色々な流れには節目というモノがある。
人によって、その尺度は様々だろうが、オレにとってすれば数週間前の
強敵との死闘。自分よりも先を歩く
「姿は違っても、系統は同じだよな?」
目の前に巨大な体躯を誇示し、両腕を打ち鳴らす大型原生生物――キングイエーデは、ロックベアの亜種として凍土の環境に適応した種である。姿形や挙動はもちろん、新たに氷塊を投げつけたりとロックベアよりも行動が多彩であるが、それでも極寒の環境下では森林よりも適応能力が低かったようで、耐久力も落ちてしまっている。
「……なんか、うーむ」
一度、ロックベアと戦い死線をくぐった者としては、気落されるような迫力も、死を連想するような剛腕も、今となってはいい思い出だ。故に、同種とは言えロックベアよりも数段能力が劣るキングイエーデは、今のシガにとって特別な緊張感は生まれなかった。
「あの先だからな。悪いが倒して進ませてもらうぜ」
キングイエーデの後ろには大きなクレバスが存在し、設置されたカタパルトで反対側に飛んで移動をしなければならない。
左腕で鞘を持ち“居合い”のスタイルでカタナを構える。まだ距離がだいぶある。なら、フォトンアーツの一つを試すには丁度いい。
脚を中心にフォトンが集まるのがわかる。集束のタイミングと発動の呼吸は若干いままで使用したフォトンアーツとは違う性質のようだ。
「『シュンカシュンラン』」
その瞬間、まるで濁流に背を押された様に身体全体が前に向かって“加速”した。
「どわ!?」
予想以上の速度に、抜刀するタイミングも忘れてキングイエーデへ突っ込む。同時に抜刀。カタナを前方に突きだす様に向けていた。
しかし、シガが柄に手をかけた瞬間、何かを察したキングイエーデは、横に跳んで向かって来る彼の直進射線から外れる。
「避けた? だけどなぁ!」
このフォトンアーツには二の撃がある。敵の躱した先を予測し、フォトンの流れを定め、一度停止してからその流れに再び乗り、速度を落とさずに追走――
と、動きのイメージは出来ていたのだが、一つだけシガは見誤っていた。
「ここで、ターン! んん!?」
妙な浮遊感に足場を見る。あまりの“加速”に行き過ぎて、自らをクレバスの上――宙に放り出されていた。
「ターンにラグがあるのかよ!」
「危ねぇ……」
何とか左腕の爪と、近くの凹凸に右手をかけて、落ちない様に耐える。下は光が届かない程に深い。落ちたらひとたまりもない。それに――
「エネミーも……」
対峙していたキングイエーデが歩いて来る地鳴りが聞こえる。
武器は咄嗟に両手が使える様に歯に咥えたカタナだけ。無防備な今では突き落とされるだけで終わりだ。
「こんなんで死んだら、マヌケも良いところだ……」
次からはもっと、足場がちゃんとしたところでやろう。と、心に決めた所で急いで上へ手を伸ばす。しかし、雪が崩れてきて中々思うように登れない。
足音が近づく。もう二、三歩すれば接触できるほど近づくだろう。
シガは
恐らく覗き込んでくるであろう、キングイエーデとの邂逅を待つ。だが、
「……ん?」
足音が止まった。そして、別の方向――崖とは反対側へ向かっていく足音。別のアークスでも現れたのだろうか? 敵と対峙した際の威嚇が聞こえ、咆哮でパラパラと雪が落ちてくる。
「原生生物まで、ご苦労なこったね」
そんな聞き覚えのある女声が聞こえると、次に一撃だけ何かを振るった音が聞こえた。そして、重々しく何かが倒れる音。
「倒した?」
なんとなくだが、音だけでそんな予感がした。すると、今の声を聞き取ったのか、ザクザク、とキングイエーデとは別の足音が近づいて来る。そして、ひょこっと覗き込んでくる視線は女性キャストのモノだった。
「あんた、そんなところで何やってんだい?」
「どーっかで聞いた声だと思ったら……マリアさんですか」
覗き込む女性キャスト――マリアは、シガがアークスとして必要な技量を確認する為に、基礎戦闘訓練を請け負った指導教官だった。
「まったく、あの子といい、あんたと言い、少しはアタシを安心させとくれよ」
マリアに片手で引き上げられたシガは、鞘にカタナを戻しながら苦笑いを浮かべる。まるで、つばの悪い所を母親に見つかったような引きつった笑みだった。
「マリアさんも惑星調査ですか?」
アークス内でもそれなりの地位をもつ彼女は、レギアスやオーラルと同期のアークスであり、あの巨躯戦争で共に戦線を張った古参の強者でもある。シガとしてもオーラルに続いて尊敬できる人物の一人だった。
「アタシは野暮用だ。左腕は問題ないみたいだね」
「はい。もう、絶好調って感じです」
「驕るんじゃないよ。
ジロリ、と先ほどの崖にしがみ付くと言うマヌケな様子から訪ねてくる。
「そ、それはもちろん!」
「ならいい。それよりも、あんたは森林から来たんだろ? 凍土でダーカーを見なかったかい?」
マリアはこの地へダーカーの調査に来ていた。と言うよりは、ナベリウス全体を調査して回っているらしく、修了のあった翌日から殆どアークスシップには戻っていないらしい。
「いえ。今のところは」
シガの情報を聞いて考える様に顎に手を当てる。
「やはり、凍土でも奥地の方が多い。かと言っても……最深部にはほとんどいなかった。この辺りで何かを探している?」
「何か気になる事でもあるんですか?」
流石に無視して先に進む事は出来ない。彼女もシガにとってすれば恩師の一人でもあるのだ。
「確証が無い限りは、余計な事は言わない主義でね。一つ言える事は、
「目的を果たしたら帰りますよ。今は、依頼の最中なので」
と、耳に着けているモニター装置を意識するように軽くいじる。
「いいかい、引き際が最も肝心だ。それだけは、見誤るんじゃないよ」
その言葉は、訓練された時からマリアに言われている心得だった。戦いの中で、どのタイミングで退くか。それを見極められるように、彼女は生存を意識した立ち回りを特に考えて指導している。
「…………大丈夫デスヨ」
ロックベアとの戦いは、今考えれば彼女の心得を大きく外れた立ち回りだった。嘘は言いたくないので、はぐらかして返事をする。
「……はぁ、まあいいさ。生きてるのが何よりの証拠だ。けど、死んでしまったらそこまでだ。それだけは絶対に心に留めておきな」
「はい」
久しぶりに心に喝を入れられたシガは、マリアと別れて奥へ歩を進める。そこから先は、彼女の言う、不自然にダーカーが密集する地域であった。
マリアさん登場です。彼女はこの頃から、色々と警戒していたのだと思います。
次は、彼と再会します。後不発に終わった『シュンカシュンラン』の正常起動を描写していきますよ!
次話タイトル『Sword action 背を護る者』