ファンタシースターオンライン2~約束の破片~   作:真将

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31.D-Arkers in frozen soil 極寒大地の捜索生物

 『シガさん。聞こえますか?』

 

 ゼノと別れ、奥のカタパルトを使ってクレバスを飛び越えたシガは、入って来たロジオからの通信に応答した。

 

 「だいぶ長かったですね? 調べ物は終わりました?」

 

 シガは良く聞こえる様に通信機を押さえながら、歩を進める。

 

 『すみません。ナベリウスの地質について、資料を洗い直してみたのですが……やはり、私達の様に調べた例は今まで無いようです』

 「それって、おかしかったりします?」

 『はい。このナベリウスの環境を、学者であるなら疑問に思わなかった者は居ないハズなんです。そして、こうやって調査も行われたハズ……なのにデータが無いのは――』

 

 前方にT字の分かれ道に差し掛かった時、シガは耳に入って来た羽音を聞き、足を止めた。そして、腰のカタナに手をかける。

 

 「……なんだ?」

 

 すると、飛行系のダーカーがクレバスを越えた右岸側から現れた。咄嗟に後ろにステップを踏むと、来た道を数歩下がって本格的に攻撃に移れるように構える。

 間違いなくお互いに視認した。となれば必然と交戦する事になる。角から姿を現したら、『シュンカシュンラン』で間合いを詰める――

 近づいて来る羽音に、緊張の汗が頬をつたる。そして、飛行系ダーカーが姿を現す。しかし、

 

 「―――――?」

 

 ダーカーは、シガの存在をものともせずに目の前の分かれ道を一直線に通り過ぎて行った。向かって来れば一撃で斬り捨てるほどの気迫で構えていたが、肩透かしを食らった気分になる。

 

 『今のは……ダーカー、ですか?』

 

 目の前で(アークス)を見つけても交戦どころか敵意を向ける事も無かった。こちらは間違いなく殺気を向けたと言うのに、そんな場合では無い、と言った様子だ。

 

 『アークスを見つけたら、有無を言わさずに襲って来ると資料にはあるのですが……』

 

 ロジオは一般市民なのでダーカー自体が珍しいのだろう。無論、彼の認識は間違いではない。

 

 「なんですけどねぇ。なーんか、変だぞ」

 

 ここ数週間で研ぎ続けている経験が、嫌な感覚を捉えていた。しかし、この“感覚”には覚えがある。

 

 「マトイを見つけた時だ」

 

 “声”は聞こえないが、根拠もなく直感が出来たあの時と似ている。

 

 『……なんだか不気味です。シガさん、お節介かもしれませんが、十分、注意して進んでください』

 

 マリアさんやゼノ先輩と言った、腕の立つアークスが出向いているくらいだ。今の凍土は、自分が知っている凍土よりも、明らかな違和感が多すぎる。こういう場合は、一度退くのが良いのだろうけど……

 

 「好奇心が勝った」

 

 自ら火の中に飛び込むと解っていても、その先が気になる好奇心にシガは自分の足を委ねる。

 彼は、ダーカーの進んで行った方を選び、奴らを追う形でクレバスを飛び越えた。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 「…………やはり、難しいか」

 

 マザーシップの『虚空機関(ヴォイド)』研究部から通路の端で、オーラルは一通りの業務の休憩がてら、フォトンアームの構成を練っていた。

 

 「どうも、オーラルさん」

 「今週の警備はお前か。カスラ」

 

 すると、そんな彼に丁寧な口調で話しかけてくる一人のニューマンの男が居た。彼はニューマンらしく、クラスが法術職(フォース)である為、よりフォトンの取り込みやすいように彼専用にオーダーメイド服装――カースドクルーンを着ている。

 

 「はい。正確には私とマリアさんなのですが、彼女は連絡が取れません」

 

 困ったようにカスラは笑うが、どうしようもない、と諦めていた。

 

