「どうだった?」
ショップエリアの人通りの少ない場所で腰を下ろしていたオーラルは、不意に独り言のように呟いた。
“毎回思うのですが、見えているのですか?”
その彼に対して、どこからともなく声が降ってくる。周囲には彼以外に人影は見当たらない。
「最低限の認識だけだ。フォトンを使う関係上、捉えられないモノではない。それでも、認識するには専用の装備が必要だが」
オーラルの右眼は、姿の見えない声の主をサーモカメラの様に認識していた。すぐ横の壁に背を預けて、こちらを見ている。
“彼に見覚えはありません。ちゃんと報告書は渡したハズですが?”
「直接聞きたかった。お前の様子も久しく見ていなかったからな」
“今も“視ている”ではなく、“捉えている”でしょう?”
呆れた、と嘆息が聞こえる。姿の見えない会話相手は、小さい頃からの馴染の人物であるオーラルだからからこそ、彼との会話に警戒心は一切無い。
「表の活動は、順調のようだな。そのまま周囲に溶け込めれば問題ない」
“溶け込むの意味が、だいぶ違うと思いますが?”
「表はお前にとっての隠れ蓑だ。『マイ』を与えられている意味を考えれば、“奴”にとっては駒の一つだからな。お前も
“今更、分かりきった事を……ボケでも始まっているんですか?”
その発言に、オーラルは思わず、フッ、と失笑する。それに対し怪訝そうな様子を表すフォトンが、会話相手から向けられた。
「質問が多いな」
“わたしは、ハドレッドに関する情報があると言うので赴いたんです”
とある事件から逃亡し続けている標的を始末する事が今の任務だった。しかし、未だにその姿をさえも捉えていない焦りから、少しだけイライラしていた。
“ハドレッドは、目の前で全てを壊していた。理由がどうあれ、オラクルの秩序を乱したことに変わりません。不穏分子を始末する事がわたしの仕事です”
「知っている。今回の接触は、この件を正式に最優先するようにルーサーに進言する旨を伝える為だ。他の仕事と重なれば立ち回りが制限されるだろうからな」
“ご配慮、感謝します”
「
“……はい”
オーラルは必要な情報のやり取りを終えて立ち上がる。会話相手も多忙なので、これ以上の世間話は活動に支障が出ると判断した。
「それと、表の仕事は続けろ。必要な事だ」
“元は貴方の進言であると、カスラから聞きましたが?”
「お前は、忘れられやすいからな。それに声を出すのはストレス発散になって良いだろ?」
“相変わらず、良くわからない思考ですね”
「良く知る身内であっても、その腹の内は計りかねるものだ。簡単に腹の内を探られるようでは、まだまだ二流だな」
その言葉に対する返答は帰って来なかった。まだ、フォトンの反応はそこに在るので、去ったわけでは無いらしい。
「しっかりやれ。“表”も“裏”も。あと、ライブは悪く無かったぞ」
そう言い残すとオーラルは去って行った。その背中を驚く様子で見つめながらも、会話相手もその場から移動を始める。
“……そういうのを見るタイプの人じゃないと思ってましたけど。意外ですね”
自覚しない嬉しさから、つい、そんな言葉が漏れた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
凍土の地にてシガとゼノは、瞬く間に敵を全滅させていた。
二人にとって、マルモスは敵ではなかった。ゼノの助言で、弱点である背中を突いてシガも難なく撃破。
相変わらずゼノの戦い方は、洗練されていて慌てた様子は一度もない。全ての動きを読み切っているように、安心して見ていられるほどの安定した戦い方だった。
「相変わらず、安定した戦い方ですね」
シガは、カタナを鞘に収めながら、学ぶことの絶えないゼノの立ち回りを称賛していた。エネミーに合わせての絶妙な間合いの取り方や、弱点を的確に突く攻撃。原生生物の生態を良く知らなければ、こうも見事に立ち回る事は出来ないだろう。
「そっちもな。だいぶ、原生生物との戦いに慣れて来たんじゃないか?」
ゼノはソードを背に戻しながら、久しぶりに顔を合わせたシガの動きから、だいぶ吹っ切れたと感じ取る。
「それでも、まだまだ不安も耐えないです。色々と試験的なモノばかり請け負ってますし」
