの持っている武器を見ていた。

 

 「『世果』じゃん!」

 「安心しろ。形だけだ」

 「なぁなぁ、オーラル」

 

 次はクラリスクレイスが声を上げる。

 

 「あれ、爆破していいのか?」

 「いいぞ。ただ、二体同時(・・)に倒さないと倒せない」

 「? なんだかよくわからない。とにかく爆破だな!!」

 

 と、杖を現れた二体の敵に向け、間髪入れずに法術(テクニック)を発動させた。先ほどヒューイだけ吹き飛ばしたフォイエである。

 

 「どわー!? クラリスクレイス、ちょっと待て!」

 「なんだ? ヒューイ」

 

 ビシッと、手の平を向けるヒューイに、クラリスクレイスはテクニックの放出を止めた。

 

 「ここは、まず慎重に……俺が突っ込む! お前が爆破! これで行こう!」

 「わかった! わたしが、爆破だな!」

 「誰か、あいつらに“慎重”の意味を教えてやれ」

 

 

 

 

 

 オーラルとレギアスは、二人の戦いを観戦する事に決めて距離を取っていた。

 

 クラリスクレイスの初撃の爆炎が晴れると同時にヒューイが突っ込む。模倣体のレギアスとオーラルは、突出したヒューイを迎え撃つようにそれぞれの武器を構えた。

 だが、そのヒューイに意識が向いた瞬間にクラリスクレイスのフォイエが、レギアスの方に炸裂する。その間に、ヒューイはオーラルと拳をかち合せた。

 猪突猛進同士。組ませれば互いの攻撃に意識を置きすぎると言う“欠点”が露呈すると思っていたが、意外にも息があっている。

 

 「意外だな」

 「何がだ?」

 

 オーラルは隣で同じように目の前の戦いを観戦しているレギアスに問う。

 

 「クラリスクレイスをヒューイに任せた事だ。倫理的にはカスラ。道徳的にはマリア。この二人の内どちらかでも良かっただろう?」

 

 今、オーラルが上げた二人は、知る限りでもトップクラスのアークス。それにレギアスやクラリスクレイスとも知らぬ仲では無いのだから、我の強いヒューイに任せる事も無かっただろう。

 

 「ヒューイは、まだ新参も良いところだ。実力では他と見劣りしないだろうが、【六芒均衡】としての自覚がまだ足りない」

 「正直に言うと、人手不足だ」

 「おい」

 

 マリアは行動派であり、デスクワークが中心のレギアスと正反対だった。そのため、何週間もフィールドワークから戻らない事もザラ。常にあちらこちらの惑星に赴いている。

 カスラは別口の命令系統を指揮している関係上、クラリスクレイスを下に就かせる訳にはいかなかった。

 

 「“四”はまだ空席か」

 「うむ。お主が就いてくれれば私も安泰なのだがな」

 

 現在、【六芒均衡】は“四”だけが空席だった。

 

 「今更、老害(ロートル)が新たに権力を得て何になる? (オレ)は今の役職のままでいい」

 「そうか」

 

 レギアスは趣旨がずれてしまったので、クラリスクレイスの件に話を戻す。

 

 「ヒューイは己で自覚せぬほど、“アークス”を体現した存在だ。今や、白でも黒でもない灰色のアークスで、唯一己を見失わず突き進んでいる。彼女の模範となるにはふさわしい人格であると判断した」

 

 困った人間を助け、どんな時でも力強く、常に前向きに模索し続ける。彼こそが、自分たちの目指していたアークスの体現者であるとレギアスは判断していた。そして、実力もある関係上、クラリスクレイスも彼に懐いている。

 

 「本来なら……私が模範となるべきだが、ソレだけは叶わぬ」

 「レギアス。アルマに言われた事を覚えているか?」

 

 アルマ。という単語にレギアスは言葉を失ったように黙ってしまう。ソレに構わずオーラルは続けた。

 

 「(オレ)は覚えている。アルマだけじゃない。未来を繋ぐために、犠牲となった若者たち。本来なら、あいつ等が(オレ)達に代わって、“アークス”を引っ張っていくハズだった」

 「…………」

 「だが……」

 

 オーラルは、ヒューイとクラリスクレイスの二人を見る。若く、輝く未来を目指している彼らはこれからのアークスには必要なのだ。

 

 「(オレ)は……いつだって、ああいう若い奴らを見殺しにしてきた」

 

 未来に導く為の実力も権力もあった。心が痛まなかったわけじゃない。目的があるから、それ以外に心を動かされている暇はない。なのに――

 

 「オーラル」

 

 レギアスも同じだ。かつて大切な人の目指したアークス。ソレを護るためとはいえ、本当に、この選択で良かったのか常に考えてしまう。

 

 「私達は……“権限(ちから)”の意味を、もう一度考えなくてはならない。未来を託してくれた者達に報いる為にも」

 

 『創世器』の保有者。これは絶対の課題だ。必ず抑止力を確保しておかなければならない。“奴”が……動き出す前に、そして……

 

 “オーラルさん”

 “オーラル”

 

 あの二人の笑顔を見ていてつらい。だからこそ、全てを終わらせるために、果てにある未来を掴むために――どうしても犠牲者が必要なのだ。

 

 「……終わりにしないとな」

 

 取り返しのつかない過ちが生まれる前に――




 ほぼ完成した実力であるオーラルに比べて、ヒューイはまだまだ成長段階にあるとおもいます。
 次はナベリウスへ視点を戻します。六芒均衡のイーブンナンバーのリーダーが登場します。

次話タイトル『Maria 基礎指導者』
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