十分に気を付けろ。
マリアさんは、特に慎重な感じでそう言っていたけれど、やはりエネミーの事だろう。しかし、凍土に入ってからキングイエーデ以外の原生生物に遭遇しないのも今考えれば妙だった。
進入許可を貰ったと言っても、凍土に入るのはまだ4回目。今の
「敵が居なくて進みやすいなぁ、と思ってたけど……そう簡単にはいかないか」
本日二度目のエンカウント。目の前に敵の群が存在していた。
多少、雪が振り始めた視界の先には、
このように、別種同士が同じ敵を迎え討つという状況はナベリウスの生物には良くある特徴であるらしい。この場合は、正直言って逃げるのが得策なのだが、今は――
「地図ではあの角を曲がった先にカタパルトがある。そこまで走り抜けるか」
群の奥に進んだ突き当りを曲がると地図では崖になっていて反対側に飛び移る為のカタパルトがある。
全て倒す必要は無い。何とか怯ませて目の前の群を突破し、カタパルトで
「さっきは不発に終わったけど、お前達で試させてもらうぞ」
先ほど、キングイエーデとの戦いで不発に終わったフォトンアーツ、『シュンカシュンラン』。場の状況さえ整っていれば、強力な力になってくれる。特に目の前の状況こそ、おあつらえ向きだ。
ガルフルたちが、群のボスであるファンガルフルから、最低限の警戒しながらから攻撃するように指示を貰う。少しずつ囲いをつくるように数匹が横の壁の上へ跳び乗った。前方の数匹は警戒しながら囲いが完成するまで待っているようである。
「――――『シュンカシュンラン』」
後、数秒で囲いが完成する時だった。シガの姿が消える様に、その場から“加速”した。
「!?」
ガルフル達に迎撃する間を与えぬほどの“加速”は、その群の奥に居るボス――ファンガルフルに向かう挙動だった。
途中にいるマルモスが、長い鼻を振り上げ、高速で通り過ぎようとするシガへ叩きつける。丸太の様に正面に襲い掛かってくる攻撃を、シガは加速の中、強く雪を踏みしめて跳び上がって回避した。
「うぉぉ!!」
そして、空中で抜き放ったカタナの切っ先を、着地点にいるファンガルフルへ向かって、落下の勢いのまま突き出す。
「――――」
落下の衝撃で、積もった雪が捲れ上がるように吹き飛ぶ。シガの高速の刺突をファンガルフルは横に跳んで躱していた。奇襲を受けたのならまだしも、シガは一直線に敵に向かったのだ。そのまま攻撃を受ける方が難しいだろう。
「だ、ろうな!」
攻撃が外れ、雪に深く埋もれたカタナへ、シガは両手を添えると大きく雪を掘り起こしながら斬り上げた。
「!?」
まだ、『シュンカシュンラン』は終わっていない。最初の刺突は高い確率で避けられることがわかっていた。だから、このフォトンアーツには次の派生がある。
加速できるようにレールの様に敷かれたフォトンは、まだいくつもの
敵が距離を取っても、間を開けさせず肉薄できるほどに接近。常に張り付きながら、相手に間合いを取らせないこのフォトンアーツは、“居合”の欠点である、距離の問題を大きく解消できる。
ファンガルフルは、シガの雪に覆われた斬り上げの二刃目も壁を蹴って何とか躱す。元居た場所に深い斬撃の痕が残った。そして、シガは、未だに目の前に追いすがる。
「
距離が離れない。ファンガルフルは、動物特有の瞬発力で躱しており、その方向は容易くは捉えられない。しかし、シガから見れば、ファンガルフルは未だ『シュンカシュンラン』の攻撃範囲に存在している。逃げられたとは思っていなかった。
三刃目は、まだ着地途中のファンガルフルの身体を薙いだ。洗練された、緑色のフォトンの刃は、抵抗なくファンガルフルの身体を通り抜けると、一撃で胴を二つに叩き斬る。