「そう言えば、前に聞きそびれたんだが……シガのクラスってなんなんだ? 一般市販されてない系統の武器を使ってるよな?」
「これも試験中なんですよ。新しく使いされる予定のクラスで、ブレイバーって言うらしいです」
シガは自らがアザナミから、その辺りの試験を任されている事をゼノに説明した。これほど近接で立ち回りが出来る彼だ。もしかすればブレイバーに興味を持ってくれるかもしれない。
「そっか、お前さんは第三世代だったな。フォトン特化傾向を自在に変更できるってのは、うらやましいぜ」
少しだけ残念な表情を作るゼノ。シガは始めて見る自信無さ気な彼の表情に驚きつつ尋ねた。
「先輩。ロックベアの時に言っていた事と関係があったりします?」
あの時、少しだけ彼は第二世代アークスで、レンジャーとしての素質が強いと言う事を話してくれていた。当時ははぐらかされて、それ以上は追及しなかったが。
「……なあ、シガ。お前から見て、俺は何に見える? ちゃんとハンターに見えるか?」
「少なくともオレは、先輩はハンターに見えます。けど――」
「けど?」
「いや、全くの余計なお世話なのかもしれませんが……先輩って射撃が上手いですよね? 最初に会った時も、さっき、ガルフルをピンポイントで狙い撃った時も」
ガンスラッシュは、近接も射撃も出来る武器だ。しかし、そのどちらも主体とする、近接武器や射撃武器にはどうしても一歩劣る。
しかし、ゼノは、ガンスラッシュの一射を、正確に原生生物の急所を狙い当てている。スコープも無しに遠くからの狙撃。まぐれで出来る事ではない。
「やっぱり、そっちが突出しちまうか。前にも言ったけどよ、俺のフォトンは完全に
戦いながら感じた違和感は、彼に適したクラスは“ハンターでは無い”事だった。本人が言うのだから、間違いはないだろう。
「正直言って、どのクラスにもなれるお前さんが、少しばかり羨ましいぜ」
第三世代アークスとして、フォトン傾向は柔軟に変えられる。しかし、シガとしてはそれ以前の問題だ。
「先輩。オレだって必死ですよ? 今、世間で活動するどのアークスよりも、不完全ですから」
知ってるでしょ? と左腕を見せて告げる。
とはいっても、その問題は己の中で解決済みだ。だから、前までは出来るだけ考えようともしなかった事を当然の様に言葉として出せる。自分が、一般人とアークスの境にいる
「……なんか悪りぃな。愚痴に付き合わせちまってよ」
「いえ、ゼノ先輩も悩みがあってホッとしました。なんか、お気楽でいつも余裕な感じでしたので」
「お気楽、はお前にだけは言われたくねぇよ」
スパンッとゼノはいつもの調子でシガの頭を叩く。シガは痛ってぇ、と頭を抱えた。
「――っと」
すると、ゼノの端末に通信が入って来る。やっとか、と彼は呟くと耳に当てた通信機を介した。
『ゼノ! 今どこに居るのよ!? 急に崖を飛び降りて、音信不通って信じられない!』
「怒鳴るなよエコー。雪崩が起きたらどうすんだ」
思わずゼノは通信機を耳から放す。その声はシガにも聞こえるほどの大声だった。通信相手は、相方で同期のエコーである。
『キャンプシップに居るから、一旦戻ってきなさいよ! 足並みそろえないと意味ないじゃない!』
「へいへい」
ゼノは通信を切ると、テレパイプを取り出した。
「悪いなシガ。俺が手を貸せるのはここまでだ。って、言っても今のお前なら問題なさそうだがな」
「まぁ、余裕っすね」
「へっ。俺とエコーは凍土をまだ探索するからよ。何かあったら通信を入れろよ?」
そう言い残すと、発動した転移ポートにゼノは駆け足で向かって行く。シガは彼の姿が消えるまで見送ると、目的に向かって歩を進める。
その先に何があり、何が起こるかを知っていれば引き返す手段もあったのだろうが……何も知らない彼は迷わず奥地を目指す――
はい、???さんの再登場です。ゼノの悩みもぽろっと出ました。彼が何故レンジャーからハンターになったのかは、公式認定の小説PSO2サイドストーリーズで書かれています。
次は最後の六芒均衡がでます。
次話タイトル『D-Arkers in frozen soil 極寒大地の捜索生物』