 「お前も大変だな」

 「いえ、私など貴方に比べれば暇の様なモノです」

 

 数多くある部署でも、最もオラクルで高い権力を持つのが『虚空機関(ヴォイド)』。

 その研究部の室長という役職は、でも上位序列であり、必然と大きな存在として認識されているのだ。

 

 「お前が、裏を引き継いでくれて良かった。流石に、(オレ)はそこまで手は回らない」

 

 元々オーラルは、一線を退く意味でも室長の地位を別の人間に譲り、ただの研究員として研究部に在籍していた。しかし、ある事件を期に、前任者が自主的に責任を取る意味で辞任したため、能力的にも適しているオーラルが再び任命されたのである。

 

 「私が居なければ、それでもこなしていたでしょう? かつて【死神】と呼ばれた貴方の率いた部隊は、どんな標的でも確実に仕留めていたと聞きます。そして、アナタだけがその全容を記録している」

 「感心せんな。それ以上は、“三英雄”とは言え、消される事を覚悟した方が良い」

 

 表でアークス達が活躍する世間的な華々しさとは別に、裏側でその秩序の土台を支えた闇の部隊が存在した。オーラルはその隊長を務めていた経歴もある。

 

 「私は貴方の逆鱗を突つく、つもりはありません。もっとも、貴方が怒ったところは見た事が無いのですがね」

 「……なら、聞くな。(オレ)としても【死神】の名は、もう名乗るつもりはない」

 「ええ。今は、その役割は“零”が引き継いでいますから」

 

 そこまで聞いたところでオーラルは立ち上がる。そして、カスラから離れる様に歩き出した。

 

 「お前の目的は知らんし、知っても黙認する。だが、あまり詮索しすぎると、嫌われるぞ?」

 「私としては、その時が来たときに気兼ねなく殺してくれる方が都合は良いんです。それに――」

 

 カスラは意味深に感情の入った口調にオーラルは歩を止めて振り返る。

 

 「私は、私を殺せる実力をもった人にしか、突っかかりませんよ」

 「……自殺願望があるなら、自室で首を吊れ」

 「それは、最後の手段にします」

 

 冗談か本気か。カスラと言うアークスはオーラルがその本心を正確に測れない数少ない人間の一人だった。しかし、今の感情の入った“声”からは少しだけ読み取れた。

 正確に推察は出来ないが、そう言う場面になる、と解っているような様子である。

 

 「それと、何かフォトン変換でお悩みのようですが、“灯台下暗し”という言葉がありますよ」

 

 と、それだけを告げて、カスラはマザーシップ内の巡回をする為か、スタスタと歩いて行った。

 

 「……確かに、クーナとはそりが合いそうにないな。それと回りくどい」

 

 敢えて遠回しに伝えたのは、オーラルなら把握できると思ったのか、はたまた“奴”に聞かれない為の対策か。

 己にとって敵か味方か解らないカスラの助言を聞き入れる事を選択したオーラルは、デューマンのフォトン変換の構成データを確認した。

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 「おいおい……マジかよ」

 

 シガは、ロジオと話をしながら先に進んでいると、咄嗟に視界に映った存在から、隠れるように氷柱の影に身を隠した。

 ちょっとだけ噂は聞いてたけど。まさか、本当にいるとは思わなかったぜ……

 

 「…………」

 

 視線の先には、修了の時に遭遇した【仮面】が居るのだ。あのゲッテムハルトさんと互角以上に渡り合った、シガの知る中でも最も強い敵。そして、マトイを狙った怨敵でもある。

 

 「一体なにやってんだ?」

 

 スッと半身だけ氷柱の影から出して様子を伺う。視界を彷徨わせながら何かを探している素振り。さっきのダーカーもそうだった……まさか、アイツか操ってるとか言わねェよな?