「悪いな。前にも同じように囲まれた事があってね」
シガは、二つに分かれて白い雪に鮮血と共に絶命したファンガルフルに告げると、一度、鞘にカタナを納める。
「相手が悪かった。ただそれだけ――おわ!?」
せっかく、かっこよく決めようとしたところだったが、マルモスが振り下ろしてきた戦鼻を躱して、雪まみれになりながら距離を取った。
「決めさせろや!」
伝わるはずもない悪態を突きながら、状況を再認識する。群の頭は消えた。となれば統率は乱れ、逃げるか突破しやすくなると思っていたのだが、
「もう適応してやがる。過酷な環境故に、か」
ガルフルたちは、ボスが死んでも冷静に囲いを完成させていた。その中には闘技場の様にマルモスが二体入っており、上手く戦わせるような状況を作り出している。
「オレとしては、抜けるだけで良かったんだけどねぇ……」
「……流石に、無理だな」
瞬間的に“加速”する『シュンカシュンラン』では、あの体格に突撃するのは壁に向かって突撃するようなものだ。当り負けすれば、ガルフルたちに襲う機会を与えるだけ。
「…………」
一旦退くか? マリアさんも引き際を間違うなと言っていたし、少し時間を置けば敵は霧散して簡単に通れるようになるかもしれない。
「――――やっぱやめた」
しかし、シガは、このまま先に進む事を選択する。その理由の一つとして、端末を通して入って来た通信が、良く知るアークスの物だったからだ。
その警戒を解いた背中を隙であると見出した背後のガルフルがシガに襲い掛かる。しかし――
『お前、いつも囲まれてるよな?』
そのガルフルはシガに牙を突き立てるよりも早く、斜め上からの弾丸に撃ち落とされた。ガルフル達とマルモス達は咄嗟に、新たな敵へ意識を向ける。その一瞬の刹那を逃さずにフォトンアーツを発動する。
「『カンランキキョウ』」
意識が自分から逸れた刹那、抜刀。シガの周囲に斬撃の衝撃波が駆け巡る。その衝撃波は『フドウクチナシ』の様にドーム状に広がる破ではなく、センサーの様に平行に広がる斬撃の波。
鎌鼬の様に波に触れた対象物を、斬り裂いていく。ソレによって、ガルフル達は致命傷を受けた物と、運よく斬撃波が当らなかった物とで大きく分かれていた。
「やっぱり、コレじゃ倒れないか」
キチンッと鞘にカタナを納める。ガルフル達は流石に割に合わなくなったのか、そそくさと逃げ出し、分厚い体皮をもつマルモスだけが、脚にかすり傷の様な痕を残して、未だ対峙していた。
「よう、シガ。手を貸そうか?」
上から滑り降りてくるのは、先輩アークスのゼノである。彼はガンスラッシュの射撃モードで、崖を滑り降りながらガルフルを狙い撃ったのだ。
「色々な事は後で聞くとして、先輩はコイツを倒せます?」
シガはマルモスを見ながら尋ねる。
「余裕だよ。なんなら、座って見てても良いぜ?」
「冗談。偉大な先輩が働いてるのに、それをのんきに眺められるほど、大物じゃないんで。背中、護りますよ」
未だに“背中”を護るとしか言えない。それでも頼もしい先輩と共に、
ゼノ再登場。彼も調査に来ています。ここで二つ目のPA『シュンカシュンラン』と『カンランキキョウ』が発動しました。
『カンランキキョウ』は良く、近づいて来る雑魚殲滅に使われているようなので、ソレに近い描写を。
『シュンカシュンラン』は、高速で接近して突きです。某明治剣客の牙突を連想していただければ分かりやすいと思います。
次はオーラル視点に移ります。そして、ゼノの悩みも同時に。
次話タイトル『Backward 過去に繋がれた者達』