 そうなれば、奴は必然とダークファルスと言う事になる。シガ一人で、どうこうできる存在ではない。だが、

 

 「不意打ちなら……いけるか?」

 

 ある意味、こちらが一方的に発見したと言う状況は絶好の好機だ。左腕(フォトンアーム)の最大出力をお見舞いすれば――

 

 『シガさん? 座標のデータが止まっているようですが、何か問題でも起きましたか?』

 

 それはロジオからの通信だった。ただでさえ静かな周囲に加え、何かを探す様に神経を尖らせている中での通信は良くその場に通る。無論、【仮面】にも――

 

 「――――」

 

 【仮面】が後方の氷柱へ振り向く。その通信は【仮面】からしても聞き違いかと思う程に小さなものだったが、それでも確かめる意味で氷柱へと歩み寄って行く。

 

 「…………」

 

 シガは通信の音声を消し、姿を隠していた。いざとなれば左腕(フォトンアーム)を解放し、一撃を加えた上で相対するしかない。

 雪を踏みしめて近づく足音が徐々に大きくなる。心臓は気づかれるのではないかと思う程に強く高鳴っていた。

 【仮面】が氷柱の裏へ武器(コートエッジD)を片手に躍り出る。

 

 「…………」

 

 そこには誰もいなかった。荒く降り積もった雪だけが周囲に点在しており、ソレに対して、

 

 「――――」

 

 一薙ぎ、武器(コートエッジD)を振るって全て両断して吹き飛ばす。しかし、そこにも誰もいなかった。

 

 「…………」

 

 聞き違いと認識した【仮面】はそのまま武器を仕舞って崖の上へ跳び上がり、その奥へ歩いて消えて行った。

 その一分ほど、その場に静寂が流れる、すると氷柱の根元が盛り上がり、

 

 「ぶはっ!」

 

 そこから雪まみれのシガが飛び出した。氷柱は積雪の下で僅かに凹んでいた為、その隙間に逃げ込み、入り口を雪で覆ったのである。【仮面】が氷柱の裏ではなく、氷柱自体を注目していたら見つかっていたかもしれない。

 

 『す、すみませんでした。私の所為でシガさんが危険に……』

 「いえ……逆に助かりました」

 

 そう、ロジオが止めなければ、間違いなく彼は【仮面】に攻撃を仕掛けてた。奴がマトイを狙っているのはわかる。だからこそ、アイツを倒す事が今彼が最も強く“力”を求める理由だ。しかし、

 

 「まだ……震えてやがる」

 

 シガは寒さでは無い別の意味で震える右手を見る。隠れる事を選んだのは恐怖したからだ。歩み寄ってくる奴の足音から、まだ自分の届かない存在であると本能が理解したのである。

 

 「それでも」

 

 マトイを護る為に、必ず越えなければならない壁だ。必ず――

 その時、耳鳴りの様な高音が聞こえた。不思議と不快感を感じないその音色は、一度聞いたモノだ。

 

 「?」

 

 シガは周囲に視線を巡らせる。辺りには高音が鳴る様な物は何も無い。

 

 『どうしました?』

 「ロジオさん。今の音って聞こえました?」

 『音ですか?』

 「こう、キーンって耳鳴りみたいな高音が」

 『こちらの観測データには何も補足していませんが……』

 

 気のせいか? いや、この音は……さっきダーカーが素通りした時にも聞こえた音だ。

 

 「て、事は……こっちか?」

 

 シガは【仮面】が向かおうとしていた方向を選択して足を進めた。

 咄嗟の判断から【仮面】との接触は避けたシガだったが……この後、再び奴と対峙する事になるとは、この時は夢にも思いはしなかった。




 【仮面】とセカンドコンタクトです。今回の凍土での任務は奴との対決に視野が置かれます。
 今回で【六芒均衡】が劇中に全て出そろいました。中でも、クーナとカスラは最も関わりやすいキャラなので、そこそこ出番は多くなると思います。

次話タイトル『One arm ARKS vs Persona 怨敵対峙』
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